「先ずは腹筋からです」

 いきむ時に必要な筋肉だから、鍛えておいた方がいいという説明があった。
 
「なるほど」

 新が納得顔で頷くと同時にモデルの妊婦が足上げ体操を始めた。
 仰向けに寝て足を腰幅に開き、両膝を立てて掌を下にした状態で、片足ずつゆっくりと直角に上げた。
 そして10まで数えて反対の足を上げた。
 それを3回繰り返した。
 それが終わると立ち上がり、腰の前後運動を始めた。
 立った状態で膝を軽く曲げて、息を吸いながら骨盤を後ろに引き、息を吐きながら骨盤を前に突き出した。
 それを3回繰り返した。
 その次は、骨盤を左右に揺らす運動だった。
 「骨盤を左右に引き上げるようにするのがコツです」とトレーナーがやって見せた。
 それを5回繰り返したあと、「ちょっと休憩しましょう。大きく深呼吸してください」と言って、ラジオ体操のような動きをした。
 そこで新は一時停止ボタンを押した。

「大丈夫? 息上がってない? しんどくない?」

「大丈夫。まだ汗もかいていないから続けてやりましょう」

 考子は余裕の表情を見せた。
 
「では、再開」

 新が再生ボタンを押した。

「次は骨盤底筋(こつばんていきん)を鍛える運動です」

 子宮や膀胱を下から支えているだけでなく、赤ちゃんが通る産道を取り巻いている筋肉だから鍛えておいた方がいい、という説明がなされた。
 
「なるほど」

 新がまた納得顔で頷くと、すぐに腰上げ運動が始まった。
 仰向けに寝て、足の裏を床にピッタリと張り付けた姿勢で、両膝を軽く立てた。
「はい、ここで息を吸いながら肛門を引き締めます。できましたか? では、息を吐きながら腰を上げてください。そこで止めて、息を吸ってください。今度は息を吐きながら腰を下ろします。そうです、上手ですね。それでいいですよ。そこでリラックスしてひと呼吸置きましょう」

 乗せるのが上手なトレーナーだなと思いながらも、乗せられている自分がおかしくなって、考子は思わず笑ってしまった。
 
「はい、次は膣の周りを柔らかくする運動ですよ。寝そべったままの状態でお尻の筋肉と肛門をギュッと締めましょう。そして緩めます。ギュッ、フ~、ギュッ、フ~、ギュッ、フ~と10回繰り返してください」

 くしゃオジサンのような顔をして肛門を締めている新を見て考子は笑いそうになったが、ぐっと堪えて次の運動に備えた。
 
「はい、今度はしゃがみ込み運動です。座って膝を立てた状態で足を開いてください。そうです、その姿勢です。顔の前で両手を合わせて、両肘を両膝に当てるようにして、両肘で膝を押し広げてください。そうです、いいですね。それを3回繰り返します」

 すべてやり終えると、考子の額と首にうっすらと汗が浮かんできた。
 
「はい、お疲れさまでした。皆さん上手ですね。初めてとは思えない動きでびっくりしちゃいました。これからも毎日続けてくださいね」

 本当に見られているような気がして、考子は思わず辺りを見回してしまった。そんなわけはないのだが。
 
「最後にリラックスのポーズをとりましょう。横向きに寝て、足を軽く曲げて、腕は自分が楽だと思う場所に置いてください。お腹の赤ちゃんを感じながらゆっくりとしたタイミングで、息を吐いて~、吸って~、吐いて~、吸って~、吐いて~、吸って~、吐いて~、吸って~、フワ~~~」

 トレーナーのあくびに誘われるように考子も大きなあくびをした。

 新は? 
 
 隣で同じポーズをしていた彼は、とろんとした表情で寝息を立てていた。