佐藤美奈はこの春から高校生になったばかりの女子である。彼女はとても明るく、陽気な性格で友達も多かったが、一つ悩みがあった。それは、太っているということだ。身長157cmで、体重が65㎏もある。食事量を減らして、一時的に体重が減ってもすぐにリバウンドしてしまう。運動も長続きしない。でも、痩せたいと願っていた。
「美奈、一緒にお弁当食べよう?」
「あ、…うん。」
「何?なんか悩み事?私で良ければ聞くよ。」
「…ありがとう。…えっと、私、太ってるでしょ?…痩せたいなって、ずっと思ってて…。でも、どうしたらいいか分からなくて。」
「それで悩んでたのねー。そっかぁ。美奈は、痩せたらきっと美人になるよ。」
「…そうかなぁ?」
「いつもの明るい美奈はどこに行ったの?なんか、調子が狂っちゃうよ-?」
「そうだよね。…ごめんね。」
「大丈夫だよ。また、何かあったらいつでも相談してね。」
「ありがとう。」
美奈はいつもクラスメイトの女子の誰かとお弁当を食べている。そんな彼女のことを気にかけていたのが、同じくクラスメイトの田中啓介だ。啓介の父親はパーソナルジムを経営しており、彼自身も父親からトレーニングを受けていた。彼は見た目は痩せていて、どこか頼りなさそうな感じだが、制服を脱げばすごい筋肉だということは、部活仲間しか知らない。啓介は美奈にどう声を掛けたらいいものか、悩んでいた。
それから数日後、啓介は意を決して生徒玄関で彼女が来るのを待っていた。しばらく待っていると、彼女が登校してきた。
「おはよう、佐藤さん。」
「おはよう…。あ、えっと…。名前…。」
「田中だよ。田中啓介。」
「おはよう、田中くん。同じクラスだっけ?」
「うん。そうだよ。…あの、もし良かったら、なんだけど…。」
「何?」
「佐藤さんのダイエットをサポートさせてください。」
「ええ?」
「これからは僕が君のお弁当作ってくるし、放課後の運動もサポートするよ。」
「そんなこと…。どうして田中くんが?」
「実は僕の父さん、パーソナルジム経営しててさ。僕自身も父さんからトレーニング受けていたから、佐藤さんのダイエットに協力出来たらと思って。」
「えっと…。なんで私がダイエットしたいってこと、知ってるの?」
「この間の昼休み中に話してた会話、偶然聞こえてしまって。」
「…恥ずかしい。でも、痩せたい。」
「僕が協力するから!」
「いいの?」
「もちろんだよ。」
二人は話しながら教室に向かった。
「美奈、おはよう!今日は田中くんと一緒なんて珍しいね。」
「おはよう。生徒玄関で会ったから。あとね、絵里、私、決めた!」
「ん?何を?」
「私、痩せる!」
「どうしたの?急に?」
「絶対に痩せるから!」
「うん。友達として、美奈のこと、見守っているよ。」
「ありがとう、絵里。」
美奈は啓介の方を見て、目を合わせ、こくりと頷いた。今度こそ痩せてやる!そう強い意思を示したのだ。
翌日、啓介は朝から美奈のお弁当と自分の弁当を作り、前日に作成したダイエットプログラムと、体重管理表を持って登校した。また、生徒玄関で、美奈を待つ。少しして、美奈がやってきた。
「おはよう、佐藤さん。これ、お弁当と、あとダイエットプログラムと、体重管理表だよ。」
「おはよう、田中くん。…ありがとう。うわ-、これすごい!田中くんが作ってくれたの?」
「うん。昨日作ったんだ。お弁当は低脂肪高たんぱく、それでもバランスを考えて作ったよ。」
「ありがとう!教室、行こうよ。」
「そうだね。」
「教室で渡してくれてもいいのに。」
「クラスの皆に見られるの、嫌じゃないなら…。」
「…そこまで考えてくれてるなんて…。」
「佐藤さん、頑張ろうね。」
「うん。私、頑張る!」
昼休みになり、美奈は啓介から渡されたお弁当をあける。鶏むね肉の塩麹焼きと彩り野菜の炒め物、焼鮭、豆腐ハンバーグ、ご飯も玄米入りのご飯が詰められていた。普段脂っこい食事ばかりしていた美奈は、これで足りるか少し不安だった。
「美奈のお弁当、すごいヘルシーだね。」
「ダイエット中だしね…。でも、これだけで足りるか、不安だわ…。」
「玄米って、食物繊維豊富だから、腹持ちいいのよ?」
「そうなんだ?教えてくれてありがとう。」
食べてみると、どれも美味しく美奈も満足した。
啓介はいつも一人でお弁当を食べている。お弁当のおかずが美奈と同じなので、誰にも知られることなく気にせず食べれるのは、返って好都合だった。
放課後、啓介は美奈を体操部の部活に連れてきた。部長は美奈を見てかなり驚いている。
「田中、この子、本当に体操部入るの?」
「今はまだ分かりませんが、痩せたらきっと…。」
「痩せたらって…。大会もあるんだし、もっと考えろよ。」
「とりあえず、佐藤さん、柔軟体操始めようか?」
「あ、うん。」
二人でストレッチを行うが、美奈は体が硬いため、前屈なども出来ない。
「これはなかなか大変そうだな…。やりがいがありそうだ。」
そう言って啓介は美奈に笑顔を見せた。
「運動はからっきしダメなのよね…。やっぱり運動しなきゃダメ?」
「食事だけではなかなか痩せないからね。運動とセットなら、痩せやすくなるよ。」
「本当に?なら、頑張る…!」
「佐藤さんのサポートは、僕がするから。」
他の部員たちも美奈と啓介の様子を見ながら、ひそひそと「痩せるの、無理そうだよね?」とか、「体操部には、いらない」とか、いろいろ話していた。しかし二人はめげることなく、ストレッチを続けた。
その次の日も、啓介はお弁当を作って生徒玄関で美奈を待っていた。
「佐藤さん、おはよう。はい、これ。お弁当。」
「ありがとう、田中くん。」
「体重管理表ちゃんと付けてる?」
「うん。朝起きてすぐに量っているよ。1㎏減ってた!」
「うん!よし。その調子で進めていこう。」
美奈は、啓介のサポートのおかげで、少しずつ体重が減っていくのが実感できた。毎朝、体重計に乗るたびに、少しだけ減っている数字に、喜びと同時に、自分でもできるんだという自信が芽生えてきた。
啓介との放課後のトレーニングも、最初はつらくて、筋肉痛で動けなかったこともあった。でも、啓介が丁寧に教えてくれるし、励ましてくれるので、なんとか続けることが出来私はた。美奈は、啓介に「諦めないで、絶対に痩せる!」と宣言していた。
