そして、マリアさんが僕に話しかけてきたけど、エドガーちゃんが静かだなと思っていたら、お腹いっぱいになってマリアさんに抱かれてスヤスヤと眠っていました。
「ナオ君はとても丁寧な話し方をするけど、誰かに教わったのかしら?」
「お母さんに教わりました。お父さんとお母さんはペアで冒険者を組んでいたんですけど、その、お父さんの話し方は駄目だと言われまして……」
「ふふ、そんな事があったのね。でも、お母様の教育は間違ってはなかったのね」
お父さんは今でも冒険者をしているけど、昔に比べると大分言葉使いが良くなったんだって。
お母さんは普段は優しいのに怒ると物凄く怖いから、兄弟全員いい勉強になったっけ。
すると、今度はアーサーちゃんが眠くなったみたいです。
さっきから言葉少なくなって、しきりに目を擦っています。
「アーサー、眠いのか?」
「うん……」
「午前中はいっぱい頑張ったからな。ほら、お父さんのところに来なさい」
「うん……」
アーサーちゃんもエドガーちゃんも、午前中は沢山動いたから疲れちゃったね。
アーサーちゃんもジョージさんに抱っこされると、直ぐに胸に顔をうずめて眠り始めました。
昼食もこれで終わりなんだけど、今度はヘンリーさんが話し始めた。
「ナオ君、明日明後日は兄上と共に父上の仕事を手伝うのが前々から決まっていたんだ。明日は、シンシア、ナンシー、エミリーと一緒に活動してくれ。教会の治療施設で治療をする事になっている」
「明後日も、ナオ君には一緒にいてもらった方が良いわね。明日行く教会前で、炊き出しをするのよ。無料治療もする予定だから、ナオ君とスラちゃんがいるととても助かるわ」
「両方とも参加します。治療なら任せて下さい」
「うんうん、良いお返事ね。明後日の炊き出しには、お義母様とお義姉様も参加するわ」
ヘンリーさんは王子様だから、お仕事も忙しいんですね。
二日間の日程も決まったし、僕もスラちゃんも治療を頑張らないとね。
あと、今日の午後の予定は何があるんだろう?
「ナンシーさん、午後の予定はありますか?」
「うーん、どうしようか。顔合わせは終わったんだよね」
あら、ナンシーさんも悩んじゃったよ。
となると、オラクル公爵家に戻るのかな?
そんな事を思っていたら、陛下が少し考えてから僕に話しかけてきた。
「それなら、余からナオに冒険者として依頼を出そう。余の母上の治療して欲しいのだ」
「陛下のお母様、ですか?」
「ここ二年調子が良くない。宮廷医に診せているのだが、鑑定では毒と出ているが何の毒か分からないそうだ。毒消しポーションも効果がなかった」
陛下の表情が曇っちゃったけど、お母さんの調子が悪ければとっても心配するよね。
頑張って治療しよう!
「陛下、僕がどこまでできるか分からないけど、頑張って治療します!」
「ナオ、治せる範囲で良いぞ」
こうして、午後の予定も決まりました。
まだまだ魔力はあるし、頑張ろう。
大食堂から先程の部屋のあるところに行って、そのうちの一室に向かいます。
ちなみに王族は全員少し時間があるので、そのまま一緒に行きます。
コンコン。
「はい、どうぞ」
部屋の中から女性の声がしたので、全員で部屋の中に入ります。
すると、茶髪に白髪の混じった年配の女性がベッドから僕たちを出迎えました。
小柄で痩せているけど、とても優しそうな女性です。
「あらあら、みんな揃ってどうしたの?」
「ヘンリーのパーティに新しい男の子が入ったので、紹介しにきました」
「その白銀の髪の子かしら。可愛らしいから、女の子かと思ったわ」
陛下が僕を紹介すると、女性は口に手を当てて朗らかに笑っていた。
でも、ニコリとしているけど顔色はあまり良くなさそうです。
「えっと、初めまして。僕はナオです。このスライムは、スラちゃんです」
「ご丁寧にありがとうね。私はシャーロット、見ての通りおばあちゃんよ」
僕とスラちゃんがペコリとしながら挨拶をすると、シャーロットさんもニコリとしながら挨拶をしてくれました。
すると、マリアさんが午前中の事を説明してくれました。
「おばあ様、ナオ君とスラちゃんは午前中軍の病院の大部屋に入院していたもの全てを治療した治癒師です」
「あら、それは凄いわね。一部屋には十人以上入院しているはずよね」
「その、ナオ君とスラちゃんは四つある大部屋全てに入院していた怪我人を治療しました」
「まあ!」
シャーロットさんは、僕とスラちゃんが治療した範囲を聞いてとっても驚いていた。
そして僕とスラちゃんは、シャーロットさんが寝ているベッドに近づきました。
「シャーロットさん、これから治療をしますね」
「ええ、どうぞ」
僕は、シャーロットさんに軽く魔力を流しました。
すると、全身から悪いものを感じました。
スラちゃんが確かめても、全く同じ結果です。
うーん、予想以上に体調が悪そうだ。
あっ、許可を取ってあれを試してみよう。
「シャーロットさん、その、確認をしたいので鑑定魔法を使っても良いですか?」
「ええ、良いわよ。隠すことなんて、全く無いわ」
僕は、シャーロットさんの許可を取って鑑定魔法を使いました。
全身がこれほど悪いのは、何か原因がありそうです。
シュイーン、ぴかー。
すると、鑑定結果にとある中毒と表示されました。
念の為にスラちゃんが鑑定魔法を使っても、僕と全く同じ結果でした。
「陛下、シャーロットさんは鉛中毒と水銀中毒と出てきました」
「「なっ!」」
僕とスラちゃんの鑑定結果を告げると、陛下はもちろん王妃様もかなり驚いた表情になりました。
でも、二人とも何か心当たりがあるみたいです。
「昔、化粧品に鉛や水銀を使ったものが使われていて、健康被害が出て大問題になったのよ。だから、相当前に使用禁止になったの」
王妃様が心当たりがある事を教えてくれたけど、昔にそんな事が起きていたんですね。
まずは、解毒魔法を使った方が良さそうです。
ここは、スラちゃんと協力して行いましょう。
「スラちゃんは回復魔法系の解毒魔法で、僕が聖魔法の解毒魔法を使うよ」
スラちゃんも了解と触手を上げたので、僕たちは魔力を溜め始めました。
今回は、全力で解毒魔法を使います。
シュイン、シュイン、シュイン、ぴかー!
