水の中でも何処でももふもふ!! あたらしい世界はもふもふで溢れていました

 あ~あ、と思いながら、綺麗にしてもらう俺。だけど俺が思っていたよりも、それはけっこう早く終わったんだ。
 
 新しい世界では、綺麗にするのも魔法でちゃちゃっとやるらしい。こう汚れた部分をクリーンっていう魔法で綺麗にして、そのあとはお尻がかぶれないように、風魔法で完璧に乾かして。
 後は何かクリームのような物を、柔らかい布でお尻に塗ってもらって。これでお尻がかぶれにくくなるらしい。

 そんな説明を、女の子、確か名前はケニーシャだったっけ? 何とも言えない歌を歌い続けているケニーシャに。ケニーシャのお母さんである、綺麗な女の人のシェリアーナさんがしていた。ついでに、歌は今はいいのよ、とも。

 だが、歌い出したら止まらなくなったのか。俺が泣き止むまで、それからお尻が綺麗になるまで。話しを聞いて頷きながらも、歌を止めることはなかった。苦笑いをするシェリアーナさん。アレは絶対に話しを聞いているようで聞いていないな。

 と、そんなふうに、ささっとお尻を綺麗にしてくれたシェリアーナさん。不快感もなくなり、俺が泣き止んでくると。

『あたしのおうたで、なきやんだ!』

 うん、やっぱり話しは聞いていないな。

『えへへ、あたしおねえちゃん。おねえちゃんだもん、いっぱいおうたうたって、いいこして。いつでもあかちゃんが、わらっているようにしてあげるの!』

 …‥ありがとう、ケニーシャ。それを聞いたシェリアーナさんも、優しい顔をして、ケニーシャの頭を撫でた。

『ゴホンッ』

 その時、誰かの咳払いが。それから。

『ガハハハハハッ!! 今まで真剣な話しをしていたんだがな。赤ん坊のおしっこと、ケニーシャの歌で、部屋の空気が変わったな。それにしてもケニーシャの歌は相変わらずだな』

 ケニーシャの歌を何とも言えないと思っていたのは、俺だけじゃなかったようだ。まぁ、こればかりは、ケニーシャがもっと大きくなれば良くなるだろう。でも何回かケニーシャの歌を聞いているうちに、癖になってきたような?

『話しに戻って良いだろうか?』

『ねぇねぇ、パパ。あたしいっしょに、あかっちゃんとねてい? そしたらないたらすぐに、おうたうたってあげる。それからごはんもあたしがあげる!! だってあたしおねえちゃんだもん!!』

 その言葉にまた静かになる部屋の中。ケニーシャの中では、すでに俺はケニーシャの家族で、そしてお姉ちゃんになっているらしい。良いぞケリーシャ、どんどんアピールしてくれ。ケニーシャと家族になるよう、俺も頑張ってアピールするから。

 何でだろうな。ここまでケニーシャと、シェリアーナさんと家族になりたいと思うなんて。父親が誰かはまだ分からないけど。

『それは君がその家族と、とっても相性が良いってことだよ。こんなに相性が良いなんて、何で僕気づかなかったのかな? そうすれば最初からここに送っていたのに。やっぱり何か僕に起こっているみたいだ』

『……それはお前が、ドジなだけだろう』

『……それよりもアピールだよ。そうすれば君の新しい生活が、ここから始められるかも』

『お前に言われなくてもやるところだ』

 俺は腕を振って、それから足も振って、何とかアピールをする。今の俺に動かせるのはほんのちょっとだし、これもすぐに疲れてできなくなるはず。それでもやらないと。

 俺の動きを見てケニーシャが、俺に合わせて腕を振る。疲れて動かすのを止めると、その間だけケニーシャが1人でアピール。そして復活した俺は、今度はケニーシャの動きを真似して腕を動かしてみる。それを何回か繰り返して。

『あたし、おねえちゃん!!』

『うたー!!』

 今のは一応弟って言ったんだ。

『おうたいっぱい、いいこいいこいっぱい!!』

『おうぅ…、ふにょう!! にょお!!』

 今のは、お歌は別にして、お姉ちゃん頑張れ!! そしてありがとう、っていったんだ。

 そしてこれが最後のアピールになったんだけど、最後の何かよく分からない掛け声と、俺とケニーシャの腕の動きが見事にシンクロして、部屋の中は再び静まり返った。

『あ~、ブレンデン様、話の続きを…』

『もう良い』

『ブレンデン様?』

『今のを見たであろう。ここまで同じ動きと掛け声を聞いてしまったらな。皆の調べでこの人間の子供は帰る場所はなく、そして子供自身には何も問題がないと分かったのだ。ならばシェリアーナの言う通り、人間に、いいやエルフにこの子供を預けるくらいならば、私達で面倒を見ても良かろう。それにここまであっている2人を離すのは無理だろう』

