「……ベロンさんも実は分かってますよね? そしてそれに甘えている」

「…………今更俺に全てを捨てろというのか?」

「違いますよ」

「なら……何が言いたい?」

「今ならまだ持っているものを守れるといってるんです」

「なんだと?」

 ベロンが見たイースラは悲しげな目をしていた。

「いつまでこんなことを続けますか? 現状で満足して成長を望まないのならこのままいくらか続けられるでしょう。でもいつか全部失うかもしれませんよ」

 ベロンは憧れと自らが置かれていた境遇への反発から冒険者をしている。
 より強くなり実績を残すことが必要だとどこかに焦りがあるのだ。

 だがそれはスダッティランギルドを不幸な未来へと導く。
 回帰前ベロンは全てを失った。

 ポムは途中で死ぬ。
 そこで一度ギルドの雰囲気は暗くなり、さらにその先にデムソが死んでスダーヌも大怪我を負うような出来事が起こる。

 バルデダルも状況を打開しようとオーラを無理して使って体を壊し、顔を怪我したスダーヌはベロンの元を去った。
 その時にイースラもサシャを失った。

 返事もできないサシャの告白はいつまでも忘れられない。
 今ならまだベロンは全てを助けられる選択ができる。

 デムソの腕は失われたものの命はある。
 まだ若いし働くことはできるだろう。

「仮に俺が……家に戻るとして……デムソ、お前は働くつもりがあるか?」

 ベロンの言葉にバルデダルが驚いたような顔をする。
 ここまで頑なだったベロンが初めて別の道を考え始めていた。

 ベロンの頑固さを知っているバルデダルとしては驚かざるを得なかった。

「…………冒険者としてもう限界なのは感じていた。あんたがいるから続けてきたけど……確かに無理かもしれないとは思ってたんだ。商人に雇われるってことはどういうことなのかよく分かってないけど、俺でよかったら使ってくれ。ベロン、あんたの下でなら働いても悪くなさそうだ。腕も一本ないし……雇ってもらえるだけありがたいよ」

「デムソ……分かった」

 デムソ自身タンクとしてなんとかやってきたが自分の能力は感じていた。
 弱い魔物相手ならなんとかなっても少し強くなるともうギリギリだったのだ。

 商人の下で働くということがどんなものなのかデムソは分かっていないが、ベロンと共になら悪くないだろうと思えた。

「スダーヌ……実はお前の気持ちに気づいていた」

「えっ? ウソ……」

 ベロンの手は震えている。

「お前の気持ちって何?」

「うるさい、黙って見てれば分かる」

 こそっと話しかけてくるクラインにイースラは怪訝そうな視線を向けた。

「最初から気づいてたんだ……でも俺は何も持ってないし、お前の気持ちを知ってて無視していた。そしてそんな気持ちに甘えてたんだ」

 スダーヌが男をひっかえとっかえしていたのにはわけがあった。

「俺も……お前のことが好きなんだ……だから怖くて言い出せなかった……」

「ベロン……」

 スダーヌの顔が真っ赤になり目には涙をためている。
 実はスダーヌはベロンのことを愛していた。

 告白する勇気もない。
 だからと言って諦めることもできないスダーヌは当てつけのように他の男性と付き合っていたのである。

 回帰前は顔を怪我したためにベロンにそんな姿を見せられないと去ったのだった。

「今こんなことを聞くのはずるいかもしれないが……もし冒険者を辞めて、家に帰るとしたら……ついてきてくれるか?」

「……もちろんよ!」

「…………うわぉ」

 感極まったスダーヌはベロンに抱きつくとキスをした。
 みんなが見ているのにも関わらずちょっとばかり濃厚なやつだった。

 サシャは顔を赤くして顔を逸らし、クラインは逆に釘付けになっている。

「あなたとならどこにでもいくわ!」

「ありがとう、スダーヌ」

 二人はまたしても長くキスを交わす。
 ただここまで来るとベロンの考えも固まったようだなとイースラは感じた。

「ポム」

「……ベロンの兄貴! 俺も……俺も連れてってください!」

 忘れてはならないメンバーがもう一人いる。
 顔を青くしていたポムは名前を呼ばれると同時にベロンの前にひれ伏した。

「頑張りますから! 一生懸命働きますから見捨てないでください!」

 このままだと見捨てられるとポムは思った。
 イースラへの借金もあるし半分残っている借金も返さねばならない。

 この中で冒険者としての才能がもっともないのはポムである。
 ベロンに見捨てられたらポムは生きていけない。

「バカだな……見捨てるはずがないだろう? こんなところで見捨てるぐらいならとっくに追い出してる」

「兄貴……」

 ポムはブワッと涙を流す。
 ポムについてはどうでもいいけれどベロンの優しさを感じてちゃんと働いてくれればいいなと思う。

「イースラ……言われた通りスダッティランギルドは解散しよう。全部お前の言う通りだ。俺たちにはここが限界だった。今ならまだ別の道を進むこともできるんだな」

 仲間たちの意見を聞いてベロンの意思も固まった。
 回帰前ベロンはなんとしても冒険者として実績を残そうと無理をして全てを失った。

 少し無理矢理な誘導だったのかもしれないとは思いつつ実際こうして話してみるとみんなそれぞれ限界を感じていたのだ。
 ついでにスダーヌとベロンの間も取り持つことができた。