母親に真剣な想いを伝えて、戦いに出るのを許してくれた。
 ユキメと出会い、決意を伝えると、九夜先生の元に案内してくれた。
 
 彼は、学校の門を開けようとしていた。
 
「先生、私も連れていってください」   
 
 立ち止まるように、声をかける。
  
「行かせられない。思い出すことを恐れて、ずっと逃げてきたのに。大した力もないのに」
 
 背を向けて、言葉を続ける。
 
「……お前を連れていったところで、何ができるんだ」
 
 門を叩き、怒りを露にする。 
 
 真剣な気持ちを感じて、身体が震える。
 
 『これは、おばあちゃんに教えてもらい、私たちが作ったもの。美桜のことを守ってくれるから』
 母親がもらった御守りが、勇気をくれる。
 
 『このゴムは、おばあちゃんが美桜にあげようとしたもの。この宝石は、代々から引き継いだのよ』
 祖母の髪止めと宝石に込められた想いが、背中を押してくれる。
 
「すごく恐かったよ。おばあちゃんのことを思い出して……悲しかったよ」
 
 もう逃げる道を選びたくない。
 彼に認めてもらうために、ここにきた。
 
「でも、思い出せてよかった。だって、おばあちゃんが、私に教えてくれた」
 
 そして、一歩進む。
 
 まだ戦う力も、経験も。
 目の前の人には、何一つ届いていない。
 
「一人じゃないって、光をくれた。私もおばあちゃんのように、困っている人がいたら、手を伸ばすよ」
 
 その背中に、少しでも届くように。
 一緒に戦えるほど、追いつけるように。
 
 全ての想いをぶつけて、手を伸ばす。 
 
 火音のポーチが光を出した。
 
 輝きを放った、美桜の手元に薙刀を現す。 
 
 桜の模様の白衣に、変わる。
 
 急に変わった姿に、美桜は混乱する。
 しかも、服装が乱れている。
 恥ずかしくて、背中を向けて、しゃがむ。
 
「……さっきの意気込みは、どうしたんだよ」  
 火音は美桜の姿を見て、笑っていた。
 
 そのことに、頬を膨らませる。

「ユキ、手伝ってやれ」
 
「火音、わかった」
 ユキメは頷き、美桜の元に向かう。
 
「大丈夫です。力を入れ過ぎているから、そうなってしまったんです。頭痛があった時も、同じですよ」
 
 美桜の肩に触れる。
 そこを通して、ユキメの力が体内に入っていく。
 
「安静にして、深呼吸をしてください」
 
 すると、元の姿に戻った。 
 
「ユキメさん、ありがとうございます」  
 それにほっとして、立ち上がる。
 
「天宮」
 
 火音に呼ばれて、彼の方を見る。
 
「戦うことを認めるよ」
 
「本当ですか!」
 嬉しくて、思わず身を乗り出す。

 火音は驚きながら、身体を捻って、かわす。
 
「……すみません」
 申し訳なさそうに、苦笑いする。
 
「危ねぇから、預かっておくな」
 嘆息をつきながら、ポーチに入れる。
 
「俺が迎え行くまで、夜出歩くな。もし、俺がいけない時は勝手に行動するな」
 
 何だか、腑に落ちない。
 子供扱いされているみたいだからかな。 
 
「返事は」
  
「はい!」
 
「なら、よし」
 学校に入るわけではなく、別のところに向かう。
 
「どこにいくんですか」
 
「天宮が参加することを上に報告しにいくんだよ。それに、装備が貧弱だから、そのまま入らせるわけには行かないしな」
 
「待って。私も行きますよ」
 彼のことを追いかけた。
 
   ☆☆☆
 
 美桜のことを守りたくて、必死になりすぎた。
 何も見えていなかった。
   
『なあ、火音。美桜ちゃんが前に進むやったら、ええ加減、覚悟を決めや。美桜ちゃん……火音のためにも』
 
 美桜を心配して、見に行った時に京助がそれに気がつき、火音を追いかけた。
 それに、耳を傾けようとしなかった。 
 
 いや、彼女のことを見ようとしなかった。
 
 もしかしたら、それを気がつかせるように、言ってくれたかもしれない。
 
 なのに、情けないな。
 
 本当に情けなくて、何も言えなかった。
 
 今度こそ、美桜が光を身失わないように。
 隣で守っていこう。
「もう、面倒くさい」
 
 沙耶は文句を垂れながら、棚の物を拾い上げる。
 
 部屋の掃除をしていた。
 夏休みだからといって、怠けていたら、母親に手伝いしなさいと叱れた。
 やらなかったら、小遣いをもらえなくなる。
 それで、生地を買いたかった。
 仕方なくだ。
 
 部屋が汚れていたので、掃除をすることにした。
 
 ちょうど、棚を整理している時に、手を滑らせた。
 色んな物が落ちて、床に散乱した。
 その中に開いたアルバムを、見つける。
 
 これは、美桜と初めて記念に撮った写真だった。
 
「懐かしいね」
 
 沙耶の脳裏(のうり)に、過去の記憶がよみがえる。
 
   ☆☆☆
 
 時は遡って、4月頃。 

「沙耶さんって、何か冷たくない」 
 
「うんうん。ずっとピリピリして話しにくいよね」
 
「だよね。この前なんか……」
 
 クラスの子の噂話を聞いて、ため息をつく。
 
 沙耶は人と話すのが、すごく苦手だった。
 どうしても、相手のことを警戒しすぎたり、冷たい態度を取ったりしてしまう。
 
 そのことによって、相手は傷ついたり、避けたりされた。
 
 その度に、駄目な人間だと思った。 
 
 そうなってしまった理由には、心当たりがある。
 
 小学生の時に、姉の叶花がクラスの子たちからいじめを受けていた。
 彼女は、普通の人よりも行動するのが鈍かった。
 それを見た人たちは面白がって、いじめの対象にした。
 
 沙耶は、それを守ろうと戦い続けた。
 姉が二度と被害にあわせないように、見張った。
 
 その結果、この態度は生まれてしまった。
 
 このままでは、駄目だ。
 中学生になったら、変わろうと決意する。  
 
 だけど、間違えを冒してしまった。
 
 人は簡単に変われないのかな。    
 
 もう一度、嘆息をつく。
 そして、廊下の途中で止まっていた、足を進める。
 
 次の授業は家庭科で、家庭室に移動する。
 
 別に嫌な気分ではない。
 むしろ、楽しみだ。
 その授業で、動物のぬいぐるみを作る。
 
 裁縫は大得意だ。
 それは、雑貨屋をしている母親の影響が大きい。
 物心がついた頃から、ビーズやアクセサリーなどに、触らせてくれた。
 それによって、好きになった。
 誰よりも素早く作れる自信がある。
 
