黒龍の神嫁は溺愛から逃げられない

翌朝、目を覚ますと、隣には橡様の穏やかな寝顔があった。
どうやら少しだけ俺が先に目覚めたらしい。
普段は俺の方が少し遅いくらいなので珍しいことだな、と思いながら静かに布団から抜け出す。
寝台の外で身支度を整えたところで、神使の子たちが駆け込んできた。

「長様、おはようございます!」
「今日はお庭に新しい花が咲いてますよ!」

朝から元気な神使たちの姿に、俺は少しほっとする。
夜はどうしても……あの腕の中にいるので、夢うつつ気分で……彼らと話していると、どうにか現実に戻れる気がする。


「じゃあ、見に行こうか」

俺が笑いながら応じると、神使たちは元気よく跳ねながら庭に向かって駆け出した。
俺もそれに続いて、庭に降りた。
外は晴れ晴れと青空が広がっており、空気が清く花の香りを運んでくる
庭で神使たちと戯れていると、ふと誰かの視線を感じた。
振り返ると、そこには橡様に負けず劣らずの美しい男が立っている。
茶に近い長い髪を美しく束ね、繊細な模様の着物をまとった姿は、どこか優雅で洗練されて──それでいて、その瞳にはどこか冷たい光が宿っていた。

浅葱(あさぎ)様……」

神使の一人が小さく呟き、俺の後ろに隠れる。普段は元気いっぱいの彼らが急に静かになり、明らかに警戒している様子だ。
どうしてだ……?基本的に神使はなつっこい子が多いのだが……。

「君が橡様の……」

浅葱と呼ばれた男が俺に向けて、ゆっくりと歩み寄ってくる。足取りは花を散らすように軽やかで、気品すら感じさせるものだった。

「……君が、橡様が選んだ神嫁というわけか」

軽く微笑んでいるが、その目には遠慮も容赦もない。俺を値踏みするような視線が、上から下までゆっくりと動いていく。……ちょっと失礼すぎやしないか、この方……。

「初めまして。私は浅葱。……まあ、橡様が選ばれる方にしては……意外だな」
「……初めまして、俺は長です」

ぎこちなく頭を下げると、浅葱はどこか面白がるように口元を緩めた。

「なるほど、確かに人間だな。人間にしては悪くはない、けれど……ふふ、ずいぶんと“素朴”だ」

その声は柔らかいのに、どこか棘を含んでいる。その言葉に、俺の背後で隠れている神使たちの小さな息遣いが聞こえた。耳や尻尾の毛が逆立っている子もいる。

「それにしても、この屋敷は相変わらずだな。どこを歩いても獣の匂いがする」

浅葱の視線が神使たちに向けられる。
神使の一人が震えながら、俺の服の袖をぎゅっと掴むのが分かった。

「神嫁という存在も、屋敷の空気も――こういうものが、橡様にはお似合いだとおっしゃる方がいらっしゃるのだろうけれど……私には理解しかねるね」

言葉遣いは丁寧だが、その内容は一切の容赦がない。
神使たちが押し黙り、俺の後ろに隠れて震えている姿に、胸の奥がちくりと痛む。
少し……俺は苛ついていた。なんだ、こいつ。本当に……。
しかし、俺が何か言うよりも早く、

「浅葱」

静かだが低く力のある声が庭に響く。
その瞬間、浅葱が振り返り、表情にわずかな硬さが現れる。

「橡様」

浅葱は柔らかな笑みを浮かべて頭を下げるが、その声にはわずかな緊張が混じっている。

「あなた様が神嫁を取られたと聞いて……少し挨拶をと思いまして」
「そうか。でも、ここにいる者たちに不快な思いをさせるような挨拶なら、控えてほしいね」

橡様の瞳が鋭く光る。その言葉に、浅葱の表情が一瞬だけ曇った。

「そのようなつもりは……」

浅葱の視線が再び神使たちに向けられる。憎々しさを隠さないものに、俺としても我慢ならなかった。後ろにいる震えている神使を抱き上げてやる。
俺の様子を見つつ、橡様は厳しい声で言った。

「この屋敷にいる全ての者は、僕にとって大切だ。そして長は、僕にとって特別な存在だ。浅葱、これ以上彼らを侮辱するのは許さないよ」

橡様の言葉に、浅葱は少しだけ目を見開いた。しかし、すぐに微笑みを取り繕い、軽く頭を下げた。

「失礼しました。橡様のおっしゃる通りですね。それでは、また改めて伺います」

浅葱は静かに去っていく。その背中には、言葉には出さない苛立ちのようなものが漂っていた。

「驚かせてしまったね、長くん」

その姿が完全に消えてから、橡様が優しい表情で俺に声をかける。

「いえ……でも、この子たちが……」

神使はしっかりと俺にしがみついていた。
あの浅葱と言う人物がよほど恐ろしかったのだろう。
結構、俺としても苛つくんだが?
橡様は一つ息を吐くと、首を振った。

「浅葱の言葉を気にすることはないよ」
「だってさ……大丈夫。もういなくなったよ」

俺ができるだけ優しい声でそう言うと、神使の子が小さく「うん」と頷いた。その様子を見ていた他の神使たちも、恐る恐る俺の周りに集まってきた。

「浅葱様、怖い……」
「長様、ずっとここにいてくれる?」

その言葉に、俺は少し胸が痛んだ。普段は元気に跳ね回っている彼らが、こんなに怯えるなんて。浅葱の言葉が、どれだけ彼らを傷つけたのかが分かる。
いや、あれはないよな。獣の匂い、って。じゃあ来るんじゃねーよ。何様だっつーの。あ、神様ですね。フーン。どの子もお前より可愛いわい。

「もちろん、ずっとここにいるよ。お前たちは俺の大事な仲間……いや、家族……?だから」

そう言いながら、そっと神使たちの頭を撫でると、彼らは少しだけ安心したのか、尻尾をふりふりさせた。抱いていた子を、集まっていた中に戻す。

「……長くん、ありがとう」

橡様が静かに近づき、優しく微笑む。その瞳には、俺への感謝と何か深い想いが込められている。

「長くん。君がここにいることが、どれだけみんなを安心させているか分かるかい?」

橡様がふっと息をつきながら言った。

「君がこの屋敷に来てから、みんなの表情が明るくなった。それは……僕も同じだよ」
「橡様……」

突然の言葉に、俺は思わず彼を見上げた。その瞳は柔らかく微笑んでいるけれど、どこか揺るぎないものが見え隠れする。

「君は僕にとって、何よりも大切な存在だ。それが浅葱にも分かるように言ったつもりだけれど……」

穏やかな声で言いながらも、その瞳には一瞬だけ鋭い光が宿った。

「……浅葱様、どうしてあんな態度なんでしょうか?」

俺がそう尋ねると、橡様は少しだけ考え込むように視線を逸らした。

「そうだね……彼は、僕に執着しているんだと思うよ」

その言葉に、俺は驚いた。橡様のような存在が誰かに執着されるのは分かる。俺はまだ短い時間しかこの方と一緒にいないが、優しい神様だ。
神使に対しても人に対しても。そんな優しい方が、こんな風に告げるとは思っていなかった。

