「無」能力だけど有能みたいです〜無能転移者のドタバタ冒険記〜②《激闘の章》

 ここはスイラジュンムにあるカッカラ島。ここはネツオン大陸よりも南に位置する島だ。
 この島はリゾート地のようになっている。そうここの住人は殆ど商売人や冒険者とか、ただ遊びに来ている者しかいないのだ。
 因みにこの島には、ダンジョンがあるため冒険者ギルドも存在していた。
 そしてこの島の宿屋には、エリュード・グリフェと擬人化している使い魔のヴァウロイとゴルイド・バルデラとライル・ダヴィスがいる。
 エリュード達は、飲み物をのみながら話をしていた。

 「ネツオン大陸に行ったが、ミスズは既に居なかった」

 そう言いエリュードは、遠くをみつめる。

 「そうなのニャ。洞窟の封印が解けてたし……」
 「そうね。でも、誰があの洞窟の封印を解いたのかしら」
 「ライルちゃんの言う通りだ。それにミスズちゃんは、どこに行ったんだろうな」

 そうゴルイドが言うとエリュードは俯いた。

 「本当にどこに行ったんだ? ……そういえばヴァウロイ、この前……ドラギドラスのことをチラッと話そうとしてやめたよな?」
 「エリュード……そんなこと言ったかなぁ……ハハハハハ……」
 「なんで誤魔化すんだ。そんなに隠さなきゃいけないことなのか?」

 そうエリュードに問われヴァウロイは、下手に話せないことなので困ってしまう。

 「えーっと……ごめん、今は無理ニャ。ご主人様の了解が、まだ出てないのニャ」
 「なるほど、魔族と関係があるってことだな。そうなると、ミスズは……そのドラギドラスに囚われている可能性があるって訳か」
 「分からないニャ。それにドラギドラスの姿で、あの洞窟を出るとも思えないのニャ」

 それを聞きエリュードとゴルイドとライルは、不思議に思い首を傾げる。

 「それって、どういう事なの? まるで姿を変えられて、それが嫌で洞窟に引きこもったみたいじゃない」
 「うん、そんなところニャ。それに以前よりも力を半減されたから余計なのニャ」
 「……なんか凄く嫌な感じだ。もしもそのドラギドラスが、元の姿に戻ったらどうなる?」
 「もしそうなら、大変なのニャ。だから今、ご主人様に確認してもらってるんだニャ」

 そう言いヴァウロイは、エリュードをみる。

 「そういう事か。でも、まだその回答が来ていない」
 「うん、心配だけど……それ以外にも気になることがあるのニャ」
 「気になること?」

 そうエリュードは問い返した。

 「これはご主人様にも話したことなのニャ。あの洞窟で争ったあとがあったんだけど、どちらかといえば強い者同士のように思えたんだニャ」
 「それじゃ……そのドラギドラス以外にも、何者かが居たってことか?」
 「そうなるニャ。だから、それも含めて調べてもらっているのニャ」

 それを聞き三人は、頷き納得する。

 「じゃあ、返答を待つしかないな」
 「そうね……なんか、魔族の手を借りるのは嫌だけど」
 「ああ、でもそれしか手がねぇしな」

 そうゴルイドが言うとエリュードとライルとヴァウロイは頷いた。

 「さて、これからどうする?」
 「エリュード、いつまでもここに居る訳にはいかないわ」
 「ライルちゃんの言う通りだ。いい加減、ここを発った方がいい」

 そうゴルイドに言われエリュードは苦笑する。

 「そうだな……どうも、ここは居心地がよくて動けなくなった」
 「その気持ち、凄く分かるわ」
 「そうか? 退屈だと思うんだが」

 そう言いゴルイドは首を傾げた。
 それからエリュード達は、少し話をしたあと各自の部屋に行き旅支度を済ませる。
 そしてその後エリュード達は、自分たちの船に乗り美鈴を探すため旅立ったのだった。
 ここはスイラジュンムの、遥か北東部に位置する孤島。辺りは、人っ子一人いる気配もないような辺境の地。
 その孤島の北西部に位置する険しい山々の山頂付近には、西洋の城を思わせるこの地に似つかわしくないような建物が立っている。
 その建物内は広く迷ってしまうほどだ。そうここは、ヴァンディロードの屋敷である。

