案の定というか何というか、体育祭後に行なわれた一学期の期末テストで、私は散々な成績を修めてしまった。でも、過去へと戻って来た理由を考えれば、私が起こした行動は、勉強以上に大切なものだったのだ。
 なのに、大人は、特に沼田は、決してそうは考えない。私が何のために戻って来たかなんて、いや、戻って来たことすら知る由もないから尚更。

「良いか、学生の本分は学業だ」

 成績を落としたのが私だけではなかったことも災いした。勿論元が違うから、藤倉君の方が断然マシだったけど。

「すみません」

 私と彼は、異例とも取れる呼び出しを生活指導の沼田から受け、現在進路指導室に仲良く並んで立たされている。どうやら爆発的に広まった私たちの噂は、運が悪いことに沼田の耳にも入ったようなのだ。そこへ来ての順位の降下。交際にうつつを抜かし、学業を疎かにした、沼田はそうご立腹のようだった。

 でも言わせてもらえば、私が勉強を頑張るのは藤倉君のためだけだ。原動力は全て彼。
 有名国立大学への進学を希望しているわけでも、将来就きたい、人が羨むような職業があるわけでもない。躍起になって学校の評価を上げたい大人の考えなんて、知ったこっちゃないのだ。不純だと言われようが何だろうが、私をひたすら努力させるのは、彼の好きな女の子でいたいから、ただその気持ちのみ。

 他にもこの場には、担任の武本先生、学年主任の野溝先生が招集されている。もっとも沼田以外の先生の顔には苦笑が浮かんでいて、カリカリしているのは沼田一人だということが、そこからも窺い知れた。

 実は、藤倉君と私はこの直前武本先生から、神妙な顔して謝っとけばすぐに終わるから、と助言をもらっていた。沼田には、正論だろうが口答えは逆効果。だから言われた通り、素直にそう振る舞っている。
 気持ちはささくれ立っていたけど、顔には出さない。だって、どうしようと頭ごなしに抑え付けられるのだ。こんな理不尽で無駄な時間てない。

「まあまあ沼田先生、二人は体育祭実行委員としてもしっかり頑張ってくれたことですし、次の試験まで様子を見るってことでいかがですか?」

 野溝先生が、沼田を宥めながらさり気なく助け船を出してくれる。

「次は必ず、俺も月島も元の成績に戻してみせます」

 間髪入れずに藤倉君が便乗した。

「約束できるよな?」

 だけど沼田は苦りきった顔をしていて、今にも「別れろ!」と怒鳴り出しそうだ。見かねた武本先生が、急いで援護射撃してくれた。

「はい」

 だから私も真剣に頷く。天邪鬼な沼田にも伝わるように。
 実際私にとっては切実な問題でもある。せっかく藤倉君と付き合い始めたというのに、このまま勉強をおざなりにした挙げ句、馬鹿な女は嫌いだ、なんて面と向かって言われた日には、後悔してもしきれない。戻る前の世界へとまっしぐらだ。

「お前たちはさ、二人ともA組で、俺たち教師の期待も高い。そしてそれを理解できないわけがないということも分かってる。次はしっかりな」

 今回はこれで宜しいんじゃないですか? 武本先生の言葉を受けて、野溝先生が沼田にお伺いを立ててくれた。
 苦虫を噛み潰したような顔をしていた沼田も、二対一、いや、四対一ではさすがに分が悪いと判断したのか、渋々と頷く。

「もう行って良いぞ」
「すみませんでした。失礼します」

 武本先生が、早く行け、と言うように、沼田に見えないようそっと顎で扉を指す。私たちも小言が飛んでくる前にと、二人で早々に暇の挨拶をし、そそくさと扉へ足を向けた。

 一礼して閉めた途端、二人して小さくため息。それが妙にシンクロしていて、顔を合わせ思わず吹き出してしまった。沼田に聞かれたら、反省の色が見えないこの態度が、また新たな説教の火種となりかねない。私たちは急いでその場を離れた。