第2話『パーティーを組もう!』
お昼休み、ランチの時間。
いつものように陽葵と結菜は学校の中庭にある昼食をとっていた。
結菜はサンドイッチを口に運び、咀嚼。ごくりと飲み込む。
陽葵は学校の自販機で購入した紙パックのリンゴジュースをごくごく飲む。
やや冷えた、甘酸っぱいリンゴ果汁が喉を潤ます。
「ねぇねぇ。パーティーとかどうする?」
「そうだねぇ……」
実は、陽葵と組みたいと言ってくれる生徒が5人くらいいる。
(だけど、条件があるんだよね)
それは結菜とパーティーを組まない事。なぜなら、結菜の悪魔の使い魔が下の下であることは、クラス中に広まっており周知されていたからだ。4月に開かれた春のテストでは、モンスターであるスライムを5体、倒すというモノだった。スライムのレベルは3。かなり弱いモンスターである。結菜はレベル3であるスライムを1体、倒すのに5分もかかったのだ。結菜はおそらく、攻撃に関しては1年C組で1番、弱いかもしれない。そういう事情でクラスにとって、結菜は腫れ物というイメージなのである。だが陽葵は知っている。悪魔であるミエルの強さは補助役として、ヒーラーとして力を発揮タイプだと。とにかく、パーティーは4人である。後、2人が必要だ。
「やっぱ、うちと同じパーティーじゃ嫌かな?」
結菜は自虐的な表情で空を見上げる。
「結菜。そういう事、言わないの。頬を掴むよ。みゅーんって」
陽葵は結菜の頬を指先でつっつく。
「それはやめて」
結菜は嫌がりながらも、ケラケラと笑う。
(そうだよ、結菜は笑顔が一番!)
陽葵はふと、ある男子の姿が浮かび。少し、考えた後。
「私ね、心当たりがある男子がいるんだけど」
「え? いるの?」
結菜は食べていたサンドイッチを落とし、前のめりになる。
「ちょ! サンドイッチ落としてるよ?」
陽葵は反射的に彼女の落としたサンドイッチを拾おうと、かがむ。
「サンドイッチどこじゃないよ! 陽葵!」
陽葵はサンドイッチをひょいっと拾い上げ。
「これじゃあ、食べられないよね?」
「砂でスゴイ事に……って、誰なの!?」
「桐葉良太だよ」
「えッ!! き、桐葉くん??」
結菜は大きく目を見開き、大きい声をあげた。
「それって、うちのクラスの桐葉良太くん?」
「そうだけど?」
こともなげに、伝えると。結菜はごくりと唾を飲み込み。
「どうして、桐葉良太くんが?? めっちゃ、優等生じゃん!!」
結菜は早口でまくしたててきた。
(やっぱそういう反応になるよね……)
桐葉良太(きりは りょうた)は陽葵や結菜と同じクラスで、白猫神高等学校を首席合格した秀才。
所持している悪魔は中位クラスの悪魔。中の中だ。
装備さえ変えれば、楯士、戦士、魔術師、治癒師など、どの職業にもオールマイティーに活躍できる、優秀な悪魔の使い魔を持っている。確か、名前はベリアル。
「えーっとね。神崎良太は隣の家で、幼馴染みなの」
「えええええええええええええ――ッ!!」
結菜は勢いあまってベンチから落ちた。
「ちょっ! 結菜!」
陽葵は慌てて、立ち上がり結菜の腕を掴む。
「ああ、ゴメン。もうさ、ビックリしちゃって」
結菜は元の位置に戻り、めくれたスカートを手で直す。
「幼馴染みなの?」
「うん、そう。幼稚園の頃から遊んでたから」
中学生になったら、遊ぶ回数こそ減ったが。1ヶ月に1回は食事をする仲だし『ライン』で連絡を取り合ったりする。
「お願い! 桐葉くんを誘って!」
「いいよ」
すると結菜は、ぱあっと太陽のような、明るい笑顔になり。
「やったぁー!!」
結菜は両手を上げ、喜びのポースを取った。
「まだ、決定じゃないからね? まだ、本人に聞いてないし!」
陽葵は慌てる。だが、結菜はニヤリと悪そうな笑みを浮かべ。
「幼馴染みのお願いを、断ると思う?」
「ど、どうだろうね?」
こればかりは、本人に連絡しないとわからない。
結菜は陽葵の手を掴み、強く握る。
「大丈夫、陽葵は可愛いし優しいから、優等生くんは断らない」
彼女は真剣な眼差しで言う。
「え? え?」
陽葵は目は泳ぎ、戸惑う。
(私は可愛くないよ、それに、そこまで私、優しくないし!)
