第4話『参拝と食事』
デスゲーム大会、2日前。
陽葵達は参道と通っていた。
東京須佐之男神社。須佐之男命をまつる神社である。
デスゲーム大会での勝利を祈願するため、神社を訪れたのである。
手水舎で口と手を清め、拝殿へ。
お賽銭にお金をいれ、麻縄を掴み、揺らして鈴を鳴らす。
深いお辞儀をし、両手を二回打つ。
陽葵達は手と手を合わせ、デスゲーム大会での勝利を祈る。
そして、お辞儀。
二礼二拍一礼をし終える。
「ねぇ、お守り買わない?」
結菜が笑顔で提案する。良太は手を叩き、指をさす。
「いいねぇ~、やっぱお守りは重要だ。買おう!」
「私も欲しいな」
陽葵も笑顔になり、賛同する。
「……うん、僕も、買う」
どうやら竜堂も同意見みたいだ。
陽葵達は売店でお守りを選ぶ。色とりどりのお守り。
「これと、これと、これと――」
良太はいろんなお守りを選んだ。陽葵は思わず吹き出す。
「良太、買いすぎだよ!」
「いいんだ。たくさんの神様に守られたいんだ」
良太は恥ずかしげもなく、堂々と購入。陽葵は呆れ顔で見届ける。
「いいな~、わたしもたくさん買おうかなぁ~」
結菜は触発されたのか、彼女もあれこれ選ぶ。
「竜堂くんは?」
「……2個、くらいで、十分」
「だよね」
陽葵も、2個くらいで良いと思った。
「よし、お前ら。俺がお金を出す。自由に選びたまえ」
「え? いいの!?」
結菜は良太に向って、前のめりで食いつく。
「ああ、いいぞ!」
「やったー!! ありがとう、桐葉くん!!」
結菜は満面の笑みで、両手をあげ、それから感謝のポーズを取った。
陽葵は、二人のコントみたいなやり取りに、思わず吹き出す。
「あはは! 面白い!」
「……ふふ、そうだね!」
竜堂も面白いと思ったのか、自然と笑顔になる。
陽葵は思う。
(デスゲーム大会がなかったらいいのに)
♦♦♦
それから昼食。新宿駅の近くにあるイタリアンレストランで、食事をとる事になった。
人気の店という事もあり、お客が多かった。
良太の行きつけの店らしく、小学生の頃から通っている。
彼は陽葵を、たびたび食事に誘ったりする。
良太は空いている個室を選んだ。
中に入り、椅子に座る。
「よし、お前ら。俺のおごりだ、どんどん、頼め」
「ありがとうございます! 桐葉リーダー!」
結菜はビシッと敬礼し、感謝する。
「……ありがとう!」
竜堂も結菜のマネをして、敬礼する。
「えっと、私も?」
陽葵も彼らのノリで敬礼する。
「そうだ。俺はリーダーだからな」
良太は腕を組み、偉そうに何度も頷く。
陽葵達は、遠慮なくバンバンに頼む。
サラダ、パスタ、ピザ、ドリア、ドリンク――
15分くらいで、ウエイトレスがあらわれ、テーブルに食膳を配る。
陽葵達は喜び、小皿に入れていく。
彼女らが食後のデザートを頼んだ後、良太はコホンと咳払いする。
「なあ、お前ら」
「ん、何? 良太?」
「なあに?」
「……ん?」
良太は席に座りなおし、神妙な表情になった。
「遺言書は書いたか?」
「えッ!?」
「えええッ!?」
「……えッ!!」
3人は驚嘆し、かたまった。
「俺さ。昨日の夜、遺言書を作ったんだ。泣きながらな」
「どうして、遺言書を?」
陽葵は訝しげに問いかける。
「そうだよ! 遺言書を作るなんて、おかしいよ!」
結菜も同じ気持ちなのか、憤慨し大きな声で訴える。
「……」
竜堂は腕を組み、良太を見つめ、真意を見定める。
陽葵は思う。遺言書を書くなんて、死亡フラグを立てるようなものだ。
勝利したいなら、余計な事をせず、いつも通りの生活をすべきだ。
「わかってる。けどよ、残された者はきっと読みたいと思わないか? 俺の気持ちや、どんな生き様だったのかとか、家族に対する感謝とか。いろいろあるじゃんか」
「それは……」
陽葵は良太の言葉を否定できなかった。
「……」
8秒の沈黙の後。
「わかるかも……」
結菜は沈黙を破る、つぶやきを放つ。
「結菜?」
彼女は顔を上げ、斜め向かいにいる良太の方を見る。
「わかるけど、遺言書は書かない」
「どういう事だ?」
良太は目を細め低い声を出す。
「遺言書じゃなくて、将来の夢というか、未来の目標を書こうと思う」
「未来の目標……」
良太は腕を組み、思考する。
「死を覚悟して挑んでもきっと、震えて本来の力とか出せないと思うの。それよりも、将来、どんな職業につきたいとか、どんな事がしたいのかとか。結婚はしたいのか? とか、自分の未来について書くの」
陽葵は彼女の言葉に強く感動し、隣にいる結菜の肩を掴む。
「結菜、それ素敵じゃん!」
陽葵の目はキラキラである。
「……僕も、思う!」
竜堂も目を輝かせ、前のめりになる。
良太は敗北を感じたのか結菜をジロリと見て。
「何だよ。俺よりカッコイイじゃんか!」
陽葵は思わず吹き出す。
「良太、嫉妬してるの?」
「うっさい、陽葵。オナラするぞ?」
「それは止めて! 良太のオナラ、マジで臭いから!」
「臭くない、俺のオナラはレモンの香りがする」
「しないって!」
「また、始まった、二人の漫才」
結菜は手を叩いて笑う。
「ハハハハハハッ――!」
竜堂は腹を抱えて盛大に笑い出す。
「ちょ、竜堂、笑いすぎだぞ!」
「そ、そうだよ!」
陽葵と良太はこんなに笑っている竜堂を見たのは初めてである。
「だってさ、二人の夫婦漫才って面白いからさ! つい、笑っちゃった!」
「誰が、夫婦だって!?」
陽葵はツッコミをいれる。なぜだか、良太はまんざらでもない表情になる。
「よくぞ言ってくれた、竜堂!」
良太の発言に、結菜と竜堂は腹を抱えて、笑う。
陽葵は思う、こんな楽しい時間がずっと続いて欲しい。
だが、デスゲーム大会はもうすぐである。
氷の入った、冷たいアップルジュースをごくりと飲み、決意する。
(絶対、結菜達と一緒にデスゲーム大会を乗り超える!)