 ちょうど、叶花を見かける。
 体操服とシューズの袋を持っている。
 これから体育館に向かうだろう。
 
 退屈だったので、話し相手がほしかった。
 
 叶花が茶色のボブの女の子と会話していたので、声をかけるのをやめる。   
 
 遠かったので、よく聴こえなかった。
 だが、2人ともすごく楽しそうな顔をしていた。
 
 こんなに明るかったのは、一度見たことがない。
 
 叶花のことが好きなので、取られて嫉妬(しっと)する。
 自分には出来ないことをやってのけるので、羨望(せんぼう)する。
 
 絶対あり得ない。
 猫を被ることで、裏の顔を気がつかれないようにしている。
 甘い蜜で誘き寄せ、隙を狙っているんだ。 
 
 化けの皮を剥がしてやる。
 意気込みを決意する。 
 
   ☆☆☆
 
 放課後。
 茶色のボブの女の子が、教室から動き出す。 
 
 やっとか。 
 先生も出ていくから、居残りでもされていただろう。
 へろへろみたいだし、好機だ。
 叶花のふりをして、話しかける。
 
「美桜ちゃん、お疲れさま」
 既に名前を調べ上げた。
 叶花の呼び方に合わせる。
 
「えっと……あなただれ?」
 
 もうばれてしまった。 
 変装は完璧のはずだ。
 
「美桜ちゃん、もう何を言ってるのよ。叶花だよ」
 
「ううん。叶花と話し方が違うよ。シュシュの色も違うし、左右逆だよ」
 
 痛恨のミスを冒してしまった。
 
 でも、これだけは手放せない。
 だって、誕生日に叶花と交換した。
 不恰好だけど、嬉しかった。
 
 髪を結ぶのが下手だったので、丁寧にまとめてくれた。
 叶花は父親の影響で、髪をセットするのが、得意だった。
 
「あなたって、叶花と双子なの?」
 
「そうよ。なんか、文句がある」
 
 計画が簡単に崩れて、冷静にいられなくなった。素直に答えてしまった。
 こんなはずではなかったのに。
 
「いいな」
 すごく嬉しそうな顔を向ける。
  
「……何がよ」
 それに怖じけついてしまう。
 
(何なのよ。こいつ)
 
