幼馴染冒険者パーティを追放されたら、勇者パーティに拾われちゃった

 今週から、勇者パーティの活動が再開します。
 屋敷の庭で騎士服に着替えているナンシーさんと待っていたら、いつもの王家の馬車と近衛騎士の騎馬隊が入ってきました。
 フルメンバーが揃うのも、ちょっと久しぶりですね。
 ではでは、今日の目的地に向かいましょう。

「じゃあ、行ってくるね」
「いってらっしゃーい!」

 セードルフちゃんとリーフちゃんに見送られながら、僕たちを乗せた馬車は出発しました。
 冒険者ギルドで受付をして、今日は王都近郊の街道沿いにある森が捜索場所です。

「この辺を巡回している兵の証言により、急に攻撃的な動物や魔物が出てくる可能性が高いことが分かった」
「あっ、もしかして僕が軍の治療施設で治療した軍人さんとかがこの辺を巡回しているんですか?」
「もう何箇所かあるが、この辺りが一番被害が大きい。街道を行くものにも怪我人が出ているから、かなり厄介ではある」

 ヘンリーさんが森を真剣な表情で見つめているけど、逆を言えばここをどうにかできれば怪我人は減るはずです。
 これは気合を入れて頑張らないと。
 でも、街道沿いの森の入口は特に感じるものがないから、もう少し奥に行くことになりました。
 でも、その前にっと。

 シュイン、ぴかー!

「うーん、普通の森に生息している動物や魔物の反応しかないですね。特別怪しいものは感じないです」
「そうか。では、進むとしよう」
「我々が、先行します」

 近衛騎士が僕たちを挟み込むように護衛をしながら、森の中を進んで行きます。
 森の中を進み始めて五分程した時、急に辺りの様子が変わってきました。
 これは間違いありません。

「ワークス子爵領で感じた、謎の黒い霧っぽい何かです!」
「私も何かを感じるわ。全く同じものと判断して良さそうね。ナオ君、浄化魔法の準備をして頂戴」

 僕だけでなく、シンシアさんも周囲から魔力的なプレッシャーを感じていました。
 僕とスラちゃんは、直ぐに魔力を溜め始めます。
 しかし、僕たちを目掛けて攻撃的になった動物が襲いかかってきました。

「「「グルアー!」」」
「オオカミの群れが凶暴化しているな。ナオ君の魔力が溜まるまで、我々で撃退する」
「「「了解!」」」

 魔力自体は一分もあれば溜まるんだけど、なんと周囲に十頭を超えるオオカミが現れました。
 僕とスラちゃん以外のメンバーが武器を手にして、オオカミを撃退していきます。

「ナオ君ばかりに良いところを取られないようにしないと、ね!」
「そうね。ここは、先輩としての意地を見せないと」

 ザシュ、ザシュ!

「「「ギャン!」」」

 ナンシーさんとエミリーさんだけでなく他の人もとっても張り切っているので、なんと僕が魔法を溜め終える前に全てのオオカミを倒しちゃいました。
 倒したオオカミは、エミリーさんのスライムのシアちゃんが早速血抜きを行っています。

「皆さん、本当に凄いですね! じゃあ、僕とスラちゃんの浄化魔法の準備もできたので、一気に放ちます」
「ナオ君、やってくれ」

 ヘンリーさんの許可も出たので、僕とスラちゃんは一気に魔力を開放します。
 僕とスラちゃんを中心に、沢山の魔法陣が出現しました。

 シュイーン、シュイン、シュイン、きらりーん!
 ズゴゴゴゴ!

「いやはや、やっぱりナオ君の魔法は物凄いわね……」
「ナオの魔法は、私とは桁違いですわ……」

 目の前の森が明るく輝き、浄化していく手応えもバッチリあります。
 そして数分後、周囲の森の浄化が完了しました。
 黒い霧みたいなもやもやも、綺麗さっぱりなくなりました。
 しかし、ヘンリーさんの表情は険しいままでした。

「ワークス子爵領と違って、意図的に見つかり難くしているのか? いずれにせよ、継続調査が必要だな」
「怪しい箇所が近くにもあるから、そこをあたってみましょう。新たに分かることがあるかも知れないわ」
「そうだな。よし、第二のポイントに移動するぞ」

 シンシアさんの進言もあり、僕たちは近くにあるというもう一つの動物や魔物が活動的になりやすい場所に移動した。
 すると、こちらも森から少し中に入ったところに黒い霧みたいなもやもやが存在していた。
 この状況を、ヘンリーさんは考えてしまいました。

「やはり、王都近くの確認ポイントは、パッと見では分からないようにしてあるのかもしれない。他方、地方では堂々と黒いもやの存在があるのか」
「そこは、もう少し情報が必要ね。しかし、私たちは気軽に地方に行けないから、悩ましいところだわ」

 シンシアさん曰く、一日宿泊するくらいまでは許可されるそうですが、二泊になると公務との兼ね合いもあるので難しいそうです。
 それはナンシーさんとエミリーさんも同じだそうで、相手方がいるので僕やスラちゃんだけで動く訳にもいかないそうです。
 うーん、中々難しい問題ですね。

「取り敢えず、今は目の前にあるポイントを潰していくしかない。地道な作業になる上に、ナオ君とスラちゃんの力がどうしても必要だ。今は無理せずに、着実にこなしていこう」
「「「「はい!」」」」

 こうして僕たちは、まずは王都周辺を重点的に対応することになりました。
 何とか、遠くに直ぐに移動できる良い移動方法とかあれば良いんだけどなあ。
 こうして、数日間は王都近郊の森や事前に調整がついている領地にある森の黒い霧みたいなもやもやを浄化していき、またヘンリーさんが王城で公務を行う日がやってきました。
 今日はシンシアさんとエミリーさんは同席しなくても良いそうで、元々今週行う予定だった治療の依頼をこなすことにしました。
 冒険者ギルドで手続きをした僕たちは、馬車に乗って大教会へ向かいました。

「シンシア、忙しいところ悪いな」
「いえ、これは私たちがすべきことですので、お父様もお気になさらずに。これだけの治癒師がいるパーティは、そうはないですわ」
「そうだのう。周辺国を探しても、これだけのパーティはないのう」