♦♦♦
第5話『夏のデスゲーム大会・開幕』
夏のデスゲーム大会当日。
陽葵は朝食を取っていた。ご飯に納豆をかけ、口に運ぶ。
(このネバネバがいいんだよね)
向かいに座る、父・尚人が。箸を置き、陽葵を見る。
「陽葵」
「何?」
ヒナタは茶碗を置き、父である尚人の方を見る。
「精一杯、頑張れよ! 応援している!」
父・尚人(なおと)は真剣な眼差しで、陽葵を鼓舞する。
「お父さん……」
「陽葵、お母さんに連絡してね! お父さんと一緒に寿司屋さんに行きましょう!」
隣にいる母・陽菜子(ひなこ)は、はつらつとした感じでヒナタの肩に手をそえる。
「お母さん……」
両親の愛を感じた。デスゲーム大会をなんとしても、勝利しなくてはならない。
(絶対、勝利して、両親とお寿司屋でお祝いするんだ!)
♦♦♦
学校に到着すると、すでに大半の生徒達がいた。
中には、緊張のあまり吐いてしまっている子もいる。
よく見知った3人がこちらにやって来た。
「おはよう、陽葵、遅いぞ!」
「おはよう、陽葵!」
「……おはよう!」
「3人とも、おはよう! 別に遅くないじゃん!」
掛け時計を見たら、8時02分であった。
「俺なんか、6時半にはいたぞ」
「わたしは、7時20分」
「……7時30分」
「3人とも、早すぎ!」
朝のホームルームが始まるまで、陽葵達は作戦会議をする。
陽葵はいつも通り、戦士として前衛だ。
敵を挑発し、ターゲットをサマエルに集中させる。HPが3割減ったら、竜堂の悪魔であるネコミとバトンタッチ。結菜の悪魔、ミエルがサマエルに近づき回復。治癒しだい前線に戻る。良太は中衛で、司令塔として指示する。時と場合によっては前線、あるいは後衛になる。
話し合っていくうちに、担任の闇与見(やみよみ)先生がやって来た。
壇上に出席簿を置き。
「おはよう、みんな! いよいよ大会だな!」
闇与見先生はあえて大きな声で話す。笑顔だが、目は笑っていない。
先生なりに、生徒達を心配しているのだろう。
「そうですね」
「はい」
「緊張します」
みんな、不安や緊張、恐怖でソワソワしていた。
「いいか、お前ら。デスゲームは毎年、死人が出る。自分は大丈夫だと思って高をくくるな。謙虚に挑め。だが、自信はある程度、必要だ。最後はまで諦めず、冷静に挑めよ」
生徒達も先生の言葉に、心が打たれ、目にやる気の炎が宿り始める。
朝のホームルームも終わり。先生は立ち去った。
♦♦♦
デスゲーム大会の会場は体育館だ。
デスゲーム大会は2年生も3年生も行う。
1年生は1日目。
2年生は2日目。
3年生は3日目。
日程としては1時限目は1年B組。
2限目は陽葵達のクラスは1年C組。
3限目は1年A組だ。
ヒナタ達は体育館の近くにある待合室で、待機だ。スマホは事前に、デスゲーム大会の実行委員が預かる。
広い校庭には救急車が40台以上、とまっている。
1時限目が始まった。
♦♦♦
それから20分後。
待機室でも聞こえる、救急車のサイレン。
生徒達は恐怖で、震えてる。中には泣き出す女子が複数にいた。
サイレンが鳴っているという事は、死人が出たのだろう。
「陽葵……」
結菜が陽葵の手を握る。
「大丈夫だよ。結菜、私がついてる」
陽葵は彼女の手を握り返し、気丈に振る舞う。
確かに不安と恐怖はある。だが、それ以上に愛するサマエルと一緒に、命をかけて戦う事に、
小さな闘争心、幾ばくの喜び、そして高揚感がある。
何度か救急車のサイレンが聞こえるが、陽葵の――心の火は消えない。
制限時間がすぎ、20分が経つと、1年B組の生徒達は体育館から出る。
次は陽葵達の番である。待合室から体育館に移動。
体育館には35台以上に及ぶパソコンと机、椅子がセッティングされていた。
デスゲーム大会の実行委員からスマホを受け取り、みな、指定の席に座る。
パソコンがちゃんと作動するかチェック。インカムもつけて、確認。
陽葵の右側には結菜、左側には良太、その隣に竜堂である。
竜堂、良太、陽葵、結菜である。
モニターにはスタート画面が映し出されていた。
大会の実行委員の一人が体育館の前でマイクを握る。
「今回、1年が倒すモンスターはワイズ1体、スケルトンウォリアー2体だ――」
生徒達は動揺しざわめく。ワイズはCクラスのモンスター。スケルトンウォリアーもCクラスだ。1体ならともかく、3体のモンスターを相手にするのは1年生にはキツいだろう。
それに、1年C組の悪魔達は陽葵ほど強くない。
大半が下位、下の上クラスの悪魔だからだ。
