ある日のレッスン場での事だ。碧央が入ってきて、荷物を置き、トイレに行った。碧央は近くのコンビニでお菓子を買って持って来ていた。リュックの横に置いてあったアーモンドチョコレートを見つけた篤が、その箱を取り、
「なあ、これ食べちゃおうぜ。」
小声でそう言って、箱を開けた。みんなは面白がって争うように1個ずつ取り、口に入れた。そして、箱を元に戻した。中身は空っぽである。なんと、6個入りだったのだ。
 碧央が戻ってきて、アーモンドチョコレートの箱を手に取った時、異変に気付いた。軽いので当然気づく。
「あれ?何だこれ?あ、空っぽじゃん。」
中を確認した碧央は、周りを見渡した。メンバーは素知らぬ顔ですましている。
「ねえ、これ誰か食べた?」
碧央がみんなに話しかけると、近くにいた篤が、
「何の事?」
と、とぼけて答えた。
「アーモンドチョコだよ。誰が食べたの?」
「アーモンドチョコ?知らないなあ。」
篤はしらを切った。
「嘘つくなよ!買った時はちゃんと入ってたんだからな!誰も見てないって事はないだろ?!」
碧央は、だんだん声が大きくなっていった。すると、流星が我慢できなくなって噴き出した。
「ごめんごめん、みんなでいただいた。」
すると、碧央は流星のところへ飛んで行って、胸倉を掴んだ。
「おい、辞めろよ。やろうって言ったのは俺だよ。」
篤がそう言って止めに入ると、碧央は突然篤の顔を殴った。
「ちょっと、碧央!殴る事ないじゃん!」
「碧央くん、ごめんなさい、みんなふざけてたんだよ、買って返すから、怒らないで!」
光輝と瑠偉が必死に止めにかかった。
「チョコはどうでもいいんだよ!騙されたのが許せないんだ!」
碧央は篤に殴りかかるのはやめたが、まだ怒りが収まらないといった風に篤を睨んでいる。
「俺、もうSTEを辞めるよ。全員で俺を騙すようなところには居られないから。」
そう言うと、碧央はレッスン場を飛び出して行ってしまった。
「ど、どうしよう。追いかけた方がいいよね?」
瑠偉はそう言ってメンバーを見渡した。みな、一瞬黙る。瑠偉はやはり飛び出して行った。
「まずかったんじゃないか?1個取るくらいならまだしも、全部無くなっちゃったんだから。」
大樹がそう言った。
「いや、全部でも1個でも、しらばっくれたのがいけなかったんだよ。もう少し早くにごめんって言えば、笑って済んだのに。」
涼が言った。
「そうだな。」
流星が相槌を打つ。
「……悪ふざけが過ぎたよ。」
篤も神妙な様子で言った。
「お互い、慣れ過ぎたかな。」
流星が言った。
そこへ、瑠偉が碧央を引っ張って戻って来た。碧央の手にはさっきと同じアーモンドチョコレートの箱が握られていた。
「碧央!さっきはごめん。今、みんなで反省してたんだよ。」
光輝が言い、
「碧央……ごめん。」
篤もそう言って謝った。碧央は顔を上げた。
「篤くん、さっきは殴ってごめんなさい。」
碧央も神妙な顔つきで言う。
「碧央くん、辞めるなんて嘘だよね?チョコ、買ってあげたんだから、考え直してよ。」
瑠偉がウルウルした目で碧央を見て言う。
「瑠偉が買ったのか……。」
大樹がぼそっと言った。すると流星が、
「碧央、俺たち、お互いに慣れてきて、あれだな。親しき中にも礼儀ありって事を忘れてきていたと思う。ここで、俺から提案なんだけどさ。俺たちSTEメンバーは、絶対にお互いを騙さない、裏切らないって誓おうよ。どうかな、みんな。」
と言った。
「賛成―!」
涼が賛成すると、大樹が、
「そんな事、簡単に言ったって、意味ないんじゃない?誓うって言ったって信じられるのか?」
と言った。
「今度騙したら、本当に抜けるからな。」
碧央が言う。すると、
「碧央くん、じゃあ、辞めないんだね!」
瑠偉はそう言って、はしゃいで碧央の背中に飛び乗った。
「この先、何があっても、たとえ誰かに頼まれたとしても、このメンバーを騙したり、欺いたりしない。みんなで誓うなら、俺はみんなを信じる。」
碧央はそう言った。
「俺は誓う。軽い悪ふざけでも、騙すような事はしない。だから、これからは俺を信じてくれるか?碧央。」
篤はそう言うと、碧央の方へ右手を差し出した。碧央は1つため息をつくと、瑠偉をおんぶしたまま、右手を差し出し、篤と握手をした。そして、篤と碧央はお互いにニヤっと笑った。
「あー良かった、仲直りして。僕も誓うし、みんなを信じるよ。」
光輝がそう言い、
「俺も!」
と、瑠偉がはしゃいだ声で言った。すると大樹も一言、
「俺も。」
と言ったので、流星が、
「よし!全員誓ったな。STEの再出発だ!円陣を組もう!」
と言った。碧央が、
「大げさだなぁ。」
と言ったが、それでも碧央も加わって、7人で円陣を組んだ。
「よっしゃー、これからも7人で走るぞ!」
流星が言い、メンバー全員が、
「おう!」
と叫んだ。