マレーシアの日本大使館から、日本の政府官邸に連絡が入った。
「た、大変です、総理!大変な事が起きました!」
連絡を受けた外務大臣が、総理大臣の元に駆け付けた。
「どうしたの?」
総理大臣が間の抜けた返事を返す。
「マレーシアから知らせがあって、あのSTEが誘拐されたそうです!」
外務大臣の説明に総理大臣は、
「STE?」
はてな顔である。
「Save The Earthです!アイドルの!」
外務大臣がそう言うと、
「な、なんだとー!?あのSTEがかぁ?!確かなのか?」
やっと事情が呑み込めた総理大臣が、素っ頓狂な声を上げた。周りにいた秘書官たちも驚きでみな立ち上がった。
「犯行声明がここに。」
外務大臣はまだ息を切らせながら、手に握りしめていたUSBメモリを見せ、秘書官の1人に渡した。秘書官がパソコンにそのUSBメモリを差し込み、中に収められている動画を再生した。
― はっはっはっはっはー。我々はSTEを誘拐した。日本政府にとっては痛手であろう。我々の要求に従わなければ、24時間ごとにメンバーを1人ずつ殺す―
総理大臣は、その映像を見てひっくり返りそうになり、秘書官に支えられて辛うじて転倒を免れた。
STEを誘拐したのは、アメリカ第一主義をかかげるアメリカの極右団体「Grate America」というグループ(むしろ軍隊)だった。彼らが日本政府に要求した内容は、到底受け入れられるものではなかった。だが、STEは……
「彼らは国宝だ!我が国の、いや、世界の宝なのだ。1人でも欠けてはいかん!どうしたらいいのだ!」
総理大臣も取り乱すはず。STEは今や世界中で人気を誇るアイドルグループであり、名前の通り、地球をも救う尊い存在なのである。
「しかし、彼らの要求に従うわけには……。」
外務大臣が総理大臣の顔色を伺いながら言う。
「分かっておる!何としても、24時間以内に彼らを見つけ出し、救出するのだ!金はいくらかかってもかまわん。そうだ、防衛大臣を読んでくれ。それから、君、アメリカ大使館に連絡してくれ。場合によっては私がアメリカ大統領と直接話す。」
総理が防衛大臣を呼ぶようにと言ったのは、秘書官に向けてである。すぐに防衛大臣がかけつけてきた。
「お呼びでしょうか。」
「困ったことになったのだ。あの、STEがマレーシアで誘拐された。24時間以内に救出しないと、彼らの命が危ないのだ。まず、どこにいるのか、何としても見つけなければならない。マレーシアとも連携して、早急に対処してくれ!」
総理大臣がそう言うと、防衛大臣は、
「な、なんですと!我が国の宝が、誘拐された?!」
素っ頓狂な声を上げた。
「そうだ、これを見てくれ。」
総理大臣は、先程見た犯行声明を防衛大臣にも見せた。
「な、な、何ということ!そんな要求は到底飲めません。だがしかし、STEのメンバーを殺すですと!とんでもない。すぐに見つけ出します!」
「頼んだぞ。」
「はい!では、失礼します。」
防衛大臣は足早に去って行った。
「どのくらい経ったかな?」
両膝を抱えたまま、光輝がポツンと言った。
「分かんねえよ。時計持ってねえし。」
篤が応えた。
「ステージに出るところだったもんな。時計どころか財布もスマホも何も持ってないよ。」
流星がそう言い、みんなはため息をついた。誰一人、ポケットに何かを入れている者はいなかった。激しいダンスを踊るわけだし、途中で素早く衣装を替えるので、いちいちポケットに所持品を入れているわけがない。イヤホンとヘッドマイクは装着していたが、既に遠く離れてしまっているので、通信不可能だ。
「でも、みんな一緒で良かった。俺独りだったら不安なんてもんじゃなかったよ。」
涼が少し微笑んで言った。
「そうだよね。もしドッキリだったとしても、7人で騙されるならいいよね。」
光輝も少し微笑んでそう言った。STEは、グループ結成当時に誓い合った約束事がある。それは、決してお互いを騙さない事。誰に、どんなにお願いされようと、メンバー内でドッキリを仕掛けるのもNG。そうしないと、お互いを信頼できないから。言い合いをしたり、時には取っ組み合いの喧嘩をした事もあるが、騙したり、欺いたりした事はない。みな、それだけは胸を張って言えた。だから、お互いを信じ合っていた。
「最近忙しかったから、こうやって7人で集まって話すのって、久しぶりだよね。」
碧央がポツリと言った。
「そうだな。」
大樹が応える。
「結成当時はよく話し合ったよなあ。口喧嘩はしょっちゅうだったし。ははは。」
流星が笑って言った。
「でも、最後はいつも仲直りしてたじゃん。俺、ハラハラしてたけど、最後にハグし合ってるのを見て、いつも安心してたんだよ。」
一番年下の瑠偉が言った。
「へえ、瑠偉、ハラハラしてたんだ。」
篤が言うと、
「まだ子供だったからね。」
と、瑠偉が言った。
「結成当時かあ、懐かしいなあ。」
碧央がそう言うと、7人の頭の中は、7年前へと飛んだ。
