母親に真剣な想いを伝えて、戦いに出るのを許してくれた。
ユキメと出会い、決意を伝えると、九夜先生の元に案内してくれた。
彼は、学校の門を開けようとしていた。
「先生、私も連れていってください」
立ち止まるように、声をかける。
「行かせられない。思い出すことを恐れて、ずっと逃げてきたのに。大した力もないのに」
背を向けて、言葉を続ける。
「……お前を連れていったところで、何ができるんだ」
門を叩き、怒りを露にする。
真剣な気持ちを感じて、身体が震える。
『これは、おばあちゃんに教えてもらい、私たちが作ったもの。美桜のことを守ってくれるから』
母親がもらった御守りが、勇気をくれる。
『このゴムは、おばあちゃんが美桜にあげようとしたもの。この宝石は、代々から引き継いだのよ』
祖母の髪止めと宝石に込められた想いが、背中を押してくれる。
「すごく恐かったよ。おばあちゃんのことを思い出して……悲しかったよ」
もう逃げる道を選びたくない。
彼に認めてもらうために、ここにきた。
「でも、思い出せてよかった。だって、おばあちゃんが、私に教えてくれた」
そして、一歩進む。
まだ戦う力も、経験も。
目の前の人には、何一つ届いていない。
「一人じゃないって、光をくれた。私もおばあちゃんのように、困っている人がいたら、手を伸ばすよ」
その背中に、少しでも届くように。
一緒に戦えるほど、追いつけるように。
全ての想いをぶつけて、手を伸ばす。
火音のポーチが光を出した。
輝きを放った、美桜の手元に薙刀を現す。
桜の模様の白衣に、変わる。
急に変わった姿に、美桜は混乱する。
しかも、服装が乱れている。
恥ずかしくて、背中を向けて、しゃがむ。
「……さっきの意気込みは、どうしたんだよ」
火音は美桜の姿を見て、笑っていた。
そのことに、頬を膨らませる。
「ユキ、手伝ってやれ」
「火音、わかった」
ユキメは頷き、美桜の元に向かう。
「大丈夫です。力を入れ過ぎているから、そうなってしまったんです。頭痛があった時も、同じですよ」
美桜の肩に触れる。
そこを通して、ユキメの力が体内に入っていく。
「安静にして、深呼吸をしてください」
すると、元の姿に戻った。
「ユキメさん、ありがとうございます」
それにほっとして、立ち上がる。
「天宮」
火音に呼ばれて、彼の方を見る。
「戦うことを認めるよ」
「本当ですか!」
嬉しくて、思わず身を乗り出す。
火音は驚きながら、身体を捻って、かわす。
「……すみません」
申し訳なさそうに、苦笑いする。
「危ねぇから、預かっておくな」
嘆息をつきながら、ポーチに入れる。
「俺が迎え行くまで、夜出歩くな。もし、俺がいけない時は勝手に行動するな」
何だか、腑に落ちない。
子供扱いされているみたいだからかな。
「返事は」
「はい!」
「なら、よし」
学校に入るわけではなく、別のところに向かう。
「どこにいくんですか」
「天宮が参加することを上に報告しにいくんだよ。それに、装備が貧弱だから、そのまま入らせるわけには行かないしな」
「待って。私も行きますよ」
彼のことを追いかけた。
☆☆☆
美桜のことを守りたくて、必死になりすぎた。
何も見えていなかった。
『なあ、火音。美桜ちゃんが前に進むやったら、ええ加減、覚悟を決めや。美桜ちゃん……火音のためにも』
美桜を心配して、見に行った時に京助がそれに気がつき、火音を追いかけた。
それに、耳を傾けようとしなかった。
いや、彼女のことを見ようとしなかった。
もしかしたら、それを気がつかせるように、言ってくれたかもしれない。
なのに、情けないな。
本当に情けなくて、何も言えなかった。
今度こそ、美桜が光を身失わないように。
隣で守っていこう。
「もう、面倒くさい」
沙耶は文句を垂れながら、棚の物を拾い上げる。
部屋の掃除をしていた。
夏休みだからといって、怠けていたら、母親に手伝いしなさいと叱れた。