「でも、大丈夫だよ。君さえここにいてくれれば、僕はそれでいい」

橡様の言葉が耳に響くたびに、胸がざわつく。優しい声なのに、どこか逃れられないような重みを感じるのは、俺の気のせいだろうか?嫌じゃないけどさ……。

「そういえば、橡様」
「うん?」
「庭に新しい花が咲いたらしいですよ。見に行きませんか」

俺がそう言うと、静かだった神使達がわっと声を上げて、明るくはしゃぎだす。
橡様の周囲にも集まり、あっち!あっち!と指さして袖を引っ張った。
やっぱ可愛いじゃねーか。目が悪いわ、浅葱様とやらは。性格も悪かったな。はん!
俺は心の中で悪態をつきながら、神使にまじり、行きましょう、と橡様の背中を押した。


その日の夜、寝殿に向かう途中で、ふと背中に冷たい視線を感じた。振り返ると、庭の片隅に黒い影が揺れている。

「……誰だ?誰かいるのか?」

声をかけるが、応答はない。影はゆっくりと揺らめき、次の瞬間には闇に溶けるように消えていた。

……こっわ。なんだったんだ、今の……?

気味が悪いこともあって、急いで寝殿に走る。部屋に入ると、橡様が俺を待っていた。

「どうしたんだい、長くん。顔色が良くないよ」
「いえ、少し庭で……妙なものを見たような気がして」

橡様の表情がわずかに曇る。

「……気にしないでいい。ここは神域だ。外からの侵入は簡単ではないからね」

優しく微笑む橡様に頷いたものの、胸の奥には何か引っかかるものが残っていた。
「今夜は君の近くで様子を見るよ。君が安心できるようにね」

橡様は寝殿で俺を抱き寄せながら、小さく囁いた。
その腕に包まれながら目を閉じると、不思議と安心感が広がり、意識が遠のいていく。

――だが、深夜、ふと冷たい視線を感じて目を覚ました。
なんだ……?
背中に這うような違和感が肌に伝わる。音を立てないようにそっと橡様の腕を抜け出し、寝殿の外へ足を運ぶ。庭には冷たい夜風が吹き、闇が辺りを支配していた。
昨夜と同じ場所で、黒い影が揺らめいていた。だが、今度はそれが徐々に形を変えていく。次第に人の姿を取り、俺の前に立つ。

「初めまして……いや、正確には初めてではないかな?」

その声は低く、冷たさの中にどこか柔らかさを持っていた。影から現れたのは、蛇のような模様が肌のところどこにうっすらと滲む、白い髪の怪しげな男だった。顔の作りで言えば矢張り人の世にはいないような美丈夫とも言えなくない、が……。

「君が橡の神嫁か……なるほど。確かに面白そうだ」
「……お前は……誰だ?」

全身に冷たい汗がにじむ。俺が問いかけると、男は薄く笑った。

「私は、玖珂(くが)。君に少し興味が湧いてね」
「興味って……俺に何の用だよ?」

声を震わせないようにするのが精一杯だった。玖珂と名乗った男は微笑みながら一歩近づき、まるで俺を弄ぶかのように首を傾げた。

「簡単なことさ。君は神嫁だ。しかも、橡の――ね。それがどれほど特別か、君自身はまだ分かっていないんじゃないかな?」

その言葉に、胸がざわつく。俺自身も「神嫁」という存在の意味を理解しきれていないからだ。
玖珂がまた一歩近づき、指先で俺の髪に触れかける。

「少しだけ……橡の神嫁に触れてみても?」

その瞬間、橡様の手が素早く玖珂の腕を払った。

「触れるな。誰が許した?」
「……ずいぶんと独占欲が強い」

玖珂は目を細めて面白そうに笑うが、橡様の目は冷たいままだった。

「それがどうした?」

玖珂をねめつける様に見つめたまま橡様の腕が俺を後ろへと引き寄せる。
その仕草が、安心して、と言わんばかりで妙に心地よく──俺はただ、橡様の腕に身を委ねていた。

「玖珂……君がここまで入り込むなんて珍しいね。そうか、長くんが言ってたのは……君か」

橡様の金色の瞳が鋭く光り、その声にはいつもの穏やかさとは違う冷たさが混じっていた。玖珂は気にする様子もなく、肩をすくめる。

「挨拶に来ただけさ。君が手に入れた“宝物”がどんなものか、ちょっと見てみたかったんだ」
「僕の神域に入り込んで、挨拶とは随分と無礼な話ではないかな?」

橡様の声がさらに冷たくなる。玖珂は少しの間沈黙した後、薄笑いを浮かべて言った。

「長くん、だっけ?君には、君にしかない特別な力があるんだよ。橡が君を守りたくなる気持ち、分かる気がするなぁ」
「その特別さに手を出すなら、君と敵対することになる。それを覚悟しているんだよね?」

橡様の瞳がさらに鋭さを増す。玖珂はその視線を真正面から受け止めるが、平然と笑みを浮かべた。

「今日はこのくらいにしておこう。……また来るかもしれないけれどね」

玖珂はそう言い残し、再び黒い影と化して夜闇に消えた。
橡様は深く息をつき、俺へと視線を下ろした。その表情は穏やかでありながら、どこか緊張を孕んでいる。

「まだ夜も深い。戻ろうか」

俺の肩を抱いたまま、二人で歩き出す。

「ごめんね、長くん。怖い思いをさせた」
「いえ……でも、橡様が守ってくれたので……」

俺がそう言うと、橡様の腕が俺の肩をそっと抱きなおした。その力にはいつも以上の温もりと、何か強い決意が込められているように感じられた。

「橡様……」

思わず声をかけると、橡様は少しだけ振り向く。

「何かあったら、僕のそばから離れないようにね」

橡様の言葉は、優しさと強い決意が混ざっていた。
玖珂が来る前からずっとそうだったけど、橡様は俺のことを守ろうとしてくれている。
でも──。

「橡様はずっと、俺のことを守ってくれるんですね」
「もちろん」

橡様の声は変わらず穏やかだったけど、どこか思い詰めたようにも感じた。
これ、俺が橡様の重荷になっているんじゃないか……?大丈夫なんだろうか……。
そう思いながら、しばらく無言で歩き続けていると、橡様がふと足を止めてまだ暗い空を見上げた。

「明日は、幽世(かくりよ)の街で市が立つよ」
「市?」

意外な言葉に顔を上げると、橡様はゆっくりと微笑む。

「幽世は神域に近い場所で……いや、神域の一部かな?神や妖怪が集まる場所でね。そこで市が開かれるんだ。屋台が立ち並んで、賑やかになるよ」

へぇ、と俺は思う。
そんな人間がしているようなことを……いや、この場合は人間が模倣しているのだろうか?