『そうですが、本当によろしいのですか?』

『きっとこれも運命。この子供はキュリス達、いやケニーシャと家族になる運命だったのだろう。幸い我々は魔力に関しても制御できる。キュリス、シェリアーナ』

『はっ!!』

『はい』

『この子供はお前達の子供として育てよ』

『はっ!!』

『喜んで』

『ケニーシャ』

『は~い!』

『弟ができて良かったな。弟を頼むぞ』

『は~い。⚪︎△◻︎*⭐︎~』

 またあの歌を歌い始めるケニーシャ。良かった、俺はここで、ケニーシャとシェリアーナさんと家族になれた。そして。

『これからよろしくな』

 俺達の方へ歩いてきた男の人。最初の頃に見た人だったが、この人の名はキュリスさんで、この人がおそらくシェリアーナの旦那さんで、ケニーシャのお父さんなんだ。そしてこれからの俺の父親でもあって。

 色々あったが、こうして俺は何とか、新しい家族を見つけることができたのだった。最初の最悪な家族と正反対な家族。俺の新しいとても大切な家族。

 俺がここで暮らすと決まって、話し合いは終了し、解散となった。集まっていた面々が俺に挨拶をしてくれながら外へ出て行く。そして最後に俺達家族が。

『色々用意しないと』

『ドタバダしていたから、まだ全然用意できていないわ』

『帰り際、色々買って帰ろう』

 そう話しながら、どんどん進んでいく俺の家族。と、あるドアを抜けると、急に明るいような、ふわふわしているような感じがして。歩いている最中、ほとんどケニーシャとスキンシップをとっていた俺。やっと上を見るとそこには……。

 あたり一面を、水が覆っている光景が目に入ってきたのだった。
 え? 水?

『ばぶ?』

 今のは、水? って言ったんだよ。思わず声に出たんだ。そりゃ声も出るだろう。周りが水だらけなんだから。何て言うのかな? 水のドームの中にいるみたいなんだ。まさか今いる場所は水の中? いやいやまさかね。

『おい、バカ神』

『だからバカじゃないって…。そうだよ、ここは海の中だよ。僕言ったでしょう。海に生きる者達だって。彼らはね海に中で暮らしているんだよ。今君が居る場所は、海の中の彼らの国。そしてこれから暮らす、君の国だ』

『海の国』

 まさかのまさかだった。まさか海の中にこんな場所があるなんて。動かせるだけ目を動かして周りを確認する。水ドームに気を取られていた俺。俺達がいた場所は高い場所だったのか、街の様子がよく見えた。

 バカ神は海の中だと言ったけど、そこには小説で読むような、ヨーロッパ風の建物が並んでいて、色は白や薄い青色が多く、人々もそうだったが、建物もとても綺麗だった。

 そして海の中なのに、泳いでいる人々は全くおらず、普通に歩いている人達ばかりで。まぁ、このドームの中にいるんだから当たり前なんだが、海の中なら、ここは異世界だ。空中を泳ぐ魚がいたって良いと思うんだけど。

 カバンを持って歩いている人達、俺の知らない生き物に乗って移動している人達、井戸端会議のように集まって、笑いながら話しをしている人達。道や広場のような所では、子供達が集まって遊んでいた。
 
 不思議なことはそれだけではない。海の中なのに木も花も草も生えていて、緑で溢れていたんだ。花壇も綺麗に整えられていて、本当に素晴らしい景色だった。……まぁ、なんとも言えない花や草も生えていたけど。
 これについては後でちょっと調べるか。まぁ、赤ん坊の俺には無理だろうから、誰かが教えてくれるかもしれないし。

 と、今はそれは置いておいて。これが海の中? 本当に? バカ神が俺にイタズラで、そう言っているだけだとか?

『失礼だな、そんなことしないよ。あっ、そろそろ本当に話せなくなりそう。いい、ちゃんと教会に来てね。あと、ここの生活は君の今までの生活と基本は同じだから。食べ物も気にしなくて良いし、トイレとかも魔法が関係してるけど、あんまり変わらないよ。最初は綺麗にしてもらうから関係ないけどね。まぁ、とりあえずこの国を楽しんでみて』

『はぁ、分かった。とりあえずやってみるさ。お前は次に会う時までに、お前の異変をちゃんと調べておけよ。良いな』

『もちろん。じゃあ少しの間さよなら。ま、上手くいくと1歳で、遅くて2歳で、また話しができると思うよ。じゃあね』

 フッと、バカ神の感覚が消えた気がした。

『ばぶぅ、しゃあ』

 今のは、ちゃんと調べるんだろうな、って言ったんだ。だけど俺の新しい家族は、俺が喜んでいると思ったらしい。

『はは、色々な物が見えて楽しいだろう』

『これからあなたは、ここで生活するのよ』

『あたしはおねえちゃん!!』

 うん、それは分かってるよ。

『さて、何を買って帰るか。ご飯は赤ん坊用のミルクで良いとして、他にはベッドに毛布だろう。タオルももう少し柔らかい物を用意した方が良いだろう』

『他には洋服も必要ね。可愛い洋服をたくさん用意しましょう。そうだわ! 毛布で思い出したけれど、あの子を買って行かない? あの子なら一緒にいると暖かいし、きっとこの子といい家族になれるわ』