7年前、STEを作った立役者は、社長の植木直哉(うえき なおや)である。植木は学生時代、青年海外協力隊に参加し、帰国して大学を卒業すると、NPO法人に就職。様々なボランティア活動をした。当時はオゾン層の破壊や砂漠の拡大、エルニーニョ現象などが問題になり始めた頃だった。植木は、環境破壊と地球温暖化、それに伴う人々の飢餓や疫病の蔓延など、多くの課題を憂いていた。その後も海洋プラスチック問題や山火事、水害の多発など、問題は山積み。それなのに……。
「先進国はこの地球の問題に無頓着過ぎる!とくにこの日本だ!日本人の意識は低すぎる!」
と、植木は憤りを禁じ得なかった。
そこで、同志である内海彰吾(うつみ しょうご)と相談し合った。
「どうしたら、日本人の意識を高められるだろう。」
「まずは、問題に気づいてもらう事だろうな。」
内海が言った。
「よく、アメリカの有名俳優なんかがボランティア活動をすると、話題にはなるよな。だが、日本の著名人は国内の被災地には出向いても、もっとグローバルな環境問題にまでは触れてくれない。」
植木が言うと、
「若い人たちに影響力のある人が、発信してくれるといいんだけどなあ。」
内海がそう言って、腕組みをして考えて込んだ。すると植木がハッとして、
「そうだ、アイドルだよ!若者に人気のあるアイドルが発信すれば、若者が耳を傾けるし、それ以上に、行動に移してくれる!」
と言った。
「だが、どこのアイドルに頼むんだ?何をしてもらうにも金がかかるぞ。」
当然、無理だ。内海は暗にそう言った。
「だから、アイドルを作っちまえばいいんだよ。俺たちが、これから作るんだ。」
植木はそう言って笑ったが、内海はぽかんとした顔で、ただその顔を見たのだった。
植木と内海は、ボーイズグループを作る事にした。女の子は自分たちが扱いにくいという理由だった。ただそれだけ。
「とにかく、メンバー集めだ。高校生のめぼしい子には片端(かたっぱし)から声をかけよう。」
植木がそう言って、植木と内海はインターネット上にある、文化祭や体育祭、ダンスの大会やら新体操の大会など、あらゆる動画をチェックした。そして、高校や習い事の場へ出向いて行って、スカウトを重ねた。だが、有力事務所からのスカウトならともかく、得体の知れない人物からの勧誘など、そう簡単に乗ってくれるものでもない。
しかし、2人は諦めなかった。ふと、内海が珍しい動画を見て、
「この子、どうだ?顔もきりりとしているし、何といっても環境問題に興味がありそうだ。」
と言った。内海が示したその動画は、高校生の英語弁論大会だった。結果的に3位になったその男の子は、月島流星(つきしま りゅうせい)。高校2年生の時の映像だった。今は3年生になっているだろう。彼の弁論の内容は、地球の環境汚染を指摘し、我々が出来る事をもっと積極的に行っていく必要がある、と訴えていた。
「うん、うん、いいね。話しに行ってみよう。」
ということで、植木は月島流星の通っている高校を訪ねて行った。NPO法人の名刺を渡して学校の中に入った植木だったが、本当は既にその法人は辞めていた。
「君の力が必要なんだ。一緒に地球を救おうじゃないか。」
それが、植木の決まり文句だった。
「アイドル、ですか?」
流星が言った。
「そう。でも、ただのアイドルじゃない。地球を救うアイドルだ。環境問題などを訴えて、みんなに行動してもらうためには、人気者になる必要があるだろ?君ならできる。俺はそう確信しているんだ。」
植木がそう言うと、流星は、
「はあ。」
と返事をした。その場では回答をもらえなかったものの、今までの子とは違う感触を得た植木。後日また連絡するという事で連絡先を交換した。
別の日に連絡をした時、植木は、
「アイドルになる準備をしながら、様々なボランティア活動をしてもらう。君は弁論大会3位という功績があるんだし、大学に推薦で行ける事は間違いない。もし、君が大学生のうちにデビューできなければ、君をNPO法人に推薦する。僕はいろんな活動をしてきて、人脈もそこそこあるし、君の望むところへ推薦できるよ。」
と、話をした。人脈があるのは本当である。
「分かりました。やります。やってみます。僕も、地球を救うお手伝いができるなら、やってみたいです。」
流星が言った。
「本当かい?!よかった!!」
植木はそう言い、2人は固く、握手をしたのだった。
内海はある高校のサッカー部の練習を見に来ていた。ターゲットは、試合の動画を見た時に、シュートを決めて喜んで、宙返りをしたイケメンのストライカー。先ほどさりげなく名前をリサーチし、彼が不知火 篤(しらぬい あつし)だという事が分かったところである。
休憩時間になったようで、篤が1人で座ったところへ、内海が出向いて行った。NPO法人の名刺を渡す。
「君、アイドルになる気はない?」
