ノベマに登録して、早八ヶ月に迫ろうとしている。過去に別の名前で登録していたこともあったが、一念発起して退会した後、改めてアカウントを取得した。
何故ノベマに登録したかと言えば、私が俗に言う和風シンデレラ系にハマってしまったためである。元々他のペンネームなどで異世界ファンタジーなどを書いていたのだが、特に和風シンデレラジャンルに憧れて、それを是非とも同志が多そうなノベマに掲載したいと思ったのが、きちんと登録した契機だった。なお、現代ものや異世界ファンタジーも変わらず好きで、読むし書く。
そんな私であるが、2024/11/06のオススメに、ファンタジー作品を選んで頂いた。
ご覧頂けたであろうか。とても嬉しい。
現在投稿中の短編賞作品も、ランキングに入れて頂き、嬉しい。
語彙力が嬉しい以外消えていく。
さて、そんな私であるが、コンテストを見ると、結構ちょくちょく応募する。選考に通過する、しないというよりも、特にWeb上で開催されるコンテストは、みんなが参加していてお祭り感覚があり、元来お祭り好きな性分なもので、タグを軽率につけて応募して悦に浸ることが多い。一緒に、その“ノリ”を味わえるのが、何よりも好きだ。さながら、雪まつりで雪像を一緒に見た時のような。
オススメに選ばれた時、私はまず某SNSで藍堂くんに連絡した。
《聞いて! オススメされた》
《なぁ、いつも言うけど、俺の登録SNSの中で、このアプリで連絡してくるの水鳴だけなんだけど、別ので送り直してくれないか?》
《無理》
《まぁいいけど》
結局、『いい』としてくれる藍堂くんは、非常に根は優しいのだろう。話していると時々冷酷に思えるが、多分優しいのだろう、多分・恐らく・きっと。多分旦那様にするとよい人柄のような気がする。知らないけど。
この藍堂くんというのは、私の暮らす実家の、川を挟んで裏側の崖の近くにある通称・八倉寺の次男だ。私の本業は所謂ライターなのだが――漠然としているが身バレの危機があるためご容赦願いたい――私はライターとしてあるまじきことに、車の免許もバイクの免許も、なんなら原付の免許も所持しておらず、一人では鉄道やバス・タクシーや飛行機、船に乗車するなどの取材にしか行くことが出来ない。それは、記事のみならず、小説の取材も同じだ。私は過去に一冊のライトノベルと、数冊の電子書籍の小説を、それぞれ別のペンネームで出したことのある、新米に毛の生えたような小説実績も持つライターなのであるが、さて、冒頭に戻ろう。私の現在の自分の中のブームは、和風シンデレラ系であり、和風シンデレラジャンルがなにかという説明をさらっとするならば、大正風の世界観であやかしなどが存在する世界において、虐げられてきたヒロインが、どこぞの名家や強者のお嫁さんになるというような話である。勿論シンデレラは、美貌だけで見惚れられたわけではないので、数多のヒロインは性格がよく人柄も魅力的であり、それを描き出すのは作者の力量――だと思うが、舞台世界などは、正直取材や資料収集が可能だと私は思っている。
そんな私がよく舞台にするのは、令和の息吹が全く感じられない、奥会津地方の秘境にある三桧村だ。奥会津地方というのは、福島県会津若松市と南会津郡の間にある、某検索エンジンでも“秘境”という検索ワードでhitする、俗に言う田舎――……いいや、人々のイメージする田舎に、明治・大正をかなり取り入れた土地である。最寄りにコンビニ? 無い。最寄りに天然記念物? 視界に入る。そういった土地だ。
ここにある我が母の生家、星名家であるが、この家自体が明治時代に建てられた家である。途中改築したこともあるが、梁などはそのままで、倉もある。
色々とインパクトのある星名家であるが、今回、モキュメンタリーの賞を見た時に、私は最初に、この祖父宅を思い出した。モキュメンタリーということにしたら、かなりきわどいところを攻めることにはなるが、私のいくつかの思い出を綴っても許されるのではないかと思った次第である。