僕とスラちゃんが同時に解毒魔法を使ったので、シャーロットさんの周りに沢山の魔法陣が現れて光り輝きました。
中々中毒症状が強かったけど、頑張って魔力を決めると段々と治っていく手応えがありました。
そして、魔力が空っぽになる寸前で、シャーロットさんの解毒が完了しました。
スラちゃんも、魔力が底をつきそうです。
「はあはあはあ、な、何とか解毒できました。でも、僕もスラちゃんも、魔力が空っぽです……」
「ナオ、スラちゃん、大丈夫?」
汗だくになりながら治療結果を伝えると、エミリーさんが僕の体を支えてくれました。
スラちゃんも疲れて、へんにゃりとしています。
でも、治療効果は抜群でした。
「まあ、凄いわ。体がとても軽いの。今までの苦しみが、嘘のようだわ。ナオ君、スラちゃん、本当にありがとうね」
ベッドサイドでヘロヘロになっている僕とスラちゃんの事を、シャーロットさんがニコリとしながら撫でてくれました。
顔色もとても良くなっていて、調子は良さそうですね。
あっ、でももう駄目っぽいです。
ひょい。
すると、ヘンリーさんが僕の事をお姫様抱っこしました。
スラちゃんは、シンシアさんが抱いていました。
「ナオ君、少し休みな。魔力を沢山使ったのだから」
「ここまで分かれば、後は私たちが原因を突き止めるわ」
ヘンリーさんとシンシアさんがニコリとしたのを見たら、僕は意識を失ってしまいました。
でも、シャーロットさんの治療が上手くいって本当に良かった。
ちょんちょん、ちょんちょん。
ちょんちょん、ちょんちょん。
うーん、いつの間にか眠っちゃったのかな?
誰かが僕のほっぺを突っついているよ。
でも、まだ眠いよー。
という事で、おやすみなさい。
ぐう。
ちょんちょん、ちょんちょん。
ちょんちょん、ちょんちょん。
うーん、まだ誰かが僕のほっぺを突っついているよ。
まだ眠いけど、ちょっと目を開けて……
「あっ、ナオにーに起きた!」
「あー!」
アーサーちゃんとエドガーちゃんのドアップが見えました。
僕のほっぺを突っついていたのも、この二人ですね。
僕はムクッと起き上がると、見たことのない大きなベッドにいました。
目をこすりながら周りを見渡すと、苦笑しながらこちらに向かってくるマリアさんの姿がありました。
「おかーさま、ナオにーに起きた!」
「あー!」
「起きた、じゃなくてアーサーとエドガーがナオ君を起こしたんでしょう」
どうもマリアさんは、息子二人の行動を止めようとしてベッドに向かっている最中だったみたいです。
枕元を見ると、騒ぎで目を覚ましたスラちゃんの姿がありました。
うん、ここはどこだろうか?
「マリアさん、ここはどこですか?」
「ここは私とジョージの私室よ。ちょうどアーサーとエドガーもお昼寝をしていたから、ナオ君も一緒に寝かせていたのよ」
そっか、段々と思い出してきました。
シャーロットさんの治療をして魔力がつきかけてスラちゃんと一緒に眠っちゃったんだ。
まだ魔力が全快じゃないけど、だいぶ体調は良くなったよ。
「おかーさま、なんでナオにーにはお昼寝していたの?」
「ナオ君はね、ひいおばあ様の治療をして疲れちゃったのよ」
「シャーロットおばあさま!」
どうも、アーサーちゃんもシャーロットさんの調子が悪いのを知っていたみたいです。
すると、アーサーちゃんはぴょんとベッドから飛び降りました。
「おかーさま、シャーロットおばあさまのところにいくー!」
「アーサー、ちょっと待ちなさい。ナオ君も、起きたばっかりで悪いけどついてきてくれるかしら」
マリアさんは、エドガーちゃんを抱っこしながら僕に話しかけました。
僕も、まだねむそうなスラちゃんを抱いてベッドから降りました。
すると、待ち切れないアーサーちゃんが僕の手を掴んできました。
「いくよー!」
お昼寝して元気いっぱいなアーサーちゃんが、どんどんと僕を引っ張っていきます。
そして、あっという間にシャーロットさんのお部屋に着きました。
コンコン。
「おばーさま!」
「アーサーちゃん、入っていいわよ」
「はーい」
ガチャ。
元気いっぱいなアーサーちゃんの声だと、シャーロットさんも直ぐに気がついたみたいです。
すると、椅子に座っているシャーロットさんの姿がありました。
「シャーロットおばあさま、元気になった?」
「ええ、ナオ君とスラちゃんのお陰ですっかり良くなったわ」
「わーい、良かった!」
アーサーちゃんは、ニコニコしながらシャーロットさんに抱きついていました。
シャーロットさんも、にこやかにアーサーちゃんの頭を撫でていました。
そして、シャーロットさんは改めて僕に向き直りました。
「ナオ君、スラちゃん、私を治療してくれて本当にありがとう。ナオ君とスラちゃんは、一流の治癒師だわ」
「僕も、シャーロットさんが元気になって良かったです」
「ナオにーに、スラちゃん、ありがとー!」
今度は僕にアーサーちゃんが抱きついてきたけど、アーサーちゃんはニコニコが止まらないですね。
エドガーちゃんを抱っこしているマリアさんもいるので、みんなで座ってお茶にします。
すると、シャーロットさんが僕に話しかけてきました。
「ナオ君、体調は大丈夫? かなり無理をして治療したみたいだけど」
「お昼寝したら、だいぶ体調も戻りました。魔力も戻ってきています」
「そう、それは良かったわ。私を治療して逆にナオ君の体調が悪くなったら、とっても心苦しいのよ」
シャーロットさんも、ホッとした様子で話してくれました。
僕もスラちゃんも、ちょっと無理をしちゃったのは反省しないと駄目ですね。
そして、今度はマリアさんが話し始めました。
「ナオ君のお陰でおばあ様の調子が悪くなった理由が分かったから、おばあ様の部屋にある化粧品や薬などを調べているわ。少し時間はかかるけど、必ず原因を突き止めるわ」
「もし、誰かがわざとやっていたのなら、とっても悲しいことですね」
「そうね、とても悲しいわ。でも、あってはならないことよ」
僕とスラちゃんは捜査とかのお手伝いはできないから、無事に終わることを願うだけですね。
そして、マリアさんは更にビックリすることを教えてくれた。
「そういえば、ナオ君に勲章が授与される事が決まったよ」
「えっ、えっ? 勲章ですか?」
「この場合は、スラちゃんと合わせてだね。何せ、魔力が尽きるまで頑張って王太后殿下を病から救っただけでなく、その原因まで確認したのよ。根本原因を突き止めてからになるけど、これは決定事項よ」
な、何だか凄いことになっちゃって、スラちゃんもビックリしちゃった。
僕とスラちゃんは、シャーロットさんに元気になって欲しいと思っただけなんだよね。
「そうやって、何も下心なく頑張ったからだよ。私たち王族に接する人は、残念ながら下心を持つものが多いわ。だからこそ、ナオ君の存在は私たちにとってありがたいのよ」
「ナオ君とスラちゃんは、初めて会った私にも一生懸命に治療してくれたわ。それだけでも、とても凄い男の子とスライムだと思ったわ」
「ナオにーに、スラちゃん、すごーい!」
「あー!」
アーサーちゃんとエドガーちゃんも、マリアさんとシャーロットさんと一緒になって喜んでいます。
でも、僕だけでなくスラちゃんもきちんと認めてくれたのがとっても嬉しいと思いました。
コンコン。
「はい、どうぞ」
ガチャ。
お互いに話が進んだところで、部屋のドアがノックされた。
部屋の主であるシャーロットさんが返事をすると、ドアの隙間からナンシーさんが顔を覗かせた。
何かあったのかな?