「私、一人っ子で兄妹いないから」
 
「いると面倒よ。すぐにケンカになるし」
 
 この前なんか、彼女が残していたプリンとは知らず、食べてしまった。
 そのことで喧嘩になった。
 
「そうなの」
 
「そうよ」
 
「それでも羨ましいな」
 
「何でそうなるのよ」
 
「すごく楽しそうだなと思って。シュシュだって、大切にしているだもん」  
 
 そういってくれて、嬉しかった。
 これは、大切な宝物だから。
 
「あなたにもいるでしょ。そんな明るい性格なんだから。羨ましいなんて、おこがましいよ」
 
 平気で嘘をつける。
 
「私には……いないよ」
 暗い表情で笑う。
 
 今まで太陽のように眩しかったのに、それが嘘みたいだ。
 
 陽気だから、沢山の友達がいる。
 
 いや、それなら、誰かが迎えに来てくれるはずだ。
 
 誰もが同じというわけではない。
 
 その解釈から、既に間違えていたのだ。
 
 それに気がつかなかったから、みんな沙耶の元を離れていった。
 それで、友達が1人も増えなかった。
 
 この人もそうだ。
 もう傷つけたから、嫌いになるだろう。
 
「……ごめんなさい」
 せめて、謝罪する。
 
 今更、許してもらえないことはわかっている。
 傷つけた分を謝りたかった。
 
 目をあわせたくないので、逃げる。
 
「……待って」
 派手に転んだ音がした。
 沙耶は驚いて、振り向く。

「ちょっと、大丈夫?」
 急いで、美桜の元に駆け寄る。
 
「あはは」
 笑いながら、起き上がる。
 
 もしかして、頭を打って、壊れた。
 
「だって、謝ったのに。すぐに戻ってきたもん」
 
「そりゃ。あんなだけ派手に転んだら、誰だって気にするよ」
 
「……嬉しかったよ。心配してくれて、ありがとう」
 笑いを止めて、言う。
 
「別に」
 視線をそらす。
 
 頬が赤くなったのを見られなかった。
 
「転んだのって、これのせいかな。切ればよかった」
 
 スカートのほこりを払いのけ、見ていた。
 
 それは、解れた糸だった。
 恐らく、引っ掛かって転んだだろう。 
 
 それでも、転けるかな。
 ドジだな。
 
 それを切ろうとして、鞄の中を探る。
 
「切ったら、だめよ」
 思わず、手を握ってしまった。
  
「ごめん」
 
「いいよ。詳しいの?」
 
「……うん。得意だから」
 
「すごいね。私は全くできないよ。昨日、家庭科の宿題でクマを作ったんだけど、下手だったよ」
  
「ほら」
 スマホの画像を見せてくれる。
 
 テディベアの首が曲がっていた。
 面白くて、笑ってしまう。
  
「おかしいよね。叶花と笑っちゃった」
 
 そのことを話していたんだ。
 そういえば、叶花も真剣に作っていたな。
 
「直してあげるから、貸しなさい」 
 
「うん」
 
「ちょっと、ここで脱ごうとしないの」

「誰もいないから、大丈夫だよ。ズボンはいてるから」
 
「それでも躊躇しなさいよ。トイレに行くよ」
 
「……わかったから、引っ張らないでよ」
 
   ☆☆☆
 
 綺麗に直して、美桜に渡す。
 
「ありがとう。えっと……」
 
 頬の掻きながら、気まずそうにする。
 
「そういえば、あなたの名前を聞いていなかったね」
 