やらなかったら、小遣いをもらえなくなる。
それで、生地を買いたかった。
仕方なくだ。
部屋が汚れていたので、掃除をすることにした。
ちょうど、棚を整理している時に、手を滑らせた。
色んな物が落ちて、床に散乱した。
その中に開いたアルバムを、見つける。
これは、美桜と初めて記念に撮った写真だった。
「懐かしいね」
沙耶の脳裏(のうり)に、過去の記憶がよみがえる。
☆☆☆
時は遡って、4月頃。
「沙耶さんって、何か冷たくない」
「うんうん。ずっとピリピリして話しにくいよね」
「だよね。この前なんか……」
クラスの子の噂話を聞いて、ため息をつく。
沙耶は人と話すのが、すごく苦手だった。
どうしても、相手のことを警戒しすぎたり、冷たい態度を取ったりしてしまう。
そのことによって、相手は傷ついたり、避けたりされた。
その度に、駄目な人間だと思った。
そうなってしまった理由には、心当たりがある。
小学生の時に、姉の叶花がクラスの子たちからいじめを受けていた。
彼女は、普通の人よりも行動するのが鈍かった。
それを見た人たちは面白がって、いじめの対象にした。
沙耶は、それを守ろうと戦い続けた。
姉が二度と被害にあわせないように、見張った。
その結果、この態度は生まれてしまった。
このままでは、駄目だ。
中学生になったら、変わろうと決意する。
だけど、間違えを冒してしまった。
人は簡単に変われないのかな。
もう一度、嘆息をつく。
そして、廊下の途中で止まっていた、足を進める。
次の授業は家庭科で、家庭室に移動する。
別に嫌な気分ではない。
むしろ、楽しみだ。
その授業で、動物のぬいぐるみを作る。
裁縫は大得意だ。
それは、雑貨屋をしている母親の影響が大きい。
物心がついた頃から、ビーズやアクセサリーなどに、触らせてくれた。
それによって、好きになった。
誰よりも素早く作れる自信がある。
ちょうど、叶花を見かける。
体操服とシューズの袋を持っている。
これから体育館に向かうだろう。
退屈だったので、話し相手がほしかった。
叶花が茶色のボブの女の子と会話していたので、声をかけるのをやめる。
遠かったので、よく聴こえなかった。
だが、2人ともすごく楽しそうな顔をしていた。
こんなに明るかったのは、一度見たことがない。
叶花のことが好きなので、取られて嫉妬(しっと)する。
自分には出来ないことをやってのけるので、羨望(せんぼう)する。
絶対あり得ない。
猫を被ることで、裏の顔を気がつかれないようにしている。
甘い蜜で誘き寄せ、隙を狙っているんだ。
化けの皮を剥がしてやる。
意気込みを決意する。
☆☆☆
放課後。
茶色のボブの女の子が、教室から動き出す。
やっとか。
先生も出ていくから、居残りでもされていただろう。
へろへろみたいだし、好機だ。
叶花のふりをして、話しかける。
「美桜ちゃん、お疲れさま」
既に名前を調べ上げた。
叶花の呼び方に合わせる。
「えっと……あなただれ?」
もうばれてしまった。
変装は完璧のはずだ。
「美桜ちゃん、もう何を言ってるのよ。叶花だよ」
「ううん。叶花と話し方が違うよ。シュシュの色も違うし、左右逆だよ」
痛恨のミスを冒してしまった。
でも、これだけは手放せない。
だって、誕生日に叶花と交換した。
不恰好だけど、嬉しかった。
髪を結ぶのが下手だったので、丁寧にまとめてくれた。
叶花は父親の影響で、髪をセットするのが、得意だった。
「あなたって、叶花と双子なの?」
「そうよ。なんか、文句がある」
計画が簡単に崩れて、冷静にいられなくなった。素直に答えてしまった。
こんなはずではなかったのに。
「いいな」
すごく嬉しそうな顔を向ける。
「……何がよ」
それに怖じけついてしまう。
(何なのよ。こいつ)
「私、一人っ子で兄妹いないから」
「いると面倒よ。すぐにケンカになるし」