「大丈夫、大丈夫。優等生くんは入ってくれるよ」
「わかった、なんとか良太を説得するよ」
「お願いね!」
良太は人気者だ。すでにパーティーを組んで特訓をしているだろう。
まあ、ダメ元で誘うが。
「だったら、後。一人か」
結菜は腕を組み、空を見上げる。
「結菜は心当たりない?」
「いるけど……」
結菜は小声でつぶやく。
「いるんだ! 誰??」
「実はわたしに告白してくれた男子がいるんだ」
次は陽葵が驚く番だった。
「えええええええええええええ――ッ!」
(結菜に告白した男子がいたの!?)
陽葵は驚き、ベンチから落ちそうになった。
「初耳だよ!! 誰なの??」
陽葵は素早く彼女の腕を掴んだ。
「えーっとね……竜堂武𠮷(りゅうどう たけよし)だよ」
「ええ!! 竜堂くんが!?」
強面で有名な竜堂武吉が陽葵に告白なんて、ビックニュースだ。
「やっぱ、驚くよね~」
結菜はケラケラ笑う。
「竜堂くんて、結構、怖い人だよね?」
「いや、ただのコミュ症だよ」
「え?」
「竜堂くんは、見た目こそ怖いけど。中身は優しいし、猫とか可愛いモノが好きな。オトメンな感じだよ?」
竜堂くんがオトメン。にわかに信じがたい情報だ。
「そ、そうなの?」
結菜は優しげな眼差しで頷く。
「実は、同じ中学なの。アルバイトも一緒で、休憩中とかよく喋るんだ」
陽葵は結菜と竜堂が楽しそうに会話するイメージをする。だが、上手に想像できない。
「そうなんだ……」
「内緒にして、ゴメンね! 竜堂くんって、結構、内気だし。言いふらしたら、嫌われると思って、言えなかったの!」
陽葵は手と手を合わせ、謝罪した。
「なるほど。そっか……でも、私も良太の事、内緒にしてたから。これで、おあいこね」
「うん、そうだね!」
♦♦♦
陽葵はさっそく、良太に向け『ライン』で連絡をとる。
『話があるんだけど』
すると3分で返事が来た。
『どうしたんだ?』
『パーティーを組んで欲しいの』
『陽葵が? どうしてまた?』
『最強の良太と組めば、鬼に金棒だと思ってね。どう?』
『鬼に金棒とかいって、今時、言わないだろ(笑)』
『で、どうなの?』
『そうだな。あいつらと喧嘩してるし。ちょうどいいな』
『てことは……』
『坂本のパーティーを抜ける』
『じゃあ、うちのパーティーに入って』
『いや、待て。お前って、今野結菜と組んでるだろ?』
『そうだけど? 問題ある?』
『スライムに手こずる弱さだろ? 大丈夫なのか?』
『大丈夫。結菜の強さは補助として、ヒーラーとして力を発揮するから』
『ヒーラーか。だったら、一人くらいいてもいいな』
『そうでしょ? なら、いいじゃない』
『わかった。もう一人はどうする?』
『結菜が竜堂くんを誘うって』
『竜堂か、あいつも大丈夫なのか?』
『大丈夫。実はオトメンだから』
『オトメン?』
陽葵の話をかいつまんで、説明した。すると、良太は納得したのか。
『わかった。じゃあ、陽葵、今野、竜堂、俺の4人でいいな?』
『うん、お願いするね!』
♦♦♦
それから3日後。
陽葵達は放課後の教室に集まった。
桐葉良太が両手をパンパンと叩く。
「おう、みんな。今日は集まってくれて、ありがとな」
どうやら、良太が仕切るようだ。
「うん、こちらこそパーティーに入ってくれて、ありがとう」
結菜はペコリと頭を下げ、お礼を言った。
「……こんにちは」
竜堂は小声で挨拶。目つきが鋭く、体格もいいので、威圧感がある。
(本当にオトメンなの……?)