 今日は先週に引き続いて、大教会付属の治療施設に入院している人の治療を行います。
 先週のうちに大部屋に入院していた人は全て退院したけど、既に六つあるうちの四つが満床だそうです。
 王都は人口も多いので、常に入院する人が待っているそうです。
 シンシアさんのお父さんは申し訳なさそうにしているけど、僕たちは治療も頑張ってやるので問題ありません。
 そして、今日は張り切っているのがもう一匹いました。

「シアちゃん、今日は頑張ろうね」

 エミリーさんのスライムのシアちゃんが、実質的に初めて治療を行います。
 森での活動の際に簡単な治療をしたことはあるけど、大人数は初めてですね。
 シアちゃんはエミリーさんの肩の上で、ふるふるとやる気満々でぷにぷにしていました。
 スラちゃんはナンシーさんが抱えて、全員の準備完了です。
 では、早速治療施設の大部屋に行って治療を始めます。

「あの、今日も全員治療しても良いんでしょうか?」
「ええ、宜しくお願いいたしますわ。先日の奉仕活動でも、皆さまのお陰で沢山の人を治療できました。本当に感謝しております」

 治療施設担当のシスターさんは先日も会っていて、僕も治療しながらお話をします。
 僕たちの治療は町の人の評判も良いそうで、来月の奉仕活動でも是非とお願いされちゃいました。
 褒められるって今まで中々なかったから、とっても嬉しいですね。

 シュイン、ぴかー!

「ふふ、シアちゃん良い感じよ」
「すげーな、治療できるスライムが二匹もいるのか!」
「スラちゃんは凄いスライムですけど、私のシアちゃんも中々ですわよ」

 シアちゃんも順調に治療していき、エミリーさんもとっても良い笑顔です。
 もちろんエミリーさんも治療をしていくけど、回復魔法の使い手が増えたので効率良く治療ができます。
 僕とナンシーさんが抱いているスラちゃんがどんどんと重傷者を治療していくので、他の人で中程度や軽傷者を治療していきます。
 今日は満床じゃないのもあって、午前中のうちに全員の治療を終えることができました。
 みんな元気になるのって、気持ちいいですね。

「これは凄いな。まさか、午前中のうちに全員の治療を終えるとは」
「手際良く治療できましたから。お父様、また治療に参りますわ」
「ははは、やる気満々だな。次は半月後で良いぞ」

 帰りがけにシンシアさんのお父さんとも話をしたけど、奉仕活動もあったので入院が必要な人が減ったそうです。
 患者数が少ないので、当分は教会の人たちでも十分に対応できるそうです。
 僕たちは大教会から冒険者ギルドに戻って、完了手続きを進めます。

「うーん、まだまだ魔力がいっぱい残っているんですよね……」
「それなら、こちらの依頼などはどうでしょうか?」
「「「??」」」

 受付でぼそっと愚痴をこぼしたら、受付のお姉さんがとある依頼書を僕たちに差し出しました。
 何だろうと僕たちも中身を見てみたら、冒険者ギルド内での無料治療の対応でした。

「報酬は少ないのですが、きちんとお支払いいたします。森で活動する冒険者を中心に、怪我人が相次いでおりまして……」
「なるほど、分かりました。午後からでも宜しいですか?」
「ええ、問題ございません」

 もしかしたら、例の黒い霧みたいなもやもやの影響で活動的になった動物や魔物の影響なのかもしれない。
 シンシアさんのオッケーも出たので、午後は冒険者ギルド内で治療をする事にしました。
 シンシアさんも、黒い霧みたいなもやもやの件は口に出さずに言葉を選んで対応していました。
 昼食はオラクル公爵家で食べることになり、一旦冒険者ギルドを離れます。
 シンシアさんとエミリーさんもオラクル公爵家で昼食を食べるそうなので、屋敷の食堂に向かいます。

「あっ、にーにとねーねだ!」
「セードルフちゃん、ただいま。いっぱい食べているかな?」
「うん!」

 リーフちゃんと一緒にいっぱいご飯を食べているセードルフちゃんに声をかけて、僕たちも席に座ります。
 セードルフちゃんにお肉を食べさせているイザベルさんが、僕たちに午後の予定を聞いてきました。

「皆さまは、午後はどうされますか?」
「夕方まで、冒険者ギルドで冒険者の治療を行います。大教会での治療は、午前中で終えましたので」
「それは、冒険者も喜びますわね。どうか、お気をつけて下さい」

 シンシアさんが代表して答えたけど、冒険者にはあの三人までとはいかないけど粗暴な人もいます。
 乱暴なことをされないように、僕も気をつけないといけないね。
 そして、エミリーさんは別のことに興味を持ちました。

「ねえナオ、ナオの部屋はどこにあるの?」
「えっ? ナンシーさんの隣の部屋ですよ」
「よし、じゃあ後で見に行こうかしら?」
「エミリー、駄目よ。独身の女性が、独身の男性の部屋に行くなんて」
「ナオ君がまだ幼いとはいえ、勘違いをする者が出てくるわ」

 エミリーさんのやる気にシンシアさんとナンシーさんも苦笑しているけど、ちゃんと注意するのも忘れません。
 エミリーさんもそこは分かっているので、これ以上は何も言いません。
 ということで、昼食を食べたら少し休んで冒険者ギルドに戻ります。

「じゃあ、行ってくるね」
「いってらっしゃーい!」

 朝と同様に元気いっぱいなセードルフちゃんに見送られて、僕たちを乗せた馬車は屋敷を出発しました。
 そして冒険者ギルドに着くと、冒険者ギルド内が沢山の冒険者で埋め尽くされていました。

「おっ、来たな」
「じゃあ、宜しくな」
「えーっと、もしかしてここにいる冒険者は、みんな治療待ち?」
「おう! と言っても、付き添いも多いがな」

 ニコニコしている厳つい顔の冒険者に、質問をしたナンシーさんだけでなく僕たちも苦笑いです。
 でも、僕たちの治療を待ってくれているのは確かなので、手早く受付を済ませて使っていない部屋を借りました。
 念の為に、近衛騎士もバッチリ護衛についています。
 準備もバッチリなので、早速治療を始めました。

