ドアの向こうにはまた廊下が続く。そして手近にあったドアを開けて中に入るとそこは洋室だった。

「洋室ってお洒落だけど圧迫感があるよね」そう言えば二人きりは初めてなので無難な話題を振った。

 悟くんはその言葉を無視して壁に掛かった絵の額の裏を覗き込んでいた。

「‥‥何してんの、アンタ?」

「ガトリング砲を探している。意外に無いものだな」

 いや、ガトリング砲はアンタが言い出した事だし、そもそもそんな所に隠せる大きさじゃないしょう。

「ガトリング砲は無かったが鍵を見つけた」と悟くんは小さな鍵を手にして言った。

 マジか! いや確かに某ゾンビゲームでは「そんな所に隠すかね」的な所でアイテムを見つけるけれど。

「ついでにエロ本を見つけた。お母さんが来て慌てて放り込んだのだろう」

「いや、話の規模が六畳間なんだけれど。てか捨てなさい、そんなもん!」

「微妙に趣味がマニアックだ。『団地の母の妹の友達が俺にゾッコンな件』か」

 それほぼ他人! てか女子の前でエロ本のタイトルを読み上げるな! ってエロ本の癖に百科事典くらいの厚さ!

「ふむ」と言いながら悟くんはエロ本を懐に入れる。

 よく入ったな、その厚みで。アンタの懐は何次元ポケットが付いているわけ。

「鍵は要らないかな」と悟くんはゴミ箱に捨てようとする。

「いや、明らかにそっちの方が大事でしょ! 取捨選択がおかしい!」私は鍵を奪い取ってポケットに入れる。

「強引な人ね」と悟は頬を赤らめながら言った。

 面倒なので放置した。
 書物机に鍵穴は無い。
「となると別の部屋か」
 そこでふと悟くんに目を向けると剥製の鹿の角を両手に何やら踏ん張っていた。

「‥‥何を?」

「首を捻ると隠し扉が開くような気がした」そこで悟くんは諦めた。「開かない」

 まあ着想は悪くない。私も部屋のあちこちを摘んで捻って叩いて回ったが何も起きなかった。

「いや、多分これ目的が違う!」
 私はハッと我に返ってこのゲームの趣旨を思い出した。

「別にいいじゃないか。おそらく何処かの通り道が塞がれている時に役に立つアイテムがあるかもしれん」

「まあ、確かにね」

「何より貴様、楽しそうだな」

「べ、別に謎解きは嫌いじゃないけど楽しんでなんか」
 と答えたものの内心ワクワクしているのは本当だ。

「別の部屋へ行ってみるか」
 悟くんがドアを開けた瞬間にそこにゾンビがいた。

「はっ、はやっ、早くない⁉︎ まだ序盤の謎解きパートじゃないの?」私は焦って叫んだ。

「ふむ」悟くんは悟パンチをゾンビの顔面に入れた。そしてドアを閉めた。
 
 えええ。徒手空拳? ナイフアタックですら無くて?

「多分仲間を呼ばれた。外から足音が聞こえる」悟くんは冷静に言った。