ここは里長の屋敷。
 里長の屋敷は、ドドリギアの里の北東にある高く聳える石山の上に建っている。
 あれから美鈴たちは、この屋敷に案内された。
 因みにここまでは、空から来たのである。そう美鈴はセルジギスで、ファルスがガゼドラグに体を掴まれ運ばれた。
 ドラバルトとミィレインは、空を飛べるため自分の力でここにくる。
 そして美鈴は里長の屋敷に降りたった直後、吐きそうになった。だが、なんとか堪える。

 現在、美鈴たちは里長の仕事部屋で話をしていた。
 勿論ここには、ゴライドルとセルジギスとガゼドラグもいる。

 「……理由は分かった。そうか……だが、それを真に信用することもできぬ」

 そう里長は言い、真剣な表情でドラバルトを見据えた。

 この男性はマルバルト・バッセル、年齢不詳だが遥かにドラバルトよりも上である。そうドラバルトの父親なのだ。
 髪の色は似ているが、綺麗に三つ編みを一つに結っている。どちらかと云うと、優しい顔だちだ。

 そう言われドラバルトは、複雑な心境に陥る。

 「里長、これは提案なのですが……闘技大会を開いて頂けませんか?」
 「ゴライドル……うむ、確かにその方が良いかもしれん。だがその前に……このドラバルトと名乗る者と二人っきりで話をしたい」

 それを聞きここに居る者たちは不思議に思った。

 「なぜでしょうか? それに二人っきりになるのは危険かと」
 「セルシギス、心配ない。そこまで、俺は弱くないからな」

 そう言われセルシギスは、それ以上言えば怒り出すと思い渋々納得する。

 「では、他の者たちをどうしたら?」

 そうガゼドラグが問うとマルバルトは、美鈴たちを別室に案内すると言った。
 その後マルバルトは、使用人に言い美鈴たちを客室に案内させる。そしてゴライドルとセルシギスとガゼドラグには、屋敷の外で待てと指示をだした。
 その時美鈴は、ドラバルトのことが心配になり後ろ髪をひかれながら部屋をでる。
 他の者が居なくなったことを確認するとマルバルトは、目を潤ませながらドラバルトをみた。

 「ドラバルト……よく戻ってきた」
 「父上……まさか、分かっていたのか?」

 そう親が子供を見間違うまでもなく、この部屋に入って来た時から気づいていたのだ。

 「フッ、子供のことが分からぬ親が居ると思うのか?」
 「確かに……だが、なんであんなことを?」
 「建て前だ。それにお前も、その方がいいと思ったからな」

 そう言われドラバルトは、どういう事だと考える。

 「んー……言っていることが分からない」
 「相変わらず戦いのこと以外は、駄目なようだ。まあそのせいでお前は、この里を出て自分の力を大いに振るうことのできる場所に居たのだろうからな」
 「はあ……だが、今はその居場所もなくなった」

 ドラバルトはそう言い、キッと床の一点を睨みみた。

 「ああ……だがまさか、お前が珍獣に姿を変えられた。そのうえ、洞窟に封印されていたとはな」

 そう言いマルバルトは、腹を抱え笑いだす。

 「笑わないでください! あんな生き物に変えられ、何度も死んだ方がマシだと思ったことか」
 「そうか……だが死ねなかったか。まあ、そのお陰でお前はここに戻ってくることができた」
 「はい、一生ここには戻れないと思っていた。それもこれも、ミスズがあの洞窟に転送されてこなければ叶わぬことだったのだ」

 それを聞きマルバルトは、考えながらドラバルトを見据える。

 「ミスズか……先程のヒュウーマンの女だな。いや、お前の話では女神に召喚された勇者だったか」
 「ああ、さっきも言ったが……ミスズは女神に殺されかけている」
 「うむ……だが、それを運よく助けられた。余程、強運の持ち主のようだな」

 そう言われドラバルトは頷く。

 「俺は……ミスズに賭けることにした。それに恩もある」
 「それだけか? まあお前のことだ、自分の気持ちに気づいていないと思うがな」
 「何が言いたいのですか?」

 そうドラバルトが聞くとマルバルトは、ハァーっと溜息をついた。

 「まあそのことは、自ずと分かるようになるだろう。それよりも、これからどうするつもりだ?」
 「父上には俺だという事が理解してもらえた。だがそうだとしても……」
 「そうだな。里の者やこの里で商売している者に、本物だと理解してもらう必要があるだろう。そうなるとゴライドル達が言うように闘技大会を開いた方がいい」

 それを聞きドラバルトは、コクッと頷く。
 そしてその後もドラバルトとマルバルトは、色々と話をしていたのだった。