「ナオ君、ここにいたのね。そろそろ帰るわよ」
「えー」
「ぶー」
僕ではなく、小さな兄弟が真っ先に否定の返事をしています。
二人のとても可愛らしい抗議だけど、流石に王城にお泊まりはできません。
名残惜しいけど、今日はこれでおしまいです。
「ほら、炊き出しの時に会えるでしょう? 明後日なんて、直ぐに来るわよ」
「「うー」」
ふふ、苦笑しているマリアさんに頭を撫でられながら慰められても未だにほっぺを膨らませながら不貞腐れているけど、二人はそんなところも可愛いですね。
僕は、椅子から立ち上がりました。
「じゃあ、明後日会おうね。皆さん、さようなら」
「ナオ君、また会いましょう」
「気をつけて帰ってね」
「じゃーね」
「あー」
無事にアーサーちゃんとエドガーちゃんともバイバイできて、僕はナンシーさんと一緒に王城内を歩いていきます。
すると、ナンシーさんが僕とスラちゃんに注意してきました。
「ナオ君、スラちゃんも治療で無理はしないようにね。解決方法が見つかってある程度治療できれば、他の治癒師でも治療はできたわ」
「ごめんなさい……」
「流石に魔力切れ寸前で倒れた時は、私も含めて他の人達も焦ったわ。ナオ君が優しいから全力で治療したくなるのは分かるけど、自分の実力を把握するのも大切なことよ」
僕もスラちゃんも限界まで魔法を使った事がないから、どこまで魔法が放てるか分からなかったのもありそうです。
スラちゃんもしゅんとなっちゃったけど、これからは十分に気をつけよう。
そして王城の玄関に着いて馬車に乗り込んだけど、何故かランディさんの姿がなかった。
「お父様は仕事が終わらないそうなので、別の馬車がうちから向かったわ。よくある事だから、気にしなくていいわよ」
僕とスラちゃんが不思議そうにしていると、直ぐにナンシーさんが理由を教えてくれました。
つい先日もランディさんの帰りが遅かったし、お仕事が大変なんですね。
そんなことを思っているうちに、あっという間に王城からオラクル公爵家に到着しました。
とととと、ぽすっ。
「にーに、おかえりー」
「わっと。セードルフちゃん、ただいま」
「えへへ。ねーねもおかえりー」
「セードルフちゃんは、本当にナオ君が好きね」
玄関に入ると、直ぐにセードルフちゃんが抱きついてきました。
にこーってしてくるのが、本当に可愛いですね。
そのままセードルフちゃんとナンシーさんと一緒にお風呂に入り、食堂に向かいました。
すると、仕事帰りのランディさんの姿も食堂にありました。
「おお、ナオ君体調は大丈夫かね?」
「お昼寝したら、大丈夫よくなりました」
「そうか、それは良かった。シャーロット殿下への治療をして倒れたと聞いた時は、私もかなり焦った」
ランディさんにも心配をかけちゃったんだ。
今回の無理な治療は、本当に反省だね。
でも、シャーロットさんが元気になってホッとしてるのは、ランディさんも同じでした。
「ナオ君のお陰で、シャーロット殿下を苦しめてきた原因が分かった。ナオ君とスラちゃんの、一人と一匹が全力で治療しないと駄目なレベルだ。そりゃ、宮廷医とて治療できるはずがない。犯人を探すのは時間がかかりそうだけど、必ず我々が見つけ出すよ」
ランディさんが力強く宣言したけど、悪い事をするのはやっぱり駄目よね。
シャーロットさんは優しくてとってもいい人だし、そんな人を二年間も苦しませるのはいけないことです。
犯人を早く捕まえて欲しいです。
そして、夕食を食べていたのですが、ちょっとした問題が発生しました。
こっくり、こっくり。
「ナオ君、随分と眠そうだけど大丈夫かしら?」
「あの、その、かなり、眠いです……」
「まだ魔力が完全に回復していないし、お腹もいっぱいになって眠くなっちゃったのね」
ナンシーさんはこっくりと船を漕ぐ僕を見て、少し苦笑していました。
でも、僕だけでなくスラちゃんも眠気が限界です。
ちょうど夕食も食べ終えたので、そのまま部屋に戻って寝ることにしました。
「お、お休みなさい……」
ふらふら、ふらー。
「ああ、流石にこのままほっとけないわ。私もついていくよ」
席を立ってふらふらと歩く僕とふにゃふにゃのスラちゃんを見て、ナンシーさんが慌てて一緒に着いてきました。
ナンシーさんに背中を支えられて何とか部屋にたどり着いてベッドに入ると、もう眠気が限界でした。
「すー、すー」
「あらら、もう寝ちゃったわ。今日は、とっても頑張ったもんね」
あっという間に寝ちゃった僕とスラちゃんを見て、ナンシーさんは布団をかけ直しながら苦笑していました。
そして僕の頭をひと撫でしてから、ナンシーさんは部屋を出ていきました。
その頃、ナオを追放した三人は更に追い詰められていた。
今日も金がなくて昨日よりも更に安い宿に泊まっていたのだが、前金を払ったことで遂に手持ちの金が底をついたのだ。
どうやって金を使うかという計画性が皆無なので、金があればあるだけ使っていた。
「おい、本格的にヤバいぞ。明日以降どうするんだよ!」
「知らねーよ。どうやったら金が手に入るんだよ」
「今日の依頼も失敗したし、食べ物もこれで終わりだぞ」
緑髪の魔法使いが愚痴をこぼしているが、この三人は三日連続で依頼に失敗していた。
しかも、昨日と同じ討伐依頼を行い、今日も肝心の獲物を見つけることすらできなかった。