 今更か。
 沙耶もすっかり忘れていたから、人のことを言えない。
 
「沙耶よ」
 
「沙耶さんありがとう」 
 改めて言い直す。
 
「さんは……いらないよ」
 
「え?」
 
 小声だったから、聴こえなかっただろう。
 
「……もう友達だから、呼び捨てしていいよ」 
 もじもじしながら、答える。
 
 これまで、そんな機会がなかった。

「沙耶よろしくね。美桜って呼んで」
 
 目を輝かせて、沙耶の手を握る。
 喜びを表すように、振り回す。
 
「わかったから。ちょっとやめなさい。恥ずかしいから、放して」
 
「ごめん。つい嬉しくて」
 
「……いいよ」
 
 初めてできた友達だから、許してあげる。
 
 そう胸を張って言えるほど、自信がついてなかった。
 
  ☆☆☆
 
 眺めるのをやめて、アルバムを閉じる。
 それを棚に戻す。
 
 
 でも、君が悩んでいたら。
 落ち込んでいたら、元気にさせるよ。
 
「美桜」  
 彼女を呼んで、リボンのシュシュを渡す。
 

 いつの日か、言ってみせる。
 
 ーー 美桜は、私の大好きな友達よ。
 《春見中学校》の職員室。
 翔はデスクで、パソコンの作業していた。 
 眠たそうに、目を擦る。
 深夜まで、来見家でゲームをしたせいだ。
 
「山崎先生、お疲れさまです」 
 振り向くと、九夜火音だった。  
 
 歴史の担当していたあさひ先生が、体調を崩して入院した。代わりにやってきた。
 
「お、お疲れさまです」
 
 正直、この人が苦手である。
 
 色々と指導してほしいと、校長に頼まれた。  
 ここにきて、2年経つ。
 そろそろ部下をつけられても、仕方ない。
 先輩として、良いところを見せたいと思い、快く引き受けた。
 
 優秀な上に、社交的な人だった。
 皆に信頼されていき。
 知らないうちに、翔の手がいらなくなってしまった。
 
 何もできていないし、影で笑われてしまった。
 結果、彼のことが嫌いになった。
 
「どうかしました」
 面倒なので、敬遠する。
 
「お疲れだったので、コーヒーをあげようと思って」
 
 苦いから、要らない。
 甘い物が飲みたくて、来見にいちご牛乳を買ってきて、頼んだ。
 
 来見が作った、英語の小テストが簡単すぎた。手伝う代わりだから、文句はない。
 まあ、財布を忘れたから、自分の金だ。

「ありがとう……ございます」
 眠気ざましなるだろう。
 厚意を無駄にしたくなかったので、受け取る。
 デスクの端に置く。
 
「問2と3のスペルを間違えています。他は逆になっていますよ」 
 
「本当だ」
 細かいところを見てくれて、気が利く。
 彼に感謝して、直そうとする。
 
「そのまま作業すると、目の負担になりますよ。よかったら、これを使ってください」 
 眼鏡ケースを渡す。
 
「予備ならこれがありますから、大丈夫ですよ。それに、あまり使ってませんから」 
 眼鏡の縁を弱く触る。
 そこから素顔がちょっと見えた。
 
「ありがとう……ございます」 
 彼の言った通りだった。
 茶色の眼鏡は、あまり使われていないようだ。 
 わざわざ買ってきたわけではないよな。
 それなら使わないので、新品のはずだ。
 
