「無」能力だけど有能みたいです〜無能転移者のドタバタ冒険記〜②《激闘の章》

 ここは竜人の里ドドリギア。その里の西側には、蔵が数軒建っている。そして奥の方には、一軒の古びた家が建っていた。
 その建物内には、五名の男女がいる。だが黒ずくめの服と覆面をしていた。

 「……ドラバルトが生きていて、この里に戻って来たって噂は本当なのかしら」
 「それについてなのですが、まだ本人か確証を得ておりません」
 「そのため、闘技大会を久々やるらしいわよ」
 「ああ……そうらしいな。ワシも出たかったが今はやることがある」
 「確かに……今は、女神崇拝者をどうにかせんとな」

 どうやらこの五人は魔王崇拝者のようである。
 その後も五人は話をしていた。


 ――場所は、里長の屋敷に移る――

 ここは屋敷内の美鈴のために用意された部屋。なぜか隣はドラバルトの部屋だ。……まあ親心なのだろうが、余計なお世話だと思う。
 美鈴は荷物の整理をしていた。そうしばらくここに滞在するため、タンスや籠に持ち物を入れていたのである。
 その様子をミィレインは、フワフワ浮ながらみていた。

 「結構、異空間に物が入ってたなぁ。ここにくるまでの間に、色々な物を買ったから……って自業自得かぁ……ハァー……」

 そう言い美鈴は苦笑する。そう必要ない物まで買っていたのだ。

 (そういえば、今頃エリュード達はどうしてるのかなぁ。連絡したいけど……その手段もないし)

 そう思いながら窓の方へ向かった。
 窓までくると美鈴は外の景色を眺める。

 「ここは高いせいか、眺めが良すぎて遠くまでみえる。エリュードはこの世界のどこかにいるんだよなぁ」

 そう言い美鈴は、俯き涙ぐんでいた。


 ――場所は変わり、ドラバルトの部屋――

 その頃ドラバルトは、ベッドに横になり考えごとをしている。

 (父上はなんで急遽ダブルベッドを俺に? いくらなんでも一人じゃ広すぎるんだが。
 それに……どうして隣の部屋が美鈴なのだ? んー……それも隣には扉を開ければすぐに行ける。これでは、ミスズを…………いや……ハハハハハ……)

 何を馬鹿なことを考えてるんだと、ドラバルトは妄想を掻き消した。

 (そうだな。俺はミスズのしもべとなった……護る義務がある。そうなれば、近くにいた方がいい……そういう事だ)

 そう解釈することにする。

 (さて、三日後か……久々に腕がなる。だが……少し体を動かしてくるか? 大会までには、体をつくっておいた方がよさそうだ)

 自分の体をみながらそう思った。
 その後ドラバルトは部屋を出ると、屋敷内にある道場のような場所に向かう。


 ――場所は、里内にある広場に移る――

 この広場には、カップルが多く来ていた。
 それを羨ましそうにゴライドルは、木の椅子に座りみている。

 (今日はいつもより、カップるが多い気がする。ハァー……まあそんなことはいいか。
 それよりも……里長のあの様子だと、やっぱり本物のドラバルトだよな。
 でもそれを証明するために、闘技大会を三日後に開く……まぁ俺たちが言ったんだけどな。恐らく余裕でドラバルトが勝つだろう。
 ……それならそれでいい。だが、あのミスズとか云うヒューマン……いったい何者だ? 守護精霊を連れているってことは女神と関係があるのか……)

 そうこう考えていた。

 「まぁ大会後に、何か分かるだろう」

 そう言い立ち上がる。
 そしてその後、ゴライドルは歩き出した。
 ここはスイラジュンムの最も南西に位置する名もなき孤島。この島は険しい山々が多く、町や村など存在しない。だが、大きな神殿が高台に建っている。
 その神殿の周囲には、小さいながら宿舎や店が建っていた。
 その神殿の入口付近に二人の男性が立っている。……何やら揉めているようだ。

 「ハウゼル、待ってください!」

 そう言い聖職者が着るような服装の水色の髪の男は、ハウゼルと云う聖職者風のイケメンを長い髪をなびかせながら追いかける。

 この男性はカラン・スイラム、二百二十二歳。そう人間ではなく、水天族と云う種族だ。……どちらかと云えば天使に近い存在である。
 透明感のある水色の長いサラサラした髪は風になびくと、まるで鱗粉を周囲にまくようにみえた。
 それだけではない。少年のような優しい表情と透明感のある肌。それらは明らかに人でないことが分かるほどである。