この依頼は、現状では三人が受領できる依頼の中でも最も報酬が高かった。
王都近郊の森の中をうろうろとしていたのだが、元々対象の獲物は王都近郊の森では数が少なく、ナオの探索魔法を使わなければ人力で探すことはまず無理だった。
更にナオとスラちゃんなら難なく対象の魔物を倒せるが、仮に遭遇したとしても三人の実力では倒すことは不可能だった。
三人はそんな情報も知らず、疲労と苦労のみ残っていた。
もちろん、討伐失敗で報酬を受け取ることもできません。
確実にこなせる荷運びなどの依頼を受ければこんなことにはならなかったのだが、これも三人のおごりが原因だった。
というのも、やはり自分たちは簡単な依頼は受けるレベルではないと勝手に勘違いしていた。
三人はナオどころかスラちゃんよりも遥かに実力が劣っているのだが、自分の実力を正しく把握する事すらしなかった。
お互い愚痴をこぼすだけで、解決方法を話し合わないのが一例だろう。
更に、もう一つの体験が大金を欲している理由だった。
「それにしても、あいつを追い出した日に泊まった宿は最高だったな」
「食事も寝具も一流だったな。また泊まってみたいぞ。まさに、俺たちのための宿だった」
「また泊まるためにも、何とかして大金を得ないと」
三人は身分に合わない高級宿に一晩泊まり、現時点でできる最高の体験をしていた。
自分たちは成功者だと、誤った認識を持ってしまった。
なので、一回で大金が入る依頼しか目に入らなかった。
もちろん、そんな依頼など三人には実力不足でこなせるはずもない。
冒険者ギルド側も、制限依頼は昨日のように実力不足だと受付自体を断っている。
一か八かの確率で依頼を許可するほど、冒険者ギルドも甘くはない。
しかし、三人には大金が手に入る打算があった。
「まあ、明日になれば俺たちは大金持ちだ。何せ、ギルドマスターが俺たちにって話だもんな」
「どんな依頼なんだろうか。今からワクワクするぜ」
「その後は、一流冒険者に相応しい最高の体験をしないとな」
「「「あっはっは!」」」
三人は酒を飲みながら、ありもしない空想に思いを馳せていた。
既にバラ色の生活が待っていると、勝手に勘違いをしていた。
都合の良いことしか考えることができず、ナオもスラちゃんもいないので止めるものもいなかった。
しかしながら、ギルドマスターはそんな馬鹿な理由で三人を呼ぶはずがないことに気が付かなかった。
そして翌朝、厳しい現実を知ることになる。
翌朝、三人は期待に胸を膨らませながら冒険者ギルドに向かった。
早朝だったが、冒険者ギルドの中は依頼を受ける冒険者で溢れていた。
しかし、三人はそんな冒険者を見て蔑んでいた。
自分は、ギルドマスターから直々に依頼を言い渡される選ばれた存在だと思っていた。
そして、自分たちの受付の番となった。
茶髪の短髪が、意気揚々と受付嬢に用件を言った。
「おい、ギルドマスターが俺たちに用があるとい……」
「承知しております。三名の冒険者カードをお預かりします」
「あっ、ああ……」
受付嬢は、ニコリとしながら茶髪の短髪が余計な事を言わないように話を強引に遮った。
というのも、三人が来たら余計な事をせずに冒険者カードを預かって個室に行くようにと、ギルドマスターから受付担当全員に指示が出ていたのだ。
三人は受付嬢の笑顔の圧力に気圧されて、少しびくびくしながら冒険者カードを差し出した。
受付嬢は冒険者カードを受け取ると、直ぐ側の個室を指さした。
「あちらの個室にてギルドマスターがお待ちです。早急に来て欲しいとのことです」
「「「あっ、わ、分かった」」」
再びの受付嬢の笑顔の圧力に、三人は完全に飲まれていた。
そして、素直に個室に向かった。
受付嬢に気圧されている時点で、自分たちの実力は大したことないと気付くべきだった。
そんな怪訝そうな三人の後ろ姿を見て、受付に並んでいる冒険者と他の受付嬢はクスッとしていた。
どんなことを言われるかは一切周知されてないが、冒険者と他の受付嬢たちは三人がギルドマスターに何を言われるのか予想がついていた。
そんな中、三人の対応をした受付嬢は一旦受付を閉めて忙しく作業をしていた。
そして三人は、受付嬢に指示された個室のドアを開けた。
ガチャ。
「おい、お前ら! ノックもしないで部屋に入るとは何事だ!」
「「「す、すみません!」」」
バタン。
三人はいきなりドアを開けたので、中にいたギルドマスターに物凄い剣幕で怒られた。
先日、王城で四歳児がドアをノックしたのに、三人はそのことすら頭になかった。
ビビりながらドアをノックして再び個室に入った三人を見た冒険者と他の受付嬢は、肩を震わせながら爆笑するのを必死に堪えていた。
そして、三人の対応をした受付嬢は、作業を終えて個室に向かった。
「「「し、失礼します……」」」
「お前ら、入室時の最低限のマナーすら知らねえのかよ。まあ、お前らに言ったところで無駄だな。取りあえず座れ」
厳しい表情をしたギルドマスターに睨まれて、三人はビクビクおどおどしながらギルドマスターの対面にあるソファーに座った。
個室内は、ギルドマスターただ一人だけだった。
そして、ソファーに座った三人に、ギルドマスターは人を殺せそうな鋭い視線と威圧を向けていた。
残念ながら三人は自分の周囲をキョロキョロと見ていて、ギルドマスターの視線や威圧に全く気づいていなかった。
コンコン。
