私がラディを買い、家に連れて来たその日の夜。私は両親にラディが私の恋人であることを伝える為、ラディと共に両親がいるであろうリビングへと訪れた。

「お父様、お母様、大切なお話があるの」
「イレーネ、ちょうど良い所に。私もお前に話さなければならないことがあったんだ」

 イレーネの父親であるアルフはそう言い、イレーネがいるリビングのドア付近に顔を向けると、そこには自分の娘であるイレーネと見知らぬ男が立っていて。

「だ……誰だ!? か、カルラ、見知らぬ男がいる!」
「あら、イレーネ、そのお方は!?」

 案の定、カルラとアルフはイレーネの隣に立っているラディを見て驚いた顔をしていた。

「お父様、驚かせてしまってごめんなさい。この方は私の恋人のラディよ。私、ラディと付き合っているの。だから、お見合いは出来ないわ」
「イレーネ、お前、いつの間に恋人が出来たんだ」

 アルフやカルラが驚くのも無理もない。なんせ、お見合いの話しを両親から持ちかけられた時は恋人などいないと答えていたのだから。
 それにお見合いの話しを両親からされてから、まだ3日しか経っていない。
 勿論、たったの3日間で恋人が出来たなどと、言えるはずもなかったイレーネはあたかも本当かのような声色で両親に話し始める。

「私、お父様とお母様からお見合いのお話しを持ちかけられた時、恋人がいることを伝える勇気がなくて、本当はいるのにいないと言ってしまいましたの」

 イレーネが目の前にいるカルラとアルフにそう伝えると、2人は優しい笑みを浮かべながら口を開く。

「そうだったのね。それならそうと言ってくれればよかったのに」
「そうか、じゃあ、仕方ないな。お見合いの方は丁重に説明してお断りしておくから安心しろ」
「ありがとう、お父様、お母様。あと、ラディは今日からこの家に住むことになったから」

 イレーネがラディがこの家に住む。という爆弾発言をしても、カルラとアルフは全く驚くこともなく、にこやかにラディに歓迎の気持ちを伝える。

「あらあら、そうなのね。 全然構わないわよ」
「ラディさん、これからイレーネのことをよろしく頼んだよ」

 あまりにもすんなりと受け入れる両親にイレーネは拍子抜けしながら、両親におやすみと告げてリビングを後にした。



 イレーネはラディと共に自室へ戻ってくるなり、ふかふかの白いベットに腰を掛けて話し始める。

「お父様もお母様もすんなりと受け入れるんだもの。いくら恋人と言えど、いきなり同じ家で暮らすなんてびっくりする物ではないのかしら?」
「まあ、そうだね。多分だけど、イレーネの親は早くイレーネに結婚してほしいって思っているから許容したんじゃないかな」

 ラディはそう言いながら、イレーネが腰を掛ける白いベットの前にある机と共に置かれている木製の椅子に腰を掛ける。

「まあ、そうね。それはあると思うわ」
「うん、俺、頑張るよ。イレーネの両親に疑われることがないように。イレーネの恋人を完璧に演じ切るから」
「ええ、頼んだわよ」
「うん」

 ラディとの偽りの恋人歓迎はまだ始まったばかり。果たして上手くいくのか、少しばかりの不安を感じながらイレーネは部屋の窓越しに見える夜の空を見つめた。