 現在ヴァンディロードは、自室のソファに座り葡萄酒のような色と味のするグルン酒を飲みながら考えていた。

 (ドラギドラス……いや、ドラバルト様があの洞窟から居なくなった。それもミスズとか云う異世界から召喚された勇者と共に、忽然と消息が途絶える。
 気になり他の使い魔にマグドラスの所へ向かわせたが……。
 ミスズがドラバルト様にかけられた術を解いたうえに、洞窟の封印をも解除するとは……。
 それもドラバルト様は、術を解く際にその影響でミスズのしもべとなっている。うむ、そういえばミスズはスイクラムを恨んでいたな。これは……面白い)

 そう考えるとグルン酒を口に含みその余韻に浸っている。

 (……そうだな。ドラバルト様は、確か竜人の里に向かったと言っていた。そうなると、何もなければ既に着いているはず。このことを一応、ヴァウロイに連絡しておくか)

 そう思い左腕にはめている腕輪の黒い石に人差し指と中指を添え小さく魔法陣を描いた。その後、ヴァウロイへと繋いだ。
 そしてヴァンディロードは、数分間ヴァウロイの返答を待つが何も返ってこない。

 「……何をやっておるのだ?」

 そう言い少しの間、ヴァウロイを待っていた。


 ――場所は、エリュード達の船の中に移る――

 ここは船室。エリュード達は、ここで話をしていた。
 因みに船の操縦は、専属を二人雇っていて交代で行っている。

 現在ヴァウロイは、エリュード達と話している途中で腕輪が発光したため慌てていた。

 「あーえっと……ご主人様から連絡なのニャ。だから別の所で話してくるニャ」
 「ヴァウロイ、なんでここじゃ駄目なんだ?」

 そう言いエリュードは、ヴァウロイを凝視する。

 「……前も言ったけど、まだ許可をもらっていないから無理なのニャ」
 「なるほど……いつ許可がもらえる?」
 「そんなの分からないのニャ」

 ヴァウロイはそう言い船室を出て別の所に向かった。

 「だけど、本当にヴァウロイのご主人様って誰なのかしら」
 「そうだな……魔族やそれに加担していたヤツが今、残っているっていうと」
 「エリュード……オレの勘だが、ヴァンディロードあたりじゃねぇのか」

 ――鋭い……。

 「んー……それはあり得るな。ヴァンディロードは警戒心が強い。そのため力があっても、自ら表舞台にでないヤツだ。まあ頭がいいんだろうがな」
 「そうね。でも、そうとも限らないわ。他にも、魔族以外に魔王を崇拝している者はいるから」
 「ああ、そうだな。とにかく用心はしておこう。ヤツラにいいように利用されないように」

 そうエリュードが言うとゴルイドとライルは、コクッと頷く。
 そしてその後もエリュード達は、ヴァウロイが戻ってくるまで話をしていた。
 ここは船内の部屋ではあるが、エリュード達の居る所と違う船室である。
 あれからヴァウロイはここにくるなり、急ぎヴァンディロードとの通信を繋いだ。

 「遅くなり、申し訳ありません」
 「ヴァウロイ、何かあったのか?」
 「いえ、何もありませんが……ただエリュード達と一緒でしたので他の部屋に移動していました」

 そう言いヴァウロイは、軽く頭を下げる。

 「そうか……まあいい。それはそうと、ドラバルト様の行方が分かった」
 「それは本当なのですか?」
 「ああ、使い魔のキャルネにマグドラスの所まで行かせた」

 それを聞きヴァウロイは小首を傾げた。

 「マグドラスと、どういう関係があるのですか?」
 「ヴァウロイ、ドラバルト様の居た洞窟をみた際に……何者かと戦った形跡があったと言ったな?」
 「はい、洞窟内がかなり崩れていましたので」

 そう言うもヴァウロイは、ヴァンディロードの言いたいことが理解できず困惑している。

 「だから、もしかしたらマグドラスが知っているのではと思ったのだ」
 「あーなるほど……そういう事なのですね。それでドラバルト様は、どこに居られるのですか?」
 「マグドラスの話では、竜人の里ドドリギアにミスズと向かったらしい」

 それを聞きヴァウロイは、ホッとした。

 「じゃあ、ドドリギアに向かえばいいのですね」
 「ああ、そうなるな。だが、気になることをマグドラスが言っていたらしい」
 「それは……いったい?」

 そう聞かれヴァンディロードは、そのことについて話し始める。

 「……そうなるとドラバルト様は、ミスズのおかげでドラギドラスから元の姿に戻った。だけどその影響で、ミスズのしもべになっている」
 「そういう事だ。それともう一つ……ミスズを助けた者がいる」
 「それは、いったい誰なのですか?」