「失礼します。三人の処理が終わりました」
「そうか、ご苦労」
ドア越しに、さっきの受付嬢の声が聞こえてきた。
ギルドマスターは三人に向けた視線を外すことなく、受付嬢に返事をした。
三人は、処理をしたと聞いてなんのことだか分からず少し混乱していた。
そんな中、ギルドマスターが威嚇するような低い声で話し始めた。
「おい、お前ら。今日、何で俺がお前らをここに呼んだか分かっているか?」
「「「え、え、いえ……」」」
「俺からの指名依頼だと勘違いして、お前らがのぼせ上がっていたという報告も聞いている。当然、俺からの指名依頼なんてねーぞ!」
「「「ひいっ」」」
三人が妄想を描いていたギルドマスターからの指名依頼は、木っ端微塵に砕かれた。
では、何でこの場に呼ばれたのか、三人は全く理解していなかった。
ギルドマスターは、三人が本当に馬鹿なんだと、改めて思い知らされた。
そして、ギルドマスターは怒りを抑えながら三人に結論を告げた。
「王都冒険者ギルドマスターガンドフより、ガッツ、二ゴール、ランドに通告する。冒険者ギルドの規定違反により、本日付けで三人の冒険者ライセンスを停止し、その一切の権限を剥奪する。期間は十年間だ」
「「「はっ? えっ?」」」
三人は、ギルドマスターに言われた内容が全く理解できなかった。
アホ面を向けながら、ポカーンとしていた。
そんな三人の反応を無視して、ギルドマスターは話を続けた。
「違反案件が多すぎたので、お前らを一発アウトにしても良かった。まあ、殆ど同じ意味合いだがな」
「いっ、一発アウトって……」
「ああ? お前らは、そんなのも理解できねえのか? 冒険者ライセンス剥奪だよ、剥奪だ!」
茶髪のツンツン頭が馬鹿な質問をしたが、それによってようやく三人は自分たちの置かれた現状を理解した。
何故自分たちが冒険者ライセンスを停止されるのか、そこまでは三人は理解できなかった。
しかし、ギルドマスターはこれ以上三人と話をする気はなかった。
「本来なら弁明の機会も与えられるが、お前らの場合は現行犯だ。処分を検討する委員会でも、全会一致で処分をすると結論づけた。俺からの話はこれで終わりだ」
「「「ちょっ……」」」
三人の話を聞くつもりは全く無いのか、ギルドマスターは三人がなにかを言いかけても無視して立ち上がった。
三人は、無意識にギルドマスターを追いかけるように席を立って個室から出た。
個室から出た三人は、ギルドマスターではなく少し離れた受付で信じられないものが本当にたまたま視界に入った。
沸点の低い三人は、その瞬間に感情が爆発していた。
今日は、大教会にある治療施設での治療をする依頼を受けにいきます。
昨日早く寝たから、僕とスラちゃんの魔力もバッチリ回復しています。
うーんと背伸びをしてから、スラちゃんと一緒にベッドから降りてソファーに座ります。
「もっと沢山の人を治療できるように、僕もスラちゃんも頑張らないとね」
僕とスラちゃんは一緒に魔力循環の訓練をしているけど、昨日シャーロットさんを治療して魔力が尽きちゃったのが実はちょっと悔しいんだよね。
もっと凄い魔法使いになれるように、これからも頑張らないと。
「ナオ君、体調は大丈夫?」
「怠いところはないかな?」
魔法の訓練を終えて食堂に行くと、やっぱり色々な人に体調のことを気遣われました。
特に、レガリアさんとイザベルさんはかなり心配そうな表情をしながら僕の体をペタペタと触っていました。
セードルフちゃんは、もぐもぐとパンを食べながら不思議そうに首を傾げていました。
「一晩ぐっすりと寝たら、魔力も全快しました。ご心配おかけしました」
「それだったら良いのよ。今日も治療するらしいけど、無理はしないでね」
僕のとなりに座るレガリアさんが、ホッとした表情で僕の頭を撫でていました。
どんな人が治療施設にいるか分からないから、今日も十分に気をつけないとね。
ところでナンシーさんがちょっと静かだなと思ったら、眠そうな目つきでもしゃもしゃとパンを食べていました。
周囲の話よりも、眠さの方が上回っているんだ。
そんなこんなで朝食も終わり、冒険者服に着替えてから庭で馬車を待ちます。
「ナオ、おはよう!」
「エミリーさん、おはようございます。シャーロットさんの体調はどうですか?」
「すごく元気よ。自分の足で歩く練習も始めていたわ」
エミリーさんがニコニコしながら馬車から降りてきたけど、やっぱり自分のおばあさんが元気になったのもありそうですね。
シャーロットさんも殆ど動けずにずっと寝ていた生活だったから、部屋の外に出るための訓練をするそうです。
シャーロットさんは僕の冒険者服を買ってくれると言っていたけど、馬車に乗るくらい元気になったら僕もとっても嬉しいな。
そんなことを思いながら、僕たちは冒険者ギルドに向かいました。
ガヤガヤガヤ。
「あれ? 何だか冒険者ギルド内が騒がしいですね」
「何かあったのは間違いないわね。先に受付を済ませて、他の冒険者から話を聞きましょう」
何故か冒険者ギルド内がざわざわとしていたけど、ここ数日あったあの三人が受付で騒いでいる訳でもない。
シンシアさんも良く分からないみたいだけど、僕たちはやる事をやりましょう。
受付の列に並んでいると、他の冒険者たちが僕たちの姿を見つけて次々と話しかけてきました。
「ナオ、あいつらがギルドマスターに呼び出しをくらって個室にいるぞ」
