「アンタが粟根先生か?知り合いが、お前に相談してこいってうるせぇから来てやったぜ」
大柄な鬼が睨みを利かせながらそう言った。鬼はとても大きくて、それだけでもリナにとっては恐ろしいのに、ぎらぎらした視線はものすごい迫力だった。
「はい、そうです。どうぞこちらへ」
鬼の凄みもどこ吹く風という感じで、粟根は穏やかな笑みを浮かべて鬼の夫婦を中に招き入れる。
リナはというと雷様の迫力に少しばかり尻込みしていたが、それよりも粟根の外面のよさに呆れていた。
リナの前では、やれキャラメルマキアート持ってこいだの、掃除をしろだの、ソファでくつろぎながらリナを顎で使う粟根だ。
たまに笑ったとしてもなにか意地悪なことを言ってにやりと笑っているぐらいだろう。
リナの前ではそんな態度なのに、患者の前ではあの爽やかで穏やかな笑顔である。
そういえば、父の徹もその外面のよさでまんまと娘の労働契約を勝手に結んだのだ。
粟根の爽やかな笑顔になんとも言えない腹立たしさを感じたリナは、鬼の形相のことなど気にならず、思いのほか落ち着いた気持ちで鬼の夫婦のあとに続いた。
そうして心療室に四人が揃うと、大きなふたり掛けのソファに鬼の夫婦を座らせ、粟根とリナはテーブルを挟んで向かい合う形でそれぞれひとり掛け用のソファに腰を下ろした。
一旦四人が腰を下ろして落ち着いたタイミングで、粟根が引き続き外面よく微笑んだ。
「はじめまして。あやかし心理相談所の所長の粟根と申します。お話を伺いたいので、まずはお名前を教えてください」
粟根にそう尋ねられ、男の鬼のほうがおもしろくなさそうな顔をして口を開く。
「おでは、このあたり一帯の空を司つかさどる吾郎だ。そんで隣は……」
と言って、大柄の鬼、吾郎は、さっきから不満そうにそっぽを向いてソファに座っている女の鬼のほうを顎でしゃくった。
「おでの女房の光子だ」
しかし光子は、うんともすんとも言わず、腕を組んだまま左斜め下あたりを見て、不機嫌そうに鼻を膨らませていた。
「おい、光子、黙ってんじゃねぇ。挨拶しろってんだ」
吾郎がそう言うと、光子が顔を上げてキッと吾郎を睨む。
「うるさいねぇ!アタシは今、頭が痛いんだ!大きい声出すんじゃないよ!」
と、苛立たしげに光子が言うと、頭痛がするようで、眉根を寄せてこめかみのあたりに指を当てた。
「まったく光子は、愛想のねえ鬼だなぁ」
と吾郎が嫌味がましく言うが、当の光子は顔を吾郎から逸らすと、口をへの字に曲げるだけだ。
夫婦というものをあまりよく知らないリナですら、これはかなりこじれているというのがわかった。
しかし粟根はそんなことはお構いなしに飄々とふたりに話しかける。
「吾郎さんに、光子さんですね。よろしくお願いします。それでは早速本日の相談内容を伺ってもよろしいですか」
粟根の問いかけに吾郎が言いづらそうに、ぼそぼそと答えた。
「おでたちの夫婦喧嘩をどうにかしてほしい。ほかの鬼たちがおでたちの夫婦喧嘩の音がうるさくって眠れねぇって文句言いやがる。そんで、ここに相談してこいって言われたんだ」
しぶしぶ答える吾郎を見て、リナはぽかんと目を見開いた。
あやかしという人外からの相談事ということで少々身構えていたのだが、思っていたよりも相談内容が普通だったからだ。
大柄な鬼が睨みを利かせながらそう言った。鬼はとても大きくて、それだけでもリナにとっては恐ろしいのに、ぎらぎらした視線はものすごい迫力だった。
「はい、そうです。どうぞこちらへ」
鬼の凄みもどこ吹く風という感じで、粟根は穏やかな笑みを浮かべて鬼の夫婦を中に招き入れる。
リナはというと雷様の迫力に少しばかり尻込みしていたが、それよりも粟根の外面のよさに呆れていた。
リナの前では、やれキャラメルマキアート持ってこいだの、掃除をしろだの、ソファでくつろぎながらリナを顎で使う粟根だ。
たまに笑ったとしてもなにか意地悪なことを言ってにやりと笑っているぐらいだろう。
リナの前ではそんな態度なのに、患者の前ではあの爽やかで穏やかな笑顔である。
そういえば、父の徹もその外面のよさでまんまと娘の労働契約を勝手に結んだのだ。
粟根の爽やかな笑顔になんとも言えない腹立たしさを感じたリナは、鬼の形相のことなど気にならず、思いのほか落ち着いた気持ちで鬼の夫婦のあとに続いた。
そうして心療室に四人が揃うと、大きなふたり掛けのソファに鬼の夫婦を座らせ、粟根とリナはテーブルを挟んで向かい合う形でそれぞれひとり掛け用のソファに腰を下ろした。
一旦四人が腰を下ろして落ち着いたタイミングで、粟根が引き続き外面よく微笑んだ。
「はじめまして。あやかし心理相談所の所長の粟根と申します。お話を伺いたいので、まずはお名前を教えてください」
粟根にそう尋ねられ、男の鬼のほうがおもしろくなさそうな顔をして口を開く。
「おでは、このあたり一帯の空を司つかさどる吾郎だ。そんで隣は……」
と言って、大柄の鬼、吾郎は、さっきから不満そうにそっぽを向いてソファに座っている女の鬼のほうを顎でしゃくった。
「おでの女房の光子だ」
しかし光子は、うんともすんとも言わず、腕を組んだまま左斜め下あたりを見て、不機嫌そうに鼻を膨らませていた。
「おい、光子、黙ってんじゃねぇ。挨拶しろってんだ」
吾郎がそう言うと、光子が顔を上げてキッと吾郎を睨む。
「うるさいねぇ!アタシは今、頭が痛いんだ!大きい声出すんじゃないよ!」
と、苛立たしげに光子が言うと、頭痛がするようで、眉根を寄せてこめかみのあたりに指を当てた。
「まったく光子は、愛想のねえ鬼だなぁ」
と吾郎が嫌味がましく言うが、当の光子は顔を吾郎から逸らすと、口をへの字に曲げるだけだ。
夫婦というものをあまりよく知らないリナですら、これはかなりこじれているというのがわかった。
しかし粟根はそんなことはお構いなしに飄々とふたりに話しかける。
「吾郎さんに、光子さんですね。よろしくお願いします。それでは早速本日の相談内容を伺ってもよろしいですか」
粟根の問いかけに吾郎が言いづらそうに、ぼそぼそと答えた。
「おでたちの夫婦喧嘩をどうにかしてほしい。ほかの鬼たちがおでたちの夫婦喧嘩の音がうるさくって眠れねぇって文句言いやがる。そんで、ここに相談してこいって言われたんだ」
しぶしぶ答える吾郎を見て、リナはぽかんと目を見開いた。
あやかしという人外からの相談事ということで少々身構えていたのだが、思っていたよりも相談内容が普通だったからだ。