ある日、啓介が美奈に、近くの公園でジョギングをしようと誘ってきた。
「佐藤さん、今日は公園で走ってみない?景色もいいし、気分転換になるよ。」
「ジョギング?…私、走るの苦手なんだけど…。」
「大丈夫!ゆっくりでいいから、一緒に走ろう。」
公園に着くと、啓介は美奈に、ランニングフォームの指導をした。最初はぎこちなかった美奈も、啓介のアドバイスのおかげで、少しずつスムーズに走れるようになってきた。
「佐藤さん、すごいじゃん!もう、全然違うよ!」
「え、本当?嬉しい!」
美奈は、啓介の言葉に励まされ、さらにペースを上げて走り出した。
「佐藤さん、ペース上げていいよ!大丈夫、ついて行くから。」
啓介は、美奈のすぐ後ろを走り、美奈のペースに合わせて、時には励ましの言葉をかけながら、一緒に走ってくれた。
「田中くん、ありがとう…。」
「どういたしまして。一緒に頑張ろうね。」
公園の周りを走り終え、ベンチに座って休憩していると、美奈は啓介に、心の内を打ち明けた。
「田中くん、私、ダイエット始めたばかりなのに。体重も落ちてきてて。…でも、正直、ちょっと不安なの。」
「不安?なんで?」
「だって、今まで太ってたから、痩せたらみんな私を見てくれるようになるのかなって…。」
「そんなことないよ。佐藤さんは、もともと可愛いのに、さらに綺麗になるだけだよ。それに、佐藤さんは、外見だけじゃなく、内面もすごく素敵な子だから。」
啓介の言葉に、美奈は少し安心した。
「そうかな…?でも、私、いつも自信がないの。」
「佐藤さんは、自信を持つべきだよ。佐藤さんは、すごく頑張り屋だし、優しいし、面白いし…。」
啓介は、美奈の良いところをたくさん挙げてくれた。
「田中くん…。」
「佐藤さん、俺、佐藤さんのことが…。」
啓介は、美奈を見つめながら、照れくさそうに言葉を詰まらせた。
「…?」
「…好きなんだ。」
美奈は、啓介の言葉に驚き、顔を赤らめた。
「え…?…。」
「佐藤さんのこと、ずっと前から…。」
啓介は、美奈の手を握りしめながら、自分の気持ちを正直に伝えた。
「…。」
美奈は、啓介の言葉に、心が震えた。
「佐藤さん、俺と一緒に、これからも…。」
啓介は、美奈に、まっすぐな視線を向けた。
「…。」
美奈は、啓介の言葉をじっと聞いていた。
美奈の心は、複雑な感情でいっぱいだった。
「…。」
美奈は、何も言えずに、啓介を見つめていた。
「…佐藤さん?」
啓介は、美奈の反応を待ちながら、不安そうに美奈を見つめていた。
美奈は、深呼吸をして、ゆっくりと口を開いた。
「…田中くん…。」
美奈は、啓介に、自分の気持ちを伝えることを決心した。
「…。」
美奈は、啓介の目を見て、ゆっくりと語り始めた。
「…私、田中くんのことが…。」
「…。」
啓介は、美奈の言葉を、息を呑んで聞いていた。
「…好きよ。」
美奈は、自分の気持ちを、はっきりと言葉にした。
「…!」
啓介は、美奈の言葉に、驚きと喜びで、顔が輝いた。
「佐藤さん…!」
啓介は、美奈の手を強く握りしめ、自分の気持ちを抑えきれずに、美奈にキスをした。
美奈は、啓介のキスに驚きながらも、幸せを感じた。
「…。」
二人はしばらく沈黙した。
「佐藤さん、…。」
啓介は美奈の乱れた髪を手で直しながら、
「目標体重まで、一緒に頑張ろう!」
と言うと、美奈も
「田中くんとなら、私、頑張れるよ。」
と答えた。
半年後、美奈は15㎏の減量に成功したが、まだ骨格ウェーブのため、啓介のアドバイスのもと、ストレッチを続けていた。美奈はそのまま、体操部に入部し、めきめきと才能を開花させていった。
高校を卒業して、3年後の同窓会で美奈と啓介は再開した。
「田中くん!…私、ずっと田中くんのこと、忘れられなくて…!」
「佐藤さん…。ストレッチ、毎日続けていたんだね…。やっぱり、佐藤さんは綺麗だ!」
「私の気持ちは、変わらないよ…!」
「僕だって、変わらず、佐藤さんのことが好きだよ。…大学卒業したら、結婚しないか?」
「…!」
美奈は驚きを隠せなかった。結婚なんて、まだまだ、と思いたからである。
「私なんかで、いいの?」
「君じゃなきゃ、駄目なんだ。」
「美奈、ここは、迷わずにイエスでしょ?」
回りの元クラスメイトたちも囃し立てる。
「田中くん!…ありがとう。」
美奈はぼろぼろ涙を流しながら、啓介に抱きついた。
「…!」
啓介は戸惑いながらも、美奈を抱き締めた。
「おめでとう、美奈!」
回りから拍手が沸き起こった。
大学卒業後、約束通り、二人は結婚した。
早坂知佳は鏡を見ながら悩んでいた。
「そろそろ、髪、切ろうかな…。」
黒髪の、もうずいぶん美容院にも行っていない、伸ばしっぱなしのロングヘアーを触りながら呟いた。大学進学のため、一人暮らしを始めてからは、全く美容院に行っていなかった。服もおしゃれとは程遠い、地味な女の子だ。
「この辺の美容院なんて、なんにも知らないや…。どこかいいところないかなぁ?」
携帯サイトで、美容院の口コミを見ながら探しだした。
「…どこもおしゃれだなぁ。迷うなぁ…。」
そう呟き、このままで大丈夫なんだろうか?と知佳は思った。眼鏡を外し、後ろ髪を纏めてみる。
「切るなら、どのくらいの長さにしよう?…困ったなぁ。」
独り言を言いながら、また、鏡を見る。
そんなある日の大学からの帰宅途中、知佳が道を歩いていると、ビラ配りのお兄さん、高嶺慎二から声を掛けられた。
「お姉さん、良かったら、カットモデルになってもらえませんか?」
「…カットモデル?」
「僕は、美容師免許取り立てで、今はまだ見習いなんです。…良かったら、でいいので。」
「考えておきます。」
知佳はもらったチラシを鞄の中に入れて、真っ直ぐにアパートに帰った。
「カットモデルかぁ。美容院て高いし、お得かも!!うん、決めた!今度行ってみよう!」
知佳は小さくガッツポーズを決めた。
数日後、知佳は、慎二の美容室「Hair Salon Shine」を訪れた。緊張しながら店内に入ると、明るく清潔感のある空間が広がっていた。慎二は、知佳を笑顔で迎えてくれた。
「ようこそ、早坂さん!カットモデル、ありがとうございます!」
「いえ、こちらこそよろしくお願いします。」
