「そんな、何かの間違いでしょ?」
「社長に限って、法律に触れるような事をするはずがない。きっとすぐに帰って来るよ。」
光輝と流星がそんな会話を交わした。
植木が逮捕され、報道陣がSTEタワー前に群がっていた。STEのメンバーたちは仕事どころではなく、いつものリビングに集まって、頭を抱えていた。
「みんな、心配かけてごめん。」
対応に追われていた内海が、やっとメンバーの所へやってきた。
「内海さん!」
「社長はどうなるんですか?」
瑠偉、碧央が内海に問いかけた。
「みんな、まずははっきり言っておこう。植木は脱税も横領も決してしていない。この俺がよく分かっている。」
と、内海が言った。
「じゃあ、すぐに帰ってくるんですよね?」
涼が言うと、内海は、
「そうだといいんだが……。実は、以前政府から、君たちを日本に戻せ、平和祈念コンサートを日本でやれと再三打診されていたんだ。だが、結局政府の要請には従わなかった。帰国はしたが、その為に政府に条件をつけた。それも政府は全て守ってはいなかったのだが。」
と言った。
「そうだったんですか。それで、まさか政府が復讐を?」
流星が問うと、
「復讐というわけではないだろう。何か思惑があるに違いない。」
と、内海が言った。大樹が、
「思惑って、何ですか?」
と問うと、
「それはまだ分からないが。政府は君たちを、国益や日本経済の為に利用しようとしているんだ。うちの事務所は利益を求めない分、政府の言うことにも従わない。君たちの歌には国政批判も含まれる。うちの事務所のやり方が気に食わないのだろう。」
と、内海が言った。篤が、
「言う事を聞かないからって、無実の罪を着せるなんて、ひどい事するなあ。」
と言い、光輝も、
「本当だよ。でも、いくら政府だからって簡単に罪を着せる事なんて出来るの?」
と憤った。
「脅しの為に、とりあえず逮捕しておいて、証拠不十分とかで不起訴になるんじゃないのか?」
大樹がそう言うと、
「脅しだけならいいんだが。とにかく、また何か分かったら知らせるから。」
内海はそう言って、忙しそうに出て行った。
その直後から、メンバーに他の芸能事務所からオファーが入り始めた。事務所から直接連絡は出来ないので、友人を介して連絡が来るのだ。例えば、碧央の友達の歌手から電話がかかってきて、出ると友達は自分の会社の社員と代わり、碧央に直接うちの事務所に来ないかと誘って来る。そのような電話が他のメンバーにもじゃんじゃんかかってきた。
「何の事でしょうか?事務所の移籍?考えていません。はい、はい、確かに社長は今いませんけど、事務所がなくなるわけではありませんから。」
碧央はそう言って電話を切った。
「なあ、俺の所に芸能事務所からのオファーが2件も来たんだけど。」
篤がそう言うと、涼も、
「俺のとこにも来たよ!」
と言い、光輝も、
「僕のところにもさっき来たよ!」
と言った。流星が、
「どうなっているんだ?これも政府が仕組んだ事なのか?」
と言うと、大樹が、
「多分そうだな。社長を逮捕して、俺たちが動揺しているところへ、他の事務所からのお誘いがあれば乗るかもしれない、という考えなんじゃないか?」
と言った。瑠偉は、
「冗談じゃないよ。他の事務所になんて行くわけないじゃん。俺たちはただ芸能活動しているわけじゃないんだ。地球を救うために活動しているんだから。」
と息巻いて、涼も、
「そうだよ、そうだよ。みんな、裏切らないよな?」
とメンバーの顔を見回しながら言った。すると流星が言った。
「当たり前だろ。金が欲しいんだったら、とっくにここにはいなかっただろうよ。でも、俺たちはたくさんの賞をもらい、多くのフェローがいて、このメンバーがいる。どんなに金を積まれたって、俺たちのやり方を変える気はない。これからもボランティア活動をするし、売り上げは寄付するし、平和を訴えるし、地球環境を守る。だろ?」
メンバーはみな、力強く頷いた。
あまりに芸能事務所がうるさく、世間でもSTEの社長逮捕のニュースで持ち切りで、メンバーはどうなってしまうのか、他の芸能事務所に移るのか、と噂されるので、STE側は、記者会見を開く事にした。
記者が質問した。
「今回、社長が脱税、横領の疑いで逮捕されました。この件に関して、どう思われますか?」
流星が答える。