それにワイズは魔法を使ってくる、ロイドの魔法防御力は低くないが、物理防御力ほど高くもない。一抹の不安を感じる。
「結菜、大丈夫?」
右側にいる結菜は歯をカチカチさせ、マウスを握る手も震えている。
「結菜、しっかりして!」
「う、うん!」
「今野、もしダメそうなら、オート設定しろ」
良太が冷静にインカムごしに言う。
「わ、わかった!」
実行委員は腕につけているデジタル腕時計を見る。
体育館に備え付けられている、デジタル時計はカウントダウンする。
「5秒前、4、3、2、1では、始め――」
♦♦♦
第6話『開始』
制限時間は30分だ。
前衛にはスケルトンウォリアーが2体、後衛にワイズが1体いる。
スケルトンウォリアーは骸骨の戦士だ。鎧、兜、剣と盾を装備している。
おそらく、鋼鉄、スチール系である。
ワイズは骸骨の魔法使い。紫色のローブ、頭には王冠を被っている。
体よりも大きな杖を装備している。
こちらは前衛に戦士のサマエル、同じく戦士のネコミ。中衛には何でも屋のベリアル、後衛に治癒師のミエルである。
「スケルトンウォリアーを優先して倒せ!」
「「了解!」」
「りょ、了解!」
陽葵はさっそく挑発スキルを発動させる。
すると、スケルトンウォリアー2体が、サマエルに近づく。
ネコミは、スケルトンウォリアーAに向けてハンマーを振るう。
良太の悪魔はヒナタ達の悪魔に向け、攻撃力と防御力、魔法攻撃力、魔法防御力を上げる、
バフをかけていく。
「良太、ありがとう」
「あ、ありがとう!」
「おう!」
だが、結菜の悪魔であるミエルは、まるで混乱したかのように、あらぬ方向に、いったりきたりとしていた。操作が乱れに乱れていた。
「結菜、しっかりしろ!」
良太が結菜に向けて叱咤する。
「ごごッ、ごごごッ、ゴメン!」
開始してから、7分後。スケルトンウォリアーの2体のHPは7割弱まで削れた。
ワイズのHPは3割弱、削れている。
後、23分。スケルトンウォリアーに関しては制限時間内に倒せそうだが。ワイズは間に合うだろうか?
陽葵達に不安と焦燥感が漂う。結菜に至っては、オート設定にし、ミエルの意志で戦っている。結菜はミエルに向ってお祈りをしていた。
「ミエルくん、頑張って!」
だが、状況に変化が起きた。
スケルトンウォリアーとワイズがミエルに向って、走る。
「マズいぞ! 今野を守れ!」
良太は異変に気づき、陽葵達に指令する。
陽葵も気づき、挑発を発動させた。だが――
「《挑発無効Ⅲ》」
ワイズが唱える。すると、2体のスケルトンウォリアーはミエルに向う。
「こッ! こないでッ!!」
結菜は叫ぶ。だが、スケルトンウォリアーは結菜達の悪魔を無視しミエルに近づいて行く。
スケルトンウォリアー達は早かった。スケルトンウォリアー達がミエルに近づき、剣を振るう。良太の悪魔であるベリアルが魔法スキルを発動。
2体のスケルトンウォリアーは燃え上がる。
「桐葉くん!!」
結菜は大きな声をあげる。
「陽葵! 竜堂! 早く来てくれ!!」
「うん!」
「う、うん!」
二人の悪魔がスケルトンウォリアーに向って走る。
ワイズはニヤリとし杖を掲げる。
「《ダークレインパラライズⅣ》」
それは広範囲に渡る、全体攻撃だった。
空から黒い雨が降り注ぐ。
サマエルのHPは1割弱削れ、ウサミとベリアルのHPが1割強削れた。
ミエルは6割強も削られてしまった。それだけじゃない、ミエル以外の悪魔達が混乱状態になってしまった。
「結菜! オートを解除して、俺の悪魔の状態異常を治せ!」
「え!! ちょっと待って!!」
結菜はオート解除している間、サマエルはウサミを攻撃。ベリアルは、近くにいたスケルトンウォリアーAとBを攻撃していた。
「結菜!」
「解除した!」
結菜はオート機能を解除した瞬間だった。
「《ダークランス》」
ワイズは唱え、闇の槍がミエルに向って、放たれた。
「え?」
闇の槍はミエルの胸を貫通し消えた。8割弱しかなかったHPは、みるみる減り。
瀕死状態をあらわす、赤いバーに突入――HPは空になった。
ミエルは倒れ――光の粒子となって消えた。
陽葵達は、10秒間、状況が飲み込めなかった。
「……」
「ミエルッ! いやッ! ミエルうううううう――ッ!!!」
結菜は絶叫した。体育館中に響き渡る。
良太はその声で我に返り、叫ぶ。
「陽葵はスケルトンウォリアーAを! 竜堂はスケルトンウォリアーBを!」
「結菜が!! 結菜が!!」
「ゆ、結菜ちゃん!!」
陽葵と竜堂は椅子から立ち上がり、結菜にの元に行く。
「結菜!!」
