■和5年度 科学研究費援助金申請書
【申請者氏名】吉田京子(ヨシダ キョウコ)
【所属研究機関】国立大学法人K大学
【部局】大学院薬学研究科
【職】教授
【研究課題名】ココメサトゥ原虫に対する感染予防ワクチンの開発
【研究の目的】
ココメサトゥ原虫は1978年に東南アジアのココメサトゥ島にて発見された病原体であり、感染した場合の致死率がほぼ100%であることから現地では非常に恐れられている。その一方で、日本を含めた先進国の多くではこの疾患は軽視されており、ワクチン開発のための研究もごく限られたものしか報告されていない。それには、いくつかの理由がある。
第一に、ココメサトゥ原虫はヒトーヒト感染を起こすものの、その潜伏期間は極めて短く、個人差もあるが感染からわずか一~三時間で発症し、そして発症後は二十~三十分ほどで死に至る。つまり感染者が気づかれることなく国内に入ってくる可能性は低く、実際、国内においては未だ一度として確認されてはいない。
第二に、感染しても発症するまでの間は周囲への原虫の拡散は起こらず、ヒトーヒト感染が生じるのはあくまでも発症後のみである。このため、気づかぬうちに周囲の人間にココメサトゥ原虫をうつす(あるいはうつされる)というケースはほとんど起こり得ないと考えられる。
第三に、現地における感染者のほとんどはココメサトゥ原虫の自然宿主であるネッタイシマネズミからこの原虫をうつされていることが分かっているが、ネッタイシマネズミは寒さに弱く、日本の環境では生息できない。
以上のような理由により、日本ではココメサトゥ原虫の感染が起こる可能性は極めて低いと想定されてきた。
しかしながら、近年では気候変動の影響により状況が変わりつつあることが分かっている。一昨年に大阪港でネッタイシマネズミのコロニーが発見されたのを皮切りに、国内でもネッタイシマネズミの繁殖が確認される事例が増えているのである。幸いにして、国内で捕獲されたネッタイシマネズミは今のところ全てココメサトゥ原虫未感染個体であったが、人間とは異なりネッタイシマネズミはこの原虫に感染した状態でも活発に活動し続けることが可能であるため、いったん感染個体の侵入を許してしまうと、そこから国内で繁殖している個体へと急速に感染が広まってしまうことが懸念される。そして、そうしたネッタイシマネズミからヒトへの感染が起こった場合、日本における被害はココメサトゥ島とは比較にならないほど大きくなると予想される。前述の通りココメサトゥ原虫感染症においては感染者が周囲に病原体を拡散する期間自体は短いが、発症後は鼻や目、口といった粘膜が露出している部位を皮切りに全身から激しく血を噴出し、その飛沫を介してヒトからヒトへうつるという性質故に、人が密集している場所で発症者が出た場合は一度に多くの新規感染者を出すと考えられる。また、その一目瞭然かつ恐怖を煽る症状故に、パニックによる将棋倒しのような二次被害を生じる可能性もけっして低くはない。そして日本においては、満員電車やライブ会場をはじめとして人が密集している場所は珍しくないのである。以上のように、日本においてココメサトゥ原虫感染症は今や大きな脅威となっている。本研究はこのココメサトゥ原虫の感染を予防するワクチンを開発し、来たるべきココメサトゥ原虫の侵入に備えることを目的としている。
【申請者の研究遂行能力及び研究環境】
申請者は過去にもヒトうどんこ病菌やヒトモザイクウイルスといった病原体の研究において多くの実績をあげており(参考文献1, 2)、その研究遂行能力は確かである。また、申請者が主宰する研究室には病原体のDNAを調べるために必要な核酸抽出精製装置やナノポアシーケンサー、実験従事者の病原体への曝露を防ぎつつ病原体を取り扱う実験を行うために必要な安全キャビネットをはじめとして、感染症研究に必要な実験器具・装置類は一通り揃っており、設備の充実度の面でも国内随一である。以上のように、申請者はこの危険な病原体を扱う研究においてはこれ以上ないほど相応しい人材と言える。
