一緒に会議室を出るのは気まずいので
僕が先に会議室から出ると

【清掃中。中に入らないで下さい】って、お掃除業者の看板が立ててあった。

スズメっ!
また余計な事をしてっ!

頭に血を上らせ看板を持って廊下の隅に置くと、意外な人物と鉢合わせ。

めったに顔なんて合わせた事のない重役フロアにいる社長が、どうしてこんな場所に?

緊張した空気の中
僕は頭を下げて一歩下がると

「マーケティング部の社員かい?」と、声をかけられてしまった。

「はい。そうです」
返事をして顔を上げると、穏やかな表情が返ってきた。

年令は60ちょい前ぐらい。
背は高く
ロマンスグレーで品の良い社長。
木之内さんは父親似かな。社長も綺麗な顔をしている。若い頃はモテたろう。

僕の月収より高いスーツを軽く着こなし、遠慮がちに僕に声をかける。

「木之内君はどうだろう。大きな失敗などしてないかい?部署に迷惑かけてないかな?」

僕は社長の言葉を聞いて
心の中でほっこり気分で笑ってしまった。
こんな大きな会社の社長さんでも、やっぱり親だよね。
娘が心配でたまらないのだろう。

「大丈夫です。一生懸命頑張ってます。まだ慣れず力が入り過ぎてる部分も見えますが大丈夫です」

そう言うと「そっかそっか」と、ひと安心。

「迷惑かけると思うが、よろしくお願いするよ……えーっと亀山君だね」

首から下げてる社員証を見て、社長が僕の名前を口にする。

大きな会社なので、僕が社長に名前を呼ばれるなんてもう二度とないだろう。

スズメに報告したら『記念日です』とか騒ぎ出してケーキでも焼きそう。

だから言わない。