そうして、流星を誘ったのと同じように説得した。篤は見るからに目立ちたがり屋で、アイドルにならないかと言った時は、かなり目を輝かせていた。地球を救おうという文句にはそれほど反応しなかったが、とりあえず大学には推薦で行けそうだと思ったのか、その日のうちにOKしてくれたのだった。
文化祭のダンス動画を見て、スカウトしたのが水沢涼(みずさわ りょう)。文化祭のDJをやっている動画を見てスカウトしたのが木崎大樹(きざき だいき)だった。また、男子新体操部の大会で、優勝こそしなかったが、とにかくスタイルと顔がいい子を見つけてスカウトしたのが金森光輝(かなもり こうき)だった。
更に、体育祭の動画でたまたま見かけた子に、どうしてもカリスマ性を感じてしまった植木たちがスカウトしに行ったのが土橋碧央(つちはし あお)。彼は集団行動のリーダー役をやっていたのだが、とにかく顔がいい。声もいい。一番スカウトに時間を費やしたものの、最後には碧央の方が根負けした。彼はまだ高校1年生だったので、習い事だと思ってダンスと歌をやってみようという提案に乗ってくれたのだった。
更にもう1人、ストリートダンスをやっている子を動画で見つけた植木たちは、土手でダンスの練習をしているその子たちを訪ねて行った。高校生のターゲットには、にべもなくふられた植木だが、その時にふと、一緒にダンスをしていた、まだ子供っぽさが残っているが、かなりのイケメンで、ダンスの上手な子を見つけた。
「あの子は、何年生?」
植木がスカウトした子に尋ねると、弟の友達だという事で、中学3年生だった。植木はターゲットをその子に変更し、交渉を重ねた。その中学生が日野瑠偉(ひの るい)。瑠偉には親御さんの元へも足を運び、地球を救う宣言の元、とにかく高校にはちゃんと行かせる事を条件に了解を得たのだった。
こうして、7人のメンバーが揃ったのだった。
植木はクラウドファンディングで資金を集めた。大金とまでは行かなかったが、メンバーをボランティア活動に連れて行くための資金くらいは集まったのだ。
平日の夜にはダンスと歌のレッスンを始めた。だが、先生を雇う金はない。そこも、ボランティアを募った。ダンスの先生はアメリカ人のマーク・ブライエン。彼はプロのダンス講師だが、この、地球を救おうというプロジェクトに参加したいと言って、引き受けてくれたのだった。ついでに英語も教えられるということで、レッスン中は英語のみを使う事になった。本当は日本語も話せるマークだったが、メンバーの前では一切日本語を使わなかった。
「ほら、ムーン、ずれてるよ!」
と、英語で言う。ちなみに、メンバー7人の苗字から、マークは英語のニックネームを付けていた。月島流星はムーン、不知火篤はファイヤー、水沢涼はウォーター、木崎大樹はウッド、金森光輝はゴールド、土橋碧央はクレイ、日野瑠偉はサン。
「そうそう、いいよ。そこ、もっと力強く!」
マークが英語で叱咤激励をする、そして、みんな何を言われてもイエス、くらいしか言えない中、
「これでも頑張ってるんだ!この振り付け、速過ぎでしょう!できないよ!」
流星だけは1人、英語でまくし立てるのだった。
レッスンを何回かこなした後、マークが植木と内海にこっそりと、
「やばいよ、やばい。鳥肌立ったよ。ムーンはまあまあだけど、あとの6人はダンスのセンスがすごい!あの揃い方はびっくりだよ。植木、良かったね!」
と、興奮して話したのだった。
一方、歌の方は牧口健(まきぐち けん)という、カラオケ教室の講師が指導を引き受けてくれた。
「今の若い子はよく音楽を聴いているから、みんな歌が上手いね。感心したよ。金森くんのハイトーンボイスには驚いたな。土橋くんのハスキーボイスも痺れるね。それにしても、よく集めたねえ、あの子たち。才能あふれる上にイケメンだし。特に目がいい。何かを一生懸命やる目だよ。」
牧口がそう話してくれたので、植木はガッツポーズをした。
そして、隔週の土曜日には、ボランティア活動に参加した。最初に行ったのは、神奈川県の海岸のゴミ拾いである。
「おはよう!はい、これ着てね。」
メンバーが現れると、植木はそれぞれに黒いTシャツを渡した。
「おはようございます。これ、着るんですか?」
瑠偉は、渡された物と植木たちが着ているTシャツを見比べた。
「そうだよ。ほら、背中にグループ名が入っているよ!」
テンションの高い植木に、瑠偉は苦笑いをした。おそろいの服を着るのがちょっと恥ずかしい年頃である。
「え!Tシャツ作ったんですか?いいですねえ。あ、これが俺たちのグループ名なんですか?」
Tシャツを渡された涼がそう聞いた。
「そう、Save The Earth。いいだろう?」
植木がそう言うと、涼は何も言わずに微笑んだ。
なんだかんだ、7人のメンバーと植木、内海がおそろいのTシャツを着た。Tシャツの背中には、白抜きの文字で「Save The Earth」と書いてあり、その下に青い地球の写真がどーんとプリントしてあった。胸には背中の模様がそのまま小さくしたものがプリントしてある。