 その声に反応しハウゼルは振り返った。

 「カラン、来るな! 女神スイクラム様の声が聞こえなくなった。それに……このところ、暑さが増すだけではなく。この世界は水が豊富のはずなのに減っている」

 そう言いながらハウゼルは遠くをみつめる。

 この男性はハウゼル・スイクゼエム、二百二十六歳で水天族だ。
 ピンクが混ざった若干濃い水色の全体的に透明感ある長い髪を部分的に編み込んでいる。
 キツい目つきだが透明感のある肌のせいなのか、元々優しい性格のせいなのか人相は悪くない。

 因みになぜ聖職者風なのかと云うと、明らかに普通の聖職者の着る服よりも派手だからである。
 その聖職者服は、キラキラと光って何色にもみえるようなパステルカラー。どうみても、普通の聖職者にはみえない。
 そうこの二人は……いや水天族自体、最もスイクラムと近い存在なのだ。
 水天族の年齢は、最高で何千歳と超える者もいるほどである。そう魔族や竜人族並みに長生きだ。
 因みに他種族の中にはそのぐらい長生きをする者もいる。そしてエルフもその中に入るのだ。……って、エリュードはまだ子供ってことか? まあいいか……。

 そう言われカランは、つらい表情を浮かべた。

 「ええ、でも……だからって……。ハウゼルがそれを探るために、この地を離れるのはおかしいです」
 「カラン、俺たちの役目はなんだ?」
 「スイクラム様の代わりにこの世界の管理をすること。そうだとしても、他にも適任者はいます!」

 それを聞きハウゼルは、首を横に振る。

 「いたとしても上が動かない。だから俺がやるしか……それに上の許可も得てる」
 「……分かりました。では、待っていてください……僕も許可を得てきますので」
 「まさか、カランもついてくるつもりか?」

 そうハウゼルが問うとカランは頷いた。

 「勿論です……ハウゼルだけでは、心配ですので」

 そう言いカランは許可をもらいに上層部へと向かう。
 それをみてハウゼルは、ハァーっと溜息をついている。

 (心配しているのは本当だろう。だがあの様子では、半分遊びだな)

 そう思うと苦笑した。
 その後ハウゼルは、カランが戻ると旅支度をするため二人で宿舎に戻る。
 そして二人は旅支度が終わると、この地を発ったのだった。
 ここはこの世界の南西側に位置するキスライ大陸。その東北東の海岸沿いにあるミツズユの町だ。この町は海沿いだが陸側を森に囲まれている。
 人口はそれほど多い訳ではなく、殆ど商売人である。そして他は、冒険者などの旅人が居るぐらいだ。

 そしてこの町のカフェのような所には、カイト・ホロウと神官セリア・ヒキャンがテーブル席に座り飲み物を飲みながら海を眺めている。

 「なぁセリア、オレっていつ元の世界に帰れるんだろうな」
 「カイト……やはりそれは、復活するかもしれない魔王を倒してからだと思いますよ」
 「ハァー……そうだよな。そういえば、あれから何も女神のお告げとかないのか?」

 そう問われセリアは首を横に振った。

 「何度か立ち寄った町や村の神殿でお祈りをしたのですが……なんの反応も」
 「そうか。何が起きたのか分からないが、とりあえずやるべきことをしないとな」
 「ええ、そうですね。それで今日はここに泊まるとして、今後どこに行きましょうか?」

 そう言いセリアはカイトへ視線を向ける。

 「そうだな……地図をみて判断するか」
 「そうですね。それにここは、全く知らない大陸ですし」

 そう言いながらセリアは、バッグの中から地図を取り出しテーブルに置いた。

 「んー……ここから近い町か村だと、セセハルギの村か」
 「そうですね。じゃあ、この村に向かってみましょう。それと今日は、町を歩いて情報集めや買い物をした方がいいですよね?」
 「そうだな……そうしよう」

 カイトはそう言い立ち上がり歩きだす。
 それをみてセリアは地図をバッグに仕舞うと、カイトのあとを追った。


 ――場所は、竜人の里ドドリギアに移る――

 ここは里長の屋敷にある道場。
 現在ここにはドラバルトとファルスがいた。
 そうあれからドラバルトは、一人よりも二人でやった方が効率がいいと思いファルスを誘ったのである。

