「……いや、届いたぞ」

 ピッとムベアゾの鼻先が切れて血が垂れた。
 かわされたと思っていたイースラの剣は僅かにムベアゾに届いていたのである。

「はははははっ! 名前は?」

「イースラ……」

「イースラ、上級で入団を認める! そっちの二人は?」

「クラインとサシャです」

「クライン、三級! サシャ、三級! 入団を認める!」

 ムベアゾが高らかに宣言する。

「上級!?」

「他の二人も飛び級かよ!」

 周りのギルド員に動揺が広がる。

「ちょっと待ってください」

「なんだ? 上級では不満か? まあ焦ることはない。実績を積めば……」

「そうじゃありません」

 イースラにストップをかけられてムベアゾが片眉を上げた。
 確かに二回も攻撃を届かせたのだから少し不満もあるかもしれないとは思ったが、イースラが言いたいのは待遇についてではなかった。

「魔法でも入団テストを受けさせてください」

「何だと?」

「とりあえずサシャは絶対です」

「えっ、私?」

 急に名前を出されてサシャが驚いた顔をする。
 元々ルーダイを呼んだのも魔法による入団テストを受けるつもりだったからだ。

 予定は狂ったものの結果オーライにはなった。
 ただサシャはについては剣ではなく魔法の道を進んでもらうつもりだった。

「ついでに俺たちも受けられれば」

「……いいだろう。ルーダイ、お前がやるんだ」

「はぁっ!? 何で私が……」

 ルーダイは肩で息をしていた。
 ムベアゾのオーラブラストで周りに影響が出ないようにと張ったシールドには大きくヒビが入っている。

 イースラが一つオーラブラストを相殺してくれなきゃシールドは叩き割られていたことだろう。

「ハルメード、クォンシーを呼んでくるんだ」

「はっ、分かりました!」

「あっ、ちょっ……待って!」

 ハルメードがどこかに走って行ってルーダイは顔を青くする。

「そりゃ……ないですよ……」

「魔法使いではどうか知らんがうちではさっさと動かないと相応の責任が発生するんだ」

 ルーダイのジトッとした抗議の視線もムベアゾは意に介さない。

「お連れいたしました!」

「何だか騒がしいね」

 ハルメードが連れてきたのは白髪の高齢女性であった。
 いかにも魔法使いといった大きな杖をついていて腰を曲げてゆっくりと歩いてきた。

「用件はまだ聞いとらん。何かな? またあのおてんば娘が何かしたのかな?」

 クォンシーという魔法使いの女性はルーダイに視線を向ける。
 ルーダイの方は何もしていませんというような顔をしながらあさっての方向を向いている。

「半分正解で、半分違います」

「ふぅむ? ならあの子たちに関係することかな?」

 クォンシーは次にイースラたちを見た。
 綺麗な緑色の瞳をしていて、とても優しい目をした人だった。

「それが半分です」

 ムベアゾは事情を説明した。

「指名されたのに何もせず突き返そうとするなんてね……あとでお仕置きだよ」

「そ、そんな!」

 逃げてしまおうかと考えていたルーダイだが逃げるとまた後が怖い。
 結局ムベアゾによってルーダイの所業は暴露されてしまうことになり、ルーダイはガックリと肩を落としてうなだれる。

「入団テストね。魔法は使えるのかい?」

「いいえ、なので適性才能検査を受けたいんです」

「ふふふ、それも承知かい。いいだろう。ルーダイ、私の部屋から適性才能検査用の魔法石を持ってきなさい」

「はぁーい……」

「早く!」

「はい!」

 ルーダイが走っていく。
 こんな人だったのかとイースラは少し呆れてしまう。

 イメージとはだいぶ違う人であった。
 戻ってきたルーダイは四角い水晶を持っていた。

 ハルメードが小さいテーブルを持ってきて水晶をその上に置いた。

「これに手を乗せてくれればいい」

「サシャ、お前からだ。大丈夫だから」

 イースラがサシャの背中をそっと押して促す。
 少し困惑しながらもサシャは水晶の上に手を乗せる。

「ほぅ……これはこれは」

 サシャが手を乗せると水晶が光を放ち始めた。
 水晶は真っ赤に染まり、眩しいほどの光にみんなが目を細めた。

「火に強い適性があるね。魔力も十分……魔法への才能もありそうだ。四級合格入団だよ」

「えっ!?」

「基礎さえ身につければすぐに三級にも上がれるだろうね」

 サシャは驚いた顔をした。
 そしてイースラのことを見る。

「言ったろ? 大丈夫だって」

「周りは何を驚いてるんだい?」

「そちらの子は剣の方でも三級で入団を認めたんです」

「おや? そうなのかい? 才能のある子なんだねぇ……ただ、こっちに譲ってくれはしないかい?」

「貴重な才能ですので」

 ムベアゾとクォンシーの間に火花が散る。

「話は後で。とりあえずその子たちもだったね」

「クラインもやってみろよ」

 サシャについては才能があることは分かりきっていた。
 けれどクラインについてはイースラも分からない。

 少し期待しながらクラインの入団テストの様子を見守る。

「ふむ……魔力はある……適性は土。だけど魔法の才能はあまりなさそうだね」

 水晶が明るい茶色に染まる。
 けれどサシャの時のような強い光は放たれない。

 全く適性がないわけではないものの魔法に関してクラインは強い才能がないようだった。

「こちらの子も三級です」

「ふむ、ならば剣の道の方がいいだろうね」

 サシャと違って取り合いにならない。
 ちょっと悔しいとクラインは思った。