「そんな時は編集で無駄なところを削っちゃうんだ」

 イースラは鍋をかき混ぜているシーンを選んで削る。

「こうすると……」

 削る前のところから再生を始めるとお鍋の中の様子がすぐにスープになったところに切り替わった。

「こうやって動画にしたものは編集ができるんだ。そして編集してみやすくしてから他の人が見られるように配信していく」

「へぇ……」

「これをやるためにお金出してちょっといいグレードの配信者登録をしたんだ」

「あっ、あれってそんな意味あったんだ」

 わざわざ高い金を出してまで配信者登録の時にアイアン等級からブロンズ等級に上げたのには理由があった。
 こうした編集など配信に使える機能は配信者の等級が高いほどに色々とできるのだ。

 一番下のアイアン等級だと生配信で垂れ流すことしかできない。
 多くの冒険者はそれでいいと考えているけれどしっかりと編集されて見やすくなった配信は今の段階ならそれだけでも見る人がいる。

「みんな知らないことがいっぱいなんだ。配信ってのはただ戦ってる様子を流せばいいってもんじゃない。いかに見てもらうか、これも大切なんだ」

「なるほど?」

 微妙に理解できていないのかサシャが首を傾げてイースラは微笑む。

「まだこの世界は配信ってものをちゃんと知ってないのさ。王族の暇潰しだった時とはかなり変わった。やり方を工夫すれば今の俺たちでも配信で稼げるんだよ」

「ふぅーん、よく分かんないけど私にできることあったら言ってね」

「もちろんさ。でも……今は俺を信じてついてきてくれるだけでも嬉しいよ」

 色々と受け入れ難いこともあったろう。
 しかしサシャは全て受け入れて信じてくれる。

 そのことだけでもかなりありがたい。
 孤独な戦いなのではないと思えるだけで勇気が湧いてくる。

「それにサシャは今後も配信にメインで出てもらうからな」

「えっ!? まだ出るの?」

「ああ、もちろん」

「イースラやクラインが出ればいいじゃん!」

「俺じゃダメとは言わないけどサシャは可愛いからな」

「はぁっ!?」

 サシャの顔が赤くなる。
 ストレートに可愛いと言われるとどうにも弱い。

「俺が見てる側ならクラインよりもサシャの方を見たいからな」

「おい、聞こえてんぞ」

「お前だって俺が出てるよりサシャの方がいいだろう?」

「また確かにな」

 イースラも顔は悪くない。
 ただ美少女の代わりになるかといえば多分ならない。

 サシャは美少女だし貴族の女の子とはまた違う素直な感じがある。
 見ている側からもウケがいいとイースラは思っている。

 ここは一つサシャにも頑張ってもらわねばならない。

「頼むよ、サシャ! お前しかいないんだって!」

「ぬー……」

 パンと手を合わせてイースラが頭を下げる。
 不純な動機でなく必要だからと言われると断りにくい。

「それにしばらく飯作る配信だからさ! 良いもん食えるから!」

「……じゃあまたこの前みたいな甘いもの食べたい」

「分かった! 食わせてやるから! それに上手くいけばいくらでも食えるぐらいになるよ」

「俺は肉食いてぇな。あの気持ち悪いやつ構えてんのも大変なんだぜ」

「分かったよ。肉だな。どっちももうちょっと待ってくれ」

 そう言ってイースラはまた編集作業に取り掛かる。
 できるなら今日中に作業を終えてしまいたいと思っていた。

「ねえ、イースラ」

「なんだ? 何か気になるのか?」

「……夢で未来のことを見たんだよね」

「ああ」

「夢の中で大人の私はどうだった? イースラと一緒だった?」

「…………美人だったよ。それにいつも一緒にいてくれた」

「……そうなんだ」

 少し答えるまで間があった。
 でもサシャはそれ以上聞かなかった。

 少なくとも大人の自分は美人で、イースラは美人だと思ってくれたんだなと微笑んだ。

「お前ら先寝とけ。どれだけ時間かかるか分からないぞ。明日も朝からご飯作んなきゃいけないしな」

「俺は寝かしてもらうぜ」

「私はもうちょっと見てようかな」

「……好きにしろ」

 イースラはそこから言葉少なく編集作業に集中した。
 時折独り言を呟きながら作業するイースラの横顔をサシャは優しく見つめていた。