「最近はマシになったけど、まだ動物や魔物が好戦的になっている場所があるぞ」
「それって、どこか分かりますか?」
「おう、直ぐに分かるぞ。他の連中も、情報を持っているはずだ」

 治療をしながら冒険者と話をするけど、冒険者は活動範囲が広いから色々な情報を持っていますね。
 近衛騎士が中心となって、怪しいところを記録していきます。
 元々僕のことを心配してくれた冒険者が多いので、日中は問題なく進みました。
 ところが、夕方になるとその他の冒険者も依頼から戻ってきました。
 その中には、残念ながらガラの悪い冒険者も含まれていました。

「何だ何だ? ガキだけかと思ったら美人もいるぞ!」
「はー、かなりの美人だな。まさに俺にピッタリだな」
「俺の体だけじゃなくて、心も癒してくれよ! ついでに金もくれたら、なおラッキーだな」

 何だろうか、もの凄く軽薄そうなチャラチャラとした冒険者が馬鹿なことを言っています。
 この口ぶりだと、シンシアさんたちがどんな存在の人なのか全くわからないみたいですね。
 近衛騎士の怒りのバロメーターがズゴゴゴゴって上がっていったけど、それ以上に怒りが上がっていた存在がいました。

 しゅっ、バシッ!

「「「グガァ!」」」

 ずささー。

 怒ったスラちゃんが、軽薄そうなチャラチャラした男に思いっきりタックルをくらわせました。
 スラちゃんはこの前の三人との件があるから、こういう良い加減な人が大嫌いなんだよね。
 更にシアちゃんもぴょーんとジャンプしてきて、伸びている軽薄そうなチャラチャラした男の上で触手をペシペシとしています。
 因みに、シアちゃんは回復魔法の他に酸弾が使えるので、実はそこそこの攻撃力を持っています。
 呆気なく撃墜された三人を、僕たちも呆れながら見ていました。

 ガタッ。

「おい、馬鹿なことをした冒険者がいると……騒いだくせして、スライムに負けるレベルなのか?」
「そうなのよ。私たちに下品なナンパをしてきたと思ったら、あっという間に吹き飛ばされたわ」
「スラちゃんが強いってのもあるけど、三人が弱すぎだわ」

 慌てて駆けつけてきたギルドマスターも、エミリーさんとナンシーさんと同じく呆れた表情に変わりました。
 でも、僕たちにお金の要求までしてきたので、三人は駆けつけた兵に連行されて事情を聞かれることになりました。
 僕とあの三人の一件があったので、お金に関するやり取りに注意するようにと周知されたばかりです。
 もしかしたら、安息日に初めて王都にやってきた冒険者なのかもしれないですね。
 一連の対応が落ち着いたところで、シンシアさんが改めてお礼を言いました。

「ギルドマスター、ありがとうございます」
「礼には及ばないぞ。というか、早めに止めないとお前らがコイツラをぶっ飛ばしただろうな」
「まあ、流石にそこまではしませんよ。これ以上何もしなければ、ですがね」

 うわあ、シンシアさんとギルドマスターが黒い笑みを浮かべたまま話をしているよ。
 これには、スラちゃんとシアちゃんも抱き合ってぶるぶると震えていました。
 いずれにせよ、冒険者ギルド内での治療は無事に完了です。

「これくらいだったら、ナオとスラちゃんだけでも十分に対応できるな」
「そうですわね。薬草採取もとても上手なので、きっと戦力になりますわよ」

 更にギルドマスターとシンシアさんの話し合いで、僕とスラちゃんの一人と一匹でできる仕事も決まりました。
 勇者パーティで動くことが大半になると思うけど、何もないときにはこういう依頼も良いかもしれません。
 でも、こうしてみんなが笑顔になる仕事を終えるととても嬉しいですね。
 ナンシーさんが王城に行く日、僕もシャーロットさんが呼んでくれたので一緒に行くことになりました。
 普段シャーロットさんの治療は宮廷医とシンシアさんがしているけど、今日は僕も様子を見ることになっています。
 キチンとした服に着替えて、僕も準備万端です。

「じゃあ、そろそろ行くわね」
「いってらっしゃーい!」

 赤いドレス姿で髪の毛をおろしているナンシーさんとともに、ニコニコ顔のセードルフちゃんに手を振って王城に出発しました。
 シャーロットさんが元気になってくれていればいいなって思いつつ、あっという間に王城に到着しました。
 出迎えてくれた侍従とともに王城の中を移動すると、王族の居住スペースに到着しました。
 すると、元気の良い二つの声が聞こえてきました。

「ナオにーに、ナンシーねーね、おはよう!」
「あう!」
「おはよう、二人とも朝から元気ね」

 今日も元気いっぱいなアーサーちゃんとエドガーちゃんが、仲良く手を繋ぎながら僕とナンシーさんに抱きついてきました。
 頭を撫でてあげると、とっても気持ちよさそうにしていますね。

「じゃあ、私はブレアのところに行くわ。二人とも、ちゃんとナオ君をシャーロット様のところにエスコートするのよ」
「はーい」
「あい!」

 ここからは、ナンシーさんと別れて僕は両手でアーサーちゃんとエドガーちゃんを繋いで直ぐそこのシャーロットさんの部屋に向かいます。
 因みに、エミリーさんはまたもや礼儀作法の勉強だそうです。
 上機嫌な二人に連れられて、あっという間に部屋の前に到着です。

 コンコン。

「シャーロットおばあさま、ナオにーに連れてきたよー!」
「あら、そうなのね。入って頂戴」

 アーサーちゃんは、まだ四歳なのにキチンとドアをノックして部屋の中に入りました。
 部屋の中には、ソファーに座っているシャーロットさんとマリアさんの姿がありました。
 僕はまたもや満面の笑みを浮かべる二人に手を引かれて、トトトってソファーに近づきました。

「シャーロットさん、マリアさん、おはようございます。体の調子はどうですか?」
「おはよう、ナオ君。あれからとっても元気よ。だいぶ歩けるようになったわ」
「それは良かったです。でも、念の為に治療をしますね」

 僕とスラちゃんは、シャーロットさんの隣に座って軽く魔力を流しました。
 うーん、ちょっとだけ悪いところが残っているよ。
 前回は解毒魔法だけで、回復魔法は使っていないもんね。
 魔力を溜めながら、そんなことを思っていました。

 シュイーン、シュイン、シュイン、ぴかー!