過去、それこそ十年ほど前に私は、とある編集部にて『うちは和風は取り扱ってないから別のプロット出して欲しいです』といわれ、またごく最近『和風は、今となっては二匹目のドジョウにも遅いので別の世界観でお願いします』といわれ、ずーっとと巻き舌で言うが和風好きで来た私には、何処に出して良いのか分からなかった和風シンデレラ風作品がいくつかある。ノベマが出来て、ノベマになら投稿して良いようだぞと分かった時の幸せ感といったらなかった。それと同じように、モキュメンタリーということにすれば、仮にそれが事実であったとしても、あくまでもモキュメンタリー作品ですと言っても、許されるんじゃないかなと思った。真偽のご判断は、読者の皆様にお任せしますが、そんなわけで、今回は私なりにあくまでもモキュメンタリー作品の『タイトル』を綴ることにする。
それに説明不可欠なのが、『藍堂くん』である。
藍堂くんは、私と同じ歳――即ちまだかろうじてアラサーといえるギリギリ昭和にはかからず平成時代を生きてきた、三十代前半の、率直に言って三十二歳の青年である。1992年生まれの申年で双子座。私は射手座である。彼は六月生まれであり、半年後の十二月に私は生まれた。
私の地元、明倉町には、高校が一つだけある。それが、明倉高校だ。
私は中学時に受験をして、会津若松市の高校に進学したのだが、彼は逆にその年、お母様の病死により埼玉から明倉町へと戻ってきて明倉高校へと進学した。明倉町には、上述したとおり、八倉寺と通称されるお寺があって、そこの長男であった藍堂くんの父が帰ってきた形だ。即ち、私とは入れ違いである。
そんな私と藍堂くんが出会ったのは、高校一年生の時に明倉町で開催された雪まつりでのことだった。県内でも中継が入る程度には大きな雪まつりで、私はそこに、中学時代まで保育所からずっと一緒で、大親友といって差し支えないと私は思っているメグと一緒に遊びに行った。メグ――恵実ちゃんである。
メグと私は本当に親しかった。私だけの片思いでない理由として、ふと思い出すエピソードがある。ある日中学校のテストで、いつも成績が一番下付近だったメグが、一位になったことがあった。なお、私も同点一位だった。そして私は彼女の斜め前の席だった。私はその日の朝、『今日は絶対頑張りたいから勉強してきた』というメグの言葉を聞き、一緒に頑張ろうと励まし合った。だが、私のクラスは控えめに言って学級崩壊していたので、メグは、『水鳴さんのテストをカンニングした』と責められた。責められすぎて号泣し、メグは授業中であったが教室から走り去り、学校脇の公民館の裏手で蹲って泣き出した。何故それを知っているかといえば、『私とメグは間違った箇所がお互い違うのに、カンニングって事はあり得ないだろ!』と啖呵を切って教室から私も出て、メグを追いかけたからである。するとメグは、言った。『本当に信じてくれるの?』と。
「当然。信じられない他が変」
「……諒ちゃんがそう言ってくれるんならもういいや」
と、こうしてこの騒動は収まった。私は別段正義感に溢れた人間ではなく、だって、普通に、間違ってる場所違うし、私にはそこは解けなかったけど、メグには解けてるじゃん? と、思っただけなので、これはヒーローエピソードでなく、どちらかというと私が比較的論理的な部分があるというエピソードとして受け止めてほしい。
そのメグに招かれて、私は進学先の下宿から……なお、今の令和でも下宿が存在している母校であるが、そちらから帰省し、雪まつりへと向かった。二人で並んでリンゴ飴を食べていると、懐かしの中学までの同級生やらに声をかけられた。
「恵実」