慎二は、知佳の髪を丁寧に触りながら、イメージを聞いてくれた。知佳は、普段とは違う自分になりたいと思い、思い切って「思い切って、ショートボブにしてください!」とお願いした。慎二は、知佳の希望を丁寧に聞き取り、イメージ通りのヘアスタイルに仕上げてくれた。眼鏡を掛けて、鏡に映る自分を見て、知佳は目を丸くした。
「わぁ…、別人みたい!」
ショートボブにしたことで、知佳の顔はパッと明るくなり、今まで隠れていた可愛らしさが際立っていた。慎二も、知佳の変身に驚いた。
「早坂さん、すごく似合ってます!ショートボブ、いいですね!」
「ありがとうございます!嬉しいです!」
知佳は、慎二の言葉に、今まで感じたことのない喜びを感じた。
それから、知佳は定期的に「Hair Salon Shine」に通うようになった。慎二との会話は、美容のことだけでなく、色々な話題に広がり、二人の距離は縮まっていった。
「早坂さん、いつもありがとうございます。僕、早坂さんと話すのが、本当に楽しいんです。」
「私もです。高嶺さんと話していると、時間が過ぎるのがあっという間です。」
慎二は、知佳の笑顔に、自分の気持ちに気づき始めた。そして、ある日、勇気を出して、知佳に告白した。
「早坂さん、僕、早坂さんのことが好きです。付き合ってください。」
知佳は、慎二の真剣な眼差しに、自分の気持ちに気づいた。
「高嶺さん、私も、高嶺さんのことが好きです。」
二人は、笑顔で抱き合った。
それから、知佳は、慎二と幸せな日々を過ごした。慎二は、知佳の笑顔を見るたびに、自分の仕事に誇りを感じ、知佳は、慎二の優しさに包まれ、毎日が輝いて見えた。
地味な服ばかり選んでいた知佳だが、慎二のアドバイスや、アパレルショップの店員のアドバイスを受け、おしゃれに大変身を遂げた。眼鏡も思い切って、コンタクトレンズに変えた。
「私に、きっかけをくれたのは、高嶺さんです。」
「きっかけにすぎないよ。早坂さんは、自分の美しさに気付いていなかっただけだよ。」
「本当にありがとう!私、気付かなかった。世界がこんなに明るいなんて!!」
「どうしたんだい?急に…。」
「ほら、私、ずっと地味だったでしょ?まるで色がないみたいな世界にいたから…。」
「そうか…。初めて会った頃とずいぶん変わったからね。」
「今はとっても幸せ。メイクするのも、おしゃれするのも楽しくて…!」
「それは良かった!」
「…高嶺さん、今度、大学の文化祭があるんですが…。」
「もうそんな時期かぁ…。」
「私、大学のミスコンに出ることになって…!」
「…それは驚いたなぁ。」
「私が一番びっくりしてる…!もし、良かったら、高嶺さんにも来てほしいです。」
「仕事休み取ってでも行くよ!」
「ありがとうございます…!」
知佳は嬉しい気持ちでいっぱいになりながら、美容室を出た。
帰宅して鏡を見ながら、知佳は
「私が、ミスコンなんて…。」
と呟く。段ボール箱に詰めた、地味な服をそっと見つめ、まさかこんなことになるなんて、と夢のような日々だった。
そしていよいよ文化祭当日、知佳は慎二と大学キャンパスの正門で待ち合わせをしていた。
「ごめん、待った?」
「大丈夫です。来てくれてありがとうございます!」
「早坂さんがミスコンに選ばれる瞬間を、この目に納めておきたいからね。」
「それはないですよー!!」
知佳は笑いながら否定した。
「時間までまだ余裕ありますし、いろいろ回って行きましょうか?」
「そうだね。」
二人は手をつないで、賑わう大学祭の会場を歩いた。屋台やパフォーマンス、学生たちの熱気に包まれたキャンパスは、活気に満ち溢れていた。
ミスコンのステージは、午後から、文化祭の終わり頃に始まった。知佳は、緊張しながらも、慎二の温かい視線を感じ、落ち着いてステージに立てることができた。
結果は、惜しくも2位。しかし、知佳は悔しがるどころか、達成感でいっぱいだった。
「2位だってすごいよ!早坂さん、本当に綺麗だった。」
慎二は、知佳の肩に手を置いて、そう言ってくれた。
「ありがとう。でも、やっぱりちょっと悔しいな。」
知佳は、少しだけふてくされた表情を見せた。
「でも、これで自信がついたよ。もっと頑張ろうって思った。」
「そうか。早坂さんが頑張る姿は、本当に素敵だよ。」
慎二は、知佳の言葉を聞いて、嬉しそうに笑った。
二人は、ステージ裏で少しの時間だけ、二人きりになった。
「慎二さん、実は…。」
知佳は、慎二の真剣な眼差しを見つめながら、ゆっくりと話し始めた。
「私は、教育学部なんです。将来は、先生になりたいと思ってて。」
「先生?」
慎二は、少し驚いた表情を見せた。
「うん。小さい頃から、子供と触れ合うのが大好きで。将来は、子供たちに夢を与えられるような、素敵な先生になりたいと思ってるの。」
知佳は、慎二に自分の夢を打ち明けた。
「それは素晴らしい夢だね。早坂さんなら、きっと素敵な先生になれるよ。」
慎二は、知佳の夢を応援するように、力強く言った。
「慎二さんは、将来どうするつもりなの?」
知佳は、慎二の夢についても聞いてみた。
「僕は、いつか自分の美容室を開きたいと思ってるんだ。」
慎二は、少し照れながら、そう答えた。
「自分の手で、お客様を笑顔にしたい。早坂さんのように、自信と輝きを与えたいんだ。」
慎二は、自分の夢を語るときに、いつも以上に真剣な表情を見せた。
「お互い、夢に向かって頑張ってるんだね。」
知佳は、慎二の言葉に、心から感動した。
「うん。お互いに夢を叶えようね。」
慎二は、知佳の手を握りしめ、そう言った。
「そして、夢が叶ったら…。」
慎二は、少しだけ顔を赤らめながら、続けた。
「結婚しよう。」
「…え?」
知佳は、慎二の突然の言葉に、驚きを隠せない。
「結婚…?」
「うん。早坂さんと一緒に、人生を歩みたい。だから、結婚したいんだ。」
慎二は、知佳の目をまっすぐに見つめながら、そう言った。知佳は、慎二の真剣な眼差しに、自分の気持ちに気づいた。
「…私も、慎二さんと結婚したい。」
知佳は、慎二の言葉に、心から嬉しくなり、そう答えた。二人は、お互いの夢を叶えるために、そして、共に人生を歩むために、固く手を握り合った。
「これからも、ずっと一緒にいようね。」
「うん。ずっと一緒だよ。」
二人は、互いの夢を叶えるために、そして、共に人生を歩むために、力を合わせ、前向きに進んでいくことを誓い合った。