「今日、パーティーを結成し、お互い自己紹介しようと思う。どうだろうか?」
「はい、いいでーす!」
結菜は元気よく手をあげる。
「私もいいと思う」
陽葵は小さく手をあげる。
「……うん」
竜堂は、腕を組み、こくりと頷く。
「まずは、俺から紹介する。俺は、見ての通り学年のップの優等生、桐葉良太だ」
「自分で優等生とか言っちゃう?」
「陽葵。良いツッコミだ」
「はいはい」
「理由は俺の好きなバンドがこの学校に通っているからさ」
「もしかして、エアコンハートロックだっけ?」
「そう! 2年生の五十嵐先輩と山本先輩がいるからだ!」
「なるほどね」
陽葵達の学校にはエアコンハートロックという、日本の有名女性バンドがいる。
リーダーである五十嵐先輩の父親がエアコンを作る会社の社長なので、その名がつけられたらしい。五十嵐先輩の声はハスキーで甘い声をしている。力強く高難度のロックミュージックを歌いあげる。
「だから、エアコンハートロックの五十嵐先輩や山本先輩と友達になりたくて白猫神高等学校を選んだんだ」
「へぇ~」
結菜は驚かず、良太の話を聞き入れる。
「……なるほど」
竜堂も動じず、淡々としている。良太はウケを狙っていたが、どうやら外したようだ。
良太はコホンと咳払いする。
「じゃあ、今野。お前が紹介してくれ」
結菜はビクっとし、慌てて前に出る。
「今野結菜です! 勉強とか得意じゃないけど、バスケとかサッカーができるよ。運動神経がいいから、中学生の頃は体育はだいたい5。風邪とか引かないタイプ。元気が取り柄なの」
彼女は早口で自己紹介する。
「脳筋なのか……」
良太が失礼な言葉をつぶやく。すると結菜はムッとし。
「脳筋じゃないもん!」
結菜は抗議の声を上げる。
「ヒーラーなら、ある程度。賢さは必要だぞ?」
良太の厳しい指摘に結菜はシュンと小さくなる。
「……だよね。そこは頑張るよ」
(坂本くんと喧嘩しちゃう原因で、やっぱ、こういう所かな?)