「馬鹿!! わたしにかまわず、戦闘を続けて!!」
「だって! 結菜が!」
すると結菜が陽葵の頬を平手打ちする。
「戦闘に戻って! 早く!」
結菜は鬼の形相で訴える。
陽葵はハッとし、彼女の言うとおりに椅子に座り、戦闘に戻る。
「武吉も!!」
「わ、わかった!」
竜堂も慌てて、自分の席に座る。
それから、15秒後、良太の悪魔の混乱が解け、すぐに魔術でサラエルとネコミの状態異常を解いていく。
「ワイズを倒せ!!」
それから無我夢中でワイズと戦かった。スケルトンウォリアーの攻撃を無視して。
ゲーム開始から18分後。
《YOU WIN》と表示された。
そう、ワイズ達を倒す事に成功した。
陽葵は慌てて、結菜の方を向く。
「結菜!!」
結菜は胸をおさえていた。
「結菜! 結菜!!」
竜堂くんと良太も椅子からおりて、結菜の元に寄る。
「結菜、勝ったぞ!!」
「そっか……良かった……」
「結菜ちゃん! 生きるんだ!」
竜堂が叫ぶ。だが、結菜の体は氷のように冷たくなっている。
「……みんな……ありがとう……」
「馬鹿ッ!! 諦めるなよ!!」
「そうだよ!! 結菜!!」
良太と陽葵は叫ぶ。
「……ゴメン……もう……息が……さよう……なら……」
そう言い残し、机に突っ伏した。
「結菜ああああああ――――ッ!」
陽葵は叫んだ。
すぐに実行委員と救急隊員があらわれ、結菜の脈をとる。
救急隊員がタンカーの上に結菜を乗せ。
校庭にある救急車へと向った。
「結菜ああああああああああああああ――ッ!」
「静かにしろ! まだプレイしている生徒達がいる!」
実行委員が陽葵の口をハンカチを無理矢理、当てる。
陽葵は暴れたが、ハンカチに睡眠薬が散布しているのか、しだいに力が入らなくなり眠った。
「何をするんだ!!」
「ひ、陽葵ちゃん!!」
「叫ぶな。この子は眠っているだけだ。大人しくしなさい」
「くッ!」
良太も暴れそうになったが、竜堂が彼を腕を掴み、止める。
「竜堂!!」
良太はギロリと竜堂を睨む。
「……救急車に乗っていいですか?」
竜堂は実行委員に、怒りを押し殺した声で言う。
「一人ならいいだろう」
「……わかりました」
「竜堂! お前ッ!!」
「黙れ、良太!! 僕もお前より怒ってる!!」
竜堂の剣幕に良太はハッとする。
なぜなら竜堂の瞳から大粒の涙が流れていた。
「ッ……!」
竜堂は一瞬で大人しくなった。
陽葵は救急隊員によって保健室に運ばれ。
竜堂は救急車に乗り。良太は駐輪場の自転車に乗って病院へ向った。
♦♦♦
第7話『犠牲者』
1年C組 死亡者7人
1年B組 死亡者6人
1年A組 死亡者4人
2年C組 死亡者4人
2年B組 死亡者2人
2年A組 死亡者0人
3年C組 死亡者5人
3年B組 死亡者4人
3年A組 死亡者1人
教室の後ろにある掲示板に貼られた。
陽葵のクラスだけで、7人も亡くなった。他のクラスもそうである。
2年生のクラスも3年生のクラスも死亡者を出した。
♦♦♦
自宅では陽葵は暴れに暴れ、部屋中が滅茶苦茶になった。
父が救急車を呼び、救急隊員の誰かが陽葵にタオルを当てる。
デジャブだ。実行委員もヒナタと同じ手口で眠らせた。
気づいたら、精神科専門の病院。保護室と呼ばれる所にヒナタはいた。
薄暗く、シンプルな部屋である。ベッドと簡易便所が置いてあるだけ。
ふと、夏のデスゲーム大会の記憶が蘇る。
結菜は死んだ。そう、死んだのだ。
胸が張り裂けそうだった。苦しい、苦しい、辛い。
涙が止まらず、嗚咽する。
「結菜ッ!! 結菜ッ!! 結菜あああああああああああああ――ッ!!」
陽葵は大声で叫んだ。
すぐさま看護師と医者があらわれた。
看護師が、陽葵をおさえつけ。その間、医者が素早くヒナタの腕に注射を打つ。
20分後、陽葵は叫ぶのを止めた。
時間が経つにつれ。
「ゆ、い、な……ゆ、い、な……」
ヒナタの意識は薄くなり、眠気が襲う。
彼女はそれから、1ヶ月の入院生活を送った。
♦♦♦
桐葉家は結菜のお通夜にいた。学校の制服は黒いので、その服で参席する。
良太の母と父も一緒に行ってくれた。
白いキクの花。笑顔で映る遺影写真。今野結菜が安置する棺桶。
左側の一般席に着席。
前席には、すでに竜堂武吉と竜堂の両親が座っていた。
隣にいる母は、良太の手をぎゅっと握ってくれた。
温かく柔らかい。
良太の心は瀕死状態だった。
(俺のせいだ……)
良太は自分を責めていた。
リーダーなのに、的確な指令が出来ていなかった。
もし、リーダーが俺じゃなかったら今野は生きていたではないだろうか。