この前なんか、彼女が残していたプリンとは知らず、食べてしまった。
そのことで喧嘩になった。
「そうなの」
「そうよ」
「それでも羨ましいな」
「何でそうなるのよ」
「すごく楽しそうだなと思って。シュシュだって、大切にしているだもん」
そういってくれて、嬉しかった。
これは、大切な宝物だから。
「あなたにもいるでしょ。そんな明るい性格なんだから。羨ましいなんて、おこがましいよ」
平気で嘘をつける。
「私には……いないよ」
暗い表情で笑う。
今まで太陽のように眩しかったのに、それが嘘みたいだ。
陽気だから、沢山の友達がいる。
いや、それなら、誰かが迎えに来てくれるはずだ。
誰もが同じというわけではない。
その解釈から、既に間違えていたのだ。
それに気がつかなかったから、みんな沙耶の元を離れていった。
それで、友達が1人も増えなかった。
この人もそうだ。
もう傷つけたから、嫌いになるだろう。
「……ごめんなさい」
せめて、謝罪する。
今更、許してもらえないことはわかっている。
傷つけた分を謝りたかった。
目をあわせたくないので、逃げる。
「……待って」
派手に転んだ音がした。
沙耶は驚いて、振り向く。
「ちょっと、大丈夫?」
急いで、美桜の元に駆け寄る。
「あはは」
笑いながら、起き上がる。
もしかして、頭を打って、壊れた。
「だって、謝ったのに。すぐに戻ってきたもん」
「そりゃ。あんなだけ派手に転んだら、誰だって気にするよ」
「……嬉しかったよ。心配してくれて、ありがとう」
笑いを止めて、言う。
「別に」
視線をそらす。
頬が赤くなったのを見られなかった。
「転んだのって、これのせいかな。切ればよかった」
スカートのほこりを払いのけ、見ていた。
それは、解れた糸だった。
恐らく、引っ掛かって転んだだろう。
それでも、転けるかな。
ドジだな。
それを切ろうとして、鞄の中を探る。
「切ったら、だめよ」
思わず、手を握ってしまった。
「ごめん」
「いいよ。詳しいの?」
「……うん。得意だから」
「すごいね。私は全くできないよ。昨日、家庭科の宿題でクマを作ったんだけど、下手だったよ」
「ほら」
スマホの画像を見せてくれる。
テディベアの首が曲がっていた。
面白くて、笑ってしまう。
「おかしいよね。叶花と笑っちゃった」
そのことを話していたんだ。
そういえば、叶花も真剣に作っていたな。
「直してあげるから、貸しなさい」
「うん」
「ちょっと、ここで脱ごうとしないの」
「誰もいないから、大丈夫だよ。ズボンはいてるから」
「それでも躊躇しなさいよ。トイレに行くよ」
「……わかったから、引っ張らないでよ」
☆☆☆
綺麗に直して、美桜に渡す。
「ありがとう。えっと……」
頬の掻きながら、気まずそうにする。
「そういえば、あなたの名前を聞いていなかったね」
今更か。
沙耶もすっかり忘れていたから、人のことを言えない。
「沙耶よ」
「沙耶さんありがとう」
改めて言い直す。
「さんは……いらないよ」
「え?」
小声だったから、聴こえなかっただろう。
「……もう友達だから、呼び捨てしていいよ」
もじもじしながら、答える。
これまで、そんな機会がなかった。
「沙耶よろしくね。美桜って呼んで」
目を輝かせて、沙耶の手を握る。
喜びを表すように、振り回す。
「わかったから。ちょっとやめなさい。恥ずかしいから、放して」
「ごめん。つい嬉しくて」
「……いいよ」
初めてできた友達だから、許してあげる。
そう胸を張って言えるほど、自信がついてなかった。
☆☆☆
眺めるのをやめて、アルバムを閉じる。
それを棚に戻す。
でも、君が悩んでいたら。
落ち込んでいたら、元気にさせるよ。
「美桜」
彼女を呼んで、リボンのシュシュを渡す。
いつの日か、言ってみせる。
ーー 美桜は、私の大好きな友達よ。
《春見中学校》の職員室。