「行ってみたいです」

橡様は小さく頷く。

「じゃあ、明るくなったら少し出かけようか。長くんはもう少し休んだ方がいい」

その優しい声に、不安が少しだけ消えた気がした。
橡様と一緒に立ち入った幽世の街は、祭りみたいに賑わっていた。
屋台が立ち並び、神様や妖怪が楽しそうに品物を眺めている。
初めて神域に足を踏み入れた俺には、その光景がどこか夢の中みたいに思えた。

「橡様、この先には何があるんですか?」

隣を歩く橡様に声をかけると、橡様はゆっくり振り返る。

「そちらも市だよ。僕たちみたいな神や妖怪の子が集まって、いろんなものを売るんだ。面白いものもあるから、見て行こうか」

穏やかな声だった。橡様は普段、あまり多くを語らないけれど、その言葉にはどこか優しさがあって。安心できる。

「ゆっくり行きましょうか?」

俺がそう尋ねると、橡様はふっと微笑んだ。

「そうだね。せっかくだから、ゆっくり歩こうか。こうして」

橡様は俺へと返事をしながら、俺の手を取って握った。
そして歩き出す。
色とりどりの灯がともる屋台にはいろんなものが並んでいた。
光を宿す石、色鮮やかな香袋、不思議な模様が浮かび上がる鏡──。
どれも当たり前に初めて見るものばかりで、立ち止まるたびに自然と目を奪われてしまう。

「変わったものが多いですね」

思わず口にすると、橡様が隣から応える。

「ここでしか手に入らないものがほとんどだよ」

橡様は俺のを握ったまま歩きながら、ゆっくりとした声で話してくれる。
その声はまるで俺が不安にならないように気を遣ってくれているみたいだった。
ふと、俺は一軒の屋台の前で足を止めた。
そこには、色とりどりの組紐が綺麗に並んでいる。
赤色に桜色、橙色に藤色……その中でも気になるものがあった。

「これ……」

無意識に手を伸ばすと、屋台の主である小さな狐の妖が微笑んだ。

「旅の守りになる組紐ですよ。どこへ行っても帰る道を忘れないって言われてますこん」
「帰る道を……?」
それは紺色に金糸が組まれたものだった。
手に取った紐を、指にそっと巻き付けてみる。
ひんやりとして柔らかい感触が、なぜか懐かしく思えた。

「気に入ったのかい?」

橡様が、俺の上から静かに声をかけてきた。

「……いえ。ただ、なんとなく……」

否定しつつも、視線は組紐から離せない。

「ふふ、嘘だね」

橡様はくすっと笑いながら、俺の手を離すと、懐から巾着を取り出して狐に代金を渡した。

「……え、買うんですか?」

驚いて見上げると、橡様は迷いなく頷く。

「うん。似合うと思ったからね」

そう言いながら、橡様は俺の右手をそっと取る。
少し驚いたけれど、橡様の指先は驚くほど優しくて、何かを包み込むみたいだった。
ゆっくりと、組紐を手首に巻きつけていく。

「守りの代わりだよ。気にしないでつけておくといい。ちょっとだけ、僕の呪いを加えようか。いつでも君が僕のところだけに帰ってこれるように」
「え?」

言いながら、橡様は己の親指爪先でその中の指先をほんの少し押した。
赤い血が少量滲む。それを組紐の結んだ目に染み込ませた。
あっという間に組紐が血を吸い──そこは先ほどまでの色に戻る。
一連の動作は素早い動きで行われ、俺は言葉を挟む隙もなかった。

「これでいいね」
「あ、はい……」

少し照れくさかったけれど、手首に巻かれた組紐をじっと見つめた。
橡様の言葉は短いけれど、不思議と心に響いてくる。

──それが、橡様から初めてもらった贈り物だった。

橡様の優しさが詰まったその組紐の温もりを、俺はずっと忘れなかった。
たとえ何があっても、これだけは絶対に手放さない。そう心に誓う。

「お熱いお二人だこん!」

狐の妖が俺たちを祝福するように、ちょん、と跳ねた。
その様子が可愛らしく、俺も橡様も笑う。

「橡様がここまで入れ込むなんて、よっぽど好きなんだこんね~」
「うん。僕の大切なお嫁さんだからね」

さらりと答える橡様に、俺は思わず耳まで赤くなった。
狐の妖がくすくすと笑い、熱いこん!熱いこん!と尻尾をぱたぱたと振る。
そしてまた二人で市の中を歩いた。
時折、橡様が不思議な果物や菓子を買って俺の口の中に放り込む。
どれもこれも美味しいものばかりだった。
そのうちの一つを選び、橡様が神使の子達へのお土産にと包んでもらう。
本当に優しい神様だな、と思いつつ、この方の神嫁で良かったな……なんて俺は思ったのだった。
市を巡り、橡様とともに神域の寝殿へ戻ると、日が少し傾き始めていた。

「楽しかったです」

そう言いながら、俺は手首に巻かれた組紐を見つめる。

「なら良かった。ここは村に比べると遊興は少ないかもだからねぇ」

橡様は穏やかに微笑む。

「……でも、ちょっと疲れたかもです」
「うん。今日はよく歩いたからね」

橡様は庭先にある縁側へ座り、俺を手招きする。
俺もその隣に腰を下ろすと、どこからか神使の子供たちが駆け寄ってきた。

「長様!あそぼう!」
「えっ、今から?」
「いいじゃないか。僕はここから見ているよ。とはいえ、長くんも疲れてるだろうし、皆、少しだけだよ?」

橡様は俺の背を軽く押し、神使の子供たちと遊ぶよう促してきた。
まあ、疲れたといっても農作業を丸一日するよりはましというもので。
俺は一度伸びをしてから立ち上がると、言葉に頷きながら神使の子らが俺の手や袖を引っ張る。

「引っ張るなって」

そう言いつつ、俺は神使の子供たちに手を引かれて庭へと出ていく。
笑い声が響く中、橡様は縁側に腰を下ろし、穏やかな目でこちらを見守っていた。
神使たちが「こっちこっち!」と無邪気に手を引くたび、ふと目が合う橡様の柔らかな微笑みが胸に残る。
遊びながらも、俺の視線は時折橡様に向かってしまう。
──不思議と、目が離せなかった。
やがて、夕日が庭を橙色に染め始めた頃。
子供たちが「もう一回!」と駄々をこねる中、橡様が立ち上がって声をかける。

「そろそろ入ろうか」

その一言に、神使たちは「はーい」と名残惜しそうに解散していった。
俺も深呼吸をして、火照った体を冷ますように額を拭う。

「楽しかった?」

縁側から立ち上がり隣に立つ橡様が、少しだけ身を屈めて俺の顔を覗き込む。
子供扱いされている気がして、少しむっとするが、悪い気はしなかった。

「まぁ、たまにはこういうのも……」

言葉を濁しながら視線を逸らすと、橡様はふっと笑う。

「長くんの笑顔が見られると僕も嬉しいよ」

そう言いながら、橡様がふわりと俺の髪に触れる。
その指が耳元をかすめると、くすぐったさと妙な緊張感が同時に襲ってきた。

「……橡様」
「何かな?」
「髪……そんなに触らなくても」

自分で気づかないうちに声が少し震えていた。
橡様は気にする様子もなく、指を髪から滑らせながら静かに微笑む。

「触っていたいんだよ」

さらりとした声に、余計に心臓が早くなる。

「ずっと待っていたお嫁さんだからねぇ」
「っ……」

不意に耳元で囁かれ、体が固まる。
顔がますます熱くなるのを感じて、俺は手首の組紐をぎゅっと握りしめた。

「そんなに赤くなることじゃないよ」
「……橡様が近いから、ですよ……」

気づけば、俺の言葉は小さくなっていた。
橡様は俺を見つめたまま、少しだけ身を乗り出してきて、髪を触っていた手で今度は俺の手を包んだ。

「近い方が、僕は安心するんだけどな」
「橡様……」

逃げられずに視線が交わるまま、手首を包む橡様の指が優しく組紐をなぞる。
その動きにどこか焦らされるような感覚がして、目を逸らそうとしても橡様は許してくれない。

「長くんは、僕から離れないよね?」
「……離れませんよ」

今更、もうどこに行けるというものでもなし……行きたいとも思わない、し。
けれどそこだけは照れてしまって黙ったまま、俺が小さく短く答えると、橡様はようやく満足したように微笑んで、俺の耳へと唇を寄せてからそっと距離を戻した。