スケルトンウォリアーではなくワイズを先に倒しておけば、今野は生きていた可能性が高かった。良太は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになる。
良太は自責の念に押しつぶされていた。
それでもお通夜は行かなくてはならない。これはリーダーとしての責任だ。
良太は陽葵が精神科の病院で入院している事を知っている。
自分も入院したいと思った。良太の心、精神も病んでいたからだ。
竜堂武吉にも申し訳なかった。なぜなら、武吉が今野を愛してる事を知っているからだ。
(ゴメンな……)
良太は心の中で何度も何度も謝罪し、懺悔する。
♦♦♦
第8話『復帰』
陽葵は病院を退院後――学校に登校。
1ヶ月ぶりの学校だ。陽葵は無表情で教室に入る。
「陽葵!」
良太は彼女に気づき、陽葵に向った。
「あ、良太……」
陽葵も気づき、小さく手を振る。
良太は彼女の元まで来る。
「お帰り、陽葵。退院できたんだな」
良太は優しげに微笑む。
陽葵は彼が自分をいたわってくれているのに、心に響かない。
「まあね。心配かけてごめん」
彼女は良太の目を見ず、抑揚のない声で言う。
「別に謝る事じゃないだろ」
良太は彼女を抱きしめたいという衝動にかられたが、ぐっとこらえた。
「そうだけど……」
「なあ、陽葵」
「ん?」
「実はな、俺の悪魔が進化したんだ」
「進化……」
「ああ、進化した!」
良太は笑顔で何度も頷く。陽葵は笑顔を無理矢理、作る。
「おめでとう」
小さく弱々しい祝福だ。
「中の上クラスになった。このまま順調にいけば、高校3年生には、上位悪魔になってるかもな――」
良太は嬉しそうにペラペラと喋り、自慢話しをする。彼女は嫉妬心は湧かず、非常に淡泊な気持ちで話しを聞く。
「いいな」
「そうだろ!」
「……」
陽葵は無言で自分の席に行き、スクールバックを机に置く。
教科書とノート、筆記用具を机に入れていく。
良太の涙腺が緩み、泣きたくなったが、首を振る。
「なあ。陽葵」
「ん?」
「毎日、デストレ屋に行かないか?」
「え?」
良太の発言に、彼女はかたまった。
「俺は! お前まで死んで欲しくない! 冬のデスゲーム大会に向けて訓練するんだ!」
良太は真剣な眼差しで、彼女を誘う。
「毎日……?」
毎日、デスゲームの訓練を?
「親父が最近、デストレ屋を経営している友人ができたんだ。頼めば、格安で毎日デストレできるぞ?」
良太は悪そうな顔でニヤリとする。
「マジで?」
「ああ!」
良太は力強く頷く。
「……わかった」
「よし! 決まりだな!」
それから竜堂くんも誘い、デストレに毎日通い詰めた。学校の授業終わったら、すぐにデストレ屋へ。休日もデストレ屋。無我夢中でデスゲームの訓練をした。
♦♦♦
秋、10月21日
家に帰り、いつものようにアプリを起動させた。
「ただいま、サマエル」
「……」
「サマエル?」
なんか様子がおかしい。てか、見た目が違う。
黒髪が灰色の髪になっている。髪が肩まである。
それに顔立ちも大人っぽい。20代前半くらいの男性に見える。
着ている服も、白と黒を基調とした軍服のような制服である。
「陽葵!」
「ん? なあに?」
「話がある」
「どうしたの? サマエル?」
「どうやら、俺は進化したようだ」
「やっぱ、進化したんだ!!」
「魔天使になったみたいだ」
「え? まてんし?」
(まてんしとは、何だろう??)
陽葵は首を傾げる。
サマエルは腕を組み、神妙な面持ちになった。
「魔天使が、なんなのか俺が調べる。いいか?」
「うん、お願い!」
「後、それだけじゃないんだ、声も聞こえた」
「声?」
「結菜さんかもしれない。『わたしが力をあげる』と言っていた」
「えッ? 結菜が!!」
陽葵はスマホを強く握る。
(結菜が? 亡くなったハズの結菜が??)
「回復魔法が使えるようになった。それだけじゃない、死者蘇生もできる」
「ええええええ!?」
陽葵は驚嘆し、スマホを落としそうになった。
死者蘇生は超絶レアスキルである。
確か、上の上クラスの悪魔でも獲得できるかどうか、わからない。超レアスキルである。
何せ、死んだ悪魔を復活させる事ができれば、育成主も蘇生できるのだ。
デスゲームを真っ向から喧嘩を売っているスキルだ。盤上がひっくり返るレベル。
「やはり、凄まじいスキルなんだろな」
「そうだね……」
そもそも、どうして、結菜がサマエルにそんな力をくれたんだろうか?
悪魔であるミエルには、死者蘇生のスキルなんて持っていたのだろうか?
