六月の雨が、コンクリートを鈍色に濡らしていた。半袖のブラウスから出た腕に、湿度の高いひんやりした空気が絡みついてくる。

 非常階段に腰かけたお尻も冷えてきて、スカートの下に掌を押し込んだ。

「う~……寒い」

 膝に乗せたお弁当もすっかり湿っぽくなってしまって、なかなか口に運べない。

「明日からは、おにぎりにしてもらおうかなぁ……。そしたらお昼休みでも、人気のない場所でささっと食べられるかも……」

 なんだか前にも同じような光景を見たような気がする。以前は入学直後の四月で、まだ真新しい制服に着られてしまっていた頃。
 今は少し女子高生らしさも出てきて、衣替えした夏服にもなじんできたけれど、なんだか以前よりもずっと寂しくて、切ない。

 きっと、一度友達ができた幸せを味わってしまったからなんだろうなあ……。数日前までの、なんの不安もなく希望に満ち溢れていた私を思い出す。
 たった数日前なのに、ちがう私みたい。あんな幸せな、普通の女子高生みたいな生活が夢だったように思える。

「もうあの頃には戻れないのかな。そもそも、ここ一か月の生活が、私には不相応な幸せすぎたのかも。だからきっと、バチが当たったんだ……」

 四月とひとつだけ違うのは、私が料理部に入っていることと、菓子先輩がいること。放課後の部活の時間を思うと、一日が耐えられる。

 でも、前みたいに菓子先輩に助けてもらえることを期待しちゃいけない。本当は気付いてもらいたいのかもしれない。でも、こんなみじめな自分を知られたくない、菓子先輩に幻滅されたくない。
 菓子先輩の前では、いい後輩でいたい。あの、ふんわりした甘いお菓子みたいな先輩には、いつだって何も心配せず笑っていて欲しい――。

「あら?」

「えっ」

 ガチャ、という音が聞こえて振り返ると、鞄を抱えた菓子先輩がドアの前に立っていた。