「そう言うな。
もう行ってしもうたんじゃ。
若い頃にそういう思いきった冒険をするのも悪いことじゃあないぞ。
ま、とにかく心配せんでええから、会社の方にだけ連絡しといてやってくれ。
慎太郎から連絡があったら、また電話するからな。じゃ。」



あぁぁ…平静を装ったものの、久々に吐いた大嘘に、心臓がまだどきどきしておる。



そろそろお盆休みも終わる……
なのに、慎太郎が戻って来ないのでは、憲太郎達が心配すると思い、わしは嘘を吐くことにした。
慎太郎はこっちでカワイコちゃんと出会い、その子と一緒に自由気ままな世界一周の旅に出たと言うたんじゃ。
なんとも嘘臭い話ではあるが、慎太郎がいつ戻れるかはわからんのじゃし、出来るだけ遠くに行ったことにしておかねばならん。
つまりは時間稼ぎじゃな。
普段からモテない慎太郎じゃから、カワイコちゃんと息投合したことで舞いあがってしまった…という嘘は、意外と信じられたようじゃったが、憲太郎は、慎太郎がそのカワイコちゃんに騙されてるんじゃないかと心配しておった。
そりゃあまぁもっともな心配じゃ。
それ以前に、憲太郎達は慎太郎がうちに来ていることも知らなんだ。
なぜだかはわからんが、慎太郎はうちに来ることを憲太郎達には黙っていたようじゃ。



それはともかく、とりあえずはこれで憲太郎達のことはどうにかなったとして……
問題は慎太郎の方じゃ。
古文書を読んでみたが、今のこの状況に役に立ちそうなことはやはり何も見当たらず……



あぁ、今更言っても仕方がないが、わしと同じ名前の先祖が憎い。
勘太郎があんなつまらないものを手にしなければ、子孫の慎太郎がこんな目に遭う事はなかったものを……
だいたい陰陽師も……



(……ん?陰陽師?)



そういえば、勘太郎と一緒におかしな世界に旅立ったという陰陽師……
そうじゃ…その陰陽師にも子孫がおるはずじゃ。
しかも、陰陽師の名前もわかっとるではないか!



「安倍川煎兵衛」



本当かどうかはわからんが、京の都ではたいそう高名な陰陽師だと書いてあった。



そうじゃ、京都に行くんじゃ!
そこで、安倍川家を探し出し、相談すれば、何か良い案がみつかるかもしれん!



わしは早速旅行の準備にとりかかった。