 そう言いヴァウロイは首を傾げる。

 「ファルスとか云うヒュウーマンらしい。だが、マグドラスの話では神の臭いがしたと」
 「どういう事でしょうか? その者がもし女神スイクラムと関わりのある者であれば」
 「ああ、なぜミスズを助けたのか気になる。それとミスズに守護精霊がついた」

 それを聞きヴァウロイは驚いた。

 「それは本当ですか?」
 「うむ、偶々レベルが上がり守護精霊が出現したようだ。まぁそのおかげで、ドラバルト様は元の姿に戻られたのだがな」
 「そうですか。じゃあ現在、ミスズのそばにはドラバルト様以外……そのファルスと守護精霊が居る訳ですね」

 そう言いヴァウロイは真剣な表情になる。

 「そうなるな……それでだ。そのファルスが何者かを探れ。コッチでも調べはするが、何か引っかかる。それに最近、スイクラムにみられていないような変な感じがするのでな」
 「そういえば……確かに、異常じゃないかと思うほどに暑い。ネツオン大陸から出てきたはずなのに……それに、水も減っているような気がします」
 「なるほど……それはおかしい、この世界は水が豊富なはずだ」

 そう言いヴァンディロードは考えた。

 「そうだな……そのことについても調べた方がいいか」
 「はい、承知いたしました」

 それを聞きヴァンディロードは、更にヴァウロイに他の指示もだす。
 そしてその後ヴァウロイは、ヴァンディロードとの通信を切りエリュード達の所に戻っていった。
 ここはエリュード達の居る船室。
 あれからヴァウロイは、ここに来ていた。

 そして現在ヴァウロイは、エリュード達と話をしている。そう話せることだけをエリュード達に伝えたのだ。

 「なるほど、ミスズは竜人の里に向かったのか。それも既に着いている可能性が高い」

 そう言いながらエリュードは、ピクピクと顔を引きつらせている。

 「……それだけじゃない。かつて魔王テルマの右腕と云われた四帝の一人、ドラバルトが生きていた。それも今は、ミスズと一緒にいる」
 「そうだけど、心配いらないのニャ」
 「その根拠はなんだ? 相手は凶悪な竜人だぞ!」

 それを聞きヴァウロイは首を横に振った。

 「ドラバルト様は、見た目と発言とか怖いけどニャ。他の四帝よりは真面なのニャ」
 「ほう……なるほど、だが会ってみないことには信用できねえな」
 「そうね……でも、アタシが昔に聞いた話だけど。四帝の中でドラバルトは、最強だったにも拘らず……悪い噂を聞いてないのよね」

 そう言いながらライルは思い返している。

 「確かに、ライルちゃんの言う通りだ。死んだと噂が流れたあとだが、それを悲しむ者たちもいたらしい」
 「ゴルイド……それは魔族やソイツラに加担してた者たちだろ?」
 「いいんや、違う……これは聞いた話だ。それ以外の者の中には、ドラバルトに助けられたと言ってるヤツもいたみてぇだな」

 それを聞きエリュードは、難しい顔をした。

 「どうなってる? じゃあ、なんで魔王なんかに加担したんだ」
 「簡単ニャ。ドラバルト様は、情に厚く情け深いのと単純だからなのニャ」
 「単純……ってことは、馬鹿ってことか?」

 そう言いエリュードは、ヴァウロイに視線を向ける。

 「馬鹿……って、まあ……それをいうなら戦闘馬鹿かもしれないニャ」
 「なるほど……そのせいもあって魔王側についたってことだな」
 「うん、そんなところなのニャ」

 ヴァウロイはそう言うも冷や汗をかいていた。そうドラバルトの耳に入ったら、ただじゃすまないからである。

 「あ、それとミスズと一緒にいるのはドラバルト様だけじゃないニャ」
 「他にもいるって……どういう事だ?」

 そう言いエリュードは首を傾げた。
 そう問われヴァウロイは、ファルスとミィレインのことを話す。

 「それじゃあ、ミスズは守護精霊がついたのね。それなら少しは安心かもしれない」
 「ああ、守護精霊は女神側だからな。ただもう一人の方だ。ファルス……いったい何者なんだ?」
 「ボクも知らないのニャ。ただ聞いた話じゃ、神と何か関係する者かもって言ってたニャ」