翔はデスクで、パソコンの作業していた。
眠たそうに、目を擦る。
深夜まで、来見家でゲームをしたせいだ。
「山崎先生、お疲れさまです」
振り向くと、九夜火音だった。
歴史の担当していたあさひ先生が、体調を崩して入院した。代わりにやってきた。
「お、お疲れさまです」
正直、この人が苦手である。
色々と指導してほしいと、校長に頼まれた。
ここにきて、2年経つ。
そろそろ部下をつけられても、仕方ない。
先輩として、良いところを見せたいと思い、快く引き受けた。
優秀な上に、社交的な人だった。
皆に信頼されていき。
知らないうちに、翔の手がいらなくなってしまった。
何もできていないし、影で笑われてしまった。
結果、彼のことが嫌いになった。
「どうかしました」
面倒なので、敬遠する。
「お疲れだったので、コーヒーをあげようと思って」
苦いから、要らない。
甘い物が飲みたくて、来見にいちご牛乳を買ってきて、頼んだ。
来見が作った、英語の小テストが簡単すぎた。手伝う代わりだから、文句はない。
まあ、財布を忘れたから、自分の金だ。
「ありがとう……ございます」
眠気ざましなるだろう。
厚意を無駄にしたくなかったので、受け取る。
デスクの端に置く。
「問2と3のスペルを間違えています。他は逆になっていますよ」
「本当だ」
細かいところを見てくれて、気が利く。
彼に感謝して、直そうとする。
「そのまま作業すると、目の負担になりますよ。よかったら、これを使ってください」
眼鏡ケースを渡す。
「予備ならこれがありますから、大丈夫ですよ。それに、あまり使ってませんから」
眼鏡の縁を弱く触る。
そこから素顔がちょっと見えた。
「ありがとう……ございます」
彼の言った通りだった。
茶色の眼鏡は、あまり使われていないようだ。
わざわざ買ってきたわけではないよな。
それなら使わないので、新品のはずだ。
あれ、度が入っていない。
あれも、同じなのか。
なら、何でしているんだ。
ますます、謎だ。
「カケル。いちごギュウニュかってきたよ」
最悪な状況にするように、来見が登場してきた。
「何できたんだよ」
問いつめて、小声で訊く。
「グッドナイスよ。カケル、コーヒーにがてでしょ」
普通の声量なので、火音の耳に入った。
「これは、自分で処分しておきます」
冷凍庫のような、笑顔を返す。
「それは明日に返してくれたら、大丈夫ですよ。早めに帰ってください」
彼のお陰で早めに済んで、印刷するだけだ。
変な事件が続いているので、ありがたい。
「それでは失礼します」
「さすがキュウヤセンセ。プリントしよ」
「そうだな。てか、お前がやれよ」
☆☆☆
「なあ、クルミ。九夜先生って、何で眼鏡してると思う」
漫画を読む、来見に訊く。
暇なので、自分の家に遊びにきている。
彼の家が隣にあるから、帰ればいいのに。
相談したかったから、別にいいや。
「カノジョいるから、おしゃれしてるだよ」
こいつに訊いたのが、間違えだった。
「独り身だろ」
「カケルしらないの? キュウヤセンセモテモテよ」
メモ帳をズボンから取り出す。
「イケメンで、ミステリーなところがいいんだって」
「それを言うなら、ミステリアスな」
「けいさんでチカづけないっていわれてるよ。けいさんなら、クルミにもできるよ」
人のことを言えないな。
英語以外、小学生並みだろ。
確かに会話や行動は、計算されているみたいだ。
どことなく、近づけない雰囲気があるよな。
「カケル、メガネみつめちゃって。ははん。キュウヤセンセきになるの。クルミにきいたのね」
「そそんなじゃない」
無意識で、見てしまった。
慌てて否定する。
きっと考えすぎだ。
「九夜先生に、これ返そうと思って」
礼したいと思い、出かけた。
☆☆☆
来見にくるなと、念押したのに。
結局、いるな。
電柱に隠れて、翔の様子を伺っている。
後ろを見ながら、嘆息をする。