そして9人は、大きなビニール袋をそれぞれに持ち、ゴミ拾いを始めた。朝早いし、子供たちはみな眠そうだ。
「ほら、ちゃんとしろよ。こんなにゴミがあって、これが海に流れ出たら大変な事になるんだからな。」
流星だけは意識が高い。
「君たち、ただゴミを拾うだけじゃなくてさ、こうやってTシャツを着てグループの宣伝も兼ねているんだから、愛想良くしないと。いつSNSで写真が出回るか分からないぞ。」
内海がそう言って、みんなを鼓舞したが、
「SNSって言ったって。ここに参加している人って、お年寄りばっかりじゃん。望み薄そうだよ。」
と、悪態をつく篤。だがその直後、近くを通りかかった若い女子3人が、こちらをしきりに見ているのが目についた。すかさず、植木がその女子たちの近くへ寄って行った。
「あの、このTシャツってどこの団体さんですか?」
女の子がそう聞いてきた。
「Save The Earthって言って、うちのアイドルなんだよ。」
植木が応える。
「えー!アイドルですか?へえ。」
女子たちは興味津々である。
「写真撮ってもOKだよ。」
植木はそう言うと、近くにいるメンバーを手招きした。嬉しいのと照れくさいのを精一杯隠し、篤と碧央と、碧央に引っ張られた瑠偉が植木の所へ走って行った。
「じゃあ、撮りますね!」
女子がキャピキャピしながらスマホを向ける。篤と碧央と瑠偉は、ポーズを取った。
「これ、インスタに載せちゃおう。」
「私もー!」
「ありがとうございました!」
女子たちは去って行った。
「さあ、どんどん拾ってこー!」
テンションの上がった篤だった。
その後も、時々通りすがりの人に見られ、写真を撮られた。おそろいの服を着たイケメンが7人もいるのだから、目立つのだ。最後には、ボランティア活動を一緒にしていたおばちゃんたちにまで、
「アイドルなの?そうなのー。可愛い子たちだと思ったのよー。」
などと興味を持ってもらったのだった。
「俺たち、まだアイドルだって言えないんじゃない?」
大樹がそう言って心配したが、
「君たちはもう、れっきとしたアイドルだよ。そうだな、求められたらすぐにパフォーマンスを披露できるように、1曲作っておかないといけないな。」
と、植木に言われたのだった。
植木は事務所を構えた。いつも違うレッスン場を借りていたが、常に同じ場所で練習ができるようにした。つまり、地下にスタジオがある建物の2階に事務所を置き、毎日夜はそのレッスン場を借りるという契約をしたのだ。
レッスン場に集まったメンバーに、植木は早速曲作りについて話をした。
「さて、君たちのオリジナル曲を作ろう。だが、作詞家作曲家を雇う金がない。」
植木がメンバーを見渡すと、メンバーはみなキョトンとしていた。
「じゃあ、どうするんですか?それもボランティアを募るんですか?」
と、涼が聞いた。
「いやいや、曲は君たちが作るんだよ。その方が絶対いい。」
植木が応えると、流星が、
「作詞なら何とかできるかもしれないけど、作曲は難しいんじゃないですか?」
と言った。
「誰か、楽器が出来る人はいないか?」
植木がそう問いかけると、お互いを見渡したのち、大樹と瑠偉が手を上げた。
「俺は、ピアノを習っていたので、多少は弾けます。作曲もまあ、パソコンでやったことあるし、出来るかも。」
と、大樹が言った。全員が、
「おー!!」
と歓声を上げた。
「瑠偉は?何ができるの?」
植木が瑠偉に問いかけた。
「あ、僕はギターをちょっと。習ったわけではないけど、独学でちょこっと。」
と、瑠偉が言ったので、
「すげーじゃん、瑠偉。」
碧央がそう言って、瑠偉の肩に腕を回した。瑠偉は照れくさそうに笑った。
「そうかそうか。でもな、作詞も作曲も独りでやることはない。みんなで力を合わせて作ればいいさ。それから、振り付けも君たち自身で決めるんだ。振付師を雇う余裕もないからな。」
植木が言うと、
「やっぱりそうきたか。振り付けなら任せてよ。俺、いつもやってたから。」
と、涼が言い、
「わぉ、頼もしいね。僕も、新体操やってたから、少しはお役に立てるかも。」
光輝が小首を傾げて可愛く言った。すると、メンバーは一斉に無言で光輝の肩をこづいたのだった。ニヤニヤしながら。
「なんだよー。」
光輝もそう言って、ニヤニヤした。
ボランティアの先生は来たり来なかったりするので、先生が来ない日は、作詞、作曲、振り付けと、順番に取り組んだ。
「歌詞だけどな、デビュー曲だし、我々の目的は地球を救うことなので、それに関連した歌詞にして欲しいんだ。こう、みんなで出来る事からやって行こう!みたいな。」
植木が言うと、碧央が、