 それを聞きエリュードは思考を巡らせる。

 「……女神とか。もしそうなら、今のところミスズは大丈夫かもな」
 「ええ、でも確証はないけどね」
 「それでも……ミスズちゃんに危害を加える要素がすくねぇならいいんじゃねぇのか」

 そうゴルイドが言うとエリュードとライルとヴァウロイは頷いた。

 「とりあえずは、ミスズがドドリギアに滞在している間に辿り着かないとな」

 そう言いエリュードは遠くをみつめる。
 そしてその後もエリュード達は話をしていたのだった。
 ここは竜人の里ドドリギア。その里の西側には、蔵が数軒建っている。そして奥の方には、一軒の古びた家が建っていた。
 その建物内には、五名の男女がいる。だが黒ずくめの服と覆面をしていた。

 「……ドラバルトが生きていて、この里に戻って来たって噂は本当なのかしら」
 「それについてなのですが、まだ本人か確証を得ておりません」
 「そのため、闘技大会を久々やるらしいわよ」
 「ああ……そうらしいな。ワシも出たかったが今はやることがある」
 「確かに……今は、女神崇拝者をどうにかせんとな」

 どうやらこの五人は魔王崇拝者のようである。
 その後も五人は話をしていた。


 ――場所は、里長の屋敷に移る――

 ここは屋敷内の美鈴のために用意された部屋。なぜか隣はドラバルトの部屋だ。……まあ親心なのだろうが、余計なお世話だと思う。
 美鈴は荷物の整理をしていた。そうしばらくここに滞在するため、タンスや籠に持ち物を入れていたのである。
 その様子をミィレインは、フワフワ浮ながらみていた。

 「結構、異空間に物が入ってたなぁ。ここにくるまでの間に、色々な物を買ったから……って自業自得かぁ……ハァー……」

 そう言い美鈴は苦笑する。そう必要ない物まで買っていたのだ。

 (そういえば、今頃エリュード達はどうしてるのかなぁ。連絡したいけど……その手段もないし)

 そう思いながら窓の方へ向かった。
 窓までくると美鈴は外の景色を眺める。

 「ここは高いせいか、眺めが良すぎて遠くまでみえる。エリュードはこの世界のどこかにいるんだよなぁ」

 そう言い美鈴は、俯き涙ぐんでいた。


 ――場所は変わり、ドラバルトの部屋――

 その頃ドラバルトは、ベッドに横になり考えごとをしている。

 (父上はなんで急遽ダブルベッドを俺に? いくらなんでも一人じゃ広すぎるんだが。
 それに……どうして隣の部屋が美鈴なのだ? んー……それも隣には扉を開ければすぐに行ける。これでは、ミスズを…………いや……ハハハハハ……)

 何を馬鹿なことを考えてるんだと、ドラバルトは妄想を掻き消した。

 (そうだな。俺はミスズのしもべとなった……護る義務がある。そうなれば、近くにいた方がいい……そういう事だ)

 そう解釈することにする。

 (さて、三日後か……久々に腕がなる。だが……少し体を動かしてくるか? 大会までには、体をつくっておいた方がよさそうだ)

 自分の体をみながらそう思った。
 その後ドラバルトは部屋を出ると、屋敷内にある道場のような場所に向かう。


 ――場所は、里内にある広場に移る――

 この広場には、カップルが多く来ていた。
 それを羨ましそうにゴライドルは、木の椅子に座りみている。

 (今日はいつもより、カップるが多い気がする。ハァー……まあそんなことはいいか。
 それよりも……里長のあの様子だと、やっぱり本物のドラバルトだよな。
 でもそれを証明するために、闘技大会を三日後に開く……まぁ俺たちが言ったんだけどな。恐らく余裕でドラバルトが勝つだろう。
 ……それならそれでいい。だが、あのミスズとか云うヒューマン……いったい何者だ? 守護精霊を連れているってことは女神と関係があるのか……)

 そうこう考えていた。

 「まぁ大会後に、何か分かるだろう」

 そう言い立ち上がる。
 そしてその後、ゴライドルは歩き出した。
 ここはスイラジュンムの最も南西に位置する名もなき孤島。この島は険しい山々が多く、町や村など存在しない。だが、大きな神殿が高台に建っている。
 その神殿の周囲には、小さいながら宿舎や店が建っていた。
 その神殿の入口付近に二人の男性が立っている。……何やら揉めているようだ。

