(それにしても、あの言い伝えが本当じゃったとは……)



わしは、慎太郎の買って来た温泉饅頭を頬張った。
うまい…やっぱり、これに勝る饅頭は他にはない!
全国各地の温泉饅頭でもきっとこれが一番じゃ。

いや、そんなことはどうでもええ。



疑っていたわけではなかったが、信じていたわけでもなかった。
わしが、あの壷のことを知ったのは、今の憲太郎よりももっと若い頃の事じゃった。
おやじが亡くなって数日経った頃だったじゃろうか。
わしはおふくろから、分厚い書状を受け取った。
それはたいそう古いもので、紙もぼろぼろであちらこちらの破れを繕った後があり、かすんだ墨の文字は上から濃くなぞってあった。
わしも人のことは言えんが、たいそうへたくそで読みにくい文字じゃった。
おふくろもそれを見るのは初めてだと言うておった。
何が書いてあるのかと、肩を寄せ合いながら二人で読み進むうちに、わしらは言葉を失い、お互いの顔を見合わせた。
そこに書いてあったのは、蔵の中にあるという壷についてのことじゃった。
子供の頃から、蔵には化け物が出ると言われ、大人になっても立ち入ることを許されなんだ。
子供の時ならともかく、大人になってから化け物と言われてもそんなことは信じられなかったが、当時のわしは実家を離れて家族と暮らしていたこともあり、それほど蔵に関心があるわけでもなかった。
だから、たまに実家に戻って来ても、あえて蔵の中に入ってみようとは考えることもなかったというわけじゃ。







「あ、母さん!こんな所に階段があるよ。」

次の日、わしはおふくろと一緒に、書状にあった壷を探しに蔵の中に入った。
薄暗く、黴臭いにおいのする蔵の中にあるものはがらくたばかりに見えた。
しかし、みつけた急な階段を上った先には、書かれていた通り、確かに大きな壷があった。



「勘太郎、この壷がきっと……」

「そうだね。でも、ごく普通の壷みたいなのに…あ、ああーーーーっ!」

「あぶないっっ!!」



ふと、壷の中をのぞき見ようとしたわしは、その時、信じられないような力で壷に吸いこまれそうになったんじゃ。
おふくろがわしを必死でひっぱってくれたから助かったものの、わし一人だったらどうなっていたことか。
じゃから、あの壷がただの壷じゃない事はわしも感じていた。
とはいえ、あの書状に書いてあった通りに、別の世界に繋がっているというのはやはりまだどこか信じられなかったんじゃ。