「それでいい」

そう言う橡様の表情は、どこか満ち足りているように見えた。
手を離されるかと思ったが、橡様の手はまだ俺の手首に触れたままだった。

「……橡様?」

呼びかけると、橡様は少しだけ考え込むように視線を落とし、ゆっくりと口を開いた。

「もう少しだけ、このままでもいいかな」
「えっ……」

視線を外そうとしても、橡様の指が組紐の上を優しくなぞる。
逃げることもできず、俺はただ小さく頷くしかなかった。

──こうして穏やかな時間が過ぎていった。
けれど、橡様の触れた感触だけは、その後もずっと頭から離れなかった。
今日の橡様はなんだかおかしい。
いつもは何かしら仕事についての書き物をしたり、たまに出かけたりと動いている姿もよく目にする。神様も働くのだな、と俺は思っていたりもした。
俺は村長の手伝いをしていたこともあり読み書きができるので、書簡の整理など雑用を少しさせてもらっているのだが……。橡様は普段より少し動きが鈍いように見える。

「橡様……疲れてませんか?」
「ん?いや、大丈夫だよ」

そう言いつつも、橡様の声はわずかに力が抜けていた。

「本当に……?」

少し不安になり、座っている橡様の顔を覗き込む。

「うーん……そうだね、少し休もうか……」

橡様はそう言いながら、目を伏せる。
立ち上がろうとした瞬間、橡様の体がふらりと揺れた。

「橡様!」

咄嗟に支えた俺の肩に、橡様がゆっくりと重みを預けてくる。

「大丈夫、大丈夫」

苦笑しながらも、体の力が抜けているのがわかる。

「……本当に無理してません?」
「少しだけね」

橡様が珍しく素直に認めたことに、俺は驚いた。

「寝殿で休みましょう……?」
「急ぐものはないし……そうしようか」

俺が袖を引くと、橡様はそのままゆっくりと歩き出した。
けれど、普段の軽やかさはなく、少し足取りが重い。

「やっぱり具合悪いじゃないですか……」
「病気とかではないから大丈夫なんだよ?でもお嫁さんに心配されるのもいいねぇ」

橡様がくすっと笑い、俺は思わずむっとする。

「調子に乗らないでください」
「はいはい」

寝台の上に橡様を寝かせ、布団を掛ける。
橡様は目を閉じたまま、気持ちよさそうに深呼吸をしていた。

「水を持ってきます」
「大丈夫だよ?横になっていれば回復するから」
「……いや、待っててください」

強引に部屋を出て、水を汲みに行く。
俺はここにきてほぼほぼお世話になりっぱなしだ。
村にいたころと比べるとかなり楽をさせてもらっている。
恩返しというほどではないが、せめて橡様が休んでいる間くらいは、俺が何かしてあげたい。
神使に頼んで水を汲み、干菓子を幾つか貰う。
疲れている、というならば甘いものは少しの癒しになるかもしれない。
それらを持って足早に戻ってくると、橡様は布団の中で目を閉じたままだった。
器を置き、傍らに静かに座る。

「……」

髪が額にかかっていたのが気になり、そっと手を伸ばして橡様の髪を撫でる。
絹糸のような黒の髪は手触りがとても良かった。
橡様は俺の頭をよく撫でては気持ち良いと言うが、橡様の髪の毛の方が俺からすれば数段も綺麗だし手触り良く感じる。
髪だけではない。その顔にしたってそうだ。
俺は未だに自分の容姿が綺麗だとはいまいち思えないし、橡様に比べれば見劣りどころか月とすっぽんではなかろうか?
自分を卑下するわけでもないのだが……何せ相手は神様なもので、人間と比べる方が烏滸がましい気もする。

「……俺よりお綺麗なんだけどなぁ……」

そう呟いた瞬間、橡様がふっと目を開けた。

「長くん?」
「あっ、起こしちゃいましたか?」
「ううん。髪を撫でられるのは悪くないね……懐かしい感覚だ」

そう言いながら、橡様が手を伸ばして俺の手首を軽く掴む。

「ちょ、橡様?」
「せっかくだし、一緒に休もう?」

調子に乗ったように言いながら、俺の手を自分の方に引き寄せた。
俺は体勢を崩して、そのまま橡様の腕の中に転がることとなってしまう。

「……橡様、調子が悪いんじゃないんですか?」
「疲れてるだけだよ」

橡様はそのまま俺を抱きすくめた。

「えぇ……おかしいですって……」
「長くんの体温が気持ちいいんだよ」

にこりと笑う橡様を見て、俺はため息をついた。

「……まあ、温められるならいいですけどね……」

温かいよ、とそう言いつつ、橡様は俺を抱きなおした。
橡様は目を閉じたまま、静かに口を開く。

「昔ね、浅葱もこうして僕を心配してくれたことがあったんだよ。昔の浅葱はね、僕が体調を崩したときには、必ず白い花を枕元に飾ってくれてたりね」
「浅葱様が……」

一度会ったことのある、あの神様だ。
橡様と同様に酷く美しいけれど、それよりも傲慢な印象が俺には残っていた。
思わず聞き返すと、橡様は「そう」と目を閉じたまま微笑む。

「今の浅葱からは想像できないでしょう?」
「……正直に言えば、まあ……」

橡様は少しの間目を伏せ、遠くを見つめるように続けた。

「昔の浅葱はね、もっと素直で優しい子だったんだ」
「それは、また……浅葱様は橡様とはどういうご関係なんですか?」

俺がなんとなくそう聞くと、橡様が目を開けて俺を見た。

「気になる?」
「え?あ、まあ……?」

橡様は俺の様子を見た後に、ふむ、と一つ漏らしてからまた目を閉じた。
なんだ、今の。

「橡様?」

俺は続きを促すように声をかけると、俺を抱いていた手が背中を撫でる。

「興味を持ってくれるのは嬉しいけど、ここは嫉妬してほしいなぁ……」

ぼそり、と橡様はそう言った。
嫉妬。なんで嫉妬……?
俺は首を傾げて思考をめぐらしてから、漸く気付く。

「お嫁さんが嫉妬してくれたら嬉しいのだけど……」

言いながら俺の身体を抱いたまま、橡様がくるりと身体をまわした。
俺はあっという間に橡様の身体の下にいて──押し倒されるような姿勢になっている。
そうして、俺の首筋に顔を埋める。

「何言ってるんですか、それに、ちょっと……!」

橡様がいわんとしていることはわからないでもない。俺も男である。
ただなぁ……嫉妬するような行為を見せられたわけでもないのだが……いや、まてよ?