時間が無駄になるし、知らないふりだ。
喜んでくれるだろうか。
紙袋に入った、抹茶の饅頭(まんじゅう)だ。
親戚が旅行にいった土産だ。好みじゃないから、台所の棚に仕舞った。
今更、買えないから、賭けよう。
「ああ、サムライだ」
初歩的な罠に、引っ掛かるか。
袴姿の人が、本当にいた。
撮影場所に行こうとしているのか。
何かに引っ掛かり、転ける。
しっかり確認をしなかったせいか。
立ち上がれない。
足に石が乗ったように重かった。
いや、何かが巻き付いているんだ。
ズボンに触れて、嫌な感覚を感じ取る。
「カケルまぬけだね」
霊感がないから見えないけど、幽霊みたいのがいる。
「クルミこっちくるな!」
それが離れる。
恐らく、来見の方に向かったんだ。
叫んだが、来見は感知ができず、こちらにくる。
切りさく音が聴こえた。
目の前には、先程の人が立っていた。
急に睡魔に襲われる。
瞳を閉じる瞬間、その人が振り向く。
それが九夜先生に見えたような。
☆☆☆
覚醒すると、和室だった。
「クルミは」
隣で熟睡する来見に、一安心する。
「目を覚ましたか」
扉が開き、京都弁の男性が入ってくる。
「あの、ここは」
「ワシの店や。君らが、道端倒れとるのを見かけて、運んできた」
「それって、袴の姿の人ですか」
「いいや。ワシや」
暗かったし、見間違えたのか。
「……ありがとうございます。もう帰りますので」
「もう一人が起きるまで、ちびっと休んでいきや」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「おぶでも、持ってくるな」
出て行く前に、聞きたいことがある。
「はい。あの……」
「京助や」
「俺は翔です。京助さんあれって、何だったんですか」
「あれというのは」
「幽霊みたいのですよ」
「おらへんよ。夢でも見たんやないか」
冗談話だと思われて、笑われてしまった。
ズボンを捲(めく)っても、あの痕がなかった。
あれが夢なんかじゃない。
嫌な感覚を鮮明に覚えている。
☆☆☆
翌日、放課後。
外に出る、火音の後を追う。
あれが夢ではないなら、見た人も彼だろう。
来見も記憶がいないから、頼りならない。
はぐらかすので、追いかけた。
途中で見失う。
周囲を見ると、和風の喫茶店に目につく。
そう言えば、あそこはここだった。
あの店主と火音は、知り合いじゃないのか。
店に入室とすると、後ろから肩を叩かれる。
「翔くん」
振り向くと、京助がいた。
忍び寄ってきたようで、全くわからなかった。
「何のようや」
穏やかな口調だけど、目が笑っていない。
「京助さんこんにちは。昨日のお礼を兼ねて、ご飯を食べにきました」
何とか思いついた言い訳をする。
「そうかいな。ちょいこい」
完全に終わった。
一通りが少ない場所に、連れていかれる。
「あのな、火音を嗅ぎまわるやめや」
「それは……」
ごもっともだ。
「そもそもメリットあるやんか。火音の居場所をなくそうするなら、容赦へんで」
確かに関係ない。
どうしても気になってしまう。
深く考えると、あの人のことを思い出した。
あの人とは、大学で一度出会っただけだ。
顔も声も憶えていない。
記憶にあるのは、あの言葉と。
『字がきれいだし、教え方がうまいな。国語教師になってみたら』
問題の解き方を教えるために、書いたものだけだ。
自信を持てなかった自分に、未来の選択肢をくれた。
思い出を持っているだけで、あの人がどこかで見ているような気がした。
その人のことを知れたのは、中学校に入社した初日。
校長とは知らず、落とした地図を拾った。
手書きの地図で、あの人と字だとすぐにわかった。
遅刻するにも関わらず、案内したら、校長だった。
そして、教師をやめたことを知ってしまった。
トラブルに巻き込まれたらしい。
曖昧なのは傷ついて、忘れた。