良太は初対面でも容赦なく、ズバズバと発言する。正直者で本音で話すタイプだ。そういう性格がいいと思う人もいれば、嫌がる人もいるだろう。そうなると、パーティーを組んでいた坂本くん、あるいは他のメンバーは後者の可能性は高い。
「次は、お前だ」
良太は陽葵に向けて人差し指を向ける。
「はい。私は七海陽葵。得意科目、国語と英語。苦手科目は理数系。趣味は読書。好きな事は悪魔の育成。私が育てている悪魔はサマエルっていうの。かっこ良くて強いの。話したら、1週間くらい話せる。なぜなら――」
「いや! 今は話さなくていいからな!」
良太から素早くツッコミが入った。陽葵は出鼻をくじかれ、ムスっとする。
「あのな。お前ばかり、話したら竜堂が自己紹介できないだろ」
良太は呆れ顔で陽葵を叱る。
「そ、そうだね……」
正論だ。良太の指摘はあっている。
陽葵ばかり話したら、竜堂くんが話す時間がなくなってしまう。
「竜堂、自己紹介を頼む」
「……竜堂武𠮷です。以上」
「ちょ! それだけか??」
良太は驚き、前のめりになる。結菜はニヤっとする。
「……話すの……得意……じゃない」
「竜堂くんって、こう見えて。めっちゃ、優しいの。ちょっと、人より人見知りが激しいだけで。普段はもっと、ペラペラ喋れるンだよ?」
結菜がフォローする。すると、竜堂は結菜の方を見て。
口をもごもごさせる。
「いわゆる、コミュ症か。竜堂は」
「ちょ! 良太それは失礼だよ!」
陽葵は良太に向って叱る。
「ハイハイ、陽葵様。後で飴ちゃんあげるから」
「い、いらない!」
一瞬、欲しいなと思ったが、首を横に振る。
「桐葉くん、後でちょうだい!」
「いいぞぉ~」
どうやら、結菜は釣れたようだ。
陽葵が結菜を睨むと。彼女はペロっと舌を出す。
「竜堂、後で。『ライン』を交換してくれ」
竜堂は、目を大きく見開き。頭をゆっくり縦に振る。
「……うん」
「よし、それでいい!」
「何で、そんなに偉そうなのよ!」
「いずれ官僚になる男だ。偉くなる」
陽葵のツッコミに動じず、腰に手を当て胸を張る。
「今は違うでしょ。官僚になってから言いなさいよ」
陽葵は良太をジロリと睨むが、良太はまったく動揺しない。
「あはは! 二人とも面白い!」
結菜は吹き出し、手を叩いて笑う。
「まあな。俺はボケ。陽葵はツッコミの才能がある」
「はいはい」
良太は両手をパンと叩き。
「さてと、じゃあ。自己紹介はここまで。作戦会議でもするぞ」
「はい!」
結菜は元気よく返事。
「はいはい!」
陽葵はやれやれとした表情で言う。
「……はい」
竜堂は小声で頷いた。
♦♦♦
お昼休み、ランチの時間。
いつものように陽葵と結菜は学校の中庭にある昼食をとっていた。
結菜はサンドイッチを口に運び、咀嚼。ごくりと飲み込む。
陽葵は学校の自販機で購入した紙パックのリンゴジュースをごくごく飲む。
やや冷えた、甘酸っぱいリンゴ果汁が喉を潤ます。
「ねぇねぇ。パーティーとかどうする?」
「そうだねぇ……」
実は、陽葵と組みたいと言ってくれる生徒が5人くらいいる。
(だけど、条件があるんだよね)
それは結菜とパーティーを組まない事。なぜなら、結菜の悪魔の使い魔が下の下であることは、クラス中に広まっており周知されていたからだ。4月に開かれた春のテストでは、モンスターであるスライムを5体、倒すというモノだった。スライムのレベルは3。かなり弱いモンスターである。結菜はレベル3であるスライムを1体、倒すのに5分もかかったのだ。結菜はおそらく、攻撃に関しては1年C組で1番、弱いかもしれない。そういう事情でクラスにとって、結菜は腫れ物というイメージなのである。だが陽葵は知っている。悪魔であるミエルの強さは補助役として、ヒーラーとして力を発揮タイプだと。とにかく、パーティーは4人である。後、2人が必要だ。
「やっぱ、うちと同じパーティーじゃ嫌かな?」
結菜は自虐的な表情で空を見上げる。
「結菜。そういう事、言わないの。頬を掴むよ。みゅーんって」
陽葵は結菜の頬を指先でつっつく。
「それはやめて」
結菜は嫌がりながらも、ケラケラと笑う。
(そうだよ、結菜は笑顔が一番!)