「はい。植木社長は決して罪を犯してはいません。僕たちはただそれを信じているだけです。嫌疑が晴れて、社長が戻ってくるのを待ちます。」
「もし、嫌疑を晴らす事ができず、社長が帰って来なかったら、どうしますか?」
「たとえ、社長が帰って来なかったとしても、僕たちは今まで通りの事をするだけです。」
「しかし、今まではほぼ全ての方針を、社長が決めていたと聞きます。社長がいなければ、芸能事務所は解散という事になるのではないでしょうか。」
「いいえ。社長がいなくてもマネージャー始め信頼できるスタッフがいますから、会社は存続します。」
「もし、社長ではなく、会社に罪があるとしたら、会社がなくなってしまいますよ。そうしたら、他の芸能事務所に移るという選択はあるのでしょうか。」
「ご心配、ありがとうございます。ですが、たとえ会社が無くなったとしても、僕たちが他の芸能事務所に所属することはありません。」
「それはなぜですか?」
「僕たちのやり方は特殊です。他の事務所のやり方にはそぐわないと思います。もし会社が無くなったなら、自分たちで新たに立ち上げます。」
「そこまでの覚悟があるのですね。」
「はい。」
メンバー全員が返事をした。
「総理、STEの記者会見をご覧になりましたか?」
「ああ、見たよ。植木を逮捕しても、意味がなかったのか?」
総理大臣室に、法務大臣が尋ねて来たのだった。
「我々の働きかけ以上に、どの芸能事務所も必死に勧誘したようですが、全く取り合ってもらえなかったそうです。」
法務大臣が言う。
「意志が固いのね。STEは生かしてやろうと思ったけど、社長が操っているというのでもなく、彼ら自体が日本の敵というわけか。」
かつて、日本の宝だと言っていた総理大臣。その同じ人物が、今度は日本の敵だと言う。
「どうしますか?植木の罪もでっち上げですから、そろそろ拘束しておくのも限界です。」
法務大臣が言うと、
「仕方ない。利用しようと思っても、懐かない虎は飼えない。STEのメンバーを逮捕しようじゃないか。」
と、総理大臣が言った。
「メンバーを、ですか。」
「そう。全員ね。そうしないと、彼らは独りになっても続けそうだから。」
「分かりました。手を打ちます。」
「社長に限って、法律に触れるような事をするはずがない。きっとすぐに帰って来るよ。」
光輝と流星がそんな会話を交わした。
植木が逮捕され、報道陣がSTEタワー前に群がっていた。STEのメンバーたちは仕事どころではなく、いつものリビングに集まって、頭を抱えていた。
「みんな、心配かけてごめん。」
対応に追われていた内海が、やっとメンバーの所へやってきた。
「内海さん!」
「社長はどうなるんですか?」
瑠偉、碧央が内海に問いかけた。
「みんな、まずははっきり言っておこう。植木は脱税も横領も決してしていない。この俺がよく分かっている。」
と、内海が言った。
「じゃあ、すぐに帰ってくるんですよね?」
涼が言うと、内海は、
「そうだといいんだが……。実は、以前政府から、君たちを日本に戻せ、平和祈念コンサートを日本でやれと再三打診されていたんだ。だが、結局政府の要請には従わなかった。帰国はしたが、その為に政府に条件をつけた。それも政府は全て守ってはいなかったのだが。」
と言った。
「そうだったんですか。それで、まさか政府が復讐を?」
流星が問うと、
「復讐というわけではないだろう。何か思惑があるに違いない。」
と、内海が言った。大樹が、
「思惑って、何ですか?」
と問うと、
「それはまだ分からないが。政府は君たちを、国益や日本経済の為に利用しようとしているんだ。うちの事務所は利益を求めない分、政府の言うことにも従わない。君たちの歌には国政批判も含まれる。うちの事務所のやり方が気に食わないのだろう。」
と、内海が言った。篤が、
「言う事を聞かないからって、無実の罪を着せるなんて、ひどい事するなあ。」
と言い、光輝も、
「本当だよ。でも、いくら政府だからって簡単に罪を着せる事なんて出来るの?」
と憤った。
「脅しの為に、とりあえず逮捕しておいて、証拠不十分とかで不起訴になるんじゃないのか?」
大樹がそう言うと、
「脅しだけならいいんだが。とにかく、また何か分かったら知らせるから。」
内海はそう言って、忙しそうに出て行った。