 「ハウゼル、待ってください!」

 そう言い聖職者が着るような服装の水色の髪の男は、ハウゼルと云う聖職者風のイケメンを長い髪をなびかせながら追いかける。

 この男性はカラン・スイラム、二百二十二歳。そう人間ではなく、水天族と云う種族だ。……どちらかと云えば天使に近い存在である。
 透明感のある水色の長いサラサラした髪は風になびくと、まるで鱗粉を周囲にまくようにみえた。
 それだけではない。少年のような優しい表情と透明感のある肌。それらは明らかに人でないことが分かるほどである。

 その声に反応しハウゼルは振り返った。

 「カラン、来るな! 女神スイクラム様の声が聞こえなくなった。それに……このところ、暑さが増すだけではなく。この世界は水が豊富のはずなのに減っている」

 そう言いながらハウゼルは遠くをみつめる。

 この男性はハウゼル・スイクゼエム、二百二十六歳で水天族だ。
 ピンクが混ざった若干濃い水色の全体的に透明感ある長い髪を部分的に編み込んでいる。
 キツい目つきだが透明感のある肌のせいなのか、元々優しい性格のせいなのか人相は悪くない。

 因みになぜ聖職者風なのかと云うと、明らかに普通の聖職者の着る服よりも派手だからである。
 その聖職者服は、キラキラと光って何色にもみえるようなパステルカラー。どうみても、普通の聖職者にはみえない。
 そうこの二人は……いや水天族自体、最もスイクラムと近い存在なのだ。
 水天族の年齢は、最高で何千歳と超える者もいるほどである。そう魔族や竜人族並みに長生きだ。
 因みに他種族の中にはそのぐらい長生きをする者もいる。そしてエルフもその中に入るのだ。……って、エリュードはまだ子供ってことか? まあいいか……。

 そう言われカランは、つらい表情を浮かべた。

 「ええ、でも……だからって……。ハウゼルがそれを探るために、この地を離れるのはおかしいです」
 「カラン、俺たちの役目はなんだ?」
 「スイクラム様の代わりにこの世界の管理をすること。そうだとしても、他にも適任者はいます!」

 それを聞きハウゼルは、首を横に振る。

 「いたとしても上が動かない。だから俺がやるしか……それに上の許可も得てる」
 「……分かりました。では、待っていてください……僕も許可を得てきますので」
 「まさか、カランもついてくるつもりか?」

 そうハウゼルが問うとカランは頷いた。

 「勿論です……ハウゼルだけでは、心配ですので」

 そう言いカランは許可をもらいに上層部へと向かう。
 それをみてハウゼルは、ハァーっと溜息をついている。

 (心配しているのは本当だろう。だがあの様子では、半分遊びだな)

 そう思うと苦笑した。
 その後ハウゼルは、カランが戻ると旅支度をするため二人で宿舎に戻る。
 そして二人は旅支度が終わると、この地を発ったのだった。
 ここはこの世界の南西側に位置するキスライ大陸。その東北東の海岸沿いにあるミツズユの町だ。この町は海沿いだが陸側を森に囲まれている。
 人口はそれほど多い訳ではなく、殆ど商売人である。そして他は、冒険者などの旅人が居るぐらいだ。

 そしてこの町のカフェのような所には、カイト・ホロウと神官セリア・ヒキャンがテーブル席に座り飲み物を飲みながら海を眺めている。

 「なぁセリア、オレっていつ元の世界に帰れるんだろうな」
 「カイト……やはりそれは、復活するかもしれない魔王を倒してからだと思いますよ」
 「ハァー……そうだよな。そういえば、あれから何も女神のお告げとかないのか?」

 そう問われセリアは首を横に振った。

 「何度か立ち寄った町や村の神殿でお祈りをしたのですが……なんの反応も」
 「そうか。何が起きたのか分からないが、とりあえずやるべきことをしないとな」
 「ええ、そうですね。それで今日はここに泊まるとして、今後どこに行きましょうか?」

 そう言いセリアはカイトへ視線を向ける。

 「そうだな……地図をみて判断するか」
 「そうですね。それにここは、全く知らない大陸ですし」

 そう言いながらセリアは、バッグの中から地図を取り出しテーブルに置いた。

 「んー……ここから近い町か村だと、セセハルギの村か」
 「そうですね。じゃあ、この村に向かってみましょう。それと今日は、町を歩いて情報集めや買い物をした方がいいですよね?」
 「そうだな……そうしよう」