 「ほう……こんな所があるのか」
 「ああ、昔はよくここで稽古をしていた」
 「稽古……そうか」

 ファルスは稽古自体なんなのか理解していなかった。しかし、聞かない方がいいと思いやめる。
 その後ドラバルトとファルスは、体をほぐしたあと対戦をすることにした。

 「ここには二人いる。それならこの方がいいだろ?」
 「ああ……オレはそれでいい」
 「じゃあ、始めるか!」

 そう言いドラバルトは、素早くファルスの懐に入る。
 それに気づきファルスは、ドラバルトに体を掴まれそうになり避けた。と同時に、ドラバルトの腕を掴んだ。するとそのままドラバルトの腹を思いっきり蹴る。

 「グハッ!!」

 蹴られドラバルトは、バタンッと床に倒れた。

 「これで終わりか?」
 「ファルス……まだに決まってるだろっ!」

 そう言い立ち上がるとドラバルトは、唇についている血を手で拭いファルスを見据える。
 そしてその後もドラバルトは、余程嬉しいらしく疲れるまでファルスと対戦していたのだった。
 ここはこの世界の南西部にあるカーカイル大陸。この大陸の西側に大きな湖があって、その真ん中にオルパイルの町はある。
 そして人口は約一千万人いると云われているが、実際どうだか定かではない。

 この町の庭園では、男女が長椅子に座り話をしていた。
 男の方はどうみてもこの世界の者ではない。
 そう美鈴のようにこの世界に召喚された者だ。

 葉豆(はず)(れん)、十八歳。美鈴が召喚される数分前にこの世界に来ている。と云っても、本来なら元の世界に帰れるはずだった。
 だが、スイクラムが誤ってスイラジュンムに転移させたのである。
 そのため自力で元の世界に帰る方法を探しながら旅をしていた。
 能力は【ハズレ】であり、どんな攻撃でも自分にあたらない超レアなスキルなのだ。
 だが、その能力に気づいていても【ハズレ】と云う能力だとは思っていない。

 ※無駄情報:因みに連は、短編の主人公だ。

 連の隣に座っている女性はファーサシャ・リバルド、耳長の獣人族である。年齢は不詳でいいだろう。
 髪は紺色でツインテール。左がハートで右の方は星の飾りがついたリボンをしている。そして可愛い巨乳系だ。
 見た目そうは思えないが、かなりの剣の腕前である。

 二人は一ヶ月一緒にここまで旅をしてきた。

 「ファーサシャ、もう一ヶ月かぁ」
 「うん……だけどレンは、まだ元の世界に帰る方法がみつからないんだよね」
 「ああ……それに俺がこの世界にいなきゃいけない理由って、なんなのか分からないんだよな」

 そう言い連は、遠くをみつめる。
 そうこう話をしていると二人組の男が連とファーサシャの方へ近づいてきた。

 「おい……可愛い獣人を連れて気にくわねぇ!」

 ガタイのいい金髪の男はそう言い連を睨みつける。

 「はあ? 確かにファーサシャは可愛いですよ」

 そう連が返すと二人組の男は、ピクピク顔を引きつらせた。

 「馬鹿にしてんのか?」

 そう言い小太りで銀髪の男は、連に殴りかかる。
 それをみても連は、微動だにせず動かなかった。
 ファーサシャも何もしようとせず、ニコニコとしている。

 そう……このあと銀髪の男が、どうなるか分かっていたからだ。

 連に殴りかかろうとした直後、空から大きな岩が銀髪の男へ向かい降ってきた。
 それに気づくも銀髪の男は、回避することができずに地面に倒れ血を流し気絶する。

 (なるほど……今日は岩か)

 そう思い連は地面に倒れている銀髪の男をみた。

 「てめえ、何をした!?」
 「別に何もしてないけど……」

 それを聞き腹がっ立った金髪の男は、ナイフを取り出し連に斬りつけようとする。

 「あっ、俺……し~らないっと」
 「あらら……どうなっても、アタシ達はなんもしてないもんねぇ」

 それを聞き不思議に思うも、金髪の男はそのまま連をナイフで刺そうとした。
 すると凄く斬れそうな形の大きな岩が、金髪の男の左腕に勢いよく降ってくる。

 「うわぁぁぁぁぁぁぁ……」

 金髪の男はそう叫び持っていたナイフを落とした。それと同時に、左肩を押え蹲る。そう、左腕が切断されていたからだ。
 ……連の能力は一ヶ月で、かなりパワーアップしているようである。