「……昔の恋人だったりするんですか?」

えらく敵視されているような節はあったしな。
人と違い長く生きているならばそう言うこともあるのかもしれない。
けれど橡様は俺がそう質問した途端に顔を上げて、驚いた顔をして首を横に振った。

「ないよ、そんなこと。浅葱は……幼馴染みたいなものだよ」
「ならいいいじゃないですか。俺にだっていますよ、幼馴染。ろくなやつじゃないですけど」
「えぇ……僕はその子にも嫉妬しちゃいそうなんだけど……」

はあ、と俺の上で大きなため息が漏れた。
幼馴染にも嫉妬か。それはそれで凄いな……俺の好かれ方。
俺もそれくらいいつか好きになるのだろうか、この神様のこと。
今でもそりゃぁ嫌いではないしどちらかと言えば、好きな方では……。
なんだかそこで変に意識してしまい、俺は頬が熱くなってしまう。

「長くん?赤くなってどうしたの?」
「……何でもないです……ほら、休んでください」

俺は身を捩ってその腕から逃れようとした。
のだが、

「え、駄目だよ。そんな可愛い反応されたら、僕が離すと思う?」
「は?」

橡様がさくっと動いて、俺との間にあった上掛けを端へと追いやった。

「……君に触れたくなった」

不意に低く甘い声が俺の耳元で耳元で静かに囁く。
冗談っぽかった雰囲気が少し変わり、俺は一瞬ドキリとしてしまった。
そして俺の少し乱れた着物の裾から手を入れてきて、足を撫であげる。

「あっ……ちょ、やめ……っ!お疲れなんですよね⁈橡様……!」
「うん。だから、長くんに癒してもらう」
「何言って……んむっ」

俺の抗議は呆気なく、その唇に飲み込まれる。
こういうのも、お疲れの原因じゃないんですかね⁈
と心の中でだけ叫んだのだった。

ところで。

この時にそりゃ丁寧に丁寧に俺は可愛がられたので(意味深)、夜に呼ばれた際には「もう今日はしましたよ⁈」とご辞退申し上げたら「関係ないよ」とことさらまた可愛がられた。解せぬ。
幽世と人の世との間には明確な境界がある。
「境界」とは、人の世と幽世を隔てる目には見えぬ薄い膜のようなもので、普段はしっかりと保たれているが、時間や場所によってはその境が揺らぎ、人間が迷い込んだり、神や妖怪が現世に姿を現したりする。
この境界が不安定になると、両方の世界が混ざり合い、大きな災厄を招くことがある。
橡様は俺が屋敷にいる間に色々と教えてくれた。
そして境界の見回りは、橡様の大切な仕事のひとつでもあるらしく、今日はその手伝いを申し出て、荷物の持ち運び役を務めている。

「長くん、重くない?」
「大丈夫ですよ。村で荷運びしていたので慣れてます」
「頼もしいねぇ」

境界のある森は、神域の奥深くにある。
昼でも木々が生い茂り、光が細く差し込む程度だったが、不思議と怖さはなかった。
橡様は楽しげに微笑んで前を歩いている.それだけで、空気が柔らかく感じるからだろうか。
森の奥深く、ようやく辿り着いた境界の石碑は、静かにそこに佇んでいた。
苔むした石に、何か古い文字が刻まれている。

「これが境界を守る石碑だよ。触れてみる?」
「いいんですか?」
「大丈夫。少しならね」

俺は恐る恐る指先で石碑をなぞる。
ひんやりとしていて、どこか柔らかい感触がした。

「……すごいですね。生きてるみたいです」
「そうだよ。これは境界の力を受けているからね」

橡様は俺が持っている木箱から器を取り出し、静かに石碑の前に座る。
その動きは儀式めいていて、どこか神聖な空気が漂っていた。

「僕が今から少し力を注ぐから、見ていてね」

橡様がそう言うと、指先からふわりと光が生まれ、石碑の表面に流れていく。
その瞬間、石碑の周りに小さな花がぽつりと咲いた。

「花が……」
「うん、境界が安定すると、こうして花が咲くんだよ。分かりやすくていいでしょう?」

静かに咲く花は、なんとも言えない可憐さだった。

「橡様の力って、改めてすごいですね……」
「君が隣で見てくれるから、いつもより上手くいく気がするよ」

そんなことをさらりと言われると、耳が熱くなる。
俺はそれを隠すために横を向くと、橡様が小さく笑った。
どうもな……最近は結構転がされてる気がする。まあいいけど。
俺は一つ咳払いをして、橡様に向き直った。

「……それはよかったです」
「ふふ。可愛いなぁ……でもね、これはいつか君がすることでもある」
「え、俺が……?俺には無理ですよ」
「ふふ、神嫁の役割は案外大事なんだよ?」

冗談めかして橡様が言うが、俺としては神の御業なんて使えるもんでもないので、それを聞いて内心焦る。まあ、そのうちね、と橡様は俺の頭を柔らかく撫でた。
しかし、儀式が終わりかけた頃、橡様の表情がわずかに曇った。

「……あれ?」
「橡様?」
「境界に、小さなひびが入ってる」

橡様が石碑を指でなぞると、ほんの少し、細かなひび割れが浮かび上がった。

「大丈夫なんですか?」
「うん、すぐに直せるよ。ただ……少し気になるね」

橡様は指先でそっとひびに触れ、静かに力を注ぐ。
再び花が咲き、そのひびはすぐに消えていった。

「これでよし、と」
「……よかった」
「長くんがいると、安心して作業できるよ」

橡様がこちらを見て微笑む。

「僕の仕事、どうだった?」
「……すごかったです。俺、何もしてませんけど……」
「いやいや、君がそばにいるだけで、神嫁として十分役に立ってるんだよ?」

橡様はまた軽く俺の髪を撫でた。
そうして立ち上がり、また二人で歩きだす。
どうやら作業はこれで終わりらしい。
森を抜ける帰り道は、橡様の後ろを静かに歩いていた。
さっきの儀式がまだ頭に残っていて、ひびが入った境界のことが少し気になっている。

「橡様、さっきのひび割れ……」
「ん?」

声をかけると、橡様はゆっくりと振り返った。

「やっぱり、何か良くないことが起きてるんでしょうか」

俺が少し不安げに尋ねると、橡様はふっと微笑んだ。

「大丈夫だよ。ひびが入ること自体は珍しくないからね」
「そうなんですか?」
「うん。あれくらいならね」

橡様が森の木々を見上げる。
夕暮れの光が木漏れ日になり、橡様の横顔を照らしていた。

「やっぱり、誰かの仕業だったりするんですか?」

俺が恐る恐る尋ねると、橡様は小さく息をついた。

「可能性はあるね。例えば……浅葱や玖珂みたいな子がね」
「浅葱様と玖珂様……」

浅葱は以前会ったことがある。
でも玖珂は……。

「この前、君に触れようとした彼だよ」

そこで俺の頭のなかで、ああ、と繋がった。

「玖珂は蛇神だよ。長く生きてるけど、ちょっと変わった性格をしていてね。僕が境界を守っているのを面白がって、時々からかいにくるんだ」
「からかい……ですか?」
「うん、玖珂はそういうのが好きだからね。人間を攫ったりすることはしないけど、境界を少しいじって様子を見たりするんだよ」
「えぇ……それって……結構迷惑じゃないですか?」

