百鬼夜荘は、人ならざる存在妖怪達の住む家である。
色々事情があり今日からここで暮らす事になった俺は、大家さんのサチに家の中を案内してもらった。
その最中に知った情報によると、この建物は江戸時代前半に作られたものらしく、元々は温泉旅館だったそうだ。
それを明治時代に入ると同時に、妖怪達の宿舎に変えたらしい。
理由は時代が変わり妖怪達の数が減った事で、旅館としてはやっていけなくなったからだと言う。
江戸時代には、人間よりも妖怪の方が数が多かった時期もあったらしいのだが、江戸時代の終わり頃から徐々に妖怪の数が減っていき、明治時代に入る頃には十分の一以下にまで減ってしまった。
そういう時代背景を経て、ここは旅館から宿舎へ変わった。
同時に名前も旅館時代の名前から、今の百鬼夜荘になったらしい。
旅館時代の名前は聞きそびれてしまったので、今度改めて聞いておこう。
ちなみに今でも当時の名残があって、中には温泉がある。
他にも遊技場に宴会場、旅館らしい部屋がいくつか見受けれた。
そして現在、入居者数は俺を入れて六人だ。
「他の入居者って不在なの? 全然見当たらないけど」
一通りの案内が終わって、これから暮らす自分の部屋に案内されている途中で、俺はサチに尋ねた。
人が居そうな場所もいくつか回ったのだが、今の所誰とも会っていない。
入居者は愚か従業員の姿も無かった。
これだけ広くて元々旅館だった建物だ。
さすがに彼女一人で切り盛りするには広すぎる。
きっと他にも従業員はいるはずだと思った。
「ああ、皆さんなら帰郷されている最中ですよ」
「こんな時期に?」
「はい。他の入居者うち二人は学生、一人は今年から社会人ですから。残りの二人は元から社会人なのですが、毎年この時期になると半数が留守にするので、他の方もそれに合わせて里帰りされているんです。お陰様でこの時期だけは、私も自分の事が出来るので助かってます」
「へぇ~」
二人は学生なのか。
高校生なのかな?
もし同じ学校なら早めに仲良くなっておきたいものだな。
他の人に関しては、忙しいサチに気を遣って里帰りの時期を合わせてるって感じなのかな。
理由が他にもあるなら今度会った時にでも聞いてみよう。
いや、その前に何の妖怪なのか知ってからだな。
ここで暮らしているのは俺を除いて全員妖怪のはずだし。
「着きましたよ」
話しながら歩いていると、気づけば目的の部屋の前に着いていた。
従業員の事を聞く前についてしまった。
目の前には山と川の模様が描かれた襖に閉じられた部屋がある。
サチが襖に手をかけ、ゆっくりと引く。
「おぉ~」
襖を開けた先には広々とした空間が広がっていた。
十二畳くらいはあるだろうか?
一人で暮らすには十分すぎる広さだ。
それに加えて押入れが二箇所、座椅子と机も備わっている。
床は畳が敷かれ、奥には屏風が飾られている。
さすがは元旅館といった部屋だ。
最初のうちはちょっとした旅行気分を味わえそうだと思った。
「それでは荷物を置いて少ししたら宴会室に来てください。食事の準備をしておきますから」
サチはそう言って部屋を後にした。
俺は荷物を下ろして座椅子に腰掛けて十分位部屋で寛いだ後、言われた通り宴会室へ向かった。
部屋を出てから十分後――
「あれ……どっちだっけ?」
向かったつもりだったのだが、気づけば知らない部屋の前に来ていた。
さっき案内してもらったとは言え、まだうろ覚えだった所為だ。
さてどうしたものか……
見たところ同じような襖が並んでいる。
仕方が無い、とりあえず一部屋ずつ開けていくか?
もしかしたら他の従業員に会えるかもしれないし、会えたら道を聞けば良い。
「よし」
そう思って襖に手をかけた。
襖を開けて一番最初に視界へ飛び込んできたのは、大きな黒い仏壇だった。
最初から何て引きをみせるんだ俺は……とても申し訳ない気持ちになった。
でもそっと襖を閉じようとした時、そこに飾られた遺影に目を向けた瞬間、俺は閉じようとした襖から手を離した。
「幸……?」
いや違う。
服装も顔立ちもそっくりだけど、髪の長さが違う。
サチは肩に少しかかるくらいで、この遺影の女性はそれよりずっと長い。
それに今のサチより年上だ。
もしかして彼女の母親か?
サチが座敷童子って事は、この人も座敷童子なのかな?