その直後から、メンバーに他の芸能事務所からオファーが入り始めた。事務所から直接連絡は出来ないので、友人を介して連絡が来るのだ。例えば、碧央の友達の歌手から電話がかかってきて、出ると友達は自分の会社の社員と代わり、碧央に直接うちの事務所に来ないかと誘って来る。そのような電話が他のメンバーにもじゃんじゃんかかってきた。
「何の事でしょうか?事務所の移籍?考えていません。はい、はい、確かに社長は今いませんけど、事務所がなくなるわけではありませんから。」
碧央はそう言って電話を切った。
「なあ、俺の所に芸能事務所からのオファーが2件も来たんだけど。」
篤がそう言うと、涼も、
「俺のとこにも来たよ!」
と言い、光輝も、
「僕のところにもさっき来たよ!」
と言った。流星が、
「どうなっているんだ?これも政府が仕組んだ事なのか?」
と言うと、大樹が、
「多分そうだな。社長を逮捕して、俺たちが動揺しているところへ、他の事務所からのお誘いがあれば乗るかもしれない、という考えなんじゃないか?」
と言った。瑠偉は、
「冗談じゃないよ。他の事務所になんて行くわけないじゃん。俺たちはただ芸能活動しているわけじゃないんだ。地球を救うために活動しているんだから。」
と息巻いて、涼も、
「そうだよ、そうだよ。みんな、裏切らないよな?」
とメンバーの顔を見回しながら言った。すると流星が言った。
「当たり前だろ。金が欲しいんだったら、とっくにここにはいなかっただろうよ。でも、俺たちはたくさんの賞をもらい、多くのフェローがいて、このメンバーがいる。どんなに金を積まれたって、俺たちのやり方を変える気はない。これからもボランティア活動をするし、売り上げは寄付するし、平和を訴えるし、地球環境を守る。だろ?」
メンバーはみな、力強く頷いた。
あまりに芸能事務所がうるさく、世間でもSTEの社長逮捕のニュースで持ち切りで、メンバーはどうなってしまうのか、他の芸能事務所に移るのか、と噂されるので、STE側は、記者会見を開く事にした。
記者が質問した。
「今回、社長が脱税、横領の疑いで逮捕されました。この件に関して、どう思われますか?」
流星が答える。
「はい。植木社長は決して罪を犯してはいません。僕たちはただそれを信じているだけです。嫌疑が晴れて、社長が戻ってくるのを待ちます。」
「もし、嫌疑を晴らす事ができず、社長が帰って来なかったら、どうしますか?」
「たとえ、社長が帰って来なかったとしても、僕たちは今まで通りの事をするだけです。」
「しかし、今まではほぼ全ての方針を、社長が決めていたと聞きます。社長がいなければ、芸能事務所は解散という事になるのではないでしょうか。」
「いいえ。社長がいなくてもマネージャー始め信頼できるスタッフがいますから、会社は存続します。」
「もし、社長ではなく、会社に罪があるとしたら、会社がなくなってしまいますよ。そうしたら、他の芸能事務所に移るという選択はあるのでしょうか。」
「ご心配、ありがとうございます。ですが、たとえ会社が無くなったとしても、僕たちが他の芸能事務所に所属することはありません。」
「それはなぜですか?」
「僕たちのやり方は特殊です。他の事務所のやり方にはそぐわないと思います。もし会社が無くなったなら、自分たちで新たに立ち上げます。」
「そこまでの覚悟があるのですね。」
「はい。」
メンバー全員が返事をした。
「総理、STEの記者会見をご覧になりましたか?」
「ああ、見たよ。植木を逮捕しても、意味がなかったのか?」
総理大臣室に、法務大臣が尋ねて来たのだった。
「我々の働きかけ以上に、どの芸能事務所も必死に勧誘したようですが、全く取り合ってもらえなかったそうです。」
法務大臣が言う。
「意志が固いのね。STEは生かしてやろうと思ったけど、社長が操っているというのでもなく、彼ら自体が日本の敵というわけか。」
かつて、日本の宝だと言っていた総理大臣。その同じ人物が、今度は日本の敵だと言う。
「どうしますか?植木の罪もでっち上げですから、そろそろ拘束しておくのも限界です。」
法務大臣が言うと、
「仕方ない。利用しようと思っても、懐かない虎は飼えない。STEのメンバーを逮捕しようじゃないか。」
と、総理大臣が言った。
「メンバーを、ですか。」
「そう。全員ね。そうしないと、彼らは独りになっても続けそうだから。」
「分かりました。手を打ちます。」