いろんな疑問が湧く。
「他には、何か言われてない?」
「『陽葵ありがとう。わたしと一緒にいてくれて』と言っていた」
「結菜!!」
まさか、そんな伝言を。陽葵の目頭が熱くなる。
「陽葵。泣いてもいいぞ?」
サマエルはスマホの中で、液晶画面に触れ、優しげな眼差しで言ってくれた。
「な、泣かないもん!」
彼女は気丈に振る舞おうとしたが、瞳から大粒の涙が出てきた。
「陽葵。俺は進化したが満足していない。これからもどんどん強くなる。陽葵も一緒に強くなろう」
「うん……!」
結菜は言葉と力をくれた。絶対に無駄にしたくないし、いかしたい。
どれだけ泣いただろう。気づいたら、お母さんが自室に入り、陽葵を抱きしめていた。
泣き付かれて、いつの間にか眠った。
♦♦♦
第9話『冬のデスゲーム大会に向けて』
白猫神高等学校の文化祭終了して2日後。
「みな、冬のデスゲーム大会だな」
良太は教室の壇上で、クラスメイト達に向けて言う。
「ああ、そうだな」
「そうだね」
生徒達は少し緊張した面持ちで、つぶやく。
「てかさ、俺なんかがリーダーでいいのか?」
良太は訝しげに、クラスメイト達に問う。
「いいんだよ」
「いいと思います」
良太は深く溜息を漏らした後。
「みんなが知っていると思うが、俺のパーティーの一人、今野結菜が死んでしまった。それは俺の責任だ」
良太は片手で胸をおさえるが、声が震える。
「お前だけの責任じゃないだろ!」
「そうだよ!」
クラスメイト達が良太を力強くフォローする。
良太の心が少し癒えた。
「ありがとう!」
それからクラスメイト達と話し合い。
「七海陽葵!」
「え? え? 私?」
突然、良太が彼女に向けて、名前を言う。
「実はな、陽葵の悪魔は進化した。それも魔天使だ」
生徒達はざわついた。
「まてんし?」
「何だソレは?」
すると、良太は腕を組む。
「俺もよくわからないが、魔天使は希少性の高く、なおかつ強いらしいぞ」
「ふ~ん」
「そうなんだぁ~」
クラスメイト達は、よく理解していないようだ。
良太はニヤリとし。
「それだけじゃない。ヒナタの悪魔は回復魔法も使えるようになったし、何より蘇生魔法を扱える」
「「「!!」」」
生徒達は耳を疑った。
「それは、マジかよ!?」
「そうだ。だが、一回使うと2分のクールダウンがいる」
「2分か……」
「いや、たった2分でまた使えるんだろ! 最強じゃねぇか!」
「確かに!」
「デスゲームで復活できるなんて、すげぇよ!」
「死のリスクが減るじゃん!」
「そうだよ!」
生徒達も陽葵の悪魔のすごさに、気づき始めた。
「ヒナタが蘇生役として、集中すれば。おそらくだが、死者を出さずにゲームをクリアできるかもしれない」
「「「うおおおおおおおおおおおお――ッ!!」」」
生徒達は歓喜する。
陽葵は慌てて椅子から立ち上がる。
「ちょっと、待ってよ!! 私、滅茶苦茶、責任重大じゃん!!」
「そうだぞ! 頑張れ! 陽葵!」
「ちょっと!! 待ってよ!!」
陽葵を抗議をしたがスルーされてしまった。話しはどんど進む。
良太は壇上をバンバン叩く。
「いいか、お前ら。本番、緊張して震えてる場合じゃないからな。週5でもいいからデストレ、行けよ」
「ちょ! 週5もか??」
「週5かよ」
「お金が……」
「安心しろ。事前に頼んでくれたら、俺が予約してやるし割引してやる」
「え!」
「デストレでアルバイトしてるのか?」
「俺の親父が、デストレの経営者だ。頼めば、なんとかなる」
「「「おお!」」」
それから、クラスのみなで週5でデストレ屋で猛特訓する日々を送る事になった。
♦♦♦
第10話『冬のデスゲーム大会・開幕』
冬のデスゲーム大会当日。
いよいよ、1年生最後のデスゲームが始まる。
「いいか、お前ら。緊張してブルブル震えるなよ」
教室の壇上で良太が真剣に言う。
「武者震いはダメか?」
「そうそう」
生徒達は言う。
「ダメだ。震えてる場合じゃないからな」
良太は腕を組み、冷静に言う。
生徒達は少なからず、不安と恐怖もあるものの、日々の猛特訓のおかげで、自信とやる気があった。
それから、時間となり。
1年C組は体育館に移動し始めた。
1限目 1年C組
2限目 1年A組
3限目 1年B組
どうやら、1限目に1年C組らしい。
体育館には夏のデスゲームのように35台以上のパソコン、机、椅子が配置されていた。
大型の冷暖房機が作動している。体育館はそこそこ暖かい。
陽葵の右側に良太、左側に竜堂がいる。
陽葵はホッカイロを手にしていた。ホッカイロは温かくて気持ちが良い。
「おい、俺にも貸せ」
「はいはい」
陽葵は良太に渡す。
1年C組は、夏の大会で結菜含め7人の生徒が亡くなっている。陽葵達は23人で戦わなくてはならない。それは他のクラスと比べると大きなハンデである。陽葵は重要な役割がある。それは死者蘇生役だ。その重責で緊張と不安でガチガチだ。
「なあ、陽葵」
「ん?」
「もし、一人も犠牲者も出さず、クラスが勝利したら、付き合わないか?」
「え?」
「俺、陽葵の事が好きなんだ」
「ちょ! 何で、ソレ、今言うの? おかしいでしょ??」
突然の告白に、陽葵は動揺し慌てて良太の顔を見る。
「小学生2年生の頃から好きなんだ。お前の事」
「ちょ! ソレ、本当なの??」
「本気だぞ?」
「……ッ!」
「返事は早めにしろよ? じゃないと、泣いちゃうからな?」
良太はわざとらしく、上目使いで言う。
「あのね、それって死亡フラグなんだよ? それ、言わないでよ!」
「今のお前なら、死亡フラグを折れるだろ?」
「もう、へし折ってやるわよ!」
良太のおかげで、緊張が解けた。手が小刻みに震えるが、これは武者震いである。
サマエルには結菜から授かった死者蘇生がある。絶対、使いこなしみせる。
♦♦♦
「――5秒前、4、3、2、1、スタート!」
そして、デスゲームが始まった。
制限時間60分。
戦闘フィールドはマグマであった。黒いゴツゴとした岩に赤くドロドロした溶岩。
画面ごしでも、暑く恐怖を感じさせる。オーケストラとロックが混じったBGMが、陽葵の緊張感と高揚感を煽る。フィールドの奥から、大きな存在が、しっかりとした足どりで現れた。彼女はゴクリと、唾を飲みこんだ。
「1年C組が戦うモンスターはファイアードラゴンキッズだ」
実行委員が敵の正体を明かす。
「マジかよ、ファイアードラゴンキッズって強いじゃないか!」
「確か、Bランクモンスターだぞ?」
「1年生が相手に、Bランクとか強すぎだろ!」
クラスメイト達は動揺し、困惑を隠せなかった。
陽葵も少なからず、動揺ししてた。ファイアードラゴンキッズはBランクモンスターだ。
1年生が相手するには強い。それにだ、1年の時、戦ったワイズはCランクモンスター。
単体としてCランク相当だが、途中からスケルトンウォリアーと上手く連携し始め、挑発無効を使って来た。実質、ワイズ達はBランク以上の強さをみせた。学校側は、デスゲーム大会では強めに設定している可能性が高い。
そうなると、おそらくだがファイアードラゴンキッズはB+、考えたくもないがAランク相当の力を持っている可能性だってある。
「良太、ワイズっているかな?」
インカムごしに言ってみた。
ワイズっている。というのは、先ほど話した、夏のデスゲーム大会で戦ったワイズを事である。ワイズはCランクモンスターだが、実質、Bランクモンスターの強さがあった。ファイアードラゴンキッズもBランクではなくB+あるいはA以上なのでは?
