伍 もふもふちゃんの正体

 西の領地である華陽に来て数日が経った。
 到着した時、白虎様を膝に乗せたままそのまま寝てしまったらしく気づいた時にはお布団の中だった。初日から、お世話をかけてしまったと今も反省している。
 私はあれからというものの、耳が聞こえないことを正直に伝えた。隠す必要はないし、こんな私を温かく迎え入れてくださったのだからその方が誠実だと思った。

 私は朝起きてすぐにお着替えを始める。この着物は、以前着ていたようなものじゃないけどご当主さまからの贈り物で一目見て気に入ってしまったものだ。着付けが終わると、部屋の襖を開けた。普通なら閉め切っているところだが、閉じたまま声をかけられても私が気付けないので着替え以外は開けておくことにしている。
 お布団を畳んでいると、使用人の茜さんがやってきた。
「咲良さま、おはようございます。お(ぐし)を整えさせていただきます」
 着付けは自分でできるけど、髪は一人ではなかなか難しい。
 化粧台の前に座ると、丁寧に髪を解いてくれて結い上げられた。
「どうでしょう?」
 ここに来てから髪はやってもらうようになったけど、完璧で一日終わっても崩れなくてとてもいい。
 髪が終わり、朝餉は居間でみんな一緒に食べるので移動をする。その途中、お馴染みになってしまった白虎さまに遭遇した。
 きっと可愛らしい声で泣くんだろうなぁと考えながら、綺麗な毛並みのモフモフを堪能する。私は意外とモフモフが好きらしい。擦り寄ってくる白虎さまを抱っこして居間へと向かうと、忙しく配膳をする給仕の方々がいた。
「おはようございます、咲良さま」
 顔を合わせると皆、挨拶してくださって席に案内される。
「咲良さま、おはようございます! また、白虎さまがご迷惑をおかけしました……はぁ、もう」
 玄様と昨日もしたばかりの話を白虎様にしていたが、気持ちよさそうな顔をする白虎様に何も言えないようだった。やっぱり、特別な存在なんだ……皆に愛されてるんだなぁなんて思っていると。周りが何か驚いた表情をしていて玄様も驚いていた。
「は、珀さま……」
 玄様がそう呟いたが目が丸くなってるのを不思議に思い、白虎様のいる膝を見る。すると、そこにいたのは立派な青年だった。