俺が思わず眉をひそめると、橡様はくすっと笑った。

「そうなんだけどね。でも、玖珂は悪意があってやってるわけじゃないんだ。ただのいたずらみたいなものだから。まあ、君に触れたらいたずらじゃすまないけどね」
「神様のいたずらって……たちが悪いですね」

俺が苦笑いすると、橡様は「そうだねぇ」と少し楽しそうに応じた。
しばらく歩いていると、橡様がぽつりと呟いた。

「でもね、浅葱のことは少し気をつけておいた方がいいかもしれないね」
「浅葱様が……?」
「彼は、長くんのことをあまりよく思っていないようだからね」
「それは……なんとなく分かります」

以前会った時の浅葱様の冷たい目を思い出す。
あの人が俺を睨んでいた理由は、きっと俺が橡様の神嫁だからだろう。


「……橡様にとって、浅葱様ってどういう存在なんですか?」

何気なくそう尋ねると、橡様は「どういう存在か……」と少し考える素振りを見せた。

「前にも言ったけど、幼馴染で……大事な友達だよ。でも……今の浅葱は昔の彼とは少し違う気がするね」
「……俺がいるからですか?」

俺がそう口にすると、橡様はすぐに否定するように首を振った。

「違うよ、長くんが悪いわけじゃない。ただ、浅葱は少しだけ独占欲が強いだけなんだ。
本当はね、彼も優しい子なんだけれどね……」

橡様の言葉を聞いて、少しだけ浅葱様のことを考えてみる。
神様にもいろいろな感情があるんだな、と改めて思った。

気づけば森を抜けて、神域の境内が見えてきた。
夕暮れの中で、橡様が少しだけ振り返る。

「長くん、これからも一緒に境界を見回ってくれる?」
「もちろんです。俺でよければ」
「ありがとう」

橡様は穏やかに微笑むと、俺の手首に巻かれた組紐をそっと指でなぞった。
指がほんの少し長く触れていて、その仕草に心臓がほんの少し高鳴る。

「君が隣にいるだけで、僕は安心できるよ」

橡様の言葉にまた耳が熱くなって、俺は少し目を逸らした。

「そんなに触らなくても……」
「触りたいんだよ」

さらりとした声で言われて、思わず足を止めてしまう。
ふと橡様が俺の目の前に立ち、顔を覗き込んだ。

「……橡様?」
「長くんがどんな反応をするか、見たくなってね」

橡様は楽しそうに目を細めて微笑むが、その瞳はどこか真剣でもある。
俺は視線を逸らせず、橡様の目を見つめ返してしまう。

「僕のお嫁さんなんだから、もっと甘えてくれてもいいんだよ?」
「……これ以上、橡様に甘えたら俺、駄目になりそうです」

俺がそう口にすると、橡様はふっと笑い、そっと俺の髪を撫でた。

「それでもいいよ。君がどこにも行けなくしたいなぁ」

その声は、冗談めいたものだった。
だけど、その一言にどこか本音が混じっている気がして、俺は何も言えなかった。
俺は緩く息をつきながら、橡様と並んでゆっくりと歩き出すのだった。
穏やかな日差しが降り注ぐ中、橡様は庭の一角で何やら作業をしていた。
俺は屋敷の縁側に座り、書簡の整理をしていたが、ふと橡様の姿に目が留まった。

「橡様、何をしているんですか?」

声をかけると、橡様は振り向いて微笑んだ。

「少し庭の手入れをしているんだよ。境界の花が最近元気がないから、ここの花を移そうと思ってね」
「え……それなら俺も手伝いますよ」

書簡を脇に置き、立ち上がろうとすると、橡様は首を振った。

「大丈夫だよ。君は休んでいて」
「でも、せっかくですし」

そう言って近づくと、橡様は少し困ったような表情を見せた。

「本当に大丈夫だから。君はここで休んでいてくれると嬉しいな」

その言葉に、少し胸が重くなる。
橡様はいつも俺に無理をさせまいとしてくれるけれど、時々それが過保護に感じることもあった。

「……わかりました」

素直に引き下がるのも悔しかったが、口論するほどでもない。
そのうちまたちゃんと話せばいいんだ。
そう思い、言葉を飲み込んで俺は少し離れた場所で橡様の作業を見守ることにした。
橡様は手際よく花を摘み取り、小さな籠に集めていく。
その姿は優雅で、まるで舞を踊っているかのようだった。
しかし、ふと足元の石につまずき、橡様の体がぐらりと傾いた。
橡様は体勢を崩し、そのまま庭の石段に倒れそうになる。

「橡様!」

咄嗟に俺は縁側から飛び出す。
間に合え、と思いながら駆け寄ると、橡様を抱きとめた。
だが、情けないことに俺の身体ではうまく橡様を支えることが出来ず、その勢いで俺は足を滑らせ、背中から地面に倒れ込んだ。

「長くん!」

鈍い痛みが背中に走り、息が詰まる。
橡様はすぐに起き上がり、俺の顔を覗き込んだ。

「大丈夫!?どこか痛む?」
「……っ……大丈夫です。橡様こそ、怪我はありませんか?」

痛みを堪えながら笑って見せると、橡様の表情が一瞬固まった。


「何でこんな無茶をするんだ!」

突然、橡様の声が鋭くなった。
驚いて顔を上げると、橡様は眉をひそめて俺を見下ろしていた。

「俺は……橡様が倒れそうだったから」
「だからって、自分が怪我をしてどうするんだ!」

その言葉に少し怯む。
橡様がこんなに強い口調で話すのは初めてだった。
俺、そんなに悪いことをしただろうか?と心の隅で思う。

「……でも、橡様に怪我をさせるわけにはいきませんから」
「僕は大丈夫だよ。少しの怪我ならあっという間に治ってしまう。君こそ人間なんだから、もっと自分を大事にしてほしいんだよ……!」

橡様の目には明らかな怒りと、不安が滲んでいた。

「……だから橡様が怪我をしていいって話じゃないでしょう?」

思わず声が低くなる。
橡様が心配をしてくれていることはわかる。わかるけれど……。

「……長くん?」
「俺が橡様を助けるのって余計なことですか?……橡様がそんなに怒るなら、俺はどうしたらいいんですか。何もしないで黙って守られていろってことですか?」
「君が無事でいてくれるなら、それで――」
「それじゃ、俺はただの役立たずじゃないですか!俺だって橡様を助けたい」

