第3話『訓練』

 休日、ヒナタ達はデストレ屋いた。
 デストレ屋ではデスゲーム大会で催される死のゲームを模擬的にトレーニング出来るのだ。もちろん、戦っている使い魔が死んでも育成主には死のペナルティーはない。なので、安心して戦える。だが、使い魔である悪魔も生き物。
 何度もHPが0になるような事がおきれば、悪魔が根をあげても、おかしくない。
 最大6人がプレイできる個室。
 料金は1人、1時間で3000円とやや高めだが、育成主が死なないテストができるとなると、人気も高い。3日先まで予約で一杯である。
 悪魔の事を考えれば可哀想だが、育成主は死のリスクがないぶん、安心して戦える。
 今、ゴブリンウォリアーというボスと戦っている。
 長身なサマエルより、背が高く、体格もがっしりしている。
 ゴブリンウォリアーは白い鋼鉄でできたアーマーと兜で身を包んでいる。右手にはスチールソード、左手にはスチールシールドを装備している。
 ゴブリンウォリアーはヒナタの悪魔であるサマエルと対峙し、戦っている。
 「《チョウハツ(挑発Ⅲ)》」
 サマエルはゴブリンウォリアーに向けて挑発。これによって、ゴブリンウォリアーは効力が失うまでサマエルを攻撃のターゲットになる。
 「グオラッ!!」
 ゴブリンウォリアーは噴気しベサマエルに襲いかかる。
 サマエルは左手の盾で攻撃を防ぎ、素早く右手の片手剣で敵を斬る。
 ゴブリンウォリアーのHPが2割弱削れる。
 サマエルは戦士として前衛を任されている。高い物理攻撃力と高い物理防御力があるからだ。
 「よし、ヒナタ。その調子だ。竜堂も攻撃しろ」
 「……うん」
 竜堂は、マウスを素早く操作。
 彼の悪魔である、ネコミが戦う。
 「《キャット・オブ・ハンマー(猫の鉄槌Ⅲ)》」
 ネコミゴブリンウォリアーに向けて、ハンマーを振るう。
 ゴブリンウォリアーに見事、直撃し吹っ飛んだ。ゴブリンウォリアーの頭上にはヒヨコがぐるぐる空中を回る。いわゆるスタン状態だ。
 敵のHPは3割弱削れた。
 「よし、次は。俺だ」
 「《ファイヤーランス(炎の槍Ⅲ)》」
 良太の悪魔ベリアルが、敵に向けて魔法を放つ。
 炎の槍がゴブリンウォリアーを襲い、ゴブリンウォリアーに命中。
 敵のHPが2割削れる、まだスタン状態が続いている。
 サマエルが片手剣で攻撃、ネコミの回転叩きで、とどめである。
 ゴブリンウォリアーは倒れ、光の粒子となって消えた。
 『YOU WIN』と表示された。
 敵を倒した事によって、経験値とアイテム、お金であるギルがもらえた。
 「いや~、勝った! 勝った!」
 良太がマウスから手を放し、パチパチと拍手する。
 「ネコミちゃん、強ぇな!」
 良太が竜堂の使い魔であるネコミを褒める。
 「うんうん、強い! 1発でHPが3割削れたし、スタンさせるなんて、スゴイよ!」
 陽葵も手放しでネコミを褒める。
 「……うん、うちの子、強い」
 竜堂は頷き、微笑む。そんな中、結菜は悔しげな表情を隠さずデスクを叩く。
 「みんな!!」
 「ん? どうした? 今野」
 「どうしたの、結菜?」
 「……ん?」
 「どうしたもこうしたもない!! みんな強すぎ!!」
 「「え?」」
 「……え?」
 結菜以外の3人は固まる。
 (結菜、どうしたんだろう?)
 「ゴブリンウォリアーって、Cランクのモンスターなんだよ? たった3分で倒しちゃうなんて、おかしいでしょ??」
 「そりゃあ、私のサマエルは強いよ。めっちゃ、課金してるし。家で訓練してるし、外でもデストレ屋だって、通ってるもん」
 「俺も、そうだ。廃課金しているし、家でトレーニングしてるし、週4でデストレ屋に行ってる」
 「くぅ~、金持ちめぇ!!」
 結菜は憎らしげに、陽葵と良太を睨む。
 良太はケラケラ笑い、竜堂の方を見る。
 「で、竜堂は?」
 「……最初から強かった」
 「マジか! それは羨ましいな!」
 「そうなんだ!」
 良太も陽葵も驚く。初期から強い悪魔はレアだ。
 ネットの情報だが、初期から強い悪魔は上位悪魔に進化しやすく、強くなる傾向にある。
 結菜は深い深い溜息を漏らし、涙目になる。
 「もう、わたし、全然、いらない子じゃん! わたしがいなくても勝てるじゃん!」
 「今野。だったら前衛をやるか?」
 「できないよ!」
 「あのな、いいか今野。お前がいる事で、前衛は本気で戦えるんだ」
 「え? どういう事?」
 「攻撃を受ければ、悪魔もダメージを受けるし、人間である俺達の命がヤバくなる。だが、攻撃を受けても、今野が回復させてくれれば、状態異常も治るし。HPが回復する。そのおかげで、思いっきり戦えるんだ」
 「それは、そうかもしれないけど……」
 そでれも結菜は納得していない様子だった。
 「今野の悪魔、ミエルが俺達の悪魔だけじゃなく、俺達、人間を救えるんだ。それって、すごく重要な役割だと思わないか?」
 良太は優しげな表情で結菜をさとす。
 結菜は腕を組み、目を瞑る。
 「……」
 10秒の沈黙と無言の後。結菜の口元を綻び。
 結菜は大きな瞳を開け、頭を縦に振った。
 「そうだよね! わたしって重要だよね!」
 「そうだよ、結菜とミエルくんは超重要だよ?」
 「……うん、僕も、思う」
 「そうだぞ! もっと自信を持て、今野!」
 結菜の大きな瞳がキラリと光った。
 「うん! わたし頑張るから! もっと訓練しよう!」
 良太は両手をパンパンと叩き響かせる。
 「そうだな! もっと訓練しよう!」

 ♦♦♦