数年後、知佳は小学校教師として、地元の小学校に赴任が決まり、慎二も美容師としての腕を磨き、「Hair Salon Shine」2号店の店長に任命された。夢を実現した二人は約束通り結婚し、幸せを噛み締めていた。
「これで全部…。ふぅ…。」
遠藤詩織はバツイチとなり、荷物をまとめて、アパートに引っ越してきた。
「疲れたなぁ…。どこか、ご飯食べに行こうかな…。」
荷解きも終わっていない、段ボールだらけの部屋である。詩織は携帯電話を取り出し、周辺の飲食店を探し始めた。
「実際に歩いてみないと分からないなぁ…。両隣くらいには挨拶、した方がいいのかなぁ?」
詩織にとっては、初めての一人暮らしだ。学生時代は、学生寮に入り、門限はあったがアルバイトしながら大学に通っていた。卒業後、社会人になってすぐに元夫と出会い結婚したが、彼はギャンブル依存性で、堪らず離婚したのだ。
「仕事も探さなきゃな…。実家に帰った方が良かったのかな…?」
詩織は自問自答を繰り返す。
「…はぁ…。取り敢えず、外に出てみよう。」
そう言い、詩織は小さなバッグに財布と携帯電話と部屋の鍵だけ入れて、出掛けることにした。
「お腹空いたな…。」
朝から引っ越しのため、何も食べていないことを思いだし、余計にお腹が空いたと感じる詩織だった。少し歩いたところに、小さなレストランがあったので、そこに入ることにした。
「いらっしゃいませ。1名様ですか?」
「はい。」
「こちらのお席へどうぞ。」
「ありがとうございます。」
「ご注文がお決まりになりましたら、お声掛けください。」
ウェイターがメニュー表と水を持ってきて、軽くお辞儀をすると静かにテーブルから離れた。
「どれにしようかな…。おすすめ、聞けば良かったかな?」
ふと、メニュー表の「日替わりランチ」に目がいった。
「これにしよう!…すみません、注文お願いします!」
「はい。お伺いします。」
「日替わりランチで、お願いします。」
「日替わりランチですね。本日のランチメニューは、ハンバーグとなっております。パンかライスお選び出来ますが、いかがなさいますか?」
「…、じゃあ、パンでお願いします。」
「かしこまりました。」
しばらく待っていると、料理が運ばれてきた。
「お待たせいたしました。ごゆっくりお召し上がりください。」
詩織は美味しそうに食べ、満足してレストランから出た。
詩織は再びアパートに戻り、荷解きを始めた。
「これ、いつになったら終わるんだろう…?」
深い溜め息をつきながら、作業を進める。簡単な家具の組み立ても、一人ではなかなか思うように進まない。そんなこんなで部屋が片付くまで一週間もかかってしまった。
「仕事、探さなきゃ。MOS検定、簿記、秘書検定の資格あるし、取り敢えず派遣会社に登録しようかな?」
詩織は携帯サイトで派遣会社を調べて、登録を行った。
派遣先は、若手イケメン社長、近衛隆二の大手株式会社 近衛クリエイティブだった。多くの動画クリエイターや、webデザイナー、イラストレーター、webライターなどが活躍出来る場を設け、会社だけでなく、オンラインでも仕事が出来る会社だ。
「仕事、早く見付かって良かった…!」
派遣先の会社のホームページを開いて見てみると、そこには近衛隆二社長の写真と、プロフィールが書かれていた。
「あれ?出身高校、私とおんなじなんだ…。私より2つ年下だから、後輩かぁ…。」
それにしても、写真で見るだけでも社長はイケメンだった。
「…なんて素敵な人なんだろう…。」
詩織は、まだ直接会ってもいないのに、ホームページに掲載された写真を見て、一目惚れしてしまったのだ。
「初出勤は来月1日からかぁ。…よし!頑張ろう!!」
気合いは十分だった。
いよいよ、詩織の初出勤日となった。詩織は緊張気味である。
「…きっと大丈夫…!」
そう、自分に言い聞かせ、緊張を解した。会社の受付で、
「今日から派遣でこちらに来ることになりました、渡辺詩織と申します。」
「わたなべ しおり様ですね。お待ちしておりました。では、秘書室までご案内いたします。」
そう言われ、詩織は一緒にエレベーターに乗り込む。エレベーターが8階で止まると、
「こちらで降りていただきます。」
廊下をスタスタ歩く受付スタッフの後を着いていく。
やがてドアの前で立ち止まり、ドアをノックする。
「失礼します。わたなべしおり様をお連れしました。」
詩織は受付スタッフがお辞儀をするのをみて慌てて、お辞儀をする。
「ありがとう。」
少し低めの落ち着いた感じの声が聞こえて、詩織が頭を上げると目の前には近衛隆二社長がいた。
「渡辺さん、今日からよろしくね。」
「はい…!よろしくお願いいたします!」
「そんなに緊張しないで。肩の力を抜いてください。」
「…はい。ありがとうございます。」
社長は詩織に笑顔を見せる。間違いなく、ホームページで見た、近衛社長の笑顔だった。詩織は嬉しさと恥ずかしさで赤面してしまう。
「急に秘書が辞めてしまったから、困ってたんだよ。」
「…引継とかは?」
「前任者が居ないから、僕が仕事内容教えるよ。」
「はい。お願いいたします。」
「これ、今週の僕のスケジュール、把握しておいてね。」
スケジュールはほぼ分刻みで細かく、そしてびっしりと詰まっていたので、詩織は驚いてしまった。
「あの…、社長はいつもこんなにスケジュールが詰まっているんですか?」
詩織は、近衛社長から渡されたスケジュール帳をじっと見つめながら、つい口に出してしまった。
「うん、最近は特にね。新しいプロジェクトがいくつか動き出したから。」
松田由紀は総合病院の整形外科病棟で働く、3年目の看護師である。
「今日は入院多いから、準備お願いね。」
夜勤看護師から、そう引継を受けた。交通事故に遭い、救急搬送された若い患者、自宅でお風呂上がりに倒れて骨折した年配の患者、自宅のベッドから転落し、大腿骨骨折した、こちらも年配の患者、の3人の患者が緊急入院となった。
「…。今日は大変そうだなぁ…。」
引継が終わり、日勤帯の仕事を開始する由紀。
「松田さん、受持ちは大岩重成さん(35歳)、山田和子さん(75歳)、水谷美怜さん(18歳)、お願いします。」
「はい。分かりました。」