「「おー!」」
「やっぱり、ナオ君の魔法は凄いわね」

 お母さんに抱っこされている仲良し兄弟が、僕とスラちゃんの魔法を見て目をまんまるにしていました。
 僕とスラちゃんはというと、良い感じに治療できている手応えを感じています。
 でも、治療はこれで終わりません。

「じゃあ、今度は僕が聖魔法の解毒魔法で、スラちゃんが回復魔法の解毒魔法ね」

 前回と同様に、属性の違う解毒魔法を使ってシャーロットさんを治療していきます。
 殆ど治療できていたけど、念には念を入れます。

 シュイーン、ぴかー!

「すごーい!」
「あうー!」
「こんな大魔法を連発で使うなんて……」

 盛り上がっている小さな兄弟とは違い、マリアさんは何だかかなり驚いています。
 治療すると手応えがあったから、ちょっとだけ毒の残りがあったんだ。
 僕とスラちゃんはまだまだだなって思いながら、治療を終えました。
 そして、僕とスラちゃんはペコリと頭を下げました。

「これで治療は終了しました。ごめんなさい、ちょっとだけ悪いのが残っていました」
「ナオ君もスラちゃんも、頭を上げて頂戴。こんな素晴らしい治療をしてくれたのだから、文句なんて全くないわよ」
「僕もぎゅーするー」
「うー」

 ちょっと落ち込んでいる僕とスラちゃんを包み込むように、シャーロットさんが微笑みながら抱きしめてくれました。
 ニコニコな兄弟も抱きつく中、マリアさんだけは顎に指を当てながら怪訝そうな表情をしていました。

「おかしいわね、朝食の前にシンシアがお祖母様の治療をしているわ。なのに、体にダメージがあるなんて……」

 えっ、既にシンシアさんもシャーロットさんの治療していたんだ!
 でも、確かにちょっとだけど回復魔法も解毒魔法も治療したという手応えがあったよ。
 スラちゃんにも確認したけど、間違いないってふるふるとしていました。

「至急、お義父様もしくはお義母様に連絡を。後は、今朝からお祖母様が使用した化粧品や食べ物、飲み物に至るまで確認を。再度、毒が盛られた可能性が極めて高いです」
「大至急、連絡いたします」
「全ての食事を確認いたします」

 おお、マリアさんがキリリとした表情で近衛騎士や侍従に指示を出しています。
 でも、これってまたもや王族毒殺疑惑の大問題な気がします。
 僕もスラちゃんも、思わず背筋が伸びちゃいました。
 あっ、そうだ。
 これを提案してみよう。

「シャーロットさん、もし良かったらこの部屋をスラちゃんとともに鑑定魔法で調べます」
「ナオ君、お願いするわ。侍従も、ナオ君につくように」
「「「畏まりました」」」

 もしかしたら、どこかに何かが隠されているのかもしれない。
 シャーロットさんを助ける為にも、ここは気合を入れて鑑定しないと。
 スラちゃんも、触手をふりふりとしてやる気満々です。

「おかあさま、僕はどうする?」
「アーサーとエドガーは、お祖母様を守って上げてね」
「僕にお任せだよ!」
「あー!」

 役目を与えられた小さな兄弟は、シャーロットさんにギュッと抱きついていました。
 そんなひ孫の可愛らしい姿に、シャーロットさんも思わず笑みが溢れていました。
 それでは、僕とスラちゃんは部屋の中のものを鑑定し始めます。
 部屋の中の鑑定を始める前にマリアさんから近衛騎士と侍従の鑑定をしてと言われたけど、全員とっても良い人でした。
 この結果に、シャーロットさんはホッとしていました。
 ここにいる六人の侍従全員が、苦しい二年間の闘病生活を支えてくれたそうで、シャーロットさんにとって恩人の人たちなんだそうです。

「私にとって、皆は家族みたいなものよ。こんなおばあちゃんに仕えてくれて、本当に感謝しかないわ」
「シャーロット殿下、私たちのことをそこまで思って頂けたなんて……」
「感激で、胸が張り裂けそうです……」

 シャーロットさんが涙ぐむ侍従を、一人ひとり笑顔で抱きしめていました。
 こんなにも優しいシャーロットさんに毒を盛ったなんて、本当に考えられないよ。
 僕とスラちゃんで、手分けしながら鑑定を進めます。

 シュイン、もわーん。

「うーん、化粧品は全く問題ないですね」
「先週の時点で、使用していた全ての化粧品は鑑定に回っております。こちらにあるのは、全て新品となります」

 一番怪しいと思われていた化粧品は問題ないので、どんどんと部屋の中にあるものを鑑定していきます。
 それこそ、服や調度品にベッドの下まで鑑定していきました。

「紅茶もポットもカップも、全然大丈夫ですね」
「こちらも、全て新品に変えております」

 飲み物も安全だというと他に何かあるのかなと思ったら、何とスラちゃんが怪しいものを見つけました。
 それは、これから洗濯する物が入っている部屋の隅に置かれた洗濯かごの中でした。
 全員が集まった中、スラちゃんが一枚のハンカチを触手で持ちました。
 念の為に、僕も鑑定魔法で確認します。

 シュイン、もわーん。

「あっ、僅かですけど毒と表示されました! しかも、鉛毒です!」
「えっ! こ、こちらは、今朝の朝食時に使用した口拭きのハンカチになります」

 侍従の戸惑った声に、全員が驚いてしまいました。
 となると、毒が混ぜられていたのは朝食?
 でも、全員同じ食事を食べていて、鑑定してもマリアさんだけでなく、アーサーちゃんとエドガーちゃんも毒に侵されてはいません。
 ここで、マリアさんがちょっと気になったことを言いました。

「もしかして、お祖母様が使用するハンカチなどに、鉛毒や水銀毒が仕込まれていたのでは?」
「となると、もしかしたらシャーロットさんのお世話をしていた侍従も毒に侵されている可能性がありますね」

 ということで、直ぐに侍従にも再度鑑定で確認しました。
 すると、何と全員が毒に侵されていました。
 まだ魔力に余裕があったので、僕とスラちゃんは直ぐに侍従の解毒を行いました。

 シュイン、ぴかー!

