【7.儀式】

 ボーデブルグ神殿の祭壇は、白大理石の床に魔法陣が描かれ、天窓から神々しい光が差し込んでいる。

 そこで、アンナの祖父でもあるグレン神官長が待ち受けていた。祭壇上に進んだバルカンに向かって、厳かな声で宣言する。

 「バルカン・ハミルカルよ。汝は真に新たなる道を望むか?」

 多くの巫女や好奇心旺盛な冒険者たちが見守る中、バルカンは静かに目を閉じ、「はい。私は、農家になります」と力強く答えた。
 周囲からは「あの拳聖が農家だって!?」とひそひそ声が止まらない。しかしバルカンはそれらに動じず、祭壇の中心へ歩み出た。

 神官長が祝詞を唱えると、魔法陣が輝き、バルカンの身体を包む光が天井から降り注ぐ。

 「うっ……!」

 一瞬、眩しさに耐えるようにバルカンが顔をしかめる。すると彼の装備がみるみる変化し始める。
 身に着けていた武道着が、農作業用のシャツとパンツ、首元のタオル、そして丈夫な長靴へと変わっていく。

 「これが……ジョブチェンジ……?」

 アンナは思わず息を呑み、エマも目を見開いている。
 さらに、手に装備していた破邪の爪が不思議な光に包まれて、形状を変えていく。
 柄が長く伸び、先端は平らな形に、そして全体にルーン文字がうっすら光っている――破邪の爪は、究極の最強農具“破邪の鍬”へと変貌を遂げたのだ。

 光が収まると、そこには農作業着のバルカンが立ち尽くしている。最初は戸惑い気味だったが、ゆっくりと鍬を握りしめ、「……俺は、農家になったぞ」と呟く。

 アンナは心底嬉しそうに拍手。「やったー! 破邪の爪が鍬になった……! ほんとにそうなるんだ!」
 エマも「あの最強武器が、まさか農具になるなんて……時代を感じるわね」と苦笑しながら拍手を送る。

 グレン神官長はニコリと微笑み、「見事、農家にジョブチェンジしたようじゃな。おめでとう、"拳聖"バルカン・ハミルカル――いや、これからは"畑聖"バルカン・ハミルカルとでも呼んぼうか?」と優しく語りかけた。

 周囲からも拍手がわき起こり、バルカンは恥ずかしそうに目を伏せながら祭壇を降りた。
 かつて戦場を駆けた“拳聖”が、今や笑顔の観衆に迎えられている。その光景こそ、平和の象徴なのかもしれない――。