しばらく無言で勉強していると、大和がノートを閉じた。

それに気づいた俺は顔を上げ、館内にある時計に目を向けた。
いつの間にか一時間半が過ぎている。


「ちょっと休憩」

 声を出さずに軽く伸びをした大和、つられて俺も両腕を前に伸ばした。


「なー彰、聞いていいか?」

聞いていいかなどといちいち確認するのは珍しく、なにを聞かれるのか察しがついた。


「なんだよ」

「どうなんだ、雪下さんのこと」

思った通りだ。

俺の前の席に座っている大和には、先日の雪下さんとの会話も聞こえていたのだろう。

自分では分からないが、もしかしたら俺の声色もいつもと少し違っていたのかもしれない。


「どうって?」

「好きなんだろ?」


そうストレートに聞かれると、答えに悩む。

好きじゃないと言ったら嘘になるが、好きなのかと言われたらハッキリ頷くことは出来ない。


でも最初に雪下さんを見た瞬間から気になっていて、俺を避ける態度や時々見せる儚げな表情、彼女の全てがどこか不思議で知りたいと思ったのは事実だ。

雪下さんに会って雪下さんに話しかけることが、変わらない日常の中で唯一俺に訪れた変化だと言えるだろう。


けれどあれだけ俺に冷たくしている雪下さんのことがなぜこうも気になるのか、正直分からない。

好きなのかもしれないと考えたこともあったが、でも……。