【申請者氏名】吉田京子(ヨシダ キョウコ)
【所属研究機関】国立大学法人K大学
【部局】大学院薬学研究科
【職】教授
【研究課題名】ココメサトゥ原虫に対する感染予防ワクチンの開発
【研究の目的】
ココメサトゥ原虫は1978年に東南アジアのココメサトゥ島にて発見された病原体であり、感染した場合の致死率がほぼ100%であることから現地では非常に恐れられている。その一方で、日本を含めた先進国の多くではこの疾患は軽視されており、ワクチン開発のための研究もごく限られたものしか報告されていない。それには、いくつかの理由がある。
第一に、ココメサトゥ原虫はヒトーヒト感染を起こすものの、その潜伏期間は極めて短く、個人差もあるが感染からわずか一~三時間で発症し、そして発症後は二十~三十分ほどで死に至る。つまり感染者が気づかれることなく国内に入ってくる可能性は低く、実際、国内においては未だ一度として確認されてはいない。
第二に、感染しても発症するまでの間は周囲への原虫の拡散は起こらず、ヒトーヒト感染が生じるのはあくまでも発症後のみである。このため、気づかぬうちに周囲の人間にココメサトゥ原虫をうつす(あるいはうつされる)というケースはほとんど起こり得ないと考えられる。
第三に、現地における感染者のほとんどはココメサトゥ原虫の自然宿主であるネッタイシマネズミからこの原虫をうつされていることが分かっているが、ネッタイシマネズミは寒さに弱く、日本の環境では生息できない。
以上のような理由により、日本ではココメサトゥ原虫の感染が起こる可能性は極めて低いと想定されてきた。
しかしながら、近年では気候変動の影響により状況が変わりつつあることが分かっている。一昨年に大阪港でネッタイシマネズミのコロニーが発見されたのを皮切りに、国内でもネッタイシマネズミの繁殖が確認される事例が増えているのである。幸いにして、国内で捕獲されたネッタイシマネズミは今のところ全てココメサトゥ原虫未感染個体であったが、人間とは異なりネッタイシマネズミはこの原虫に感染した状態でも活発に活動し続けることが可能であるため、いったん感染個体の侵入を許してしまうと、そこから国内で繁殖している個体へと急速に感染が広まってしまうことが懸念される。そして、そうしたネッタイシマネズミからヒトへの感染が起こった場合、日本における被害はココメサトゥ島とは比較にならないほど大きくなると予想される。前述の通りココメサトゥ原虫感染症においては感染者が周囲に病原体を拡散する期間自体は短いが、発症後は鼻や目、口といった粘膜が露出している部位を皮切りに全身から激しく血を噴出し、その飛沫を介してヒトからヒトへうつるという性質故に、人が密集している場所で発症者が出た場合は一度に多くの新規感染者を出すと考えられる。また、その一目瞭然かつ恐怖を煽る症状故に、パニックによる将棋倒しのような二次被害を生じる可能性もけっして低くはない。そして日本においては、満員電車やライブ会場をはじめとして人が密集している場所は珍しくないのである。以上のように、日本においてココメサトゥ原虫感染症は今や大きな脅威となっている。本研究はこのココメサトゥ原虫の感染を予防するワクチンを開発し、来たるべきココメサトゥ原虫の侵入に備えることを目的としている。
【申請者の研究遂行能力及び研究環境】
申請者は過去にもヒトうどんこ病菌やヒトモザイクウイルスといった病原体の研究において多くの実績をあげており(参考文献1, 2)、その研究遂行能力は確かである。また、申請者が主宰する研究室には病原体のDNAを調べるために必要な核酸抽出精製装置やナノポアシーケンサー、実験従事者の病原体への曝露を防ぎつつ病原体を取り扱う実験を行うために必要な安全キャビネットをはじめとして、感染症研究に必要な実験器具・装置類は一通り揃っており、設備の充実度の面でも国内随一である。以上のように、申請者はこの危険な病原体を扱う研究においてはこれ以上ないほど相応しい人材と言える。