いや、忘れたかったんだ。
そこにいたとして、何もできない。
忘却する方が楽だった。
その人と、火音は似ている。
手綱を引いていないと、どこかにいってしまいそうだ。
これは、似ているから、ほっておけないからではない。
迷っているなら、力になってあげたい。
あの時、できなかったことをしたいんだ。
ようやくたどり着いた。
「違います。追いかけたのは、謝りますけど、やめさせたいとかじゃない」
その男性に、反論する。
「じゃあ、なんや」
「力になりたいんです。俺は、彼のことを何も知らないし、してもらったこともない。支えたいというこの気持ちは、嘘じゃありません」
京助を真剣に見て、真実を口にする。
「そやのな。ほんでも、彼のことを教えらへん」
届かなかったと、視線をそらす。
「翔くんのことを信頼してわけへんけど、傷ついたら、あいつが悲しむ」
そっと肩を叩き、京助が答える。
「よく知らない相手なのに」
「ほんでもあいつは助けたいし、傷ついてほしくへん。ばか正直な人間や」
聞いたのとは、真逆だ。
「仕事のこととかで、手を貸してやり。それやったら、ワシも許す」
「はい、ありがとうございます」
「脅した相手に、礼なんかいらへん。ほな、店があるから、失礼するよ」
京助が背中を向けて、去っていく。
感謝を伝えるように、お辞儀した。
☆☆☆
時が経って、夏休み。
「山崎先生」
「九夜先生、何ですか」
「追いかけた理由をあいつから聞きましたよ」
京助がいってくれただろう。
避けてられても、ちゃんと話せばよかった。
「知らなかったとはいえ、避けてしまってすみません」
「いいんですよ」
「クルミいったんよ。カケルがめいわくから、やめたほうがいいって」
「一番乗り気だったくせに、何をいうんだよ」
来見の頬を引っ張る。
「よかったら、手伝ってくれませんか」
「いいんですか」
「山崎先生が迷惑にならない範囲で、手伝ってくれたら、ありがたいです」
「クルミもやるよ」
「じゃあ、お願いします。ここを……」
教える範囲が書かれたものを見せる。
この字って、まさか。
「どうかしましたか」
「何でもないです」
涙が溢れそうなる。
憧れあの人に逢えたからじゃない。
決して、違ったとしてもいい。
希望をくれたあの人のように、九夜先生に支えたい。
光になれるように、頑張っていきたい。
※ネタバレになりますので、本編を読んでない方は、読まないしてください。
これまで出て、キャラ紹介と道具の紹介していきます。
名前だけ登場したキャラについては、省いています。
次の章の入ったキャラに関しては、ここではなく、また作ります。
【キャラ紹介】
★メインキャラ
主人公
天宮美桜
中学1年生
性格:元気。前向きで明るい。困っている人をほっておけない。
一人称:私
髪型:茶色のボブ。
身長:140センチ。チビを気にしている。
祖母からもらった、髪飾りつきルビーを肌身離さず、持っている。普段は手首につけている。
好物:ピンク色の和菓子 (物語にて)
嫌い物:ピーマン
九夜火音
美桜のクラスの担任、退魔士。
担当科目:歴史
一人称:教師では私、通常では俺
年齢:20代
容姿:黒色の長髪、眼鏡。退魔士の時は適当に後ろ結び。
格好いいイケメン。
性格:教師ときは、礼儀正しく敬語を使う。優しい。
通常ときは、言葉遣いが荒い。意地っ張りで、正義感が強い。
二面性の顔を持っている。
好物:いちご全般で、特にいちご大福。
嫌い物:辛い物全般。
ユキメ
性別:女
火音の式神で相棒。
火音はユキと呼んでいる。
イメージ:白色の長髪。
身長は160センチ。年齢は大学生あたり。
雪をベースした白い和袖ワンピースと、緑色スカート、靴。
性格:主にはタメ語や名前で呼ぶ。2人時には甘える。
それ以外は礼儀正しく、様で呼び敬語。
趣味:読書。ちなみに言語は読書で覚えた。
主が呼ばなくても、自分の意思を持って勝手に出てくる。