「俺、この間ゴミ拾いしていて思ったんだけど、あれってさ、みんながゴミを海に捨てるからいけないじゃん。だから俺たちとか、おっちゃんおばちゃんたちがゴミ拾いするわけじゃん?でも、もっと他にやった方がいい事っていうか、助けが必要な所があると思うんだよ。それなのに、誰かがゴミを投げ捨てたせいで、ゴミ拾いに人員を割かなければならないのって、勿体ないと思うんだよね。ただ、ゴミを海に捨てなければいいのにさ。もっと、助けないといけない所に人手を回さないと。」
と言った。
「そうだよな。そういうのを、訴えていきたいよな。」
と、大樹が言い、
「うん、なるほど。他に何か意見ない?そういうの、まとめて行こうよ。」
と、流星が言った。すると瑠偉が、
「僕はさ、水道を出しっぱなしにする人を見ると、許せないんだよね。水がないとすっごく困るのにさ、大事にしない人がいるのって信じらんない。」
と言った。いろいろ意見が出始めたのを見て、植木はそっとその場を離れたのだった。
時間はかかったが、みんなの納得のいくものがとうとう出来た。
「社長、デビュー曲が出来ました!」
流星が事務所へ持って来たUSBを、植木はPCに差し込んで聴いた。すると、植木と内海は驚いた。
「……驚いたな。」
植木がうなった。
「どうですか?」
流星が問う。
「いや、驚いたよ。こういう感じだとは思っていなかったものだから。いや、いいよ。うん。オリジナリティーがあって、非常にいい!」
植木が言った。内海も、
「うん、いいよ。いやあ、驚いたな、僕も。」
と言った。
「よかった。Save The Earthにふさわしい内容になっていますよね?」
と、流星が言ったので、植木も、
「ああ、そうだな。いやあ、確かに地球を救おうっていう内容なんだけど、こういう感じだとはなぁ、いやあ、驚いた。」
と言った。植木たちが驚いたのはなぜか。歌詞は以下の通りである。
― 海にゴミを捨てたやつは誰だ まだ使えるのにすぐに捨てるやつは誰だ
電気も水も排気ガスも 出しっぱなしにするやつは誰だ
お前か 俺か 俺たちか
そうやって なんも考えないで 地球を汚している
いつか 俺たちは自分の首をしめる
木が枯れる 飢餓に苦しむ
空が霞む 目がかすむ
気温が上がる 海水上がる 熱中症! 洪水津波!
地球が悲鳴を上げている 動物も鳥も虫も人も 地球と共に生きている
気づけ 気づけよ 気づいてくれよ 植物が叫んでる 鉱物が叫んでる ―
「ヒップホップかぁ。そう来たかぁ。そうだよな、大樹はDJやってたんだし、涼や瑠偉はヒップホップダンスをやってたんだもんな。」
内海もうなった。ラップ調で始まるダークな感じの曲で、歌詞もひどく挑戦的な雰囲気だ。植木と内海は、もっと良い子ちゃん的な、アイドル風の歌を想像していたので、とても驚いたのだった。
「今、振り付けの方をみんなでやってますんで。では。」
流星はレッスン場へ戻って行った。植木と内海は顔を見合わせ、ただ笑ったのだった。あいつら、やるな、と。
レッスン場では、涼が張り切っていた。
「フォーメーションは、全部で5つ。歌う人がセンターに来て、歌い終わったらさっと後ろに下がる。後ろを見ないで下がるんだぞ。」
すると碧央が、
「これ、覚えられるかなぁ、俺。」
と、自身なさげに言い、
「大丈夫だよ。曲に合わせて何度もやっていけば、覚えられるよ。」
と、光輝が言った。そこへ流星がやってきた。
「おーい、曲のOKが出たぞ。何?ああ、フォーメーション?……この紙コピーしていい?」
流星が涼の持っていた紙を指さして言うと、
「流星くん、図を頭で覚えちゃだめだよ。耳と体で覚えなきゃ。」
と、涼に言われてしまった。そこで篤が、
「そうそう、何とかなるよ。さ、やってみようぜ。」
と、明るく言った。
「うーん、もうちょっとインパクトのある振りを入れないとダメだなあ。」
涼が首を捻る。
「光輝はバック転とか、できるんだろ?篤くんも宙返りが出来るんだし、そういうのを入れるとか?」
大樹が言うと、
「うーん、でもさ、そういう、アクロバットできる人が間奏とかに披露するのって、他の男性アイドルがやってるじゃん?定番じゃん?うちは、そういうのとは違うものにしたいんだよね。」
と、涼が言った。
「ああ、なるほど。確かに某事務所のアイドルの定番だね。あと、歌う人と踊る人が別れてるってのも、わりとありがちだよね。」
大樹が言うと、
「そうなんだよ。歌はみんなで均等に割り振ったから、ダンスもみんなで同じように、揃えてやりたいなぁって思うんだよ。」
と、涼が応える。
「今はさ、歌いながらできるような振り付けしか入れてないけど、間奏のところでは、すっごく速い振りつけを入れてみたらどうかな。おおーってなるような。」
光輝が言った。
「うんうん、そうだな。おおーってなるようなの、やっぱり入れよう。瑠偉、お前何かアイディアないか?」
と、涼が瑠偉に振った。
「え?僕?うーん、じゃあ、こういうのは?」
瑠偉が今までの振り付けの倍速で手足を動かす。
「おぉー!それ、かっこいい!」
みんなが声を揃える。しかし流星は、