由紀はバイタルチェックのため、ノートパソコンと血圧計、体温計、パルスオキシメーターをワゴンに乗せ、それぞれの病室を訪れる。
「大岩さん、おはようございます。では、バイタル測っていきますね。」
「はい。お願いします。」
「交通事故、大変でしたね。」
「通勤途中に、信号無視の車が突っ込んできて…。本当に災難でした。」
「血圧112/68、脈拍72、SpO2《サーチレーション》98、はい。いいですね。痛いところはないですか?」
「骨折したところはやはり痛いです。」
「痛みが強いようでしたら、痛み止お出ししますので、遠慮なくおっしゃってくださいね。」
「ありがとうございます。」
重成は左腕と右足を骨折していた。頭はそれほど強く打っていなかったのが幸いだったが、顔は傷だらけで、処置の時にガーゼを交換しなければならない。
電子カルテにバイタルを入力し、
「次は山田さん、っと。」
と電子カルテをみる。
「ああ、この方がお風呂上がりに倒れて骨折した患者さんね…。ヒートショックかしら?それとも…。」
由紀は考え込んでた。
「山田さん、おはようございます!具合はいかがですか?」
「おはようございます。動けないからつらいですね…。」
「そうですね。まもなくリハビリが始まるかとおもいますので、身体を少しずつ動かしていきましょうね。では、バイタル測っていきますね。」
由紀は患者ひとりひとりに、真摯に向き合い、出来る限り寄り添うように努めた。
由紀は、重成のバイタルチェックを終え、処置室へ向かう途中、重成の表情が気になった。
「あの… 大岩さん、何かお困りですか?」
重成は、少し戸惑った様子で、
「いえ、別に… ただ、この怪我で、仕事も休まなきゃいけなくて…」
「そうですか… でも、今は治療に専念することが大切ですよ。焦らず、ゆっくり治してください。」
由紀の言葉に、重成は少し安心した表情を見せた。
「松田さん、優しいですね。ありがとうございます。」
「いえ、とんでもないです。私も、早く良くなってほしいと思っています。」
その日から、由紀は重成の担当看護師として、頻繁に彼の病室を訪れるようになった。
重成は、由紀の丁寧で優しい対応に、少しずつ心を開いていくように。
「松田さん、あの… 聞いてもいいですか?」
「はい、どうぞ。」
「あの… 僕、松田さんの笑顔が、すごく好きです。」
重成の突然の告白に、由紀は驚き、顔を赤らめた。
「え… あの… 」
「あの… 僕、松田さんと、もっとお話したいです…!」
重成のまっすぐな瞳に、由紀は自分の気持ちに気づき始めた。
「… はい、いいですよ。」
「松田さん、僕は松田さんのことがもっと知りたいです。…こんな気持ち、初めてです。……なんか、すみません。」
「いえ、謝らないでください。…私も、大岩さんと同じ気持ちです。」
由紀は自分の気持ちを正直に話した。
「…!」
重成は驚きを隠せなかった。
「では、また来ますね。」
「ありがとうございます!」
重成の退院の日が近づき、由紀は複雑な気持ちを抱えていた。彼の笑顔が眩しい反面、別れが迫っている寂しさも募っていた。
「松田さん、明日退院なんですけど… 」
重成は少し躊躇しながら、由紀に告げた。
「ええ、おめでとうございます。」
由紀は重成の言葉に、笑顔を見せながらも、心は沈んでいた。
「…松田さんと、もう少しだけ一緒にいたいんです。」
重成は、まっすぐな瞳で由紀を見つめた。
「… 」
由紀は、彼の言葉に言葉を失った。
「…でも、病院の規則で…。」
「…そうですか。」
重成は少し肩を落とす。
「でも… 」
由紀は、少しだけ顔を赤らめながら、重成に提案した。
「私、明日は休みなので、一緒にランチでもどうですか?」
「…いいんですか?」
重成は、驚きと喜びを同時に見せた。
「…はい。退院のお時間と合わせますので。」
「ありがとうございます!松田さん、優しい!」
重成の笑顔に、由紀も心が安らぎ、少しだけ希望が持てた。
翌日、由紀は、カフェレストランで、重成と待ち合わせをした。
「大岩さん、待ってました!」
重成は、由紀を見つけると、満面の笑みを浮かべて松葉杖を使って由紀が座っているテーブルの席に着いた。
「… 大岩さん、こんにちは。」
由紀は、重成の笑顔に、少し緊張がほぐれた。
二人は、ランチメニューを選んだ。
「松田さん、あの… 」
重成は、少し躊躇い《ためらい》ながら、由紀に問いかけた。
「私って、どうしてこんなにも、出来ないことが多いんだろう…。」
寺田由利子は度々仕事でミスを繰り返し、今日も上司から怒られてしまった。
「ミスばっかり…。嫌になっちゃう…。」
悔しくて由利子は泣いてしまった。思い返せば幼い頃からコミュニケーションが苦手で人間関係がうまくいかず、折り紙すら上手く折れず、勉強にも着いていけず、成績は下から数えた方が早かった。運動も苦手で、大きな音や大声も苦手だ。由利子はそれらの特徴をネットで調べてみた。
「ADHD…。私、この特徴に当てはまるわ…。」
由利子はADHDの検査、診断が出来る病院を探し始めた。
「一番近いのが、むらたメンタルクリニックかぁ。…不安だけど、今度行ってみよう。」
数日後、早速クリニックに行く由利子だったが、メンタルクリニックは初めて受診するので、不安で仕方ない。
「…どんなこと聞かれるのかな?」
由利子はADHDの確定診断を受けた。診断書を書いてもらい、総務課に提出、上司に配属先を変えてもらえないか相談したところ、主任の高橋誠が教育係として、由利子に着くことになった。新しい配属先でもパソコンは使うが、顧客とのメールのやり取りや、発注関係はないので、少し気が楽だったが、それでも由利子は苦戦していた。誠は怒ることもなく、丁寧に根気強く教えていき、由利子も少しずつ、確実に仕事を覚えていった。
由利子は、誠との仕事を通して、彼の丁寧で分かりやすい説明に助けられ、少しずつ自信を取り戻していきました。誠は、由利子のペースに合わせて、根気強く教え、時には励ましの言葉をかけてくれました。
「由利子さんは、すごく真面目だし、努力家だから、きっと大丈夫だよ。」
誠の言葉は、由利子の心を温かく包み込みました。由利子は、誠の優しさに惹かれ、次第に彼に好意を抱くようになりました。