 あれ、度が入っていない。
 あれも、同じなのか。
 なら、何でしているんだ。
 ますます、謎だ。

「カケル。いちごギュウニュかってきたよ」
 
 最悪な状況にするように、来見が登場してきた。
   
  
「何できたんだよ」
 問いつめて、小声で訊く。
  
「グッドナイスよ。カケル、コーヒーにがてでしょ」
 
 普通の声量なので、火音の耳に入った。
  
「これは、自分で処分しておきます」 
 冷凍庫のような、笑顔を返す。
 
「それは明日に返してくれたら、大丈夫ですよ。早めに帰ってください」  
 
 彼のお陰で早めに済んで、印刷するだけだ。
 変な事件が続いているので、ありがたい。
 
「それでは失礼します」
 
「さすがキュウヤセンセ。プリントしよ」
 
「そうだな。てか、お前がやれよ」
 
   ☆☆☆ 
 
「なあ、クルミ。九夜先生って、何で眼鏡してると思う」
 漫画を読む、来見に訊く。
 
 暇なので、自分の家に遊びにきている。
 彼の家が隣にあるから、帰ればいいのに。
 相談したかったから、別にいいや。
 
「カノジョいるから、おしゃれしてるだよ」
 こいつに訊いたのが、間違えだった。
 
「独り身だろ」
 
「カケルしらないの? キュウヤセンセモテモテよ」  
 
 メモ帳をズボンから取り出す。
 
「イケメンで、ミステリーなところがいいんだって」
 
「それを言うなら、ミステリアスな」
 
「けいさんでチカづけないっていわれてるよ。けいさんなら、クルミにもできるよ」
 
 人のことを言えないな。
 英語以外、小学生並みだろ。  
 
 確かに会話や行動は、計算されているみたいだ。
 どことなく、近づけない雰囲気があるよな。
 
「カケル、メガネみつめちゃって。ははん。キュウヤセンセきになるの。クルミにきいたのね」
 
「そそんなじゃない」
 無意識で、見てしまった。
 慌てて否定する。
 
 きっと考えすぎだ。 
 
「九夜先生に、これ返そうと思って」
 
 礼したいと思い、出かけた。
 
   ☆☆☆ 
 
 来見にくるなと、念押したのに。
 結局、いるな。
 電柱に隠れて、翔の様子を伺っている。 
 
 後ろを見ながら、嘆息をする。
 時間が無駄になるし、知らないふりだ。
 
 喜んでくれるだろうか。
 紙袋に入った、抹茶の饅頭(まんじゅう)だ。
 親戚が旅行にいった土産だ。好みじゃないから、台所の棚に仕舞った。
 今更、買えないから、賭けよう。
  