自分でも驚くほど強い口調で言ってしまう。
橡様の表情が曇るのが見えて、後悔の念が押し寄せた。
橡様は何かを言いかけたが、結局口を閉じたまま、深い息をついた。

「……僕の言い方が悪かったね。ごめん」
「……別に、謝らなくてもいいです」

少し意地になって答えると、橡様は黙って手を差し伸べた。

「立てる?」

その手を取って立ち上がると、背中の痛みがずきりと走った。
けれど、橡様の前ではそれを隠したかった。

「僕が言いたかったのは、君に無理をしてほしくないということだけだよ」
「……わかってます」

そう答えながらも、どこか釈然としない思いが胸に残った。



夜、橡様の寝殿へ来るように神使の子が告げに来た。
普段なら素直に従う俺も、今日はどうしても足が向かなかった。
結局この儀式だって、俺を守るためにしていることで、俺が人間じゃなければ必要ないことなんだろう。
橡様が心配してくれることも、守ってくれることもわかっている。
けれど、それじゃ俺はただ守られるだけの存在でしかない気がしてならない。
自分の部屋で膝を抱え、ぼんやりと手首の組紐を眺める。
この組紐が俺を繋いでいるようで、どこか重く感じられた。

「……何をすればいいんだよ」

俺がそう呟いたとき、

「長くん」

その声に、胸が跳ねる。
襖の向こうにいるのは橡様だ。

「寝殿に来ない理由を聞かせてもらえるかな?」

声は穏やかだが、どこか底冷えするような響きが混じっている。

「……今日は、いいです」

そう返すと、しばらく静寂が続いた。

「開けるよ」

橡様の声が低く響く。
次の瞬間、襖が音を立てて開き、橡様が中に入ってきた。

「どうして寝殿に来ないの?」

橡様の目は俺を見据えていた。
俺は視線を逸らしながら答える。

「……橡様に迷惑をかけたくないので……」
「迷惑なんて思ったことないよ。むしろ君がここにいる方が、僕は落ち着かない」

橡様の言葉はどこか強い感情を含んでいて、俺の胸にずしりと響いた。
俺が我儘すぎるんだろうか……。

「……今日は、一人でいたいんです」

精一杯の勇気を出してそう言うと、橡様はしばらく黙り込んだ。

「……それが君の本心?」
「……ええ」

言葉に詰まりながらも、そう返す。
橡様は俺のそばまで歩み寄り、膝をつくと静かに顔を覗き込んだ。

「長くん、僕が何を思って君をここに迎えたのか、わかってる?」

橡様の目は真っ直ぐ俺を見つめていて、視線を逸らすことができない。

「君を傷つけないように、守っていきたいって思ってる。でも、それは君が僕の隣にいてくれることが前提なんだよ」
「……橡様」

橡様の手が俺の手首を掴む。
その力は優しいものの、逃れることを許さない確固たるものがあった。

「僕の隣にいるだけでいいのに……どうしてそんなに遠くへ行こうとするの?」

その声には、焦りと寂しさが滲んでいるようだった。

「遠くに行こうなんて……ただ、今は……」

言葉を探していると、橡様が立ち上がった。

「……いいよ。今夜は、僕が君を連れて行く」
「えっ?」

橡様は俺の腕を掴み、立たせた。そして、俺を抱き上げる。

「橡様……!俺は、今日は……!」
「君が来ないなら、僕がどうにかするしかない。神嫁の務めを放棄するつもり?」

橡様の声が低く、冷たささえ感じた。
その言葉に、胸が刺されるような痛みを覚えた。

「……そんなこと、思ってないです……!」
「なら、来て」

俺は橡様に抱かれたまま、自室を後にした。
寝殿に抱かれたまま連れてこられた俺は、扉が閉まる音に肩を震わせた。
橡様の視線は鋭く、まるで逃げ道を塞ぐように俺を見つめている。

「……どうして僕の元から逃げようとするの?」

その言葉に、思わず胸が締め付けられる。
声は静かだったが、明らかな焦りと苛立ちが混ざっているのがわかった。

「逃げるなんてしてません。ただ……」
「ただ?」

橡様が寝台の上に俺を置く、その上で詰め寄るように一歩近づく。
その動きに反射的に後ずさると、橡様が俺の腕を掴んだ。

「長くん、君は僕の大事な神嫁なんだよ。それなのに、どうして僕を拒むの?」
「拒むなんて……ただ、俺は……!」

振り払いたいと思ったが、その力の強さに抵抗が効かない。

「ただ、何?」

橡様の声が低く響く。

「俺は……あなたの役に立ちたい!そうじゃないと 橡様の隣に立つ資格なんて……」

消え入りそうな声でそう告げると、橡様の瞳が一瞬鋭さを増した。

「資格なんて、誰が決める?」

橡様の言葉に、視線を逸らす。

「君を選んだのは僕だよ。君がいなきゃ、僕は――」
「そんなの俺には分らないですよ!」

俺は思わず声を張り上げていた。

「俺はあなたのことを覚えていなかったし、いきなりここに連れてこられて……それで橡様は俺を守りたいって言いますけど……大したこともできなくて。そんなのただの役立たずだ」

その言葉に、橡様の目が少し揺れる。

「俺だって、俺なりにできることをしたいんです! それを全部『人間だから』って理由で否定されるのは、……嫌なんです!」

橡様の手を振り払おうとするが、逆にさらに強く掴まれる。

「僕は君が傷つくことを許せるわけがないんだよ」

橡様の声は低く、静かに怒りを孕んでいた。

「……俺が傷ついたら橡様が困るんですか? それとも――」

言葉を詰まらせた俺の前で、橡様が眉を寄せる。

「君がいなくなることが、僕には一番耐えられない」

その言葉に、胸がぎゅっと締め付けられた。
橡様の手は、俺の肩から首元へと滑る。
その動きに思わず体が強張った。

「橡様……これ以上は……」

俺が言いかけると、橡様がわずかに眉を寄せた。

「君が僕を拒むなら、それをどうにかするのが僕の役目だろう?」

その言葉には、いつもの穏やかさはなく、橡様の焦りと執着が色濃く滲んでいた。

「……俺、今日は嫌です……」
「嫌、ね。……逃げないのでしょう?」

橡様の声は低く、けれど切実だった。

「君が僕のそばにいない未来なんて、僕には考えられない」

その言葉と共に、橡様が俺の体をそっと押されて寝具の上に呆気なく倒された。
俺は抵抗しようとしたが、橡様の手に力を込められ、まるで動けない。

「橡様、こんなの……!」
「君が逃げるつもりがないなら、それを教えてほしいんだ」

橡様の手が俺の手首を掴む。
その力強さと、どこか震えるような手の感触が混ざり合い、俺は戸惑った。

「橡様、本当に……!」
「……必要なことだよ。君が僕から逃げる可能性を、少しでもなくすために」

橡様の声は震えていた。

「君を守るためでもある……。君自身からも、君を奪おうとする他のものからも」

その言葉に、俺は言い返せなかった。
橡様の言葉の意味を理解しようとするほど、頭が混乱していく。
守られるだけで、本当にそれでいいのか?
橡様がこれほど必死になる理由を、俺は本当にわかっているのか?
その答えを見つける前に、橡様が俺の肩にそっと触れた。
その手の熱さに、心がまた揺れる。
けれど、俺の中の反発は完全に消え去ることはなかった。