一方、誠も、由利子の頑張りやひたむきさに心を動かされていた。由利子の笑顔を見るたびに、自分の心が躍ることに気付いていた。
ある日、仕事終わりに、誠は由利子に声をかけた。
「由利子さん、ちょっと時間がある? 」
「え、あ、はい…。」
由利子は、ドキドキしながらも、誠の誘いに応じた。
二人は、会社の近くの喫茶店で、ゆっくりと話し始めました。仕事の話から、プライベートの話へと、会話は弾みました。由利子は、誠の穏やかな人柄に改めて惹かれ、誠も、由利子の飾らない自然体な姿に魅力を感じていました。
「由利子さん、僕、由利子さんのこと、好きになってしまいました。」
誠は、緊張しながらも、由利子に気持ちを伝えました。
「え…。」
由利子は、驚きと喜びで、言葉が出ませんでした。
「由利子さん、僕と付き合ってください。」
誠は、由利子の手を握りしめました。
「…はい。」
由利子は、照れながらも誠からの告白を受け入れた。
二人は、その後も、仕事を通して、お互いのことを深く知っていき、愛を育んでいった。。由利子は、誠と出会えたことで、自分の人生が大きく変わったと感じていた。
「高橋さんと出会えて、本当に良かった…。こんな私に仕事を教えてくださって、ありがとうございます。」
「教えがいがあったよ。由利子さんは頑張りやさんだから。」
「…そんなこと…。」
「最初から出来ないって決めつけるんじゃなくて、出来ることをコツコツ、由利子さんが諦めなかったからだよ。」
「それは…。高橋さんが根気よく教えてくれたから…。」
「由利子さんが、ADHDだからって、僕は気にしていないよ。」
「…え?」
「僕の弟が、幼い頃に発達障がいと知的障がいと診断されていてね…。」
「そうだったんですね。」
「大変は大変だったけれど、弟はとても素直で、いい子なんだ。高校が特別支援校だったから、一般就労は無理で、今は就労継続支援作業所で働いているよ。」
「就労継続支援作業所…?」
「A型なら最低賃金が貰えるし、B型は作業所の作業内容にもよるかな?」
「そうなんですね…。」
「でも、まあ、大人になってからADHDと診断される人、増えてきたね。」
「…はぁ。」
「大丈夫だよ。由利子さんの良いところも、悪いところも全部、僕は受け止めるから。」
「高橋さん…。」
由利子は思わず泣いてしまった。誠はそっと由利子を抱き締め、髪を撫でた。
「今まで、つらかったね。でも、よく頑張ったね。」
「…はい。」
「由利子さんが、出来ないこと僕が引き受けるし、足りない部分は僕が補うから。…だから、、、。」
「…。」
「僕と結婚してください!」
「高橋さん…!私でよければ…、結婚してください。」
「これからはずっと、笑顔でいられるような家庭を築いていこうね。」
「はい!」
「やっと笑ってくれたね。そう、その笑顔だよ。」
「ありがとうございます!」
その後、2人は結婚した。片付けが苦手な由利子のために、どこに何をしまうかを考えながら収納グッズを買ったり、材料揃えてDIYしたりして、工夫することで部屋はいつも片付いていた。料理も、一緒に作ることでより楽しく料理ができた。
霧島晴美は、中学生時代に交通事故に遭い、車椅子生活を余儀なくされた。明るく活発だった彼女は、一転して塞ぎ込みがちになり、学校にも行くのが億劫になった。そんな晴美にとって、唯一の心の支えとなっていたのが、人気配信者の竹内陽介だった。
陽介の配信は、いつも明るく、ユーモアに溢れ、見ているだけで心が安らぐ。晴美は、彼の配信を欠かさず見ていた。彼の優しい声、笑顔、そして、誰とでも分け隔てなく接する姿に、晴美は次第に惹かれていった。
晴美は、陽介の配信に「はる」という名前でコメントを送っていた。最初は、ただ単にコメントを送るだけだったが、次第に陽介に自分の気持ちを伝えたいと思うようになった。しかし、車椅子という自分のハンディキャップが、陽介との距離を縮める壁のように感じられ、なかなか気持ちを打ち明けられずにいた。
ある日、陽介は配信中に
「いつもコメントくれるはるさん、今日は顔出ししてみませんか?」
と、視聴者に向けて呼びかけた。
晴美は、心臓が止まるかと思った。顔出し? 絶対に無理。でも、陽介の言葉に、勇気を出して、小窓に上がり自分の姿を映してみた。
「はるさん、はじめまして! いつもコメントありがとうございます。顔出し、勇気を出してくれて嬉しいです!」
陽介は、晴美の顔を見て、言葉を失った。
晴美は、緊張して、小さな声で
「あの…実は、私、車椅子なんです…」
と打ち明けた。
陽介は、少しの間、何も言えなかった。そして、ゆっくりと
「それは、僕には関係ないよ。はるさんの笑顔が、いつも配信を楽しくしてくれるんだ。」
と、優しい声で言った。
晴美は、陽介の言葉に涙が溢れてきた。陽介は、晴美の気持ちを理解してくれた。そして、二人は、配信を通して、少しずつ距離を縮めていった。
陽介は、晴美の配信へのコメントに、いつも丁寧に返信してくれた。そして、晴美が車椅子生活をしていることを知ってからは、配信の内容も少し変化した。
「今日は、車椅子で行くのに便利なカフェを見つけたんだ。はるさんも行ってみたら?」
「車椅子でも楽しめる映画館で映画を見に行ったよ。感動したなぁ。」
陽介は、晴美が車椅子生活を送っていることを意識しながらも、決して特別扱いすることなく、自然体で接してくれた。晴美は、陽介の優しさに、心から安心した。
ある日、陽介は晴美に
「僕、はるさんと会いたい。直接会って、もっと話したい。」
と、告白した。晴美は、陽介の言葉に、ドキドキしながらも、頷いた。
二人が初めて会ったのは、晴美の住む街の公園だった。陽介は、晴美の目の前に現れると、少し緊張した様子で
「はるさん、綺麗ですね。」
と、言った。
晴美は、陽介の言葉に、照れながら
「ありがとう。」
と、答えた。
二人は、公園のベンチに座って、色々な話をした。陽介は、晴美の車椅子について、何も気にすることなく、自然に接してくれた。晴美は、陽介の優しさに、心から安心した。
陽介は、晴美の車椅子生活について、詳しく聞いてみた。晴美は、最初は戸惑っていたが、陽介の真剣な眼差しに、自分の気持ちを打ち明けることにした。
「最初は、車椅子生活になかなか慣れなくて、辛かった。でも、陽介さんの配信を見るようになって、少しずつ前向きになれたんだ。」
