第6話『開始』

 制限時間は30分だ。
 前衛にはスケルトンウォリアーが2体、後衛にワイズが1体いる。
 スケルトンウォリアーは骸骨の戦士だ。鎧、兜、剣と盾を装備している。
 おそらく、鋼鉄、スチール系である。
 ワイズは骸骨の魔法使い。紫色のローブ、頭には王冠を被っている。
 体よりも大きな杖を装備している。
 こちらは前衛に戦士のサマエル、同じく戦士のネコミ。中衛には何でも屋のベリアル、後衛に治癒師のミエルである。
 「スケルトンウォリアーを優先して倒せ!」
 「「了解!」」
 「りょ、了解!」
 陽葵はさっそく挑発スキルを発動させる。
 すると、スケルトンウォリアー2体が、サマエルに近づく。
 ネコミは、スケルトンウォリアーAに向けてハンマーを振るう。
 良太の悪魔はヒナタ達の悪魔に向け、攻撃力と防御力、魔法攻撃力、魔法防御力を上げる、
 バフをかけていく。
 「良太、ありがとう」
 「あ、ありがとう!」
 「おう!」
 だが、結菜の悪魔であるミエルは、まるで混乱したかのように、あらぬ方向に、いったりきたりとしていた。操作が乱れに乱れていた。
 「結菜、しっかりしろ!」
 良太が結菜に向けて叱咤(しった)する。
 「ごごッ、ごごごッ、ゴメン!」


 開始してから、7分後。スケルトンウォリアーの2体のHPは7割弱まで削れた。
 ワイズのHPは3割弱、削れている。
 後、23分。スケルトンウォリアーに関しては制限時間内に倒せそうだが。ワイズは間に合うだろうか?
 陽葵達に不安と焦燥感が漂う。結菜に至っては、オート設定にし、ミエルの意志で戦っている。結菜はミエルに向ってお祈りをしていた。
 「ミエルくん、頑張って!」
 だが、状況に変化が起きた。
 スケルトンウォリアーとワイズがミエルに向って、走る。
 「マズいぞ! 今野を守れ!」
 良太は異変に気づき、陽葵達に指令する。
 陽葵も気づき、挑発を発動させた。だが――
 「《挑発無効Ⅲ》」
 ワイズが唱える。すると、2体のスケルトンウォリアーはミエルに向う。
 「こッ! こないでッ!!」
 結菜は叫ぶ。だが、スケルトンウォリアーは結菜達の悪魔を無視しミエルに近づいて行く。
 スケルトンウォリアー達は早かった。スケルトンウォリアー達がミエルに近づき、剣を振るう。良太の悪魔であるベリアルが魔法スキルを発動。
 2体のスケルトンウォリアーは燃え上がる。
 「桐葉くん!!」
 結菜は大きな声をあげる。
 「陽葵! 竜堂! 早く来てくれ!!」
 「うん!」
 「う、うん!」
 二人の悪魔がスケルトンウォリアーに向って走る。
 ワイズはニヤリとし杖を掲げる。
 「《ダークレインパラライズⅣ》」
 それは広範囲に渡る、全体攻撃だった。
 空から黒い雨が降り注ぐ。
 サマエルのHPは1割弱削れ、ウサミとベリアルのHPが1割強削れた。
 ミエルは6割強も削られてしまった。それだけじゃない、ミエル以外の悪魔達が混乱状態になってしまった。
 「結菜! オートを解除して、俺の悪魔の状態異常を治せ!」
 「え!! ちょっと待って!!」
 結菜はオート解除している間、サマエルはウサミを攻撃。ベリアルは、近くにいたスケルトンウォリアーAとBを攻撃していた。
 「結菜!」
 「解除した!」
 結菜はオート機能を解除した瞬間だった。
 「《ダークランス》」
 ワイズは唱え、闇の槍がミエルに向って、放たれた。
 「え?」
 闇の槍はミエルの胸を貫通し消えた。8割弱しかなかったHPは、みるみる減り。
 瀕死状態をあらわす、赤いバーに突入――HPは空になった。
 ミエルは倒れ――光の粒子となって消えた。
 陽葵達は、10秒間、状況が飲み込めなかった。
 「……」
 「ミエルッ! いやッ! ミエルうううううう――ッ!!!」
 結菜は絶叫した。体育館中に響き渡る。
 良太はその声で我に返り、叫ぶ。
 「陽葵はスケルトンウォリアーAを! 竜堂はスケルトンウォリアーBを!」
 「結菜が!! 結菜が!!」
 「ゆ、結菜ちゃん!!」
 陽葵と竜堂は椅子から立ち上がり、結菜にの元に行く。
 「結菜!!」
 「馬鹿!! わたしにかまわず、戦闘を続けて!!」
 「だって! 結菜が!」
 すると結菜が陽葵の(ほほ)平手打(ひらてう)ちする。
 「戦闘に戻って! 早く!」
 結菜は鬼の形相で訴える。
 陽葵はハッとし、彼女の言うとおりに椅子に座り、戦闘に戻る。
 「武吉も!!」
 「わ、わかった!」
 竜堂も慌てて、自分の席に座る。