「いや、俺にはできそうもないけど?」
と真顔である。
「やれるって!大丈夫だよ。練習しよう!」
涼がそう言って、流星の肩をポンと叩いた。
数日後、デビュー曲「Shout(叫び)」の振り付けが出来上がり、マーク先生に見てもらった。
「……けっこう難しいの付けたね。いや、でも、完璧にそろえてやったらすごいんじゃないか?うーむ、僕驚いたなー。」
マークは英語でそう言って、やはりうなった。自分たちで作ったにしては、曲も振り付けもなかなか。マークの全身に鳥肌が立った。
次のボランティア活動の日、STEは新宿区にある商店街の、落書きを消すボランティアに参加した。やはり早朝に集まって、軍手をはめ、マスクをし、それぞれ布と薬品を持ってシャッターや壁の落書きを消していった。例のおそろいTシャツを着て。
「今日の課題は、挨拶を元気にしよう、だ。アイドルたるもの、挨拶ができないといけない。大丈夫かな?」
植木がメンバーに声を掛けた。
「はい!了解です!おはようございます!こんな感じですか?」
篤は朝からテンションが高い。
「そうだ!篤、いいぞ!他のみんなも、やってみよう!」
植木がそう言うと、他のメンバーも、
「おはようございます!」
意外に、みんな頑張った。
「ん?瑠偉、言えたか?」
植木は瑠偉を見て、少しからかうように言った。すると瑠偉は、
「おはようございます!」
もう一度大きな声で言った。
「よしよし。大樹は?」
植木は更に大樹の方に向いて言う。
「お、おはようございます!」
ちょっと無理している大樹だった。だが、メンバーが「あはははは!」と明るく笑ったので、大樹のテンションも上がった。
他のボランティアの人たちに加わる時に、メンバーみんなで「おはようございます!」と挨拶をした。落書きを消しながら、人が通ると「おはようございます!」。
「だんだんアイドルらしくなって来たな。」
内海がこっそり植木に耳打ちした。
平日にはデビュー曲の練習をし、ボランティア活動は隔週末に行った。次は群馬県の山に植樹のお手伝い。その次はハロウィンの翌朝の渋谷センター街のゴミ拾い。そして、その直後に季節外れの台風被害があり、次のボランティアは、その被災地でゴミの片付けを行った。
被災地でのボランティアは、隔週と言わず、毎週土曜日に参加することにした。そこには、若い人たちもたくさんボランティアに参加しに来るので、良い宣伝にもなると植木は考えた。
「あの、うちの子たちはアイドルの卵なんですけど、避難所で何かお手伝いできる事はありませんか?」
植木が地元自治体に問い合わせると、それなら何か、避難者を愉しませるような催しをお願いしますと言われた。
「喜べ!君たちの初のお披露目が決まったぞ!」
植木がメンバーたちに言った。
「何ですか?」
流星が代表して問う。
「避難所で、デビュー曲を披露する。」
植木がどや顔をしてそう言った。
「え、え、うそー。やばいやばい。」
光輝がうろたえる。
「なんだ、そりゃ。あはははは。」
篤が光輝をからかい、みんなも笑う。
「だってー、緊張するよぅ。」
光輝が言うと、碧央と瑠偉もコクコクと頷いた。
「大丈夫だよ。練習した通りにやればいいんだから。」
涼が言った。ダンスを披露するのに慣れている涼は余裕である。けれど、歌を人前で歌うのは、みんな初めてだった。友達とカラオケに行く事くらいはあっても。
「牧口先生によると、ステージで歌うっていうのは、カラオケとは全然違うらいしよ。緊張するし、歌詞が飛ぶ事もあるって。」
内海が言った。
「怖い事言わないでくださいよー。」
大樹が言った。
「とにかく、君たちはアイドルだから、まずはお愛想。歌は挑戦的だけど、その前と後は、良い子で可愛い子でいるんだよ。」
内海がそう言うと、メンバーはみなで、
「はーい。」
と声を揃えた。
STEのメンバーは、次の週末にも被災地を訪れた。お揃いの服も買ってもらって、その上に例のTシャツを着る。そろそろもう1枚Tシャツを用意した方が良さそうである。
「ああ、どうも。こちらへどうぞ。」
自治体の職員がそう言って、みんなを案内してくれた。避難所になっている中学校の体育館に行くと、ステージの方へ通された。
「こんにちはー!」
STEのメンバーは挨拶も忘れない。だが、みんな内心はヒヤヒヤのドキドキである。彼らが登場すると、避難している人たちが、拍手をして迎えてくれて、みんなちょっとホッとしたのだった。
「さあ、頑張ろう。もしどっかでミスっても、そのまま続けような。」
流星が小さい声でみんなに言った。みんな、小さく頷いた。
そして音楽が流れ、歌とダンスを披露した。何度も何度も、ぴったり揃うまで練習したダンス。大方上手く行った。ただ、避難している人たちは、ほとんどがお年寄り。他は妊婦さんや小さい子供とそのお母さんくらい。大歓声というわけには行かなかった。だが、みなさんニコニコして拍手をしてくれた。
「俺、けっこう今満足なんだけど。」