 「ハァー……流石にキツイな」
 「うん、そうだね。どうする?」
 「仕方ない……誰か呼んできてくれるか?」

 そう言われファーサシャは頷いた。その後、近くに居た人に聞いて歩き手伝ってもらえる者をみつけてくる。
 そして連とファーサシャは、手伝ってくれる数名と二人組の男を医療施設へ連れて行った。
 ――……三日後。

 ここは竜人の里ドドリギアの南東部に位置する山間にある闘技場だ。
 この闘技場には、里内から出場者と観客が集まって来ている。
 勿論ドラバルトとファルスも、既に受付を済ませ控室にいた。
 因みに美鈴とミィレインは、観客席にいる。

 そしてここは、男性出場者の控室。
 ドラバルトとファルスは話をしていた。

 「いよいよだな。ファルス、ルールは把握したよな?」
 「ああ、多分大丈夫だろう。確か魔法や武器の使用は禁止だったな」
 「そういう事だ。飽くまで力比べだからな」

 そう言いドラバルトは、控室の覗き窓から会場をみる。

 「ここにくるのは、いつぶりだろうか。俺はここに居るのが嫌で里を出たからな」
 「そうか……こんなに自然が豊かでいい場所なのに、オレには理解できん」

 ファルスはそう言いながら覗き窓まできた。

 「まあ、凡人には理解できんのだろうがな」

 それを聞きファルスは苦笑する。

 「そういえば、お前は昔……魔王の配下だったんだよな?」
 「配下……他の者たちからみれば、そうなのだろう。俺は、親友だと思っていた……表向き魔王様と言っていたがな。二人っきりの時は、呼び捨てをする仲だったのだ」
 「そうなると……魔王と一番、近い存在だったという事か?」

 そう問われドラバルトは、コクッと頷いた。

 「多分そうかもしれん。俺は他のヤツらと余り面識がなかった……いや、関わり合うのも嫌だったからな」
 「それは、どういう意味だ?」
 「俺は……特に四帝の三人が好きじゃなかった。ヤツラのしていたことが、余りにも卑劣だったからだ」

 そう言うとドラバルトは、キッと無作為に睨んだ。

 「それじゃ、お前は違うというのか?」
 「違う……断言はできん。俺も、恨まれることをしていたかもしれないからな。だが……自分が正しいと思ったことは貫いてきたつもりだ」
 「なるほど……ミスズのしもべになったのも、それが正しいと思ったからか? それとも元の体に戻りたかっただけか……」

 そう問われドラバルトは、思い返してみる。

 「さて……どうなんだろうな。確かに元の姿に戻りたかった……だが、それだけじゃない気もする。なんか他に違う感情が……あったような気もしないでもない」
 「そうか。それが何か分からないって訳だな。うむ……それも厄介だ」
 「ああ……だがなぜか後悔はしていない、一緒にいて楽しいしな」

 そう言いドラバルトは、目を細め笑みを浮かべた。

 「それはよかった。まあそれが、もしかしたら答えなのかもしれんな」
 「そうだな。それはそうと、ファルスは俺たちと会う前って何をしていたんだ?」
 「あーそ、それか。前にも言ったかもしれんが、オレは別に何もしている訳でもなく……気ままに冒険しているだけだ」

 ファルスはそう言い誤魔化す。

 「そうだったな。そのためなのか分からぬが、お前は強い。本当にヒュウーマンなのかと思ったぐらいだ」
 「強いか……どうなんだろうな」
 「謙遜(けんそん)か? まあ、それがお前のいいところなのかもしれんな」