「ふう、これでよしっと。でも、そうしたら使っていないハンカチにも毒が混ざっている可能性がありますね」
「食事は軍の鑑定持ちが全て確認しているから、その可能性は高そうだわ」

 僕とマリアさんの意見が一致し、ちょうど良いタイミングで昼食以降で使用するハンカチが届けられました。
 念の為に洗濯担当の侍従にも残ってもらい、ハンカチの鑑定を進めました。

 シュイン、もわーん。

「あっ、やっぱり口拭きのハンカチに毒が盛られています! スラちゃんの鑑定でも間違いないです」
「えっ!」

 僕の鑑定結果を聞いた洗濯担当の侍従が絶句しているけど、侍従を鑑定しても全く問題ありませんでした。
 でも、毒に侵されていたので僕とスラちゃんは侍従の解毒を行います。
 侍従は何が何だか分からなくて戸惑っていたけど、ふと何かに気がついたみたいです。

「そ、そういえば、王太后殿下の口拭きハンカチについては必ず所定のクリームを使うようにとの申し送りがございました。私は王城にお仕えしてまだ一年ですので、二年前の事は存じておりません」

 この話を聞いた近衛騎士が、毒と判定されたハンカチを金属のトレーに乗せて部屋の外に出ていきました。
 更に部屋に残った近衛騎士が、洗濯担当の侍従で誰が古株かを確認しています。
 そして、またもや部屋から出ていきました。

「直ぐに分かると思うけど、少し残って頂戴ね」
「畏まりました」

 洗濯担当の侍従にも残ってもらい、結果が出るまで少し待つ事になりました。
 ようやく一息ついたので、改めてお茶を貰いました。

「マリアさん、直ぐに怪しいものが分かって凄いです!」
「日頃から、ちょっとでも違和感を感じたら確認するようにしていたのよ。今回は、それが生きたわ。シンシアの魔法は一級品だから、治療漏れがあるとは考え難かったのよ」

 気を張っていたマリアさんも、ホッと胸を撫で下ろしていました。
 まるで、謎を解き明かす探偵さんですね。
 まだ事件は解決していないけど、解決の糸口は見つかりました。
 まだ緊張に包まれていたけど、ちょっとしたハプニングが起きました。

 ぷりぷりぷり。

「ふいー」
「あー! エドちゃんがうんちした!」
「あらあら、赤ちゃんだからしょうがないわね」

 エドちゃんがソファーに捕まりながらふるふるとしていたから、何かあったのかなと思いました。
 これにはみんなもクスクスと笑っていて、直ぐに侍従がおむつ交換をしていました。
 スッキリしたエドちゃんは、もの凄く良い笑顔ですね。
 何だかんだいって、赤ちゃんは癒しです。
 コンコン。

「お祖母様、エミリーです」
「入って頂戴」
「失礼します」

 ガチャ。

 ここで、礼儀作法の勉強が終わったエミリーさんが部屋に入ってきました。
 今日もツインテールにした髪をおろしていて、綺麗な青色のドレスを身に着けています。
 表情は疲れていて、とってもヘロヘロだけど。
 シアちゃんも一緒に入ってきて、エドガーちゃんのところにぴょーんと飛んでいきます。

「いやあ、またあいつにあっちゃったよ。本当にしつこくて、大嫌いなんだよね。礼儀作法の勉強なんて比にならないレベルで疲れちゃった」

 あれ?
 何だかエミリーさんが、かなり不機嫌な表情に変わりました。
 あいつって誰だろうかなって思ったら、シャーロットさんとマリアさんには心当たりがあるみたいです。

「ハイラーン伯爵の跡取りね。昔から、事あることにエミリーに求婚しているのよ。貴族主義の考え方で、自分の勢力を伸ばす為にしかエミリーのことを考えていないのよ。私は、この婚姻には絶対に反対だわ」
「見た目は確かに美形なのだけど、もの凄く自信家で自分勝手なのよ。だから、まともな貴族令嬢はみんな避けているわ」

 その男性に対するシャーロットさんとマリアさんの評価が、とんでもなくボロクソです。
 エミリーさんはずばっと物事を言っちゃうけど、二人は人を悪く言うことは今までなかったよね。
 侍従に対する態度や評価も、その一例だし。

「え、エミリーさんも本当に大変だったんですね」
「本当よ、もう。ナオを抱きしめて、ナオ成分を補給しないと」

 エミリーさんが疲れた表情をしながら僕に抱きついてきたけど、本当に大変だったんだ。
 うん?
 そのハイラーン伯爵って、何歳何だろうか?

「今は二十五歳よ。三年前に初めて会った時から、ずっとアプローチをしていたのよ……」

 「はあっ」って溜息をつきながらエミリーさんが僕に頬ずりしてきたけど、十五歳差の結婚自体は珍しくないんだって。
 ここで、洗濯担当の侍従がエミリーさんの発言を聞いて何かを思い出したみたいです。

「あの、本当にこんなことがあったという話なのですけど、ハイラーン伯爵の嫡男様と洗濯担当の別の侍従が陰で会っているのを見たことがございます」
「「「えっ!?」」」
「あれ? あいつがどうしたの?」

 侍従の発言を聞いたシャーロットさんとマリアさんは、目を大きく開くほどビックリしちゃいました。
 もちろん、僕もスラちゃんもです。
 エミリーさんは周囲の反応に戸惑っていたけど、マリアさんが今まで何があったかを教えたら怒気がズゴゴゴゴって上がっていきました。

「ふふふ、あいつ、前から怪しいと思っていたんだよね。お祖母様を、一瞬睨みつけるようなこともしていたし……」
「エミリー、落ち着きなさい。今は、まだ確定した情報ではないわ。憶測で動くのはやめましょう」