そんな造語を陽葵達は使っている。
「かもな」
良太は頷く。
生徒達の何人かが、ワイズっているというワードを聞いてピンときたのか。
「マジかよ、ワイズってるのか!?」
「ワイズの時と同じなら、B+以上かもな」
「まさか、Aランクじゃないよな?」
生徒達はヒナタの推測に気づき始めた。
「えええ! それって、倒せるの??」
「いや、無理だろ!」
「無理ゲーすぎる!!」
生徒達は、悲鳴と弱音を吐き始める。
「おい、お前ら。死んでも蘇るんだ。それでも、怖いか?」
良太はインカムを使って、あえて低い声で言った。
「そ、それは……」
「いや、怖いよ!」
「怖いって!」
「お前ら!! 他のクラスにはヒナタはいないんだぞ? 死んだら死ぬ。だが、俺達のクラスにはヒナタがいる! 死んでも蘇るンだぞ?」
良太の叱咤に生徒達はハッとする。
「た、確かにそうだな」
「ああ、そうだな。他のクラスと比べたら……」
「そうだよ、陽葵ちゃんがいる!」
「お前ら! 歯を食いしばって戦え! さすらえば陽葵、俺達の女神が救ってくれるぞ!」
「ちょ! 良太!」
ヒナタは吹き出しそうになったがぐっとこらえ、隣にいる良太を睨む。
「陽葵は女神だ! だよな? お前ら!!」
「「「おう!!」」」
「陽葵神がいる!! 勝てるよ!!」
「そうだよ。陽葵様がいる!!」
絶対おかしいと思う陽葵。だが、他の生徒達はノリノリだ。
「ちょっと! みんな!!」
あまりの羞恥心で、どこかに隠れたいが、デスゲーム大会だ、この場から逃げるわけにはいかない。
「よし、訓練通りで行く! 作戦Aで行け!」
「「「おう!」」」
♦♦♦
ゲーム開始してから、8分後。
「タンク!! ブレスがくる!!」
「「「おう!」」」
前線に向けて、ファイアードラゴンキッズの炎ノ息(ファアーブレス)が襲いかかる。
5人いる悪魔のタンク達が大盾で防いでいく。
「ブレスが終わったら、戦士が前に、魔術師は水系魔法を、弓矢も水系で!」
「「「はい!!」」」
ファイアードラゴンキッズの炎ノ息が終わり、4人戦士達がファイアードラゴンキッズに向う。悪魔の魔術師達6人が各の水系魔法を攻撃。弓矢の4人も水系の弓スキルで攻撃を放つ。ファイアードラゴンは少しずつが確実にHPが、削る事に成功している。
陽葵を含めた4人の回復役である。
「回復役、タンクを回復させろ」
良太から指令が来る。
「わたしとアキちゃんが行くね!」
「行ってくる!」
「「了解!」」
みな、ゲームに慣れてきたか、動きもスムーズになり上手く連携し戦えている。
陽葵は回復役として後衛ではなく、戦士として前線で戦いたかった。
強敵であるファイアードラゴンキッズに対して、どれほど戦えるのか、試してみたかったのだ。
マウスを握る手も強くなる。だが、わかっている。
陽葵は戦士として戦う以上に蘇生役としての自分を求められている事に。
ゲーム開始して15分後。とうとう、出番が来てしまった。
「陽葵!! 杉山の悪魔が死んだ!!」
一気に緊張が走った。
「マジかよッ!!」
「杉山ッ!!」
生徒達はどよめく。とうとう、死人が出てしまったのだ。
「陽葵! 死者蘇生を!」
良太が陽葵を呼ぶ。
「わかってる!! 行くよ!!」
サマエルは急いで、前線にいるタンクの元に駆け寄る。
HPがゼロになった杉山くんの悪魔は仰向けで倒れている。
「俺達が陽葵の悪魔を守るッ!! 杉山の悪魔を助けてくれッ!!」
「わかった!!」
陽葵は蘇生スキルをクリック。すると、杉山の悪魔に天から黄金に輝く光とヒラヒラと羽が落ちてくる。すると、
杉山くんの悪魔が目が開き。HPが黄色いバーまで回復した。
「杉山くん!」
「ン?」
杉山くんの悪魔が立ち上がる。
「杉山、大丈夫か!?」
良太が言う。すると、杉山はハッとする。
「ああ、大丈夫だ!!」
「蘇生成功!!」
「「「おおお――ッ!!」」」
生徒達は大きな歓声を上げた。
「結菜ちゃん。杉山くんの悪魔くんを回復させよう!」
「うん!」
高橋と陽葵で杉山くんの悪魔を回復させる。
それから、倒れた生徒が3人いたが。どの生徒も蘇生を成功させる。
陽葵のおかげだ。生徒達は、恐怖を乗り越え、思う存分、戦えている。
ゲーム開始から40分後。
