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「ここはどこだ?」


 牛丼屋に入るのを諦め、いつもと違う料理を食べたいと目的なく歩き続けていた和田は、いつの間にかまったく知らない場所にいた。


 十年以上住み続けた、最寄り駅周辺の見慣れた面影は欠片もない。一度も来たこともない場所だ。

 正直、途中ちょっとぼんやりしていた。

 周囲の光景はあまり見ていなかったし、瞳には少し涙が滲んでいたかもしれない。

 とはいえさすがにこんな場所に迷い込むのは異常だ。


 何せ前を向いても後ろを向いても、竹、竹、竹。竹祭り。

 竹林に四方を囲まれた道。

 中央だけはかろうじて人が通れるよう、石畳みが敷かれている。


 背の高い竹林は果てしなく、懸命にみあげても、どこまで伸びているのか分からない。

 何となく京都かなあ、と思った。

 実際に行ったことはないが、観光地に有名な竹林の道があるのは知っていた。


 ここ数年ゆっくり旅行に行く機会もなかったので、和風な雰囲気イコール京都という乏しいイメージしかない。

 竹林の道は昼間なら美しいのかもしれないが、灯りのない夜中に歩くのは少し不気味だ。

 その上辺りにはうっすら霧まで漂っている。

 和田は背筋が寒くなるのを感じ、自分の腕をさすった。


 ――意味が分からない。