 カイトはそう言い立ち上がり歩きだす。
 それをみてセリアは地図をバッグに仕舞うと、カイトのあとを追った。


 ――場所は、竜人の里ドドリギアに移る――

 ここは里長の屋敷にある道場。
 現在ここにはドラバルトとファルスがいた。
 そうあれからドラバルトは、一人よりも二人でやった方が効率がいいと思いファルスを誘ったのである。

 「ほう……こんな所があるのか」
 「ああ、昔はよくここで稽古をしていた」
 「稽古……そうか」

 ファルスは稽古自体なんなのか理解していなかった。しかし、聞かない方がいいと思いやめる。
 その後ドラバルトとファルスは、体をほぐしたあと対戦をすることにした。

 「ここには二人いる。それならこの方がいいだろ?」
 「ああ……オレはそれでいい」
 「じゃあ、始めるか!」

 そう言いドラバルトは、素早くファルスの懐に入る。
 それに気づきファルスは、ドラバルトに体を掴まれそうになり避けた。と同時に、ドラバルトの腕を掴んだ。するとそのままドラバルトの腹を思いっきり蹴る。

 「グハッ!!」

 蹴られドラバルトは、バタンッと床に倒れた。

 「これで終わりか?」
 「ファルス……まだに決まってるだろっ!」

 そう言い立ち上がるとドラバルトは、唇についている血を手で拭いファルスを見据える。
 そしてその後もドラバルトは、余程嬉しいらしく疲れるまでファルスと対戦していたのだった。
 ここはこの世界の南西部にあるカーカイル大陸。この大陸の西側に大きな湖があって、その真ん中にオルパイルの町はある。
 そして人口は約一千万人いると云われているが、実際どうだか定かではない。

 この町の庭園では、男女が長椅子に座り話をしていた。
 男の方はどうみてもこの世界の者ではない。
 そう美鈴のようにこの世界に召喚された者だ。

 葉豆(はず)(れん)、十八歳。美鈴が召喚される数分前にこの世界に来ている。と云っても、本来なら元の世界に帰れるはずだった。
 だが、スイクラムが誤ってスイラジュンムに転移させたのである。
 そのため自力で元の世界に帰る方法を探しながら旅をしていた。
 能力は【ハズレ】であり、どんな攻撃でも自分にあたらない超レアなスキルなのだ。
 だが、その能力に気づいていても【ハズレ】と云う能力だとは思っていない。

 ※無駄情報:因みに連は、短編の主人公だ。

 連の隣に座っている女性はファーサシャ・リバルド、耳長の獣人族である。年齢は不詳でいいだろう。
 髪は紺色でツインテール。左がハートで右の方は星の飾りがついたリボンをしている。そして可愛い巨乳系だ。
 見た目そうは思えないが、かなりの剣の腕前である。

 二人は一ヶ月一緒にここまで旅をしてきた。

 「ファーサシャ、もう一ヶ月かぁ」
 「うん……だけどレンは、まだ元の世界に帰る方法がみつからないんだよね」
 「ああ……それに俺がこの世界にいなきゃいけない理由って、なんなのか分からないんだよな」

 そう言い連は、遠くをみつめる。
 そうこう話をしていると二人組の男が連とファーサシャの方へ近づいてきた。

 「おい……可愛い獣人を連れて気にくわねぇ!」

 ガタイのいい金髪の男はそう言い連を睨みつける。

 「はあ? 確かにファーサシャは可愛いですよ」

 そう連が返すと二人組の男は、ピクピク顔を引きつらせた。

 「馬鹿にしてんのか?」

 そう言い小太りで銀髪の男は、連に殴りかかる。
 それをみても連は、微動だにせず動かなかった。
 ファーサシャも何もしようとせず、ニコニコとしている。

 そう……このあと銀髪の男が、どうなるか分かっていたからだ。

 連に殴りかかろうとした直後、空から大きな岩が銀髪の男へ向かい降ってきた。
 それに気づくも銀髪の男は、回避することができずに地面に倒れ血を流し気絶する。

 (なるほど……今日は岩か)