ファイアードラゴンキッズのHPは97%まで削れていた。
良太の悪魔が虹色に輝く。必殺ゲージが満タンになったのだ。
「《フェアリースノウストーム(妖精ノ雪嵐Ⅳ)》」
ファアードラゴンキッズの周囲に5体の妖精が出てくる、可愛い妖精が踊ると。
上空に雲が出来――大量の雪が降る――巨大な嵐となってファイアードラゴキッズを襲う。
ファイアードラゴンキッズのHPはみるみる減り、ゲージは空っぽになった。
「グオオオオオオオオ――!!」
ファイアードラゴンは断末魔をあげ倒れた。
「……」
「……」
「……」
5秒間の無言と沈黙。
「た、倒した……」
良太はつぶやいた。
「た、倒した!!」
「倒したぞ!!」
「……倒した!!」
そして、生徒達も声をあげる。
「「「やったあああああああ!」」」
生徒達は大声で歓声を上げる。
「俺達、倒したんだ!!」
「倒した!!」
「勝ったんだ!!」
見事、ゲームに勝利。
確かにHPが0にたった者もいる。だが、陽葵のおかげで全て蘇生に成功している。
実質、誰も犠牲者を出さずに勝利したのだ。
隣の人と抱き合う者。ガッツポーズを取る者。
手と手を合わせ、祈りを捧げた者。生徒達は思い思いに歓喜していた。
「静粛に! 生徒諸君、静かに教室に戻りなさい!」
実行委員が水を差す。
生徒達は、笑顔で口元をおさえ、喜びを噛みしめながら体育館から出る。
♦♦♦
教室に戻る。
担任の教師である闇与見先生は壇上に上がった。
「お前ら!!」
先生は叫んだ。
「「「はい!」」」
「よくやった!!」
先生は涙をこぼしながら言った。
「よっしゃ!!」
「やったね!!」
「いえ~い!!」
生徒達は笑顔ではしゃぐ。
「死人が出てもおかしくない、戦いだった。だが、七海陽葵のおかげで、蘇生され。復活できた。七海、ありがとう!」
「はい! 先生!」
「桐葉! よく頑張ったな! リーダーとして立派だったぞ!」
「当然です! 先生! 俺、優等生なので!」
桐葉はボケをかまし、生徒達はどっと笑う。
「てか、お前ら、カッコよかったぞ!」
「先生!」
「……先生」
陽葵は闇与見先生の男泣きを見て思う。厳しく悪魔な先生もちゃんと心があるんだって。
当たり前な事なのに、理解してなかった。
「お前ら、焼き肉屋に行くぞ! 全部、俺のおごりだ! 和牛でも何でも頼んでいいぞ!」
「「「いやったああああ――――ッ!!」」」
♦♦♦
エピローグ
焼き肉屋でお祝いした次の日。
陽葵と良太、竜堂は東京の墓地にいた。
結菜のお墓にはすでに、真新しいお花が供えていた。
「掃除するか!」
良太が笑顔で言う。
「そうだね」
「うん」
墓を水で洗い布巾で拭く。
それから、お花を戻す。
線香をチャッカマンで火をともす。
灯した線香を香炉に入れる。
陽葵達はお祈りする。
「結菜。冬のデスゲーム大会、勝ったよ」
陽葵がお墓に向って言った瞬間だった。
『おめでとう!』
「え?」
「どうしたんだ?」
「えっと、結菜の声がした」
「え、マジか??」
『陽葵、武𠮷、桐葉くん、わたしは陽葵達を見守っているからね。死んじゃダメだからね?』
「結菜!!」
「……結菜ちゃん!!」
「おいおい、もしかして竜堂もか??」
『3人とも、来てくれありがとう! じゃあね!』
「結菜!! 逝っちゃうの!?」
竜堂くんは陽葵の腕を掴む。
「陽葵ちゃん。きっと、結菜は天国に逝くんだよ。引き留めちゃダメだ」
「結菜……」
竜堂くんの言うとおりだ。結菜はきっと天国に逝く。
それを引き留めるべきじゃないだろう。
「ありがとう、結菜!」
さよならとは言いたくない。また、こうやって話せる気がするから。
「ミエルもありがとな!」
「うん、ありがとう!」
「……ありがと!」
お祈りが終わった後、良太は結菜の腕を掴む。
「なあ、陽葵」
「ん?」
「告白の返事、待ってるからな!」
「あんた、馬鹿っじゃないの!?」
墓の前で不謹慎である。それに結菜の墓でだ。
竜堂は吹き出し。
「陽葵ちゃん、良太くんと付き合えばいいじゃん」
「だよな」
「もう、竜堂くんもおかしいよ!」
結菜は亡くなった事実は消えない、けど結菜と一緒にいた日々は消える事はないだろう。
雪が降ってきた。
陽葵達は、その雪が結菜のプレゼントのようだと思った。
ありがとう、結菜。