パフォーマンスを終えて、まず碧央がそう言った。
「僕も。」
光輝もそう言って、ニコッと笑った。すると、
「ありがとうございました。あの、出来ればまた来週にでも、別の避難所でお願いできませんか?」
と、職員に言われた。植木は、
「はい、喜んで。」
と、間髪入れずに答えた。
帰りの車の中でSNSをチェックすると、いくつかSTEの動画が出ていた。みんなは「わ―ぉ!」と言って興奮した。
「俺、ちょっとミスっちゃったんだよなー。」
篤が苦笑いをして言った。
「こうやって残っていっちゃうんだよね。怖いねー。」
涼が言う。
「なんか、まるで芸能人みたいじゃない?」
碧央がそう言うと、
「そうだよねー、芸能人になった気分だよねー。」
と、光輝が追随した。植木と内海はこっそり笑った。だから、もうアイドルだって言ってるのに。
翌週、前回とは別の避難所へ行くと、
「キャー!来たー!」
と、若い女の子たちが歓声を上げ、
「待ってたわよー!」
と、おばちゃんたちに声を掛けられた。思った以上に歓待され、メンバーはびっくり。
「俺たちさ、そろそろメイクとかした方がよくないか?」
篤がこっそりそう言って笑った。
今回もShoutを披露した。たくさんの中学生くらいの女の子たちが見に来ていて、動画などを撮られた。更に、自己紹介も求められた。実はこの1週間、その練習もしていたのだ。
流星が、
「せーの!」
と掛け声を掛け、メンバー全員で、
「こんにちは!Save The Earthです!」
と、揃って言えた。実は、この1週間の間には芸名論争もあった。
「君たちのニックネームは、マーク先生がつけてくれたやつでいいんじゃないか?」
植木が言い、
「ああ、あのムーンとかウッドとかですか?」
と、流星が言うと、
「えー、俺ファイヤーなんて嫌だよ。」
と、篤が嫌そうに言った。
「ファイヤー篤ってのは?かっこいいじゃん。」
と、瑠偉が本気なのか冗談なのか分からない調子で言うと、
「プロレスラーみたいじゃん!」
と、篤は却下した。
「俺なんてウォーターだよ。かっこ悪いよ。」
涼が悲しそうな顔で言い、
「僕も、ゴールドなんて嫌だー!碧央はクレイだからいいよね。かっこいいよ。」
と、光輝が言った。碧央は、
「うん。クレイでいい。」
と言い、瑠偉も、
「僕もサンでいい。」
と言った。
「まあ、今後海外向けには英語名の方がいいと思うんだけどな。でも、君たちが嫌なら、本名でもいいけど。」
植木がそう言い、議論は紛糾したが、結局、
「ムーンこと、月島流星、18歳です。」
「ファイヤーこと、不知火篤、18歳です。」
「ウォーターこと、水沢涼、17歳です。」
「ウッドこと、木崎大樹、17歳です。」
「ゴールドこと、金森光輝、16歳です。」
「クレイこと、土橋碧央、16歳です。」
「サンこと、日野瑠偉、15歳です。」
と、自己紹介したのだった。
パフォーマンスをすると、やはり間奏のところでおぉー!となって、歌い終わると拍手喝采を浴びた。そして、その後に周辺の住宅のゴミの片付けを手伝った。だいぶ町も片付いてきたので、この町に来るのはこれを最後にする事にした。
「あー!何これ、ファイヤー篤かっこいい、だって。やっぱりプロレスラーみたいだよー。」
帰りの車で、SNSをチェックしていた篤が嘆いた。みんなが笑う。そしてそれぞれチェックする。
「……ボランティア戦隊曜日レンジャー?名前がダサすぎ……だって。」
碧央がそう言うと、
「こっちには、いい子ちゃんぶってる奴らって書いてある。僕たちの写真付きで。」
と、光輝が言った。植木は、
「世の中には、いろんな事を言う人がいる。良い事でも、必ず批判されるんだ。気にするな。」
と言った。流星も、
「そうだよ。こんなにたくさん、かっこよかったとか、手伝ってくれて助かったとか、いい事いっぱい書いてあるぞ。」
と言った。碧央はそれを聞き、
「うん、そうだよね。」
と言った。
「世の中の声は、批判する方が大きくなりがちだ。批判する内容を見たら、必ずその後に肯定している投稿も見るように。バランスを取るんだよ。」
運転しながら、内海が諭した。
秋も深まり、流星と篤の大学の推薦が決まった。そろそろ、瑠偉の高校進学の事も考えなくてはならない。
瑠偉は、それでも毎日練習に来た。だが、勉強道具も持ってきた。
「あれ、瑠偉、宿題か?」
碧央が声を掛けると、
「うん。来週テストがあって、その日に提出なんだ。」
と、瑠偉が応える。すると光輝が、
「お前、テスト前なのにここに来ていていいのか?って、僕も来てるけど。あはは。」
と言って笑った。
「碧央くん、ここ教えて。」
瑠偉は碧央に問題集を見せた。
「ん?どれどれ?あ、英語?あー、英語なら流星くんに教えてもらった方がいいよ。」
碧央は流星に水を向けた。
「なに?」
名前を呼ばれ、流星が反応すると、
「流星くん、これ、分からないんだけど、教えて。」