すると、人並みが途切れたところで、片方が見たことのない同世代男子二人組に話しかけられた。二人組、二人連れで、一人は中学時代の私のもう一人の親友と言えた黎くんだった。黎くんと私はなんとなく気が合い、中学時代に付き合ったことがある。だが、手を繋いだらその体温に違和感を抱き、どうやら好きではない気がすると思って、別れた。なので、私はちょっと気まずかったし、黎くんも同じ思いだったのだろう。
「悪い、俺先に行ってるわ」
黎くんが立ち去った。正直ホッとしたのを覚えている。
残された私とメグ、そして見知らぬ男子。私は見知らぬ男子を見上げた。私から見ると長身で、ひょろっとした猫背だった。
「藍堂、麻雀やってるのかと思った」
「高坂先生の家で今までやってた。それで今、帰りがけに雪まつりに黎とよったところ」
その話を聞き、麻雀への造詣がなかった私は、よく分からなかった。なお小さい町なので、先生の家で生徒が遊ぶことは珍しくなかった。
「えっと」
それから藍堂くんが私を見た。私は愛想笑いをした。
「諒だよ。私の親友」
「お前友達いたんだ」
「藍堂に言われたくない」
二人のやりとりに、とりあえず友達だと言われたのが嬉しくて、私はににやけた。
すると藍堂くんが、携帯電話を取りだした。
「よかったら」
「ああ、はい」
私は友達の友達は友達だと思うタイプなので、連絡先を交換した。それに……藍堂くんがメグを見る目が、キラキラしていたので、多分好きなんだろうなと判断して、メグもその時フリーだと知っていたので、私に出来ることであれば、余計なお世話だが協力したい所存だった。
こうして連絡先を交換して、藍堂くんが帰っていったので、その後私はメグと雪まつりを回った。それから帰宅すると、藍堂くんからメールが届いていた。ここから、私と藍堂くんのやりとりは始まったのである。
その翌週には、メグが好きだと聞いた。
二年後、私が大学で東京へ、メグが福島県郡山市に就職しても、それは変わらなかった。
私は週に一度程度は、メグあるいは藍堂くんとやりとりをしていた。
藍堂くんは、私に『メグはなにしてる?』『メグは元気かな?』と聞く。
メグは私に、『彼氏と上手くいってる』『結婚したい』と語る。
……。
藍堂くんから相談を受け続けている私であり、藍堂くんが私を介して想い人の現在を知りたいのも分かるのだが、我が親友は、彼氏がいたのであった。私は親友の恋愛については藍堂くんに言わなかったし、藍堂くんに探りを入れられてもなにも言わなかった。だが、ある日。
『諒、聞いて! 子供がデキたの! 彼氏と結婚する!』
と、メグから連絡が来た。私はまず、メグの幸せを全力で喜んだ。
それから三十分後、藍堂くんからの着信を見て、はたと我に返った。
私には失恋するとわかりきっていたことではあるが、どれだけ本気で藍堂くんがメグを好きだったかも分かっているから、本当に彼の失恋が辛い……。
「もしもし」
『水鳴、なにしてた?』
「ん……んんん。風呂に赤カビが生えないようにから拭きしてた」
『あ、そう。携帯持ち込んで?』
「いやぁ、音を聞いて部屋に戻ってきた!」
『なるほど。ところで、恵実って次の雪まつり帰ってくるか聞いてるか?』
「……えっと」
私は何を言っていいのか分からなくなった。大混乱していて、藍堂くんの気持ちは痛いほど分かるのだし、きっとあと数日もすれば、メグの話はみんなが知るところになるとは思いつつも……言えなかった。だから、言葉を探した。
「あ、あのさ? 藍堂くんって、今もメグのことが『好き』でいいんだよね?」
「ん? ああ」
「告白とかしないの?」
「……なんで?」
「その……ほら? もし、するんなら……」
「するんなら?」
「……メグには、好きな人がいるかもしれないし、そういうのも考慮したら?」
「――それは考えたことなかったわ」
そう言うと、ブツンと藍堂くんが電話を切った。私は胃が痛くなった。