「ああ、サムライだ」
 初歩的な罠に、引っ掛かるか。
 
 袴姿の人が、本当にいた。  
 
 撮影場所に行こうとしているのか。
 
 何かに引っ掛かり、転ける。
 しっかり確認をしなかったせいか。 
 立ち上がれない。
 足に石が乗ったように重かった。

 いや、何かが巻き付いているんだ。
 ズボンに触れて、嫌な感覚を感じ取る。
 
「カケルまぬけだね」
 霊感がないから見えないけど、幽霊みたいのがいる。
 
「クルミこっちくるな!」
 それが離れる。
 恐らく、来見の方に向かったんだ。
 叫んだが、来見は感知ができず、こちらにくる。
 
 切りさく音が聴こえた。
 目の前には、先程の人が立っていた。
 急に睡魔に襲われる。
 瞳を閉じる瞬間、その人が振り向く。  
 それが九夜先生に見えたような。
 
   ☆☆☆
 
 覚醒すると、和室だった。
  
「クルミは」 
 
 隣で熟睡する来見に、一安心する。  
 
「目を覚ましたか」
 扉が開き、京都弁の男性が入ってくる。 
 
「あの、ここは」
 
「ワシの店や。君らが、道端倒れとるのを見かけて、運んできた」
 
「それって、袴の姿の人ですか」

「いいや。ワシや」
 
 暗かったし、見間違えたのか。
 
「……ありがとうございます。もう帰りますので」
 
「もう一人が起きるまで、ちびっと休んでいきや」
  
「じゃあ、お言葉に甘えて」
 
「おぶでも、持ってくるな」 
 出て行く前に、聞きたいことがある。
 
「はい。あの……」 
 
「京助や」
 
「俺は翔です。京助さんあれって、何だったんですか」
 
「あれというのは」
 
「幽霊みたいのですよ」
 
「おらへんよ。夢でも見たんやないか」
 冗談話だと思われて、笑われてしまった。
 
 ズボンを捲(めく)っても、あの痕がなかった。
 
 あれが夢なんかじゃない。
 嫌な感覚を鮮明に覚えている。
 
   ☆☆☆
 
 翌日、放課後。
 
 外に出る、火音の後を追う。  
 
 あれが夢ではないなら、見た人も彼だろう。
 来見も記憶がいないから、頼りならない。
 はぐらかすので、追いかけた。
 
 途中で見失う。
 周囲を見ると、和風の喫茶店に目につく。
 そう言えば、あそこはここだった。
 あの店主と火音は、知り合いじゃないのか。
 店に入室とすると、後ろから肩を叩かれる。
 
「翔くん」
 振り向くと、京助がいた。
 
 忍び寄ってきたようで、全くわからなかった。
 
「何のようや」
 
 穏やかな口調だけど、目が笑っていない。
 
「京助さんこんにちは。昨日のお礼を兼ねて、ご飯を食べにきました」
 何とか思いついた言い訳をする。
 
「そうかいな。ちょいこい」
 
 完全に終わった。
 
 一通りが少ない場所に、連れていかれる。
 
「あのな、火音を嗅ぎまわるやめや」 
 
「それは……」
 ごもっともだ。
 
「そもそもメリットあるやんか。火音の居場所をなくそうするなら、容赦へんで」
 
 確かに関係ない。
 どうしても気になってしまう。 
  
 深く考えると、あの人のことを思い出した。
 
 あの人とは、大学で一度出会っただけだ。
 顔も声も憶えていない。
 記憶にあるのは、あの言葉と。
 
『字がきれいだし、教え方がうまいな。国語教師になってみたら』
 
 問題の解き方を教えるために、書いたものだけだ。
 
 自信を持てなかった自分に、未来の選択肢をくれた。
 
 思い出を持っているだけで、あの人がどこかで見ているような気がした。
 
 その人のことを知れたのは、中学校に入社した初日。
 
 校長とは知らず、落とした地図を拾った。
 手書きの地図で、あの人と字だとすぐにわかった。
 遅刻するにも関わらず、案内したら、校長だった。
 
 そして、教師をやめたことを知ってしまった。
 トラブルに巻き込まれたらしい。
 曖昧なのは傷ついて、忘れた。
 いや、忘れたかったんだ。
 そこにいたとして、何もできない。
 忘却する方が楽だった。 
 
 その人と、火音は似ている。
 手綱を引いていないと、どこかにいってしまいそうだ。
 
 これは、似ているから、ほっておけないからではない。
 迷っているなら、力になってあげたい。
 あの時、できなかったことをしたいんだ。
 ようやくたどり着いた。
 
「違います。追いかけたのは、謝りますけど、やめさせたいとかじゃない」
 その男性に、反論する。
 
「じゃあ、なんや」
 
「力になりたいんです。俺は、彼のことを何も知らないし、してもらったこともない。支えたいというこの気持ちは、嘘じゃありません」
 京助を真剣に見て、真実を口にする。
 