「まあ、間違いなく冒険者ライセンスの停止か剥奪だな」
「受付で冒険者カードを没収されたし、間違いないだろう」
「もう少し持つかなと思ったけど、ナオを追放してからあっという間に駄目になったな」
冒険者が口々に三人の駄目だしを言っているけど、大きな問題を起こしちゃったんだ。
他の冒険者も、うんうんと頷いていました。
でも、冒険者ライセンス停止とかって、とっても重大なことだよね。
あの三人がどんな事をやったのかなと思ったら、ナンシーさんが詳細を教えてくれました。
「まあ、ナオ君にしたこともあるし、三人が冒険者ギルドで騒いだりしたのも含まれるわ。特に、ナオ君からお金をとったりしたのは厳罰ものよ。ナオ君をパーティから追放した際に奪い取ったお金の件が、三人にトドメを刺したはずね」
「他にも沢山のお金絡みの件があるけど、どれも冒険者としてやってはいけないことだわ。その為に、冒険者登録時の冊子にも報酬関連のことは書いているし、初心者向け講習でも厳しく言っているわ」
「お金にだらしない人は、どんな仕事をしても失敗するわよ。あの三人は短気で堪え性がないし、どうせ駄目になるのは目に見えていたわ」
シンシアさんとエミリーさんも、三人への評価は辛辣でボロボロだ。
話を聞いていた冒険者たちは、ナンシーさんたちの話に激しく同意していた。
そして、ある冒険者が僕に話しかけました。
「ナオは、同じパーティのメンバーが個別に稼いだお金を奪おうとするか?」
「えっ、しないですよ。人のものを盗るのは、とっても悪い事ですし」
「そういうことだ。奴らのやっていたことを自分に置き換えた時に、良いか悪いかが良く分かるだろう」
自分ならどう思うかがとても大切だと、その冒険者は教えてくれました。
そう思うと、あの三人がやったことは逆に絶対にやっちゃいけないことです。
僕はあの三人に逆らえない立場だったからどうしようもなかったけど、パーティを離れて改めて思ったら、僕はあの三人に支配されていたんだ。
うーんと考えているうちに、僕たちの受付の番になりました。
すると、受付のお姉さんが僕に話しかけてきました。
「ナオ君、昨日の指名依頼の件で一時金が入っていますよ」
「あれ? 指名依頼って何だっけ?」
「王太后殿下を治療するという、国王陛下からの依頼になります。全ての報酬がでるのは、もう少し後になるそうです」
あっ、そうか。
シャーロットさんの治療は、陛下が指名依頼とするって言っていただけ。
それで、治療だけでなく原因追及もあるから、全容解明まで時間がかかるんだっけ。
でも、僕としてはシャーロットさんに元気になって欲しいって思ったから、スラちゃんと一緒に頑張っただけなんだよね。
するとこの話を聞いた他の冒険者が、ざわざわとし始めました。
「え、エミリー殿下、この話は本当なのか? 確か王太后殿下って、ずっと病に伏せていたはずじゃ……」
「ナオとスラちゃんが、おばあ様の事を魔力を使い切るまで頑張って治療してくれたの。おばあ様も、少し歩けるくらいまで回復したわ」
「「「おおっ!」」」
エミリーさんがスラちゃんと一緒に実演付きで話をすると、冒険者たちも喜んでいました。
シャーロットさんが病気で寝込んでいたのは王都の人なら知っているそうで、だからこそシャーロットさんが回復して良かったと思っているそうです。
それにシャーロットさんは福祉事業に積極的で、良く炊き出しとかに顔を出していたそうです。
だから、明日はシャーロットさんの代わりに王妃様やマリアさんたちが炊き出しをするんですね。
さてさて、この一時金だけどどうしようかな?
「あの、お金を半分に分けることはできますか? その、スラちゃんと一緒に治療したので……」
「ナオ君ならそう言うだろうと思いまして、最初から半分にしていますわ」
おお、準備が良いですね。
受付のお姉さんは、僕の前に半分に分けた一時金が入った革袋を二つ出しました。
ドサッ。
あの、受付のお姉さんが革袋を受付のテーブルに置いたら、かなり重そうな音がしたのは気のせいかな?
うん、革袋を少し持ってみたらとっても重かったよ。
幾ら入っているのかと思ったら、少し怖くなっちゃった。
スラちゃんとどうしようかと顔を見合わせた、その時でした。
ガチャ。
あっ、ギルドマスターと三人が入っていた個室のドアが開いて、かなり不機嫌そうなギルドマスターが出てきたよ。
そして、戸惑った表情の三人が出てきて、僕と顔を合わせた瞬間でした。
「「「テメー!」」」
突然、三人が顔を真っ赤にしながら叫びました。
更に、僕の方へ走り出そうとしました。
しかし、三人の前には怒れるギルドマスターがいて、他の冒険者も沢山います。
更に、スラちゃんも受付のテーブルに乗って通さないぞと触手を大きく広げていました。
僕も、魔法障壁の準備をしています。
そして、三人はあっという間に屈強な職員に羽交い締めにされて縄で拘束されました。
それでも三人はかなり暴れていて、僕に対する暴言も止まりません。
周りの人は目に入らず、僕だけをターゲットにしていました。
「テメー、何だその金は! ふざけているのか!」
「何でお前が、そんな大金を得ているんだよ! 俺らに喧嘩を売っているのか!」
「俺らを怒らせた罰に、その金を全部寄越しやがれ!」