その三日後には、知り合い全員が、所持者はスマホのグループに、持っていなかったものはフューチャーフォンのメールやら電話で、メグの結婚報告を聞いた。私は喜んだが……ずっと藍堂くんのことを気にしていた。折しも、大学が二月からの春休み期間に入っていた。雪まつりは二月半ばだ。サークルの打ち上げも終わり、私は帰省することになっていて、例年だと、車の免許を持たない私が連絡すると、藍堂くんが迎えに来てくれていた。そのため、あくまでそのため、だ。私は帰省を理由にして――勿論断れたら家族に迎えに来てもらうつもりで、藍堂くんに連絡した。
「もしもし」
『ん、ああ。水鳴。どうした?』
「……明後日帰省するんだけどさ」
『迎え行くか?』
「いいの?」
『いつも言ってるんだから、いつもみたいに来いっていえば?』
「お願い、来て!」
こうして私は、藍堂くんに迎えに来て貰う約束を取り付けた。
ただ……正直な話、メグの話をするから、メグの友達だから、私は迎えに来てもらえるのだと思っていた。それがないのに、つまり利害関係は――元々私はメグの話は漏らしていなかったとはいえ――何も無いのに本当にいいのか不安だった。
その後特急スペーシアから乗り継いで、会津田島駅へと着くと、藍堂くんが迎えに来てくれていた。雪の降る会津田島駅で、藍堂くんを見ながら、私は多分顔色が悪かったと思う。
「なに、具合悪いの?」
「へ?」
するとそう声をかけられた。
「乗れ、とりあえず。珈琲、だろ? 買うから」
「あ、ありがと」
私が助手席に乗る前で、藍堂くんが、缶コーヒーのブラックを買ってくれた。
運転席に座ってから、藍堂くんにそれを渡されたので、プルタブを開ける。
いつもより、苦く感じた。
「藍堂くん、元気だった?」
「元気」
「そ、そっか」
「恵実のことだろ?」
車が走り出してすぐに、藍堂くんが切り出した。私は俯いた。
悔しくてたまらなかった。
親友の幸せが嬉しい。なのに藍堂くんの不幸がきつい。
「あーあ。水鳴が俺のこと影で嘲笑うような性格だったなら、俺だってお前にキレて終われたのに苦しいわ」
「……ごめん、言わなくて」
「いや、いいよ。お前の口が硬いってよく分かった。それより、まぁ、なんだ? その? 俺は恵実が幸せならそれでいいんだよ。幸せにするのが俺じゃなくても。だから、気にしないでくれ。逆にこれまで相談に乗ってくれて――板挟みにして悪かったな」
運転しながら前を向いて、藍堂くんが言った。私の涙腺は崩壊した。
「藍堂くん良い奴なのに辛い、あああああ、もう!」
「なんでお前が泣くんだよ」
「なんで藍堂くんは笑うの!」
「――お前がいてくれるだけ、俺は幸せだって。多分、相談してたのがお前じゃなかったら、そもそもとっくに諦めてたし」
「私をフォローすることはないよ! もう、ああああ」
「まぁまぁコーヒーでも飲め」
こうしてこの冬、私は帰省した。メグは結婚式の準備があったので帰ってこなかった。
これが、私と藍堂くんが、盟友になった瞬間だったのだと思う。
以後も私と藍堂くんはたまに電話や通話をし、私が在宅主体に仕事を切り替えることにじて実家へと戻ってからは、ちょくちょくと小旅行にいくようになったのである。
そんな藍堂くんとは、先日は『塔のへつり』に行ってきた。藍堂くんは何故なのか、『お前とあの道中の峠通るの本当嫌なんだよ。トンネル出来て大分マシになったけど』と前々から言う。途中では、物産館に寄った。
まぁこの藍堂くんとのお話を、以後、綴っていこうと考えている。あくまでも、モキュメンタリーである。実在する土地や人物等は、差し支えがありそうな部分はなるべく仮名とする。真実がどこにあるかというのは、自分が決めるものでもあるので、これはモキュメンタリーだとしてご覧頂きたい。なお、メグが私に、藍堂くんが初対面の時、立ち去った際にいた一言は、こうだった。
「藍堂は、さ。視えるんだよ」