陽介は、晴美の言葉に、深く共感した。そして、晴美に
「僕、はるさんのこと、好きになったんだ。」
と、告白した。
晴美は、陽介の言葉に、涙が溢れてきた。陽介は、晴美の涙を優しく拭って、
「僕と一緒に、幸せになろう。」
と、言った。
晴美は、陽介の言葉に、大きく頷いた。二人は、互いに愛し合い、幸せな日々を送るようになった。
陽介は、晴美のために、車椅子でも行きやすい場所にデートに連れて行ってくれた。そして、晴美が困っているときは、いつもそばにいて、力になってくれた。
晴美は、陽介と出会って、人生が大きく変わった。陽介は、晴美に愛と希望を与えてくれた。そして、晴美は、陽介と出会えたことによって、自分の人生を前向きに生きていくことを決意した。
二人は、互いに支え合い、愛し合い、幸せな未来に向かって進んでいった。
三島朱里は、中学時代からテニスラケットを握りしめ、汗と涙を繰り返してきた。高校時代にはインターハイ出場という輝かしい実績を残し、その実力は折り紙付きだった。大学進学はスポーツ推薦。強豪校への進学は、彼女のテニス人生における新たなステージのはずだった。しかし、現実は甘くなかった。大学には、朱里をはるかに凌駕する実力を持つ選手たちが数多く存在した。日々の練習は、想像をはるかに超える厳しさで、朱里は何度も挫折の淵に立たされた。
そんなある日、朱里は右腕に激しい痛みを感じた。病院で診察を受けた結果、診断は「テニス肘」。手術が必要だという言葉を告げられた時、朱里の心は深く沈んだ。手術は成功する見込みが高いものの、その後、以前のようなプレーができる保証はない。テニスを続けるべきか、それとも諦めるべきか。朱里は、これまでの人生をかけたテニスを前に、大きな岐路に立たされていた。
毎日、朱里は悩みに悩み抜いた。コートに立つ自分を想像しては、涙がこぼれた。手術を受ければ、大好きなテニスから遠ざかるかもしれない。でも、このまま痛みを抱えながらプレーを続けるのも、難しい。将来のことも考えなければいけない。
そんな朱里を気遣い、優しく声を掛けてきたのが、山内翔太だった。翔太は、朱里と同じ大学に通う、気さくで明るい青年だった。テニス部ではないものの、朱里の苦悩を察し、彼女の練習風景をいつも遠くから見守っていた。
「三島さん、大丈夫?」
翔太の優しい言葉は、朱里の心に温かい光を灯した。朱里は、翔太に自分の悩みを打ち明けた。翔太は、朱里の話をじっくりと聞き、彼女の気持ちを理解しようと努めた。
「手術は怖いよね。でも、朱里は今までどれだけ努力してきたんだ?インターハイ出場だって、すごいことだよ。その努力は、決して無駄じゃない。手術後も、テニスを続ける道はきっとあるよ」
翔太の言葉は、朱里の心に勇気を与えた。翔太は、朱里がテニスを諦めることを決して許さなかった。彼は、朱里の才能を信じ、彼女の可能性を信じ抜いていた。
翔太は、朱里と一緒にリハビリに励んだ。朱里が落ち込んでいる時は、励まし、朱里が頑張っている時は、一緒に喜び合った。翔太の温かいサポートは、朱里にとって大きな支えとなった。
手術は成功し、朱里はリハビリに専念した。翔太は、いつも朱里のそばにいて、彼女を支え続けた。時には厳しく、時には優しく、翔太は朱里の成長を見守っていた。
そして、数ヶ月後、朱里はコートに帰ってきた。手術の影響で、以前のようなプレーはできないかもしれない。それでも、朱里はコートに立つことができた喜びを感じていた。翔太は、そんな朱里の姿を遠くから見守り、心の中で応援していた。
朱里は、以前のように華麗なプレーをすることはできなかったかもしれない。しかし、彼女は、翔太の支えと、自身の努力によって、新たなテニススタイルを確立した。それは、以前とは異なる、より成熟した、そして力強いテニスだった。
大学卒業後、朱里はプロテニスプレーヤーを目指し、翔太は、彼女のマネージャーとして、朱里を支え続けた。二人は、互いに協力し合い、共に夢に向かって歩みを進めていった。そして、朱里は、プロテニスプレーヤーとして成功を収め、数々のタイトルを獲得した。その成功の陰には、いつも翔太の存在があった。
朱里と翔太の物語は、決して順風満帆ではなかった。しかし、二人の絆と努力によって、ハッピーエンドを迎えた。朱里は、テニスの世界で成功を収め、翔太との愛を育み、幸せな人生を歩んだ。それは、彼女が決して諦めなかったこと、そして、翔太というかけがえのない存在に出会えたことによる奇跡だった。 朱里の成功は、彼女の努力と才能だけでなく、翔太の献身的なサポート、そして彼女自身の強い意志の賜物だったと言えるだろう。
東京の夜景が一面に広がるオフィス。深夜、清水澪は書類の山に囲まれ、パソコンの画面を睨んでいた。30代後半、バリバリのキャリアウーマンである彼女は、仕事に没頭し、恋人どころか、友人と会う時間すら惜しむほどだった。
「…あと少し…」
呟きながら、彼女はキーボードを叩き続ける。少しして、背後から静かに近づく足音。振り返ると、そこには部下の斉藤拓海がいた。20代前半、真面目な青年だ。
「清水さん、まだお仕事ですか?…こんな時間なのに…」
「斉藤君!?…びっくりしたわ。ええ、このプレゼン資料、明日までに仕上げなきゃいけないの。なかなか終わらなくて…」
清水はため息をついた。
「大変ですね…。もうこんな時間なのに…」斉藤は少し心配そうに言った。「何か手伝えることって…ないですか?」
「…そうね…コーヒーくらいしか思いつかないけど…もう空っぽよ」清水は少し弱気な声で答える。
「じゃあ、新しいの淹れてきますね!」斉藤は、彼女の空になったコーヒーカップに気づき、笑顔で言った。
程なくして、熱々のコーヒーを持って戻ってくる。
「どうぞ。」
「ありがとう、斉藤君。おかげで、少し気分転換になったわ」清水はコーヒーを一口飲んで、ほっとした表情を見せた。
「よかったです。…清水さん、いつも仕事に一生懸命で、本当に尊敬します」
斉藤は、真剣な眼差しで言った。
「そんな…大したことじゃないわよ」清水は照れくさそうに答える。
「でも、清水さん、仕事が本当に好きなんですね。…まるで、恋人みたいだって、よく言われますよね?」
斉藤は、少し冗談めかして、しかし真剣な眼差しで言った。
