木之内さんは仕事にも人間にも慣れ
オフィスで笑顔を見せるようになった。
いい傾向。
仕事も順調で
お昼は社食で弁当男子をからかわれ
たまに職場で見かける水色作業服のスズメを無視する日々。
無視した夜の夕食は、なぜか僕が苦手な物が並ぶ。
「どうして断ったんですか?」
金曜日の夜
賃金が入ったからと、新聞一面ほどの大きさがある【流しそうめんマシン】を買ってきたスズメ。
真ん中に刻んだ小ネギと薬味がのった皿があり
その周りをグルグルとそうめんがただ回って泳ぐ。
モーター音が安っぽくてお祭り気分。
僕とスズメは高速回転をする【そうめん】を箸で追いながら夕食にありつく。
「低速にしようよ」
「【流しそうめん】は高速じゃないと意味がありません」って譲らない。
よくわからない
その理屈。
「断ったって何が?」
ツルリと僕が逃した麺を、見事にスズメがゲットする。
「今日の合コンと……あと、木之内さんからのお誘いです」
スズメは僕の服に盗聴器とか仕掛けてる?
仕事しないで僕を見張ってるとか?
「合コンは断って正解です。でも木之内さんは何度もご主人様に話しかけるチャンスを狙っていて、やっと勇気を持って誘ったのですよ。そんな女子の気持ちを断ってはいけません」
「そうなの?」
「本当に……もう」
遠い目をしてスズメは語る。
「木之内さんはご主人様の事が好きなんです。どうしてわからないのです?あの目を見ればわかるでしょう。賢くて綺麗で社長令嬢ですよ。つがいになればご主人様も重役コースですよ。あのお尻はいい卵を産めます。スズメのおススメです」
卵は産まないと思うけど
『あの顔とスタイル。性格は多少上からあるけど、それも可愛い。大事なのは社長が溺愛する娘。逆タマコースまっしぐら』
中岡がよく言ってる。
スズメと中岡って似てる?ノリと単純さが似てるかも。