銀髪の青年は鳳羽(あげは)と名乗った。
 鳳羽に連れられてしばらく歩いた先で、彼は羽月に目を閉じるように言った。
 言われた通りに目を瞑ると、彼は羽月を抱きかかえる。
 思わず目を開けると、
「まだ閉じていて」
 と彼は優しく微笑んだ。
 どうしたらいいのかわからず、羽月はとりあえず目を閉じる。
 鳳羽がそのまま歩く気配がする。ふわりと温かな風が全身を撫でるような感触があった。
「もう目を開けていいよ」
 言われて目を開けると、見覚えのない場所に来ており、目の前には見上げるばかりの荘厳な四脚門(しきゃくもん)があった。
 大燕の家の近くにこんなお屋敷があったなんて知らなかった。
ろくに外出をさせてもらえなかったから知らなかっただけなのだろうか。
 羽月は首を傾げ、鳳羽について行く。
立派な門をくぐると、両脇には揃いの着物を着た女中が両側にずらりと並んでおり、面くらった。
「よくぞお帰りくださいました」
 先頭にいた黒い着物の男性が深々と頭を下げ、女中たちも頭を下げる。
「長く留守にしてすまない」
 鳳羽が答えると、男性はこぼした感涙をそっと拭って鳳羽を見る。
 羽月は戸惑って鳳羽を見るが、彼はにこりと笑うだけでなんの説明もしない。