清水は、少し驚き、そして複雑な表情を浮かべる。
「そうね…仕事は私にとって、なくてはならないものだけど…恋人…とはちょっと違うわね」
「でも、清水さんと一緒に仕事ができるのは、私にとって本当に幸せです。…いつか、仕事以外のことでも、お話しできたら嬉しいです」
斉藤は、真剣な表情で、しかし、少し照れくさそうに言った。彼の言葉には、好意がはっきりと感じられた。
清水は、彼の言葉に少し動揺しながらも、かすかな笑顔を見せた。
「…そうね…いつか…ね」
東京の夜空に、満月が輝いていた。二人の間に、静かに、そして確実に、恋が芽生え始めていた。それは、仕事に恋をするように、静かで、熱く、そして美しい恋だった。
それから数日後、斉藤は清水に、仕事の相談を持ちかけた。 それは、清水が抱えている大きなプロジェクトに関するもので、斉藤は自分のアイデアを熱心に説明した。 いつも以上に真剣な斉藤の姿に、清水は彼の仕事への情熱を改めて感じ、心の中で小さな感動が芽生えた。
会議の後、二人きりになった時、斉藤は清水に声をかけた。
「あの…清水さん、少し時間よろしいでしょうか?」
「ええ、どうしたの?」
清水は、少し戸惑いながらも、彼の言葉に耳を傾けた。
「実は…あの日のこと、ずっと考えていたんです。…清水さんが、仕事が恋人みたいだって言われたこと…」
斉藤は少し照れくさそうに話し始めた。
「僕は…清水さんと一緒に仕事ができることが、本当に嬉しいです。そして…もっと、清水さんのことを知りたいと思っています」
彼の言葉は、ストレートで、そして純粋だった。 清水は、彼の真剣な眼差しに、自分の気持ちに気づく。 仕事に埋もれていた日々の中で、いつしか彼の存在が、彼女にとってかけがえのないものになっていたのだ。
「斉藤君…」
清水は、彼の名前を呼び、少し言葉を詰まらせた。
「私も…あなたと、もっと話したいと思っていました」
その瞬間、二人の距離は一気に縮まった。 それは、言葉では言い表せない、静かで、温かい感情の交差だった。 東京のオフィス街の喧騒とは無縁の、二人の世界が、そこにはあった。
その後、二人は仕事終わりに食事に行ったり、休日に一緒に映画を見に行ったりするようになった。 仕事の話だけでなく、お互いの趣味や、子供の頃の話など、様々なことを語り合った。 清水は、仕事だけでなく、人生の楽しみ方を知り始めた。 斉藤は、清水の仕事への情熱を理解し、支え、そして、愛した。
本城彩花は、桜並木が美しい私立女子高校に通う18歳。成績優秀で誰からも好かれる明るい性格だが、心の中に秘めた恋心が、彼女の日常を彩り豊かに、そして時に切なく染めていた。その恋の対象は、英語教師の中村樹。30代前半と思しき中村先生は、穏やかな笑顔と、時に厳しくも的確な指導で、生徒たちから絶大な信頼を得ていた。彩花もまた、中村先生の授業に魅了され、彼の知性と優しさに惹かれていった。
放課後、教室に残って自習する彩花は、中村先生が遅くまで残って書類整理をしている姿を何度も目撃した。そんな姿を見るたびに、彼女の気持ちは募っていった。卒業が近づくにつれ、このままでは、大切な気持ちを伝えられないまま、永遠に後悔するかもしれないという焦燥感が増していった。
卒業式が目前に迫ったある日、彩花は決意する。卒業式ではなく、放課後の教室で、中村先生に告白しようと。
その日、彩花はいつもより早く学校へ行き、教室を隅々まで掃除した。机を磨き、窓を拭き、黒板を黒板消しで丁寧に磨いた。まるで、大切な儀式を行う準備をしているかのようだった。
放課後、教室には彩花と中村先生だけが残っていた。夕暮れの光が、窓から差し込み、教室を柔らかく照らしていた。中村先生は、机に書類を広げ、何かを書き込んでいた。
彩花は、深呼吸をして、中村先生に近づいた。そして、震える声で、告白の言葉を口にした。
「先生…私、先生が好きです。」
言葉が、教室の中に静かに響き渡った。中村先生は、ペンを置き、彩花の方を見た。彼の瞳には、驚きと戸惑いが混じっていた。
彩花は、自分の気持ちを伝えるために、これまで何度も練習してきた言葉を、涙をこらえながら、ゆっくりと語った。中村先生への憧れ、彼の授業への感謝、そして、彼への恋心…全てを、ありのままに表現した。
彩花の話が終わると、静寂が教室を包んだ。しばらくの間、二人の間には言葉が交わされなかった。中村先生は、彩花の言葉をじっくりと受け止め、彼女の真剣なまなざしを静かに見つめていた。
そして、中村先生は優しく微笑み、彩花の手を取った。
「本城さん…君の気持ち、よくわかったよ。君には、本当に感謝している。君の明るさと努力は、私にとって大きな励みだった。」
中村先生は、彩花の気持ちを受け止めてくれた。しかし、彼の言葉には、恋愛感情を示唆するようなものは含まれていなかった。彩花は、少し落胆したものの、中村先生の言葉に、彼の優しさを感じ取った。
その日、二人の間には、恋人同士としての約束は交わされなかった。しかし、彩花は、中村先生との特別な時間を共有し、自分の気持ちを伝えることができたという満足感と、未来への希望を感じていた。
卒業後、彩花は地元の大学に進学した。大学生活は充実しており、友達との交流、勉強、そしてアルバイトと、忙しい日々を送っていた。そんな中、彩花は偶然にも、大学の近くにあるカフェで、中村先生と再会する機会を得た。
再会をきっかけに、二人は定期的に会うようになった。最初は、先生と生徒という関係を超えた、少しぎこちない会話だったが、徐々に打ち解けていった。二人は、お互いの趣味や考え方を語り合い、共通の話題を見つけるたびに、心を通わせていった。
彩花が大学3年生になった頃、中村先生は彩花に、真剣な交際を申し込んだ。彩花は、驚きと喜びで胸がいっぱいになった。そして、中村先生の誠実な気持ちに応え、交際を承諾した。
交際期間中は、互いの理解を深め、将来について真剣に話し合った。そして、彩花が大学を卒業するタイミングで、二人は結婚することになった。
結婚式は、桜の季節に行われた。桜並木の下で、二人は永遠の愛を誓った。式には、高校時代の同級生や先生たちも駆けつけてくれ、温かい祝福に包まれた。
二人の未来には、きっと、たくさんの幸せが待っているに違いない。