瑠偉が問題集を持って流星のところへ行った。流星はさっと目を通し、パパッと教えてくれた。一同、尊敬のまなざし。
「じゃあ、じゃあ、こっちのも教えて。」
瑠偉は、今度は数学の問題集を持って流星のところへ行った。
「どれどれ?……ああ、俺文系なんだよねー。篤は?」
流星は篤に水を向ける。だが、
「は?俺は、サッカーで高校入った口だから、ダメダメ。」
篤は手でバッテンを作った。
「瑠偉、見せてみな。……ああ、これはこうやって……。」
大樹が、解き方を瑠偉に教えてあげた。
「大樹くんって、理数系なんだ?だから機械に強いんだね。」
碧央がそう言うと、一同、納得の頷き。
「そろそろさ、2曲目を作り始めたらどうかな。俺、作詞の方を始めておこうか。」
流星が言った。
「あれだな、瑠偉は受験だから、ボランティアには同行しないかもしれないよな。そうしたら、瑠偉が1人で歌うところを無くしておいた方がいいのかもよ。」
と、篤が言うと、
「いや、メインボーカルは瑠偉だよ。今、俺たちの中で一番歌が上手いのは、瑠偉だ。」
と、大樹が言った。
「え?そうなの?……まあ、そうだな。」
一瞬驚いた声を出した篤だが、やはり納得なのだ。
「若い時からヴォイストレーニングを始めると、上手くなるのかな。」
流星が言うと、
「元々音楽の才能があったんじゃない?ギターも独学で弾けちゃうくらいだし。」
と、光輝が言った。
「才能もあるだろうけど、こいつはすごく努力してんだよ。真面目だもん。」
と、碧央が言い、これまた一同納得の頷き。
「え、そんな事ないよ。ないない。」
瑠偉は小さくなって言った。
「さあ、次の歌はどんな内容にする?」
涼が言った。
「そうだな、1曲目はいろいろ取り入れた気がするから、今度はもっと問題を絞って行きたいな。ゴミを減らす事なのか、水を大事にする事なのか、森を守ろうって事なのか。」
と、流星が言った。すると、瑠偉が口を開いた。
「僕思うんだけど……前に家庭科でマイ箸入れを作ったんだ。割り箸を使わずに、マイ箸を持ち歩こうっていう事で。木を伐り過ぎるのが地球の環境に良くないんでしょ?ところがさ、最近海洋プラスチック問題が目立ってきたらさ、ビニール袋はダメで、紙袋ならいい、みたいなさ。プラスチックコップじゃなくて紙コップにしようとか?なんか、プラスチックがダメなら紙をたくさん使おうってなっちゃってるじゃん。でも、紙をたくさん使ったら、やっぱり木がたくさん伐採されちゃうでしょ?紙もプラスチックも、使い捨てを無くそうとしなきゃさ。」
瑠偉の言葉に流星も、
「なるほど、なるほど。瑠偉の言いたいことはわかるよ。今、ビニール製の買い物袋は有料にしなければならないけど、紙袋は無料で配布してもいいんだよな。店舗によっては有料にしているけれど。確かに、割り箸の話はどっか行っちゃったよなー。よし、その切り口でいこう。」
と賛同した。メンバーは、割り箸を突破口にして、2曲目の作成にとりかかった。
新曲の作成を年上のメンバーたちに任せて、瑠偉は少しの間レッスンをお休みし、2学期最後のテスト勉強を頑張った。芸能科のある私立高校を目指しており、推薦を取るためには2学期最後の成績が重要だった。何とかテスト勉強を頑張って、その規定の水準をクリアすることができた。
一方、デビュー曲の「Shout」は、ウェブ上で売り出した。まあ、それはあまり売れていない。けれども、ダンスの動画を配信したら、そちらのアクセス数は徐々に伸びて行った。被災地での活躍も、地方局で少し取り上げられた。けれども、まだまだ収入が得られるような状態ではなかった。
年明けに、新曲が完成した。
―クジラが可哀そう? イルカが可哀そう?
プラごみ減らそうと 買い物袋はご持参ください
それはいいよ でもね
紙袋はOK? プラスチックコップは辞めて紙コップ?
手の消毒にウェットティッシュ マスクは使い捨て
割り箸問題どこいった? 森林伐採問題は?
使うなとは言ってねえ 捨てるなって言ってんだ
あっちを見ればこっちを忘れる
山も川も森も海も 待っちゃくれねえ
俺たちゃ Busy イェー
どうせため込んでんだろ? 家の中には紙袋の山
どうせもらってすぐ捨ててただろ? コンビニの小さな袋
身近に何かが起こらねえと 気づかねえ俺たち
どこか遠くのお話と 今日もあれこれ捨てている
捨てるから買う 買うから売る 売るから作る 作るから伐(き)る
失われた森は 簡単には再生しない 長く長くかかるんだ
あっちを見ればこっちを忘れる
山も川も海も森も 待っちゃくれねえ
俺たちゃ Busy イェー ―
「Don’t Forget(忘れるな)」
新たな曲が出来て、振り付けも考えた。年明けからまた、週末のボランティア活動を再開したSTEのメンバーだった。歌を披露する場面は少ないが、動画を配信し、路上では少しだけアピールをした。
そして、春になり、それぞれ進学、進級した。