名前:なつね
性別:女
種族:《ムゲン》で《セイム》。
一人称:わたし
姿:子猫
全身がピンク色。耳が薄ピンク色。
性格:臆病
懐いていない人には近付くことなく、場合によってはかみつくことがある。
異世界から、ある事情できてしまった存在。美桜に助けられて、やがて相棒となる。
三久理柊夜
美桜の友達。クラスメイト。
髪型:黒色のショートヘアー。長さは首もと上。
性格:まじめ。誰にも優しい(一部の人に、常に嫌っている。対抗心を燃やしたり、意地っ張りになる)。
お金持ちの家。
春見神社の天照皇大神祀るを管理している。
裏では退魔士の活動をしている。
常に光色の宝石のバングルを持っている。
ヒビキ(陽日希)
性別:男
姿:全体が白色。耳が灰色
年齢:20ぐらい
一人称:ボク
得意魔法:変身
柊夜の相棒。
柊夜のことは、シュウさまと呼んでいる。
敬語で礼儀正しく、お手伝いすることが大好き。退魔士以外の時は、人間に変身して執事として働いている。
焦っていると、可笑しな言葉になる。落ち着いて話せば、ちゃんと話せる。
★サブキャラ
杉永京助
一人称:ワシ
性格:世話焼き
特技:料理。和風の菓子が特に得意。
イメージ:茶色の短い髪。店だけではなく、普段でも和服を着ている。
火音とは幼馴染み。
京都弁を話し、和風喫茶店の店主している。
★敵
チユとラン
この2人は、『らんちゅう』という妖怪をモデルにした。
ラン(姉)
主語:ワタシ
妖術:海洋生物にアクムを変えて、使役する。
姿:尾びれと髪が赤色
妖魔の王の部下の1人。
たまに悪どい笑いかたをする。ふっふっふ。
チユ(妹)
主語:チユ
語尾:カナ
妖術:水で何かに変形させる。
姿:尾びれと髪がオレンジ色。
悪どい笑いかたをする。けっけっけ。
姉のことを慕っていて、すごく尊敬している。お姉さまと呼ぶ。
ちなみに、あまりしゃべれない。
ランからもらったホイッスルでアクムを呼ぶことができる。
★その他のキャラ
野原来見
一人称はクルミ
科目:英語
母親が外国人、父親が日本人。
英語が得意。英語以外は駄目。国語がすごく苦手。
翔とは幼馴染み関係で、カケルと呼ぶ。
性格:マイペースでお調子者。女には甘々である。
山崎翔
一人称は俺
科目:国語
クルミと反対で、英語がすごく苦手。留学して、ある程度はできるようになっている。
特技:字がきれい
趣味:演劇鑑賞
性格:面倒見がよく、人当たりのいい。
周囲の雰囲気にいち早く察知して、気配りできる。たまに勘が鋭い。
文句いいながらも、クルミに面倒を見たりする。
キャラクターを追加で紹介していきます。
叶花
沙耶の双子の姉。
左サイドテールで、シュシュが赤色。
得意は髪を丁寧すること。
美桜と同じクラスで友達。
美桜のことは、美桜ちゃん。
沙耶
叶花の双子の妹。
右サイドテール。シュシュが水色。
隣のクラスで美桜の友達
性格はツンデレ
得意は裁縫
姉のことはキョウと呼ぶ。
姉とはよく喧嘩する。不仲というわけではない。お互いにシュシュを誕生日にプレゼントするほど、仲良しである。
【道具について】
【フェアリィ・オーブ】
名前の妖精は、セイムのことである。妖精みたいなので。
形は丸い形、中には魔力が流れている。魔力がない人間でも魔法を使える。
魔法の使い方は、武器に付与して使う。いい夢と一緒に力を合わせると、威力が上がる。
魔法の属性は、宝石の色で決まる。例えば、赤色が炎。
翻訳器のリボン
人がリボンを持っているだけで、いい夢の異国語がわかる。柊夜が異国語を勉強するために、ある人に作ってもらった。
ある人の趣味で派手すぎて、つけられない。ちなみに、美桜もポケットにいれている。
木の実
これを食べると、日本語や人間が話した言葉が、自分の国の言語に変わる。
酸っぱい。
数が少ないため、限定したいい夢に渡されている。