 そう二人の話は大会が始まるまで延々と続いていたのだった。
 ここは闘技場の特別観覧席。
 一般観覧席にいた美鈴とミィレインはここに案内される。

 そして現在美鈴とミィレインは、大きな覗き窓から会場を眺めていた。
 周囲には誰も居ない。だが扉の外には警備の者が見張っている。

 「ねぇ、ミィレイン……ここ寂しいよね」
 「そうねぇ。まるで隔離されてる気がするわ」
 「うん、マルバルトさんの話だと……私を護るためって」

 そう言い美鈴は、ミィレインをみた。

 「そうかもしれニャいけど、なんでそうする必要があるのか分からニャいわ」
 「そうだね。それに……聞いても教えてくれなかったし」
 「何か隠してる気がするのよね」

 それを聞き美鈴は、コクリと頷いた。

 「ウチもそう思う」

 そう言い美鈴は扉の方をみる。


 ――場所は移り、ここはマルバルトが居る特別観覧席――

 マルバルトは行ったり来たりと落ち着かない様子だ。

 「サグリヌ……やはり二つの派閥が動き出したか」
 「はい、マルバルト様の指示通り……この三日間仲間と共に女神崇拝派と魔王崇拝派を調べました。その結果、両派閥共に自分たちのアジトに集まっているのを観測しています」

 そう言いサグリヌはマルバルトをみる。

 この竜人族の女性はサグリヌ・ドグカーン、年齢不詳。マルバルトの下て隠密に動いている者だ。他にもサグリヌのような者はいる。
 オレンジ色の長い髪を上でツインお団子にしていた。見た目はキツメである。

 それを聞きマルバルトは、難しい顔になった。

 「なるほど……それで、内容までは分からぬのか?」
 「マルバルト様の予想した通り、魔王崇拝派はミスズの命を狙っている様子です。それと女神崇拝派は、ミスズを引き入れようとしている……」
 「やはり……両派共にミスズの存在に気付いたか。個別特別観覧席に隔離して正解だな」

 そう言い窓の外へと視線を向ける。

 「……だが、もう少し増やした方がいいかもしれんな」
 「では、手配を致しましょうか?」
 「そうだな……気配を悟られぬ者を数名配置させろっ!」

 そう指示されサグリヌは、コクッと頷いた。その後、部屋から出ていく。

 (このことはドラバルト達に知られぬまま処理せねばな。それに女神崇拝派は、ドラバルトを狙ってくる可能性がある。
 恐らく、この闘技大会に刺客を送っているかもしれぬ。まあ、ドラバルトのことは心配いらんと思うが……もしもの時のために見張りをつけといた)

 そう思いながら覗き窓のそばまでくる。
 そしてその後もマルバルトは、色々と考えていた。

 ✶✲✶✲✶✲

 そんなことが起きているとも知れずに美鈴とミィレインは、観覧席で話をしている。

 「考えても分からないね」
 「そうねぇ。今は何も考えニャいで、闘技大会を楽しみましょう」
 「うん、そうだね。そうだ! ドラバルトとファルスって、どっちが強いのかな?」

 そう問われミィレインは、即「ファルス」と答えた。
 それに対し美鈴は「ドラバルト」と返答する。
 そして美鈴とミィレインは、その後「違う」や「そうだ」と言い合いを続けたのだった。
 ここは闘技場。その高所にある物陰に覆面をした五名の男女が会場を見下ろしていた。そう魔王崇拝派の者たちだ。
 この五人の他にもいる。だが活動は、ほぼこの五人でやっていた。

 「いよいよ今日からね。だけどミスズとか云う女は、どこにいるのかしら?」
 「探したがいない。始まる前に、と思ったがな」
 「ホントよねぇ。んー……もしかしたら、アタシ達がしようとしてることバレたのかも」
 「それはあり得るな。そうなると厄介だ」
 「うむ、どうする?」

 そう問いかけられ可愛らしい声の主は考える。

 「手分けして探しましょう。それに……恐らく女神崇拝派も来てるはずですので、ドラバルト様を護らなければいけません」
 「やはり、ドラバルト様で間違いないのか」
 「そうらしいわねぇ。そうでなければ、マルバルト様が警備を強化していないと思うし」
 「ああ、そうなるな。まあドラバルト様ならば、命を狙われたとしても大丈夫だとは思うが……向こうもどんな手段でくるか分からないですからね」
 「元から気は抜いてはおらんが、更に引き締めないとな」