 それから、15秒後、良太の悪魔の混乱が解け、すぐに魔術でサラエルとネコミの状態異常を解いていく。
 「ワイズを倒せ!!」
 それから無我夢中でワイズと戦かった。スケルトンウォリアーの攻撃を無視して。
 ゲーム開始から18分後。
 《YOU WIN》と表示された。
 そう、ワイズ達を倒す事に成功した。
 陽葵は慌てて、結菜の方を向く。
 「結菜!!」
 結菜は胸をおさえていた。
 「結菜! 結菜!!」
 竜堂くんと良太も椅子からおりて、結菜の元に寄る。
 「結菜、勝ったぞ!!」
 「そっか……良かった……」
 「結菜ちゃん! 生きるんだ!」
 竜堂が叫ぶ。だが、結菜の体は氷のように冷たくなっている。
 「……みんな……ありがとう……」
 「馬鹿ッ!! 諦めるなよ!!」
 「そうだよ!! 結菜!!」
 良太と陽葵は叫ぶ。
 「……ゴメン……もう……息が……さよう……なら……」
 そう言い残し、机に突っ伏した。
 「結菜ああああああ――――ッ!」
 陽葵は叫んだ。
 すぐに実行委員と救急隊員があらわれ、結菜の脈をとる。
 救急隊員がタンカーの上に結菜を乗せ。
 校庭にある救急車へと向った。
 「結菜ああああああああああああああ――ッ!」
 「静かにしろ! まだプレイしている生徒達がいる!」
 実行委員が陽葵の口をハンカチを無理矢理、当てる。
 陽葵は暴れたが、ハンカチに睡眠薬が散布しているのか、しだいに力が入らなくなり眠った。
 「何をするんだ!!」
 「ひ、陽葵ちゃん!!」
 「叫ぶな。この子は眠っているだけだ。大人しくしなさい」
 「くッ!」
 良太も暴れそうになったが、竜堂が彼を腕を掴み、止める。
 「竜堂!!」
 良太はギロリと竜堂を睨む。
 「……救急車に乗っていいですか?」
 竜堂は実行委員に、怒りを押し殺した声で言う。
 「一人ならいいだろう」
 「……わかりました」
 「竜堂! お前ッ!!」
 「黙れ、良太!! 僕もお前より怒ってる!!」
 竜堂の剣幕に良太はハッとする。
 なぜなら竜堂の瞳から大粒の涙が流れていた。
 「ッ……!」
 竜堂は一瞬で大人しくなった。

 陽葵は救急隊員によって保健室に運ばれ。
 竜堂は救急車に乗り。良太は駐輪場の自転車に乗って病院へ向った。

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