 マリアさんは怒れるエミリーさんを何とか宥めているけど、僕的にはマリアさんもかなり怒っている気がするけど……
 現に、アーサーちゃんとエドガーちゃんは、シャーロットさんのところに避難しています。
 スラちゃんも、ちゃっかりとシアちゃんとともにシャーロットさんの膝の上にいます。
 僕はというと、未だにエミリーさんに抱きつかれていて逃げることができません。
 そして、更に部屋に入ってきた人がいました。

 コンコン。

「お祖母様、ヘンリーです。それと、シンシアもいます」
「あら、みんな集合なのね。入って良いわ」

 ガチャ。

 部屋の中に入ってきたヘンリーさんとシンシアさんは、何故かいつも勇者パーティとして行動する騎士服とライトプレートを身にまとっていました。
 二人とも何で王族らしい服じゃないのかなと思ったら、ヘンリーさんが理由を答えてくれました。

「容疑者の容疑が固まり次第、軍と協力して奴を捕まえる。お祖母様を苦しめていたこととエミリーをたぶらかそうとしていた両方で、私も相当頭にきている」
「ヘンリーはシスコンなのよ。まあ、王族は家族を大事にするから、繋がりが強いってのもあるわ」

 シンシアさんが苦笑しながら補足してくれたけど、つまりはそういうことらしいです。
 それに、ここまでの準備ができているとなると、ある程度の証拠を掴んだんだ。
 すると、エミリーさんが急に元気になって立ち上がりました。

「私も着替えてくるわ。ふふふ、ある意味この時を待っていたのよ」

 黒い笑みを浮かべながら、エミリーさんは部屋から出ていきました。
 えーっと、スラちゃんはともかくとして、僕はどうすればいいんだろうか?

「ああ、ナンシーも既に騎士服に着替えているわよ。ナンシーも、ハイラーン伯爵は大っ嫌いだからね」

 となると、僕も着替えないと駄目っぽそうです。
 部屋の隅に移動して、アイテムボックスから着替えを出した時でした。

「せっかくだから、ナオ君の着替えを手伝ってあげてね」
「「「畏まりました」」」

 シャーロットさんがにこやかに侍従に指示を出し、六人の専属侍従に加えて洗濯担当の侍従まで僕のところにやってきました。
 あの、だから僕は一人で着替えができますよ。

 ガシッ。

「それでは、お手伝いいたします」
「ナオ様は、大恩人でございますので」
「直ぐに終わりますので」

 こうして僕は、七人の侍従に囲まれて着替えさせられました。
 更には、髪の毛もセットされたりと色々なことをされちゃいました。
 ううっ、ちょっと恥ずかしかったよ……
 そして、武装完了したエミリーさんとともにナンシーさんも騎士服を着て部屋に入ってきました。
 心なしか、ナンシーさんも怒っていますね。
 僕はというと、侍従に着替えさせられて準備万端です。
 もう一度言います、自分で着替えなくて全部着替えさせられました。
 もの凄く手早く着替えさせられたので、侍従って凄いって感心したほどでした。
 そんな僕たちのことを微笑ましく見ていたヘンリーさんだったけど、近衛騎士が耳打ちしたら表情を一気に引き締めました。
 僕たちも、真剣な表情でヘンリーさんに顔を向けました。

「ハイラーン伯爵、並びに嫡男に対する捕縛命令が出た。容疑は、シャーロット王太后殿下への毒殺未遂だ。大逆罪案件になるので、気を引き締めて行動してほしい」
「「「はい!」」」

 僕たちだけでなく、スラちゃんとシアちゃんもシャーロットさんの膝の上で敬礼ポーズをしています。
 廊下に沢山の近衛騎士と兵が集まっているのが分かり、物々しい雰囲気になってきました。
 スラちゃんとシアちゃんも、ぴょーんと僕とエミリーさんのところにやってきました。

「みんな、怪我だけは本当に気をつけてね」
「無事に帰ってくるのよ」
「頑張って!」
「あー」

 王族の面々に見送られながら、僕たちは王城内を走っていきます。
 ハイラーン伯爵の嫡男はまだ王城内にいるそうで、一部の兵が先回りしているそうです。
 すると、一階玄関前の石畳の敷かれた馬車乗り場で、貴族の子弟と思われる人と兵が押し問答をしていた。

「お待ち下さい。王城より、退出しないで欲しいとの連絡を受けております」
「貴様、どの口で言っている! 私は、ハイラーン伯爵家嫡男のムーランドだぞ!」

 ムーランドというハイラーン伯爵の嫡男は青髪を少し長めにして背も高く、確かに見た目は美形だった。
 でも、美形でも軽薄そうな感じがして、同じ美形でもヘンリーさんとは大違いだった。
 俺様キャラで、僕もあまり良い感じではないって思うよ。
 すると、ムーランドは僕たちの姿、正確にはエミリーさんの姿を見つけて姿勢を正しました。
 因みに、僕はヘンリーさんの後ろにいるので、ムーランドから姿は見えません。

「これはこれは、エミリー姫ではありまけんか。わざわざお見送り頂き、痛み入ります」

 恭しく臣下の礼をするムーランドに対し、エミリーさんは冷たい表情を崩しません。
 ムーランドが勘違いしているのもあってか、シンシアさんたちも厳しい表情を見せています。
 そして、遂にヘンリーさんが近衛騎士と兵に厳しい口調で命令しました。

「大逆罪の容疑で、ハイラーン伯爵家ムーランドを捕縛せよ!」
「「「はっ」」」
「なっ、えっ?」

 ムーランドは突然の事で何が何だか分からなくなり、その隙に近衛騎士と兵が縄で拘束しました。
 一瞬の隙をついたので、殆ど抵抗はありませんでした。
 顔色が青くなってしまったムーランドが、押さえられながらも顔を上げました。

「で、殿下、これはどういう意味でしょうか?」
「ムーランドよ、クリーム、洗濯担当、口拭きハンカチと聞いて分からないはずがないだろう。貴様とグルだった侍従が、全て白状した」
「ぐっ!」

 決定的な証拠を言われ、ムーランドは苦虫を噛み潰したような表情に変わりました。
 本人としては、全くバレないで済んだと思っていたのでしょう。
 すると、兵に押さえつけられていたムーランドが、ヘンリーさんの後ろにいた僕の姿を見つけました。
 その瞬間、ムーランドが顔を豹変させ、まるで化け物のように目をカッと開き、口から泡を飛ばしていました。