 それを聞き四人は頷いた。
 その後、五人は各持ち場に向かう。


 ――場所は、闘技場の近くにある小さな空き家に移る――

 この空き家の中では、三名の男女が話をしていた。

 「ドラバルトの方はこれでいい……あとはミスズ様を探すだけだ」

 そう言い水色で短い髪の男性は、そう言い目の前の二人をみる。

 この竜人族の男性はモドルグ・ドラセルゼ、年齢不詳。女神崇拝派でありドドリギア支部長だ。

 その後モドルグは、無作為に一点をみつめた。

 「ですが、どこに居るのでしょうか?」

 毛先がピンクで白髪の女性はそう言い首を傾げる。

 この竜人族の女性はモリナ・バドル、年齢不詳。女神崇拝派でありモドルグの配下だ。

 それを聞きモドルグは、思考をめぐらせた。

 (確かにどこにおられるのだろうか? まさか誰かに拉致されているなんてことは…………いや、流石にないな。そうであれば、マルバルト様が動き出すはず)

 そう考えている。

 「モドルグ様、今他の者に探させているのよね?」

 赤髪を一つに束ねている女性はそう問いかけた。

 この竜人族の女性はアネカル・キドレライ、年齢不詳。女神崇拝派でモドルグの配下である。

 そう問われモドルグは、コクッと頷いた。

 「そうなのだがな。こうなったら、我々も手分けして探すしかない」

 それを聞きモリナとアネカルは頷く。その後、二人はここを出て闘技場に向かった。

 (行ったか……それにしても、本当にミスズ様はどこに……考えていても仕方ないか。
 それよりも……女神スイクラム様の声が聞こえなくなったと本部から連絡があった。いったいどういう事なのだ? それから一ヶ月……この地に生きてドラバルトが現れた。
 まさか、これは魔王復活の予兆…………考えすぎであってほしいですね)

 そう考えなおす。そしてその後モドルグは、この空き家を出て闘技場へと向かった。
 ここは闘技場。観覧席には、多いとまでいかないが集まってきていた。
 そして魔道具により、対戦表が空間に浮かび上がる。

 「ほう……これはどういう仕組みなんだ?」
 「ファルス、仕組み的にはよく分からん。だが、そう云う魔道具らしい」
 「なるほど……それで、これはどうみればいい?」

 そう問われドラバルトは、対戦表の見方を教えた。

 「……と、いう事だ。それで俺は、最後の十番目らしい」
 「んー……オレは、五番目か。それまで、ここで待機してればいいんだな?」
 「ああ、そうなる。だが、思ったよりも人数が多いな」

 それを聞きファルスは首を傾げる。

 「多いって、普通はそうでもないのか?」
 「どうだろうな……俺がここに居た時は、四か五名ぐらいだったはず」

 ――それって……多分、当時のドラバルトを恐れてだと思いますよ。

 「それが増えている、か。なんか……嫌な予感がするんだが」
 「ファルス、それはどういう事だ。……お前の勘は、意外に当たる。この一ヶ月、そのお陰で助かったことがあったからな」
 「勘か……まあ似たようなものかもな。ドラバルト……この試合、気をつけた方がいいかもしれん」

 そう言いファルスは、真剣な表情でドラバルトをみた。

 「まさかとは思うが、対戦相手が俺を狙っているのか?」
 「全てかは分からん。だが、この闘技場にきた時から嫌な空気が流れていた。それだけじゃない、どこからか分からないが……多数の視線もな」
 「……どうなっている? もしそれが本当ならば……俺は、歓迎されていないのか。それとも……偽物だと思われて……」

 ドラバルトは、悔しさの余り下唇を噛んだ。そのため唇を切ってしまい、血が滲みでる。

 「オレの予想だが、前者だと思うぞ」
 「根拠はなんだ?」
 「お前が魔王の配下で最高幹部だったからだろうな」

 そう言われるもドラバルトは、納得がいかないようだ。

 「そのことと、どう関係がある?」
 「魔王を嫌う者にとっては、お前の存在自体を消したいのだろう」
 「……それほどまでにテルマ様の存在を、嫌う者が多かったという事か」

 それを聞きファルスは首を横に振る。

 「いや、テルマと云うよりは……魔王の存在だろうな」
 「そうか……もしそうならば、今後魔王という存在を出現させてはいけない」
 「ドラバルト……それは本心か?」

 ドラバルトの口からその言葉を聞き、ファルスは不思議に思った。

 「当然だ。確かにテルマ様は、強くて皆に恐れられていた。だが、本来は心の優しい方だったのだ」
 「言っている意味が理解できん」
 「テルマ様は、元々この世界の者じゃない」

 それを聞きファルスは驚いた。

 「まさか……ミスズのように召喚された勇者なのか?」
 「そうなのだろうな。最初の頃は、女神の指示に従っていたらしい。だが、やらされていることに疑問を抱き始めた――」

