羽月は旧姓を川平という。
明治になり、平民も苗字を名乗ることが許された際、蝶の古い呼び方であるカワヒラコからとってつけたのだという。
羽月には秘された本当の苗字があった。
それが「夢見鳥」、蝶の別名だ。
夢見鳥の家には、蝶は魂の乗り物であり、生の使いでもあり死の使いでもあると伝わっている。
彼女の家系には時折、蝶のような痣を持った者が生まれる。その者は生命を蘇らせるという伝説があり、言い伝えをなぞるかのように癒しの力を持つことが多かった。
羽月もかつては背に大きな蝶のような痣があり、手をかざすだけでケガや病気を治すことができた。
妹は左の上腕に薄く蝶の形の痣があり、羽月ほどではないが癒しの力を持っていた。
両親はその力を隠すように姉妹に諭した。
この能力が見つかれば悪用する者が現れる。善意であってもみだりに使用すれば人の倫理を崩してしまう。
だから素性を隠すために表向きは仮の姓を使っていた。
ならば夢見鳥という姓を捨てれば良いようにも思うのに、先祖たちはその名を捨てず、こっそりと受け継いできたのだという。
いつか「あの人」に見つけてもらうため、と言われたが、そもそもその姓を公けにしていないのであれば、「あの人」に見つけてもらえないのではないのだろうか。
「きっと羽月は生命を司る夢見鳥ね」
いつだったか、着替えるとき、母は羽月の背の痣を見てそう言った。
明治になり、平民も苗字を名乗ることが許された際、蝶の古い呼び方であるカワヒラコからとってつけたのだという。
羽月には秘された本当の苗字があった。
それが「夢見鳥」、蝶の別名だ。
夢見鳥の家には、蝶は魂の乗り物であり、生の使いでもあり死の使いでもあると伝わっている。
彼女の家系には時折、蝶のような痣を持った者が生まれる。その者は生命を蘇らせるという伝説があり、言い伝えをなぞるかのように癒しの力を持つことが多かった。
羽月もかつては背に大きな蝶のような痣があり、手をかざすだけでケガや病気を治すことができた。
妹は左の上腕に薄く蝶の形の痣があり、羽月ほどではないが癒しの力を持っていた。
両親はその力を隠すように姉妹に諭した。
この能力が見つかれば悪用する者が現れる。善意であってもみだりに使用すれば人の倫理を崩してしまう。
だから素性を隠すために表向きは仮の姓を使っていた。
ならば夢見鳥という姓を捨てれば良いようにも思うのに、先祖たちはその名を捨てず、こっそりと受け継いできたのだという。
いつか「あの人」に見つけてもらうため、と言われたが、そもそもその姓を公けにしていないのであれば、「あの人」に見つけてもらえないのではないのだろうか。
「きっと羽月は生命を司る夢見鳥ね」
いつだったか、着替えるとき、母は羽月の背の痣を見てそう言った。