「そやのな。ほんでも、彼のことを教えらへん」
 
 届かなかったと、視線をそらす。
 
「翔くんのことを信頼してわけへんけど、傷ついたら、あいつが悲しむ」
 そっと肩を叩き、京助が答える。
 
「よく知らない相手なのに」
 
「ほんでもあいつは助けたいし、傷ついてほしくへん。ばか正直な人間や」
 
 聞いたのとは、真逆だ。
 
「仕事のこととかで、手を貸してやり。それやったら、ワシも許す」

「はい、ありがとうございます」
 
「脅した相手に、礼なんかいらへん。ほな、店があるから、失礼するよ」
  
 京助が背中を向けて、去っていく。
 感謝を伝えるように、お辞儀した。
 
  ☆☆☆
 
 時が経って、夏休み。  
 
「山崎先生」
 
「九夜先生、何ですか」
 
「追いかけた理由をあいつから聞きましたよ」
 
 京助がいってくれただろう。
 避けてられても、ちゃんと話せばよかった。
  
「知らなかったとはいえ、避けてしまってすみません」  
 
「いいんですよ」
   
「クルミいったんよ。カケルがめいわくから、やめたほうがいいって」
 
「一番乗り気だったくせに、何をいうんだよ」
 来見の頬を引っ張る。
 
「よかったら、手伝ってくれませんか」
 
「いいんですか」
 
「山崎先生が迷惑にならない範囲で、手伝ってくれたら、ありがたいです」

「クルミもやるよ」
 
「じゃあ、お願いします。ここを……」 
 
 教える範囲が書かれたものを見せる。

 この字って、まさか。
 
「どうかしましたか」
 
「何でもないです」
 
 涙が溢れそうなる。
 
 憧れあの人に逢えたからじゃない。
 
 決して、違ったとしてもいい。
 
 希望をくれたあの人のように、九夜先生に支えたい。
 
 光になれるように、頑張っていきたい。
※ネタバレになりますので、本編を読んでない方は、読まないしてください。

これまで出て、キャラ紹介と道具の紹介していきます。

名前だけ登場したキャラについては、省いています。

次の章の入ったキャラに関しては、ここではなく、また作ります。


【キャラ紹介】

★メインキャラ
 主人公
 天宮美桜
 中学1年生
 性格:元気。前向きで明るい。困っている人をほっておけない。
 一人称:私
 髪型:茶色のボブ。
 身長:140センチ。チビを気にしている。
 祖母からもらった、髪飾りつきルビーを肌身離さず、持っている。普段は手首につけている。
 好物:ピンク色の和菓子 (物語にて)
 嫌い物:ピーマン
 

 九夜火音(くやかのん)
 美桜のクラスの担任、退魔士。
 担当科目:歴史 
 一人称:教師では私、通常では俺
 年齢:20代
 容姿:黒色の長髪、眼鏡。退魔士の時は適当に後ろ結び。
 格好いいイケメン。
 性格:教師ときは、礼儀正しく敬語を使う。優しい。
 通常ときは、言葉遣いが荒い。意地っ張りで、正義感が強い。
 二面性の顔を持っている。
 
 好物:いちご全般で、特にいちご大福。
 嫌い物:辛い物全般。
 

 ユキメ
 性別:女
 火音の式神で相棒。
 火音はユキと呼んでいる。
 イメージ:白色の長髪。
 身長は160センチ。年齢は大学生あたり。
 雪をベースした白い和袖ワンピースと、緑色スカート、靴。
 
 性格:主にはタメ語や名前で呼ぶ。2人時には甘える。
 それ以外は礼儀正しく、様で呼び敬語。
 
 趣味:読書。ちなみに言語は読書で覚えた。
 主が呼ばなくても、自分の意思を持って勝手に出てくる。
 

 名前:なつね
 性別:女
 種族:《ムゲン》で《セイム》。
 一人称:わたし
 姿:子猫
 全身がピンク色。耳が薄ピンク色。
 性格:臆病
 懐いていない人には近付くことなく、場合によってはかみつくことがある。
 異世界から、ある事情できてしまった存在。美桜に助けられて、やがて相棒となる。
 

 三久理柊夜(みくりしゅうや)
 美桜の友達。クラスメイト。
 髪型:黒色のショートヘアー。長さは首もと上。
 性格:まじめ。誰にも優しい(一部の人に、常に嫌っている。対抗心を燃やしたり、意地っ張りになる)。
 お金持ちの家。
 春見神社の天照皇大神(あまてらすおおかみ)祀るを管理している。
 裏では退魔士の活動をしている。
 常に光色の宝石のバングルを持っている。 
 