三人はうつ伏せにされて体を押さえられているけど、それでも僕の事を睨みながら叫んでいます。
でも、言っている事が自分勝手なことなので、特にナンシーさんとエミリーさんが三人に対して特にキツい視線を送っています。
周囲にいた冒険者も、三人のことを軽蔑しながら見ていました。
その間も、ギルドマスターが職員に指示を出していました。
「兵を呼んでこい、脅迫の現行犯だ。引き取りにくるまで、こいつらを個室に入れて監視する」
「「「はっ」」」
「「「離せ、離しやがれ!」」」
屈強な冒険者ギルドの職員が、暴れる三人を難なく担ぎ上げて個室に連れていきます。
他の職員も、冒険者ギルドから外に走り出しました。
そして、個室のドアが閉まるとようやく冒険者ギルド内は静けさを取り戻しました。
「ナオ君、あんなのを気にするだけ無駄よ。それに、留置所行きは確定しているのだから、ここからは兵が判断することよ」
「もう、僕たちが手出しできないところまでいっちゃったんですね」
「罪人はきちんと裁かれるべきだわ。といっても、脅迫程度なら所持品や武器を没収されて一日留置所で過ごして終わりね」
ナンシーさんが、ぽんっと僕の肩に手を乗せました。
もう深く考えてはいけないと思い、僕は気持ちを切り替える為に目を閉じて深呼吸をしました。
そして、僕とスラちゃんは受付で貰ったお金をアイテムボックスにしまいます。
ちなみに、現行犯で目撃者が多数いるので、特に僕が兵に説明する必要はないそうです。
すると、シンシアさんがパンパンと手を叩きました。
「さあ、今日も忙しくなるわよ。何せ、多くの人が入院しているわ。ここは、治癒師の出番よ」
「私も頑張ります。回復魔法は初級までしかできないけど、それでも怪我は治せます」
シンシアさんの掛け声に反応して、エミリーさんもやる気を見せていました。
回復魔法が使えないナンシーさんは、力仕事をしつつスラちゃんを抱いて治療の手伝いをするそうです。
分担も決まったところで、僕たちは馬車に乗り込んで冒険者ギルドから大教会に向かいました。
「はあ、いきなりのトラブルで疲れちゃいました……」
「私も予想外だったわ。とはいえ、あの程度で済んで良かったわ」
思わず馬車の中で溜息をついちゃったけど、体の力が抜けて一気にだらーんとしちゃった。
シンシアさんがスラちゃんを抱きしめながら僕の事を慰めていましたが、もうこれで三人の件は片付いたと思いたいです。
そして、馬車は程なくして大教会に着きました。
大教会には馬車置き場があり、そこに馬車を停めて大教会の中に入ります。
「うわあ、外も素敵な作りだったけど中は本当に凄いです! 特に、ステンドグラスから漏れる光が凄いです!」
「ふふ、ナオ君も年頃の男の子なのね。王都にある教会の総本山だから、外装も内装もこだわった作りになっているのよ」
ナンシーさんが色々と教えてくれたけど、大教会は村にあった教会とは何もかもが違います。
教会の大きさもさることながら、装飾や神様の像、席数も全然違います。
なんというか、神秘的な感じがしますね。
そして、昨日も王城で会った人が僕たちに近づいてきました。
「皆さま、お忙しい中お越し頂きありがとうございます。教会を代表して歓迎いたします」
「お父様、今日は皆でがんばりますので宜しくお願いしますわ」
シンシアさんのお父さんのブレイズ侯爵様が、豪華な教会の服を着て挨拶に来ました。
確か、教会でもかなり偉い枢機卿っていう地位にあるんだっけ。
昨日王城で会ったから緊張しないで済んだけど、初めてあったらとっても緊張していたよ。
ブレイズ侯爵様はこの後用事があるそうなので、代わりにシスター服を着たシスターさんが僕たちを案内してくれます。
治療施設は大教会の裏手にある建物で、結構大きな建物です。
怪我をしたり病気になった人が入院していて、大部屋には一部屋十人ほど入院しているそうです。
僕は、前を歩くシスターさんにどのくらい治療するか聞いてみました。
「シスターさん、昨日軍の病院で五十人以上治療したんですけど、どのくらい治療すれば良いですか?」
「えっ、五十人以上? あの、三十人も治療して頂ければ十分かと思っておりました……」
あれぇ?
僕の話を聞いたシスターさんは、かなり困惑した表情になっちゃった。
シンシアさんたちも、かなり微妙な表情だよ。
何か変な事を言ったのかなと思ったら、シンシアさんが補足してくれました。
「普通の治癒師は、一日で重症者を十人治療できれば上出来って言われているのよ。ナオ君とスラちゃんは特別魔力量が多いから分からないかもしれないけど、そういうものなのよ」
昨日も言われちゃったけど、まだ魔力量が多いって実感はないんだよね。
シャーロットさんを治療した時は、魔力が尽きかけて寝ちゃったし。
でも、沢山の人が元気になって欲しい気持ちは変わらないので、今日も頑張って治療しよう。
治療施設に入った僕たちは、早速手分けして治療を開始します。
回復魔法が使えないナンシーさんも、スラちゃんを抱いて一緒に治療を行うそうです。
「治療施設には、大部屋が六つあります。ご無理をされない範囲でお願いします」
シスターさんは僕以外が王族や大物貴族令嬢なので、無理をして何かあったらと思っているみたいです。
とはいっても、治療するだけだから全然大丈夫な気もします。
万が一に備えて、近衛騎士も控えています。
シュイーン、ぴかー!
