チャイムが鳴ると、雪下さんが席に戻って来た。
俺の顔は決して見ないし、ただ隣に座っただけだ。それなのに、胸が苦しくて締めつけられるような気がする。
配られたプリントと教科書を机の上に置いたまま雪下さんのことばかり考えている俺の耳に、旅館の女将のような品のある家庭科の先生の声が届いた。
「では、隣の席と二人一組で話し合って、次の授業では実際に……」
先生の言葉は続いているようだが、俺は急いでプリントを手に取った。
隣の席、二人一組……。
ガタガタと机を動かす音が教室中に響く。
様子を伺うように視線を横に向けると、雪下さんが立ち上がって机の両端に手をかけた。
俺は焦って自分の机を右に寄せる。
今朝の出来事で、俺は彼女を泣かせてしまった。
でもまだ出会ってたったの二日、これからきっと挽回出来る。
正直、あれこれ考えて作戦を練って彼女の気を引くようなやり方は俺には出来ない。ありのまま思った通りに行動するしかないけれど、少しずつ雪下さんのことを知っていきたいと思った。
「よろしくね、雪下さん」
雪下さんの方に机を近づけた俺は、そう言って椅子に座った。
雪下さんは軽く頭を下げたけれど、やはり目は合せてくれない。
想定内だ。こんなことで落ち込んでいたらきりがない。