陽葵はふと、ある男子の姿が浮かび。少し、考えた後。
「私ね、心当たりがある男子がいるんだけど」
「え? いるの?」
結菜は食べていたサンドイッチを落とし、前のめりになる。
「ちょ! サンドイッチ落としてるよ?」
陽葵は反射的に彼女の落としたサンドイッチを拾おうと、かがむ。
「サンドイッチどこじゃないよ! 陽葵!」
陽葵はサンドイッチをひょいっと拾い上げ。
「これじゃあ、食べられないよね?」
「砂でスゴイ事に……って、誰なの!?」
「桐葉良太だよ」
「えッ!! き、桐葉くん??」
結菜は大きく目を見開き、大きい声をあげた。
「それって、うちのクラスの桐葉良太くん?」
「そうだけど?」
こともなげに、伝えると。結菜はごくりと唾を飲み込み。
「どうして、桐葉良太くんが?? めっちゃ、優等生じゃん!!」
結菜は早口でまくしたててきた。
(やっぱそういう反応になるよね……)
桐葉良太(きりは りょうた)は陽葵や結菜と同じクラスで、白猫神高等学校を首席合格した秀才。
所持している悪魔は中位クラスの悪魔。中の中だ。
装備さえ変えれば、楯士、戦士、魔術師、治癒師など、どの職業にもオールマイティーに活躍できる、優秀な悪魔の使い魔を持っている。確か、名前はベリアル。
「えーっとね。神崎良太は隣の家で、幼馴染みなの」
「えええええええええええええ――ッ!!」
結菜は勢いあまってベンチから落ちた。
「ちょっ! 結菜!」
陽葵は慌てて、立ち上がり結菜の腕を掴む。
「ああ、ゴメン。もうさ、ビックリしちゃって」
結菜は元の位置に戻り、めくれたスカートを手で直す。
「幼馴染みなの?」
「うん、そう。幼稚園の頃から遊んでたから」
中学生になったら、遊ぶ回数こそ減ったが。1ヶ月に1回は食事をする仲だし『ライン』で連絡を取り合ったりする。
「お願い! 桐葉くんを誘って!」
「いいよ」
すると結菜は、ぱあっと太陽のような、明るい笑顔になり。
「やったぁー!!」
結菜は両手を上げ、喜びのポースを取った。
「まだ、決定じゃないからね? まだ、本人に聞いてないし!」
陽葵は慌てる。だが、結菜はニヤリと悪そうな笑みを浮かべ。
「幼馴染みのお願いを、断ると思う?」
「ど、どうだろうね?」
こればかりは、本人に連絡しないとわからない。
結菜は陽葵の手を掴み、強く握る。
「大丈夫、陽葵は可愛いし優しいから、優等生くんは断らない」
彼女は真剣な眼差しで言う。
「え? え?」
陽葵は目は泳ぎ、戸惑う。
(私は可愛くないよ、それに、そこまで私、優しくないし!)
「大丈夫、大丈夫。優等生くんは入ってくれるよ」
「わかった、なんとか良太を説得するよ」
「お願いね!」
良太は人気者だ。すでにパーティーを組んで特訓をしているだろう。
まあ、ダメ元で誘うが。
「だったら、後。一人か」
結菜は腕を組み、空を見上げる。
「結菜は心当たりない?」
「いるけど……」
結菜は小声でつぶやく。
「いるんだ! 誰??」
「実はわたしに告白してくれた男子がいるんだ」
次は陽葵が驚く番だった。
「えええええええええええええ――ッ!」
(結菜に告白した男子がいたの!?)