「この下民が! 貴様のせいで、全ての計画が狂ったぞ!」
「この、暴れるな!」
「大人しくしろ!」
「更に拘束するぞ!」

 ジタバタと大暴れするムーランドを、近衛騎士と兵が両脇を抱えながら連行していきました。
 何だろうか、あの三人みたいに自分勝手な感じがしていた。

「えーっと、捕まった三人みたいな感じでした。全然怖くなかったです。ムーランドは、僕がシャーロットさんを治療したのを知っていたんですね」
「本当に面倒くさい男なのよ。自分の理想をペラペラと、それこそ何十分も喋るのよ。薄っぺらな大したことのない話だけど、一応付き合いだから笑顔で聞いていたの。本当に苦痛だったわ」
「結局、奴は外面だけ整えていて内面を鍛えてなかったんだ。内面を鍛えてこそ、真の貴族だ。嫡男なら、内面を鍛えるのが当たり前だと思うのだが」

 うわあ、エミリーさんとヘンリーさんがムーランドをズタボロに評価しているよ。
 特に、エミリーさんは積年の恨みを爆発させています。
 もちろん、シンシアさんとナンシーさんも、二人の意見に激しく同意していました。
 因みに、ムーランド付きの者は大人しく連行されていきました。
 主人が捕まったので、観念したみたいです。
 ムーランドの連行が終わったところで、作戦は第二段階に入ります。
 僕たちの前にいつもの馬車が用意され、更に百人を超える兵が集まりました。
 そして、一人の兵がヘンリーさんの前に歩み出て、敬礼をしてから報告を始めました。

「報告いたします。先発隊がハイラーン伯爵家に向かっております。ただ、ある意味予想通りと言いましょうか、門兵と押し問答になっているそうです」
「なら、我々の出番というところだな。全員、ハイラーン伯爵家に向かう。護送の準備も進めるように」
「「「はっ」」」

 ヘンリーさんが近衛騎士と兵に指示を出し、僕たちは馬車に乗り込みました。
 さっきまではシャーロットさんを毒殺しようとした人を許せずに怒っていたけど、時間が経って少し冷静になりました。

「ヘンリーさん、今更なんですけど僕が皆さんと一緒に貴族を捕まえに行っても良いんですか?」
「ナオ君なら全く問題ないよ。ナオ君は我々のパーティの一員として動いているし、指揮権も私にある。私の指示に従ってもらえばいいよ」

 ヘンリーさんだけでなく、シンシアさんたちも僕にニコリとしています。
 ヘンリーさんの指示に従っているというスタンスでいれば、僕は問題なさそうです。
 今日はまだ魔力も残っているし、きっと皆さんのお役に立てるはずです。
 そして、王城を出発して程なくハイラーン伯爵家の屋敷に到着しました。

「国の命である。今直ぐ開門せよ!」
「国の命令がなんだ! ここは通さない!」

 未だに軍の兵がハイラーン伯爵家の門兵と押し問答をしていて、ヘンリーさんだけでなく多くの人が溜息をついちゃいました。
 国の命令よりも主人の命令の方が優先だなんて、何だかおかしいことになっていますね。
 僕たちは門兵に歩み寄り、ヘンリーさんが門兵に命令書を突きつけました。

「ガルフォード王国第二王子、ヘンリーだ。王国の命によりハイラーン伯爵の捕縛に来た。今直ぐ開門しない場合、国家反逆の疑いありとして強制的に押し通す」
「えっ、あっ……」

 ヘンリーさんの勇者様圧力により、頑なに抵抗していた門兵も命令に従うしかなかった。
 青い表情になった門兵が、ようやく門を開けました。
 僕たちを先頭に、半分の兵が屋敷の庭に入ります。

「ハイラーン伯爵の逃走を防止するため、各員は定位置にて待機せよ」
「「「はっ」」」

 ヘンリーさんが残った兵に指示をし、庭にも兵が散らばります。
 僕たちは、近衛騎士の護衛を受けながら屋敷の玄関に向かいました。

 ガチャガチャ。

「くっ、鍵が閉まっている」

 ドンドンドン、ドンドンドン!

「ハイラーン伯爵、今直ぐ玄関を解錠するのだ。繰り返す……」

 近衛騎士が玄関を何度も叩くけど、中からは反応がありません。
 玄関を壊して中に入るかなどの話が行われる中、僕はあるものに目がいきました。

「あっ、隣の部屋の窓が少しだけ空いています。もしかしたら、スラちゃんなら中に侵入できるかも」

 僕の話を聞いたスラちゃんが、任せろと触手をふりふりしながら震えていました。
 ヘンリーさんも頷いたので、早速スラちゃんは窓の隙間から部屋の中に侵入しました。

 ガチャ。

「僅か一分で玄関が開くとは。これは凄いわ」
「流石だな。では、本命を抑えに行くぞ」

 シンシアさんはスラちゃんの早業に驚いていたけど、スラちゃんはこのくらい朝飯前って感じです。
 そして、ヘンリーさんの声にみんなが頷きました。
 屋敷の中に僕たちが入ると、侍従を中心にざわめきが起きていた。
 もしかしたら、僕たちは屋敷に入ることができないと言われていたのかもしれない。
 現に、門兵も僕たちを通させないと必死に抵抗していたもんね。

「ハイラーン伯爵はどこにいる?」
「はっ、はい! し、執務室におります……」

 ヘンリーさんが顔を青ざめている侍従に本命の場所を聞き、僕たちは執務室に向かいました。
 すると、またしても玄関と同じ状態でした。

 ガチャガチャ。

「くっ、また鍵がかかっております」
「こういう対策は流石にしてくるか。さて、どうするか」

 近衛騎士と同様に難しい表情をしたヘンリーさんの姿があったけど、目の前の部屋にハイラーン伯爵がいるのに撤退はありえません。
 ドアを壊しちゃおうという案が採択された時、またもやスラちゃんがドアに張り付きました。
 そして、鍵穴に触手を差し込んで何かをしています。

 カチャカチャ、ガチャ!

