父が銃だけ残して出て行った。黒いリボルバーだ。

 テーブルにそいつをみつけたとき、父がもう二度と帰ってはこないのだと少年は思った。少年は残された銃を手に取った。本物かどうか疑った。おもちゃの銃のほうが父にはふさわしいように思えたからだ。

 あいつがホンモノであったためしなんかないんだ!

 だがはじめて握ったそいつはニセモノにしてはずっしりと重かった。

「これさえありゃあ、ほかはなあんもいらねえ」と父親はよく言った。「なあんもいらない」のなかに自分が含まれているのを少年はわかっていた。

 少年は母の子であって、父の子ではなかった。ふたりがいっしょに暮らす前から少年は母の中にいた。父は母が家を出ていくまで、少年を自分の息子だと信じていた。

 父親は夜になってもやはり帰ってこなかった。