陽葵は驚き、ベンチから落ちそうになった。
「初耳だよ!! 誰なの??」
陽葵は素早く彼女の腕を掴んだ。
「えーっとね……竜堂武𠮷(りゅうどう たけよし)だよ」
「ええ!! 竜堂くんが!?」
強面で有名な竜堂武吉が陽葵に告白なんて、ビックニュースだ。
「やっぱ、驚くよね~」
結菜はケラケラ笑う。
「竜堂くんて、結構、怖い人だよね?」
「いや、ただのコミュ症だよ」
「え?」
「竜堂くんは、見た目こそ怖いけど。中身は優しいし、猫とか可愛いモノが好きな。オトメンな感じだよ?」
竜堂くんがオトメン。にわかに信じがたい情報だ。
「そ、そうなの?」
結菜は優しげな眼差しで頷く。
「実は、同じ中学なの。アルバイトも一緒で、休憩中とかよく喋るんだ」
陽葵は結菜と竜堂が楽しそうに会話するイメージをする。だが、上手に想像できない。
「そうなんだ……」
「内緒にして、ゴメンね! 竜堂くんって、結構、内気だし。言いふらしたら、嫌われると思って、言えなかったの!」
陽葵は手と手を合わせ、謝罪した。
「なるほど。そっか……でも、私も良太の事、内緒にしてたから。これで、おあいこね」
「うん、そうだね!」
♦♦♦
陽葵はさっそく、良太に向け『ライン』で連絡をとる。
『話があるんだけど』
すると3分で返事が来た。
『どうしたんだ?』
『パーティーを組んで欲しいの』
『陽葵が? どうしてまた?』
『最強の良太と組めば、鬼に金棒だと思ってね。どう?』
『鬼に金棒とかいって、今時、言わないだろ(笑)』
『で、どうなの?』
『そうだな。あいつらと喧嘩してるし。ちょうどいいな』
『てことは……』
『坂本のパーティーを抜ける』
『じゃあ、うちのパーティーに入って』
『いや、待て。お前って、今野結菜と組んでるだろ?』
『そうだけど? 問題ある?』
『スライムに手こずる弱さだろ? 大丈夫なのか?』
『大丈夫。結菜の強さは補助として、ヒーラーとして力を発揮するから』
『ヒーラーか。だったら、一人くらいいてもいいな』
『そうでしょ? なら、いいじゃない』
『わかった。もう一人はどうする?』
『結菜が竜堂くんを誘うって』
『竜堂か、あいつも大丈夫なのか?』
『大丈夫。実はオトメンだから』
『オトメン?』
陽葵の話をかいつまんで、説明した。すると、良太は納得したのか。
『わかった。じゃあ、陽葵、今野、竜堂、俺の4人でいいな?』
『うん、お願いするね!』
♦♦♦
それから3日後。
陽葵達は放課後の教室に集まった。
桐葉良太が両手をパンパンと叩く。
「おう、みんな。今日は集まってくれて、ありがとな」
どうやら、良太が仕切るようだ。
「うん、こちらこそパーティーに入ってくれて、ありがとう」
結菜はペコリと頭を下げ、お礼を言った。
「……こんにちは」
竜堂は小声で挨拶。目つきが鋭く、体格もいいので、威圧感がある。
(本当にオトメンなの……?)
「今日、パーティーを結成し、お互い自己紹介しようと思う。どうだろうか?」
「はい、いいでーす!」
結菜は元気よく手をあげる。
「私もいいと思う」
陽葵は小さく手をあげる。
「……うん」
竜堂は、腕を組み、こくりと頷く。
「まずは、俺から紹介する。俺は、見ての通り学年のップの優等生、桐葉良太だ」
「自分で優等生とか言っちゃう?」
「陽葵。良いツッコミだ」
「はいはい」
「理由は俺の好きなバンドがこの学校に通っているからさ」
「もしかして、エアコンハートロックだっけ?」
「そう! 2年生の五十嵐先輩と山本先輩がいるからだ!」
「なるほどね」
陽葵達の学校にはエアコンハートロックという、日本の有名女性バンドがいる。
リーダーである五十嵐先輩の父親がエアコンを作る会社の社長なので、その名がつけられたらしい。五十嵐先輩の声はハスキーで甘い声をしている。力強く高難度のロックミュージックを歌いあげる。
「だから、エアコンハートロックの五十嵐先輩や山本先輩と友達になりたくて白猫神高等学校を選んだんだ」
「へぇ~」
結菜は驚かず、良太の話を聞き入れる。
「……なるほど」
竜堂も動じず、淡々としている。良太はウケを狙っていたが、どうやら外したようだ。
良太はコホンと咳払いする。
「じゃあ、今野。お前が紹介してくれ」
結菜はビクっとし、慌てて前に出る。
「今野結菜です! 勉強とか得意じゃないけど、バスケとかサッカーができるよ。運動神経がいいから、中学生の頃は体育はだいたい5。風邪とか引かないタイプ。元気が取り柄なの」
彼女は早口で自己紹介する。
「脳筋なのか……」
良太が失礼な言葉をつぶやく。すると結菜はムッとし。
「脳筋じゃないもん!」
結菜は抗議の声を上げる。
「ヒーラーなら、ある程度。賢さは必要だぞ?」
良太の厳しい指摘に結菜はシュンと小さくなる。
「……だよね。そこは頑張るよ」
(坂本くんと喧嘩しちゃう原因で、やっぱ、こういう所かな?)