「これで、足の骨折も良くなりました。動き難いとかありますか?」
「凄い、まったく痛くない! 君は凄腕の治癒師だね」
僕は左足を骨折した中年男性の治療をしたけど、ビックリするくらい良くなって本当に安心しました。
やっぱり元気になるのって、本当に嬉しいよね。
怪我が治った中年男性も、思わずニコニコです。
「お元気になって何よりですわ。笑顔も違いますもの」
「これも奥方様のお陰です。ありがとうございます」
シンシアさんたちも、にこやかに入院患者と話をしながら治療していました。
ただ治療するだけよりも、お話してにこりとしてもらった方が良いよね。
シンシアさんが第二王子の奥様ってのは普通に国民に知られているそうで、それでも普通に対応してくれるのは教会にとっても患者にとってもとてもありがたいそうです。
エミリーさんも王女だけど、シンシアさんと同じく誰にでも普通に接します。
スラちゃんを抱いたナンシーさんも二人と同様ですが、治療をするスライムってのが珍しいのかよく声をかけられていました。
「あんちゃんは、可愛い顔して良い腕だな」
「僕、男の子って分かりますか?」
「そりゃ分かるさ。もう少し髪が長かったら、男か女か判別するのは怪しいけどな」
僕もよく声をかけられるけど、前と違って女の子に間違われることは少なくなりました。
やっぱり髪の毛を綺麗に揃えたのが良かったみたいですね。
こんな感じでみんなで手分けして治療を進めたので、午前中で四部屋を終える事ができました。
午後も治療をするので、大教会にある食堂に移動してシスターさんと同じ食事を食べます。
「私たちと同じ食事で、皆さまには申し訳ありません」
「気にしないで下さい。とても美味しい食事ですわよ」
「そう言って頂き、感謝申し上げます」
至って普通の料理が出てきて担当シスターが大変恐縮していたけど、別に僕は気にならないしシンシアさんたちも全く気にしていません。
王族や貴族令嬢とはいえ、常に贅沢な食事をしている訳ではないです。
更にいうと、マナーとか気にしないで済むので、こういう普通の食事も好きだそうです。
僕もスラちゃんも完食して、少し休んだら午後の治療を行います。
「シンシアさん、三時前には全部の大部屋に入院している人の治療が終わりますけど、その後はどうするんですか?」
「大教会の治療施設には個室がないから、今日は早めに終わりにしましょう。教会側も、退院する人と新たに入院する人の手続きで忙しくなるわ」
そっか、いっぱい治療してもその後の対応もあるもんね。
シスターさんも、とっても大変です。
こうして順調に治療は進み、予想通り三時には全ての大部屋に入院している人の治療を終えました。
帰る準備をして、シスターさんに挨拶をします。
「皆さまのおかげで、多くの方を救うことができました。本当に感謝申し上げます」
「私たちも、治療が上手くいきホッとしております。日時を調整しまして、また治療に訪れます」
お礼をいうシスターさんに、シンシアさんが代表して答えました。
僕とスラちゃんも、やりきったって感じで充実していました。
馬車に乗って大教会から冒険者ギルドに戻り、手続きをしてから屋敷に戻ります。
冒険者ギルドでは特に何も言われなかったので、朝の三人の件は無事に収まったみたいです。
「じゃあ、明日も宜しくね。明日は冒険者ギルドに寄らずに、直接大教会に向かうわ」
「ナオ、明日も頑張ろうね」
庭で王城に戻るシンシアさんとエミリーさんを見送って、僕とナンシーさんは屋敷の中に入りました。
すると、出迎えてくれたレガリアさんが、とっても嬉しいことを教えてくれました。
「二人とも、お帰りなさい。ナオ君、三人が売り払ったリュックサックが見つかったわよ」
「えっ、本当ですか?」
「ええ、本当よ。中古買取りのお店に三人の特徴をつたえたら、直ぐに分かったわ。ただ、窃盗の疑いもあったから、軍で確認していたのよ」
宿から三人がリュックサックと中身を持ち去って売り払ったから、慎重に対応したそうです。
部屋に持っていってくれるそうなので、僕とスラちゃんはワクワクしながら部屋に向かいました。
そして、冒険者服から普段の服に着替えた時でした。
ガチャ。
「ナオ君、入るわね。このリュックサックで間違いないかな?」
「間違いないです! ありがとうございます!」
「ふふ、このくらい全然平気よ」
レガリアさんと一緒に入ってきた侍従が手にしていたのは、間違いなく僕が使っていたリュックサックでした。
大きな破損もなく、ホッと一安心です。
そして、レガリアさんが話を続けました。
「ナオ君、このリュックサック少し傷んでいるの。補強が必要だから、御用商人に預けておくわね」
「何から何まで、本当にありがとうございます」
「良いのよ。使うんだったら、キチンとした物の方が良いわよね」
リュックサックがどんな感じになるのか、とっても楽しみです。
補強が終わったら、大事に使っていきたいなあ。
「がっ、くそが! 離しやがれ!」
「おい、暴れるな! 仕方ない、三人を分けて留置するぞ」
「「「はっ」」」
朝一で冒険者ギルドで暴れた三人は、王都を警備する守備隊に連行された。
そして、三人の持っているものを全て押収された。
本来なら複数人入る牢屋の予定が、三人が大暴れした為に独居房に入ることになったのだ。
しかも、連絡のやり取りができないように距離を置く念入りさだった。
全てを終えて、守備隊は深い溜息を漏らしていた。
「何なんだ奴らは、まるで獣を相手にしているみたいだぞ」
「理性ではなく、本能で動いているみたいだ。そりゃ、人の話を聞く訳がねえ」
「イジメられていたって聞いていたが、あの銀髪の坊っちゃんが猛獣の調教師だったって訳だな。そして、調教師を振り払ったから制御不能になったと」
コップに入っていた水を一気に飲み干すと、守備隊員は一斉に愚痴を言い合い出した。
言い得て妙だが、決して間違ってはいなかった。
というのも、なんだかんだいってナオが三人の最後のストッパーになっていた。
いつもナオが最後に帳尻合わせをしていたので、依頼主などの不満が爆発しないで済んだ。
なので、ギリギリの状態だったが三人は暴発しないで済んでいた。
ところが、三人がナオを追放したことによって、いよいよコントロール不能に陥った。
そして、様々な自分勝手なトラブルを起こしていたのだった。
「初犯だから一晩の勾留の処分だが、間違いなく奴らは直ぐに何かをやらかすだろう」
「自分より強い相手には手を出さないらしいから、女性や子どもに手を出しそうだな」
「結局、自分は強いと思っているだけだな」
「ちげーねーな」
守備隊員はあーだこーだ話しているが、残念ながらその予想は当たってしまうことになる。
とはいえ、この時点ではただの笑い事だった。
ガシャガシャ。
「おい、ここから出せ! 俺を誰だと思っている!」
「うるさい、黙っていろ!」
一方、独居房に入れられた三人は、醜く叫んでは守備隊員に怒鳴られていた。
鉄格子をガチャガチャと揺すっても、自分たちが期待する答えは返ってこなかった。
更にいつも三人一緒だったのにコンタクトも取れないほど引き離されたので、三人はそれぞれパニックになっていた。
おまけに、三人は自分が牢屋に入れられる程の罪を犯したと理解していなかった。
ナオに対する恐喝容疑なども冒険者ギルド主導で調べられているが、被害金額の査定に時間がかかっていたのが幸いだった。
なので、現時点では一晩我慢すれば釈放される予定だ。
カツン、カツン、カツン。
「おーい! ここから出せー!」
そして、巡回担当の守備隊員も三人をまともに相手にする気になれなかった。
他にも監視しないとならない者は沢山いた。
何せここは、王国最大の人口を誇る王都にある守備隊の駐屯地だ。
日々多くの犯罪者が送られて、留置所に入れられていった。
三人だけを構ってる暇はなかった。