「わっ、スラちゃんが鍵を開けちゃった!」

 スラちゃんの鍵開けはとても早く、あっという間にドアの鍵を開けちゃいました。
 スラちゃんはドヤ顔でいるけど、流石に僕もビックリです。

「先ほどの玄関のドア開けといい、スラちゃんは大活躍だな」
「本当に凄いわね」
「後で、ご褒美をあげないとね」
「シアちゃんも、スラちゃんに負けないように強くなろうね」

 みんなが口々にスラちゃんを褒める中、近衛騎士が鍵を開けて部屋の中に入っていきました。

「な、な、何故ドアが開いた!」

 僕たちも部屋の中に入ると、そこには背の高い太った茶髪をオールバックにした男が汗を流し驚愕の表情をしながら立っていました。
 スラちゃんが自ら触手をふりふりしてアピールしても、焦っていて全く気がついていません。
 背の高い太った男の周りには護衛と思わしき兵が三人おり、剣を抜いて構えていた。
 僕たちは近衛騎士を先頭にして執務室の中に入り、ヘンリーさんが睨みを効かせながら男に宣言した。

「ハイラーン伯爵、反逆罪の容疑で捕縛命令が出された。素直に命令に従うのなら、私たちは手荒なことはしない」
「ふ、ふ、ふん! そ、そん、そんな命令、聞けるか!」

 ハイラーン伯爵は、汗をダラダラと垂らして何回もどもりながらもヘンリーさんを指しながら命令を拒否していた。
 どう見ても、ハイラーン伯爵は強がっていますね。
 この瞬間、僕たちも一気に戦闘態勢に入りました。

「抜剣許可!」
「「「はっ」」」

 ガシャガシャガシャ!

 ヘンリーさんの命令で、近衛騎士だけでなくナンシーさんとエミリーさんも剣を抜いて構えました。
 シンシアさんと僕も、杖を構えて魔力を溜め始めます。
 スラちゃんも、僕の頭の上で魔力を溜めています。
 すると、ハイラーン伯爵の護衛が一斉に切りかかってきました。
 ハイラーン伯爵の護衛の狙いは、ヘンリーさんです。

「「「死ねー!」」」

 ガキン、バシッ!

「「せい!」」
「とう、やあ!」
「「「うぎゃー!」」」

 襲ってきた護衛は、近衛騎士とナンシーさんによってあっという間に制圧されました。
 しかも、全員峰打ちで倒しています。
 ナンシーさんも、物凄い剣の技量ですね。
 そして、更に厳しい表情になったヘンリーさんが、顔色が青くなってきたハイラーン伯爵へ最後通告をしました。

「ハイラーン伯爵、これで最後だ。大人しく捕縛されるのなら、身柄の安全は保証しよう」
「ぐぬぬ……」

 ハイラーン伯爵は、青い顔のまま歯ぎしりをして悔しがっています。
 もしかしたら、まさか自分がここまで追い詰められるとは思っていなかったのかもしれません。
 すると、ハイラーン伯爵は胸元から短剣をキラリと抜きました。

 ドドドド。

「くそ、何が投降しろだ。このまま、ただ捕まってたまるか。死ねー! 若造が!」

 ハイラーン伯爵は大きな体を揺らしながらヘンリーさんを目掛けて走り出し、ナイフで突き刺そうとします。
 でも、僕も魔力は十分に溜まっています。

「えーい!」

 シュイーン、バリバリバリ!
 シュイーン、バリバリバリ!
 シュイーン、バリバリバリ!

「ウギャーーー!」

 プスプス、パタリ。

「「あっ……」」

 なんと、僕だけでなくエミリーさんとスラちゃんも雷魔法を同時に放ってしまいました。
 僕は痺れさせて動けなくする程度に威力を抑えていたけど、エミリーさんとスラちゃんは結構本気の電撃だったみたいです。
 トリプル雷魔法をモロに受けて、ハイラーン伯爵の髪の毛はチリチリになり、白目をむいてピクピクと痙攣しています。
 更に、服から焦げ臭い臭いもしています。
 僕もエミリーさんも、もちろんスラちゃんも、やっちゃったって思わず体が固まっちゃいました。
 その時、ある意味救世主が現れました。

 ぴょーん。
 シュイーン、ぴかー!

 エミリーさんの肩にちょこんと乗っていたシアちゃんがぴょーんと倒れているハイラーン伯爵の側に飛び降りて、回復魔法を放ちました。
 ハイラーン伯爵の痙攣が収まるのを見た僕たちは、思わずホッと胸を撫で下ろしました。

「お、お兄様、その、申し訳ありませんでした……」
「僕も、まさかみんなが同時に魔法を放つとは思わなかったので……」

 エミリーさんと僕、それにスラちゃんは、しゅんとしながらヘンリーさんに謝りました。
 ヘンリーさんはちょっと苦笑しながらも、ちょっとやりすぎたと落ち込んでいる僕たちの頭をポンポンと撫でました。

「みんなは、私を守ろうとして魔法を放ったんだ。それに、反逆罪案件だから生死を問わずの捕縛命令が出ていたんだよ。まあ、少しくらい痛い目に合うのは別に良いんじゃないかな」
「それに、捜査指揮をしていたヘンリーを襲ったのだから、自身もそれだけの仕打ちを受けると知って貰わないと。最後通告をするほど、こちらはハイラーン伯爵に配慮したのだからね」

 シンシアさんも何も問題ないと言ってくれて、僕たちは本当に安心しました。
 そして、エミリーさんは素早くハイラーン伯爵を治療したシアちゃんをよくやったと褒めています。
 僕もスラちゃんも、シアちゃんのファインプレーに拍手を送ります。
 シアちゃんも、エミリーさんに撫でられてとっても嬉しそうですね。

「ヘンリー殿下、護送の準備が完了しました」
「では、重犯罪者牢へ運ぶように」
「はっ」

 ヘンリーさんも、素早く近衛騎士と兵に命令します。
 因みにハイラーン伯爵は体が大きいので、足の一部が担架からはみ出しています。
 兵も、ハイラーン伯爵を運ぶのが大変そうです。
 これで無事に制圧完了かと思っていたら、そうは問屋が卸さなかった。