座敷童子に、というより妖怪にも寿命とかあるんだ。
それにしてもそっくりだな……その所為なのか、とても懐かしく感じる。
ずっと昔に会っているような、言葉を交し合ったような懐かしさだ。
そんな事無いはずなのに……
「あっ、こんな事してる場合じゃないや」
俺はスマホを取り出して時間を見た。
するとすでに部屋を出てから十五分が経っていた。
さすがに彼女をこれ以上待たせる訳にはいかない。
この女性の事とか、父親はどうしてるのかとか、色々知りたいことはあるけど考えるのは後にしよう。
今はそれより、考えるべき事がある。
「……宴会室はどっちだ?」
俺は廊下を駆け足で探し回った。
色々事情があり今日からここで暮らす事になった俺は、大家さんのサチに家の中を案内してもらった。
その最中に知った情報によると、この建物は江戸時代前半に作られたものらしく、元々は温泉旅館だったそうだ。
それを明治時代に入ると同時に、妖怪達の宿舎に変えたらしい。
理由は時代が変わり妖怪達の数が減った事で、旅館としてはやっていけなくなったからだと言う。
江戸時代には、人間よりも妖怪の方が数が多かった時期もあったらしいのだが、江戸時代の終わり頃から徐々に妖怪の数が減っていき、明治時代に入る頃には十分の一以下にまで減ってしまった。
そういう時代背景を経て、ここは旅館から宿舎へ変わった。
同時に名前も旅館時代の名前から、今の百鬼夜荘になったらしい。
旅館時代の名前は聞きそびれてしまったので、今度改めて聞いておこう。
ちなみに今でも当時の名残があって、中には温泉がある。
他にも遊技場に宴会場、旅館らしい部屋がいくつか見受けれた。
そして現在、入居者数は俺を入れて六人だ。
「他の入居者って不在なの? 全然見当たらないけど」
一通りの案内が終わって、これから暮らす自分の部屋に案内されている途中で、俺はサチに尋ねた。
人が居そうな場所もいくつか回ったのだが、今の所誰とも会っていない。
入居者は愚か従業員の姿も無かった。
これだけ広くて元々旅館だった建物だ。
さすがに彼女一人で切り盛りするには広すぎる。
きっと他にも従業員はいるはずだと思った。
「ああ、皆さんなら帰郷されている最中ですよ」
「こんな時期に?」
「はい。他の入居者うち二人は学生、一人は今年から社会人ですから。残りの二人は元から社会人なのですが、毎年この時期になると半数が留守にするので、他の方もそれに合わせて里帰りされているんです。お陰様でこの時期だけは、私も自分の事が出来るので助かってます」
「へぇ~」
二人は学生なのか。
高校生なのかな?
もし同じ学校なら早めに仲良くなっておきたいものだな。
他の人に関しては、忙しいサチに気を遣って里帰りの時期を合わせてるって感じなのかな。
理由が他にもあるなら今度会った時にでも聞いてみよう。
いや、その前に何の妖怪なのか知ってからだな。
ここで暮らしているのは俺を除いて全員妖怪のはずだし。
「着きましたよ」
話しながら歩いていると、気づけば目的の部屋の前に着いていた。
従業員の事を聞く前についてしまった。
目の前には山と川の模様が描かれた襖に閉じられた部屋がある。
サチが襖に手をかけ、ゆっくりと引く。
「おぉ~」
襖を開けた先には広々とした空間が広がっていた。
十二畳くらいはあるだろうか?
一人で暮らすには十分すぎる広さだ。
それに加えて押入れが二箇所、座椅子と机も備わっている。
床は畳が敷かれ、奥には屏風が飾られている。
さすがは元旅館といった部屋だ。
最初のうちはちょっとした旅行気分を味わえそうだと思った。
「それでは荷物を置いて少ししたら宴会室に来てください。食事の準備をしておきますから」
サチはそう言って部屋を後にした。
俺は荷物を下ろして座椅子に腰掛けて十分位部屋で寛いだ後、言われた通り宴会室へ向かった。
部屋を出てから十分後――
「あれ……どっちだっけ?」
向かったつもりだったのだが、気づけば知らない部屋の前に来ていた。
さっき案内してもらったとは言え、まだうろ覚えだった所為だ。
さてどうしたものか……
見たところ同じような襖が並んでいる。
仕方が無い、とりあえず一部屋ずつ開けていくか?
もしかしたら他の従業員に会えるかもしれないし、会えたら道を聞けば良い。
「よし」
そう思って襖に手をかけた。
襖を開けて一番最初に視界へ飛び込んできたのは、大きな黒い仏壇だった。
最初から何て引きをみせるんだ俺は……とても申し訳ない気持ちになった。
でもそっと襖を閉じようとした時、そこに飾られた遺影に目を向けた瞬間、俺は閉じようとした襖から手を離した。
「幸……?」
いや違う。
服装も顔立ちもそっくりだけど、髪の長さが違う。
サチは肩に少しかかるくらいで、この遺影の女性はそれよりずっと長い。
それに今のサチより年上だ。
もしかして彼女の母親か?
サチが座敷童子って事は、この人も座敷童子なのかな?
座敷童子に、というより妖怪にも寿命とかあるんだ。
それにしてもそっくりだな……その所為なのか、とても懐かしく感じる。
ずっと昔に会っているような、言葉を交し合ったような懐かしさだ。
そんな事無いはずなのに……
「あっ、こんな事してる場合じゃないや」
俺はスマホを取り出して時間を見た。
するとすでに部屋を出てから十五分が経っていた。
さすがに彼女をこれ以上待たせる訳にはいかない。
この女性の事とか、父親はどうしてるのかとか、色々知りたいことはあるけど考えるのは後にしよう。
今はそれより、考えるべき事がある。
「……宴会室はどっちだ?」
俺は廊下を駆け足で探し回った。