影か、光か____________
光に溢れるところほど、影が濃くなる。
その言い伝えはまさにその通りだった。
光に溢れる大帝国、日宮帝国。
そこには皇女様は1人しかいないと言われてきた。
光溢れる皇女様は、1人だけ・・・・
そう、言われてきた。
私は第二皇女として生まれるはずだった。
どうして、私は、皇女になれなかったのか・・・・・
見てみぬふりをされ、虐げられる日々。
そんな私を救ってくれた、影の王子様との物語を、お話ししましょう・・・・・・
「羽織さま。とっても似合っておりますよ」
「まぁ、そうかしら?ありがとう」
一枚のふすまの奥で、羽織姉上様は、従者の者と、きゃっきゃと楽しげに話していた。
私は、薄汚れた、湿った雑巾を手に、拭き掃除をさっさと進める。
(私だって、皇女なはずなのに・・・・)
その時、ふすまが開いて、綺麗な服に身を包んだ羽織姉上様が現れた。
そして、私のことも見えていないようにさっさと部屋の奥へ進み、さらに奥の部屋へ入ってしまった。
耳をすませば、みんなの慌ただしい足音や、喋り声が聞こえてくる。
そう、今日は羽織姉上様の誕生日祭だ。
大帝国、日宮帝国の唯一の皇女である(一応、私の姉上様)羽織姉上様の誕生日を祝うために、今日は屋敷でパーティーが行われることになっていた。
そして、祭りの主役である羽織姉上様は朝早くにお目覚めになられ、お召し物を整えていた。
私は、今日は、立派なちゃんとした服を珍しくも身につけていた。
全身黒の衣服に、小さな宝石のついたイヤリング。
私は、普段はボロボロの布でつくられたいかにも見窄らしい服を身につけていた。
だけど、今日はとっても特別。
なにせ、誕生日祭だから。お客様もいらっしゃるし、雇われの身分の人も、綺麗な服を着るよう言われていた。
私は、日宮妃翠。
基本的には、苗字は名乗らないことになっている。
だって、私の苗字は、『日宮』と言ったでしょう?
それってこの帝国の皇族がつけられる名前なの。
そう、本当は、私は、第二皇女なの・・・・
じゃあ、どうしてこんなふうに拭き掃除をしているかっていったら、私は皇女として認められなかったから。
なんでかは知らない。
れっきとした皇妃と、皇帝の血も通ってるし、第一皇女の羽織姉上様ともちゃんと血のつながりがある。
拾われた子でもないのに私はどうして、皇女になれなかったのか・・・・・
生まれた頃から、何故かそうだった。
「貴女は、皇女の身分だけど皇女じゃないから、ここで働きなさい」
それだけ言われて。
だけど、皇女になれなかったからといって、どこかの伯爵令嬢でも、公爵令嬢でもない。
つまり、私は平民ってこと。
扱いにしたら、平民以下といっても過言ではない。
だけど、文句なんて言ったら何を言われるかわかった者ではないからずっとこの痛みに耐えて、掃除をしたりするだけ。
「ねぇ」
声をかけられ、私は素早く振り返る。
「何でしょうか?」
声をかけたのは、羽織姉上様だった。
「貴女、いつから掃除をしているの?」
「朝の6時くらいから、でしょうか・・・・」
そういうと、羽織姉上様の目つきが厳しいものになった。
「それにしては汚れがまだ残ってるわね。もう少し綺麗にお拭きなさいな。」
そう言って、汚れた水の入ったバケツを蹴飛ばした。
埃やらなんやらで灰色に汚く汚れた水が、畳に染み込んでいく。
「ちゃんと片付けとくのよ」
それだけ言って、羽織姉様は部屋を出て行った。
こんな嫌がらせ、慣れてるから片づけるのは別に何ともない。
だけど、私が傷つくのは、羽織姉上様の態度だ。
幼い頃は、もっと優しくしてくれたのにな・・・・
☆
「ねぇねぇ、羽織姉上様ぁ」
「なぁに」
「外が雷鳴ってるね。怖いなぁ・・・」
「大丈夫」
そう言って、羽織姉上様は可愛らしくウィンクした。
そうしてぎゅっと私を抱きしめた。
☆
あの時、ウィンクして、安心させるように笑ってくれ、輝くような光が宿っていた瞳は、今になり、私を見下すような光が宿るようになった。
羽織姉上様は、なんでも都合の良いように振る舞う。
男爵家の長男が来た時には、華やかな女らしい仕草をし、父上様の前では、礼儀正しくにこやかに対応し、
なんでも買ってくださるお祖父様の前では甘い声でおねだりし、私の前では見下すようおな態度を取る。