いつもより乱暴な手つきで身体を弄られる。

「……っ、や、だ……ぁ」

俺は逃げ出したかった、初めて。
この行為が、こんな惨めさや恐怖を伴うものとは知らなかった。
橡様は俺が嫌がろうとも、手を止めることはない。
冷たい目で見下ろしながら、行為を続ける。
いつもは気遣うように優しく、その手に熱を与えられて果てる。
恥ずかしさはあっても、身を任せることに反することはなかった。
幸せな気持ちになることも最近ではあったのだ。
──けれど、今夜は違う。
身体だけは日々で慣らされたことに反応するが、心がついていかなかった。

「そんなに、嫌がるくせに……感じるんだね」

ぐ、と俺の奥に身を埋めながら、俺の上で橡様が歪んだ笑みを浮かべつつ言った。
そうしたのは他でもないあんたのくせに、と思っても言葉にはならなかった。

「……っ、う」

かわりに涙が溢れる。早く終わればいい、こんなこと。
終わったら……もう、逃げ出してしまおうか。
まだ人として暮らせるのだろうか、俺は。
そんなふうに思っていると、唇を塞がれそうになり、俺は思い切り顔を背けた。
すると次の瞬間、首筋に鋭い痛みが走る。

「ひっ……!」

引き攣った声が俺から漏れた。微かな血の匂いがした。
恐らく強い力で噛まれたのだと思う。
傷よりどうにも痛むのは心で、どうしようもなかった。
夜の静寂の中、寝殿には微かな衣擦れの音と荒い息遣いが響いていた。
橡様は俺の抗う声を無視して強行し、気づけば意識が朦朧としたまま眠りに落ちたらしい。
翌朝、ぼんやりと目を覚ますと、身体中が鉛のように重い。
動こうとすると、全身に鈍い痛みが広がる。

「……橡様……?」

思わず名前を呼ぶが、返事はない。
周囲を見回すと、橡様の姿はどこにもなかった。
いつもは俺が起きるまで、その腕の中だったはずだ。
代わりに、寝台の横に置かれた机の上には、茶碗に注がれた水と簡単な食事が並べられている。
俺はゆっくりと上体を起こし、机に手を伸ばした。
水を口に含むと、ひんやりとした感触が喉を潤す。
けれど、それだけではこの胸の奥の苦しさを消すことは到底できない。

「……結局、俺は何も変わらないままなのか……」

自嘲気味に呟いて、ふと手首を見る。
そこには橡様から贈られた組紐が巻かれていた。
どうあっても昨夜のは橡様から神気を貰うものだ。
その力に応じてか組紐は微かに温もりを帯びているように感じられる。

──守られている。

そう分かっているのに、胸に広がるのはどこかのっぺりとした感情だった。
その時、木戸の向こうから足音が聞こえてきた。
扉が静かに開き、橡様が姿を現した。

「長くん、目が覚めたんだね」

橡様は柔らかな笑みを浮かべているが、いつもよりそれは薄い気がする。

「……おはようございます」

俺は低くそう言うだけで、橡様の方を直視することができなかった。

「体調はどう?何か不調はない?」

橡様が寝台の横に腰を下ろし、俺の顔を覗き込む。
その優しさに、胸の奥がちくりと痛む。

「……別に、大丈夫です」

短く答える俺の言葉に、橡様が僅かに眉を寄せる。

「昨夜のこと……怒ってるのかな」

その言葉に思わず顔を上げた。
違う、そういうのではない。怒りがまるでないと言えば嘘になる。
けれどこれはそんな簡単なものじゃない。

「怒ってるとか、そういうんじゃなくて……ただ、俺は橡様にとって本当に必要な存在なのかな、って……」

うまく説明ができない。
自分でも何を言っているのか分からなかった。
けれど、胸の奥にあったものが堰を切ったように溢れ出していた。

「……俺がここにいることで、橡様に何か迷惑をかけてるんじゃないかって……思うんです」

橡様は少し目を見開き、そして短く息を吐いた。

「迷惑だなんて……君は僕のすべてだよ。昨夜のことだって、君を失うかもしれないという恐怖しか僕にはなかった」

その言葉には、深い哀しみと執着が混ざっていた。

「でも、俺は……」

言葉を続けることができなかった。
その瞬間、橡様がそっと手を伸ばし、俺の手首に触れた。

「君がここにいる。それだけで僕は幸せなんだよ。どうかそれを分かってほしい」

その言葉に、胸の奥がぎゅっと締め付けられる。
橡様の言葉は真剣だった。それでも、俺の中にはまだ拭いきれない感情が渦巻いていた。
橡様がそっと俺の頬に触れる。
その手の温かさに、俺は初めて目を閉じて深く息をつくと、背中がまたじくりと痛んだ。



その翌日から、橡様は俺を寝殿から出さないようになった。
いつもなら神使の子たちが庭で遊んでいて俺を呼びに来たり、風通しの良い縁側に出て書簡の整理をしたりするのだが、それらすべてが禁止された。

「……出る必要はないよ、長くん」

俺が格子の外を見つめていると、橡様の静かな声が背後から聞こえた。
振り返ると、橡様が書物を手にしながら座していた。
その表情は穏やかだが、どこか緊張感が滲んでいる。

「でも、神使の子たちが呼んでくれているみたいですし、少しくらい……」
「だめだよ」

橡様の返事は、少しの隙もないほどきっぱりとしたものだった。
俺はその強い言葉に押し返され、口を閉じる。

「外に出る必要がどこにある?君はここで休んでいてくれればそれでいいんだ」
「でも、それじゃあ俺……」

俺の言葉を遮るように、橡様が静かに立ち上がった。
その長い影が、障子の柔らかな光を遮る。

「ここで過ごすことが、君にとって一番安全なんだよ」

橡様の声は穏やかだが、その瞳には強い決意が宿っていた。

「橡様……俺は、逃げる気なんてないです。ただ……」

言葉を続けようとすると、橡様が俺に近づいてきた。
その距離感に思わず後ずさるが、橡様の手が俺の腕を掴む。

「君がどう思っていようと、僕にはわかるんだよ」
「……何が、ですか?」
「君が僕のもとから離れようとする可能性だよ」

その言葉に、胸がざわつく。

「……そんなこと、考えてないです」
「そう願うよ。でも、それを信じるには……僕はまだ君を失う恐怖を拭いきれないんだ」

橡様の手が、俺の腕をそっと撫でるように強くなり、俺を抱き寄せてその腕に強い力を持って仕舞い込んだ。

「だから、しばらくここで過ごして。僕のそばを離れないように」

その言葉は柔らかくもあったが、どこか命令めいていた。
数日間経とうとも、俺は寝殿から一歩も出ることができない日が続いたままだ。
神使たちが食事を運び入れ、橡様は忙しい日中以外はずっと寝殿にいた。
宵が近くなると、今まで一人だった湯殿にも橡様が現れる。
その手で隅々まで清められて、そのまま、また寝殿に戻される。
その優しさに包まれることが苦しいと思うようになったのは、この状況が初めてだった。

「橡様……これじゃ、俺は……」
「大丈夫だよ。君がここにいてくれるなら、それだけで十分だから」

橡様の声は変わらず優しい。
けれど、その優しさが俺をじわじわと追い詰める。
俺は何もできないまま、ただ橡様の手のひらの上で生かされているような気がしてならなかった。

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