「それで、かっぱになってからはどうしてたの?」

「最初は地下の隠し部屋に身を隠すように言われた。
世間ではあたいは行方知れずになったことにされたんだ。
あたいが呪いのせいでかっぱになったことは、家族とごく一部の弟子しか知らなかった。
だから、みんなは毎日あたいを探すふりをしてたみたいだ。」

「……ねぇ、ゆかりさん…
さっきから弟子、弟子って言ってるけど、ゆかりさんのお父さんは何をしてた人なの?」

「……陰陽師だ。」

「えっっ!」


そうか…だから、吹雪女のこともそんなに畏れなかったのかもしれない…



「もしかして、ゆかりさん…
君の名前は漢字では由香利って書くんじゃない?」

「どうしてそんなこと知ってるんだ!?」

「じゃあ、君は安倍川家の……」

「そうだ、陰陽師・安倍川久兵衛の娘の由香里だ。」

美戎はそれを聞いて酷く驚いた顔を浮かべた。



「久兵衛というと分家筋の者ですな。
今から200年程昔にいた陰陽師ですぞ。」

「200年前だって!?」

金兵衛さんの言葉に、今度はゆかりさんが声を上げた。


「ゆかりさん…君は地下室にはどのくらいいたの?」

「それほど長い間じゃなかったと思う。
日がな一日闇に閉ざされた部屋にいて、母上は毎日あたいに会いに来ては涙をこぼした。
気の滅入る日々だったよ。
あたいがいる限り、母上や父上の悲しみは終わらない…
幸い、あたいには三人の兄上達がいた。
あたいなんかいなくても、安倍川の家は安泰だし、あたいなんかいない方が良いんだと思って、こっそりと家を出た。
それからはあちこちを旅しながら生きて来たんだ。
その日々は遥かな時のようで、あっという間のようでもあって…
でも、まさかもうそれほどの時が流れていたとは……」

ゆかりさんにはとてもショックなことだったみたいだ。
ゆかりさんは箸を置き、がっくりとうなだれてしまった。