 そう言いドラバルトは、魔王テルマから聞いた話を語る。
 それをファルスは、顔を引きつらせながら聞いていた。

 (なるほど……かつては魔王自体、存在しなかった。いたのは、魔族という存在のみ。だが魔族の中には良い者も存在する。
 それなのにスイクラムは、その善良な魔族までも殺させていたと云うのか。そればかりではなく、魔族以外にも悪さを平気でする者も居たって……)

 そう考えていたファルスの顔は、怒りの余り真っ赤になっている。

 「ファルス……お前が怒るのも分かる。俺も、そのことを聞き腹が立ったからな」
 「そうか……そうなるだろうな」
 「それでだ……一番、状況からしてミスズが近い」

 それを聞きファルスは頷いた。

 「確かにな。ミスズは、スイクラムにより酷いめに遭っている。そうなると、魔王になる確率が高い」
 「そういう事だ。……今思うと、ミスズのしもべになったのは……そういう事だったのかもしれん」
 「そうかもな。まあ、他の理由かもしれぬが……」

 そう言われドラバルトは、ファルスが何を言いたいのか分からず困惑する。
 そしてその後も、二人は話を続けていたのだった。
 ここは特別観覧席。
 あれからずっと美鈴とミィレインは、色々な話をしていた。

 「そういえば、この部屋って結構……高そうな物ばかりあるね。それも壺が多い……割ったら何か出てきたりして……」
 「……あのねぇ。そんニャことしたら、弁償代が大変でしょっ!」
 「ハハハ……そうだね。ついついゲームのことを思い出しちゃって」

 それを聞きミィレインは首を傾げる。

 「ゲームって、なんニャの?」
 「あーそっかぁ。ここは、別の世界で……ゲームって言っても分からないよなぁ」
 「そうね……でもミスズをみていると、そのゲームが面白いんだろうニャあって伝わってくるわ。そのゲームって、すぐできるの?」

 そう問われ美鈴は、首を横に振った。

 「流石に無理かなぁ。可能だとすれば、そういう物を創り出す能力があればだね」
 「そうニャのねぇ。やってみたかったけど、残念だわぁ」

 そうこう話をしていると「ドンッ、ドーン」と、二発の火炎球弾が空高く打ち上げられる。

 「あっ、始まりの合図だ」
 「いよいよね。まあ、ファルスが勝つと思うけど」

 それを聞き美鈴は苦笑した。


 ――場所は、美鈴たちの居る特別観覧席の上に移る――

 ここには魔王崇拝派の可愛い雰囲気の者がいた。

 (この下から話し声が聞こえて来たわ。それに、この観覧席の扉の前には……警備の者が二人いる。そうなると……ここで間違いないかしら)

 そう思い魔道具を使い仲間に連絡をする。

 ✶✲✶✲✶✲

 数分後、美鈴の居る観覧席の上に魔王崇拝派の者が五人揃った。

 「やっと、来ましたね。何かあったのかしら」
 「ああ、ここを見張ってるヤツが二人いた」
 「アタシの来た方角にも、一人いたわ」
 「こっちにも、三人居ましたよ」
 「儂の方は、運よく居なかったな」

 それを聞き可愛い雰囲気の女性は考え始める。

 「……護衛を強化している。マルバルト様がミスズを護っているって、どういう事かしら」
 「まさかマルバルト様は、女神側につく気なのか」
 「んー……それはあり得ないわ。だってドラバルト様は、かつての魔王様の右腕と云われたお方よ」
 「ええ、あり得ませんね。そうでなければ……ミスズは、こっち側ってことも考えられます」
 「だとしたら、こっちに引き入れたらどうだ?」

 そう言われ可愛い雰囲気の女性は首を横に振った。

 「あり得ないですわ。女神に召喚された者が、そう簡単にこっち側にねがえるなんて」
 「そうね……じゃあ、ヤルしかないわ」

 それを聞き可愛い雰囲気の女性は頷く。

 「そうなると……扉の前に居る見張りを、なんとかしなければいけませんね」
 「そうですね。では、そのあと下の部屋に侵入します」

 そう言い可愛い雰囲気の女性は、四人を順にみる。
 それを聞き五人は頷く。
 そしてその後、五人は見張りが居る通路側に向かったのだった。