「……はい」



 聞き慣れた、でもいつもよりもか細い声が聞こえて心の奥がチクリと痛む。

僕は、ゆっくりと引き戸をスライドさせた。



「ごきげんよう、日比野くん」


彼女は、ベッドの上で上体を起こし、こちらを見ていた。

まるで、僕がここに来るのを知っていたかのように。


「ごきげんよう……〝華乃〞」


 僕は、下の名前で彼女を呼んだ。


けれど、彼女は驚かなかった。


そして、「ごきげんよう、立樹くん」と言い直して、ベッド脇の椅子を引く。


ありがとう、と言って僕は座った。

その間、彼女は優しく、しかし儚くも見える微笑みを浮かべ、じっと僕を見守っていた。


そして、ささやくようなか細い声で、言った。
「立樹くんのこと、待ってたよ」

その言葉に、僕はどきりとした。

「……うん。本当に長い間、待たせたね」

 華乃は、まっすぐ、温かい眼差しで僕のことを見ている。

そこから僕は、目を逸らすことはしなかった。