良太は初対面でも容赦なく、ズバズバと発言する。正直者で本音で話すタイプだ。そういう性格がいいと思う人もいれば、嫌がる人もいるだろう。そうなると、パーティーを組んでいた坂本くん、あるいは他のメンバーは後者の可能性は高い。
「次は、お前だ」
良太は陽葵に向けて人差し指を向ける。
「はい。私は七海陽葵。得意科目、国語と英語。苦手科目は理数系。趣味は読書。好きな事は悪魔の育成。私が育てている悪魔はサマエルっていうの。かっこ良くて強いの。話したら、1週間くらい話せる。なぜなら――」
「いや! 今は話さなくていいからな!」
良太から素早くツッコミが入った。陽葵は出鼻をくじかれ、ムスっとする。
「あのな。お前ばかり、話したら竜堂が自己紹介できないだろ」
良太は呆れ顔で陽葵を叱る。
「そ、そうだね……」
正論だ。良太の指摘はあっている。
陽葵ばかり話したら、竜堂くんが話す時間がなくなってしまう。
「竜堂、自己紹介を頼む」
「……竜堂武𠮷です。以上」
「ちょ! それだけか??」
良太は驚き、前のめりになる。結菜はニヤっとする。
「……話すの……得意……じゃない」
「竜堂くんって、こう見えて。めっちゃ、優しいの。ちょっと、人より人見知りが激しいだけで。普段はもっと、ペラペラ喋れるンだよ?」
結菜がフォローする。すると、竜堂は結菜の方を見て。
口をもごもごさせる。
「いわゆる、コミュ症か。竜堂は」
「ちょ! 良太それは失礼だよ!」
陽葵は良太に向って叱る。
「ハイハイ、陽葵様。後で飴ちゃんあげるから」
「い、いらない!」
一瞬、欲しいなと思ったが、首を横に振る。
「桐葉くん、後でちょうだい!」
「いいぞぉ~」
どうやら、結菜は釣れたようだ。
陽葵が結菜を睨むと。彼女はペロっと舌を出す。
「竜堂、後で。『ライン』を交換してくれ」
竜堂は、目を大きく見開き。頭をゆっくり縦に振る。
「……うん」
「よし、それでいい!」
「何で、そんなに偉そうなのよ!」
「いずれ官僚になる男だ。偉くなる」
陽葵のツッコミに動じず、腰に手を当て胸を張る。
「今は違うでしょ。官僚になってから言いなさいよ」
陽葵は良太をジロリと睨むが、良太はまったく動揺しない。
「あはは! 二人とも面白い!」
結菜は吹き出し、手を叩いて笑う。
「まあな。俺はボケ。陽葵はツッコミの才能がある」
「はいはい」
良太は両手をパンと叩き。
「さてと、じゃあ。自己紹介はここまで。作戦会議でもするぞ」
「はい!」
結菜は元気よく返事。
「はいはい!」
陽葵はやれやれとした表情で言う。
「……はい」
竜堂は小声で頷いた。
♦♦♦