 そう思い連は地面に倒れている銀髪の男をみた。

 「てめえ、何をした!?」
 「別に何もしてないけど……」

 それを聞き腹がっ立った金髪の男は、ナイフを取り出し連に斬りつけようとする。

 「あっ、俺……し~らないっと」
 「あらら……どうなっても、アタシ達はなんもしてないもんねぇ」

 それを聞き不思議に思うも、金髪の男はそのまま連をナイフで刺そうとした。
 すると凄く斬れそうな形の大きな岩が、金髪の男の左腕に勢いよく降ってくる。

 「うわぁぁぁぁぁぁぁ……」

 金髪の男はそう叫び持っていたナイフを落とした。それと同時に、左肩を押え蹲る。そう、左腕が切断されていたからだ。
 ……連の能力は一ヶ月で、かなりパワーアップしているようである。

 「ハァー……流石にキツイな」
 「うん、そうだね。どうする?」
 「仕方ない……誰か呼んできてくれるか?」

 そう言われファーサシャは頷いた。その後、近くに居た人に聞いて歩き手伝ってもらえる者をみつけてくる。
 そして連とファーサシャは、手伝ってくれる数名と二人組の男を医療施設へ連れて行った。
 ――……三日後。

 ここは竜人の里ドドリギアの南東部に位置する山間にある闘技場だ。
 この闘技場には、里内から出場者と観客が集まって来ている。
 勿論ドラバルトとファルスも、既に受付を済ませ控室にいた。
 因みに美鈴とミィレインは、観客席にいる。

 そしてここは、男性出場者の控室。
 ドラバルトとファルスは話をしていた。

 「いよいよだな。ファルス、ルールは把握したよな?」
 「ああ、多分大丈夫だろう。確か魔法や武器の使用は禁止だったな」
 「そういう事だ。飽くまで力比べだからな」

 そう言いドラバルトは、控室の覗き窓から会場をみる。

 「ここにくるのは、いつぶりだろうか。俺はここに居るのが嫌で里を出たからな」
 「そうか……こんなに自然が豊かでいい場所なのに、オレには理解できん」

 ファルスはそう言いながら覗き窓まできた。

 「まあ、凡人には理解できんのだろうがな」

 それを聞きファルスは苦笑する。

 「そういえば、お前は昔……魔王の配下だったんだよな?」
 「配下……他の者たちからみれば、そうなのだろう。俺は、親友だと思っていた……表向き魔王様と言っていたがな。二人っきりの時は、呼び捨てをする仲だったのだ」
 「そうなると……魔王と一番、近い存在だったという事か?」

 そう問われドラバルトは、コクッと頷いた。

 「多分そうかもしれん。俺は他のヤツらと余り面識がなかった……いや、関わり合うのも嫌だったからな」
 「それは、どういう意味だ?」
 「俺は……特に四帝の三人が好きじゃなかった。ヤツラのしていたことが、余りにも卑劣だったからだ」

 そう言うとドラバルトは、キッと無作為に睨んだ。

 「それじゃ、お前は違うというのか?」
 「違う……断言はできん。俺も、恨まれることをしていたかもしれないからな。だが……自分が正しいと思ったことは貫いてきたつもりだ」
 「なるほど……ミスズのしもべになったのも、それが正しいと思ったからか? それとも元の体に戻りたかっただけか……」

 そう問われドラバルトは、思い返してみる。

 「さて……どうなんだろうな。確かに元の姿に戻りたかった……だが、それだけじゃない気もする。なんか他に違う感情が……あったような気もしないでもない」
 「そうか。それが何か分からないって訳だな。うむ……それも厄介だ」
 「ああ……だがなぜか後悔はしていない、一緒にいて楽しいしな」

 そう言いドラバルトは、目を細め笑みを浮かべた。

 「それはよかった。まあそれが、もしかしたら答えなのかもしれんな」
 「そうだな。それはそうと、ファルスは俺たちと会う前って何をしていたんだ?」
 「あーそ、それか。前にも言ったかもしれんが、オレは別に何もしている訳でもなく……気ままに冒険しているだけだ」

 ファルスはそう言い誤魔化す。

 「そうだったな。そのためなのか分からぬが、お前は強い。本当にヒュウーマンなのかと思ったぐらいだ」
 「強いか……どうなんだろうな」
 「謙遜(けんそん)か? まあ、それがお前のいいところなのかもしれんな」

 そう二人の話は大会が始まるまで延々と続いていたのだった。