 ヒビキ(陽日希)
 性別:男
 姿:全体が白色。耳が灰色
 年齢:20ぐらい 
 一人称:ボク
 得意魔法:変身
 柊夜の相棒。
 柊夜のことは、シュウさまと呼んでいる。
 敬語で礼儀正しく、お手伝いすることが大好き。退魔士以外の時は、人間に変身して執事として働いている。
 焦っていると、可笑しな言葉になる。落ち着いて話せば、ちゃんと話せる。
 
 
 ★サブキャラ
 杉永京助
 一人称:ワシ 
 性格:世話焼き
 特技:料理。和風の菓子が特に得意。  
 イメージ:茶色の短い髪。店だけではなく、普段でも和服を着ている。
 火音とは幼馴染み。
 京都弁を話し、和風喫茶店の店主している。


★敵
 チユとラン
 この2人は、『らんちゅう』という妖怪をモデルにした。
 

 ラン(姉)
 主語:ワタシ
 妖術:海洋生物にアクムを変えて、使役する。 
 姿:尾びれと髪が赤色
 妖魔の王の部下の1人。
 たまに悪どい笑いかたをする。ふっふっふ。


 チユ(妹)
 主語:チユ
 語尾:カナ
 妖術:水で何かに変形させる。
 姿:尾びれと髪がオレンジ色。
 悪どい笑いかたをする。けっけっけ。 
 姉のことを慕っていて、すごく尊敬している。お姉さまと呼ぶ。
 ちなみに、あまりしゃべれない。
 ランからもらったホイッスルでアクムを呼ぶことができる。
  

 ★その他のキャラ
 野原来見(くるみ)
 一人称はクルミ
 科目:英語
 母親が外国人、父親が日本人。
 英語が得意。英語以外は駄目。国語がすごく苦手。
 翔とは幼馴染み関係で、カケルと呼ぶ。
 性格:マイペースでお調子者。女には甘々である。
 

 山崎(かける)
 一人称は俺
 科目:国語
 クルミと反対で、英語がすごく苦手。留学して、ある程度はできるようになっている。
 特技:字がきれい
 趣味:演劇鑑賞
 性格:面倒見がよく、人当たりのいい。
 周囲の雰囲気にいち早く察知して、気配りできる。たまに勘が鋭い。
 文句いいながらも、クルミに面倒を見たりする。


  キャラクターを追加で紹介していきます。

 叶花(きょうか)
 沙耶の双子の姉。
 左サイドテールで、シュシュが赤色。
 得意は髪を丁寧すること。
 美桜と同じクラスで友達。
 美桜のことは、美桜ちゃん。
 
 
 沙耶(さや)
 叶花の双子の妹。
 右サイドテール。シュシュが水色。
 隣のクラスで美桜の友達
 性格はツンデレ
 得意は裁縫
 姉のことはキョウと呼ぶ。
 姉とはよく喧嘩する。不仲というわけではない。お互いにシュシュを誕生日にプレゼントするほど、仲良しである。
 
 
 【道具について】

 【フェアリィ・オーブ】
 名前の妖精は、セイムのことである。妖精みたいなので。
 形は丸い形、中には魔力が流れている。魔力がない人間でも魔法を使える。
 魔法の使い方は、武器に付与して使う。いい夢と一緒に力を合わせると、威力が上がる。
 魔法の属性は、宝石の色で決まる。例えば、赤色が炎。
 

 翻訳器のリボン
 人がリボンを持っているだけで、いい夢の異国語がわかる。柊夜が異国語を勉強するために、ある人に作ってもらった。
 ある人の趣味で派手すぎて、つけられない。ちなみに、美桜もポケットにいれている。

 
 木の実
 これを食べると、日本語や人間が話した言葉が、自分の国の言語に変わる。
 酸っぱい。
 数が少ないため、限定したいい夢に渡されている。

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