『あの子?』

『ケニーシャも、私達も一緒のあの子よ』

『ああ、あの子か。確かにあの子がいれば、この子は楽しいだろう』

 あの子? 誰のことだ? みんな一緒って言ってたけど。

『ねぇねぇ、パパ、ママ』

『何だケニーシャ?』

『あたしおねえちゃん。ケニーシャ。おとうと、おなまえなに?』

 キュリスさん改お父さんと。シェリアーナさん改お母さんの動きが止まった。ついでに俺の動きも。そうだった。俺は生まれたばかりの赤ちゃん。最悪な家族には名前など付けてもらえるわけもなく、今の俺は名前がない状態だったよ。

『…‥そうだったな』

『……そうだったわね』

『……ばぶぅ』

 そうだったよ、と言った俺。ここからは買い物に行く前に、俺の名前を決めることに。

 そして考えること数十分。何個候補が上がったけど、なかなか名前は決まらずに、途中でケニーシャがまた何とも言えない。でもなんか聞きたくなる歌を歌い始め。それからまた少しして、ようやく俺の名前が決定した。

 グレンヴィル。これが新しい世界での俺の名前だ。とっても素敵な名前だと思う。グレンヴィル。ふふふ、なんか良いな。

『……ふぅ、何とか決まったな』

『……ええ、決まったわね』

『……うぇ、ばぶぅ』
 
 今のは、……うん、何とか決まった、って言ったんだ。

『さぁ、買い物に行こうか。はぁ、なんか疲れたな』

『何を言っているのよ。これからこの子のために、グレンヴィルのために、頑張らないと』

『分かってるって。でも私は考えるのはどうも苦手だ』

『国を管理している人が何ですか! ほら行くわよ。さぁ、ケニーシャも、もうお歌はやめて、しっかりママ達についてきて』

 なんか今の、地球での夫婦とのやりとりと変わらないような?

 こうしてやっと動き出した俺達。綺麗な木のトンネルの道を進んで行けば、だんだんと人通りが多くなってきて。本当にこの国の人達は、大きくて綺麗な人たちばかりだなぁ、と思っていると。今度はだんだんと建物が増えてきた。

『先ずは寝具類を買って、その後は洋服にするか。それとも洋服が先か』

『先に洋服にしましょう。私楽しみだったのよ。洋服を選んで、ミルクを買いに行って、そのあと寝具ね。そして最後はあの子を見に行きましょう』

 また出てきたあの子。一体本当に誰なんだろう? 

『あたしのルーちゃんのおともだち?』

『ええ、最初はあまり遊べないかもしれないけど、慣れればきっと良いお友達になれるわよ。それとお友達じゃなくて家族よ』

『みんなかぞく!! ふへへ、うれしいねぇ』

 だから誰? そしてルーちゃんって?
 それから少し歩けば、建物がずらっと並ぶ場所へ到着。まぁ、人も大きいと思っていたけど、建物も大きいのなんの。この世界の人、まぁ、種族にもよるだろうけど。みんなこんなに大きいのか? それに合わせて建物も?

『違うよ。それは君が赤ちゃんだからそう見えるだけ』

 と、話しができなくなったはずの、バカ神が話しかけてきた。

『おい、もう話せないんじゃなかったのか?』

『ああ、まだ大丈夫だったみたい。でもこれで本当に最後。周りが大きく見えるのは、君がまだ生まれたての赤ん坊だから。大きくなれば普通になるよ。まぁ、君が考えた通り、種族によってはあってるけどね。大きな種族もいるけど、そこの海に生きる者達は、地球と同じくらいだよ』

『そうなのか』

『あ、それと、君が楽しみにしていた、もふもふだっけ? もうすぐ会えそうだよ。じゃ、そういことで、今度こそまたね』

 そう言って途切れる会話。もふもふ? もうすぐ会える? それを聞いた俺のテンションは爆上がりだ。手を動かし足を動かして、喜びを表現する。……あんまり動いてないけど。

『あら? 急に動き出したわね。いっぱい人の居る所へ来たからビックリしたのかしら。表情も何かおかしいし』

『そうだな。まずはとりあえず様子が分かるように、この辺を一周してみるか?』

『パパ、ママ、グレンヴィルわらってるよ?』

『え? 笑ってる?』

『確かに目を細めているけど、口元がね。言われてみれば笑ってる? いえ、ニタッとしている?』

『でも、よろこんでわらってる。ねぇ』

 ケニーシャの言葉に、俺は手を動かして反応する。

『ケニーシャは他の赤ん坊のことも、大人がわからない表情でも、よく分かるからな』

『ケニーシャがそう言うのなら、そうなのかしら』

『じゃあ、笑っているのなら、このまま買い物をするか』

 ケニーシャのおかげで、俺が喜んでいるのが伝わって、そのまま買い物続行となった。お姉ちゃんありがとう。でも俺の喜んでいる表情を見て、変な顔をしているって。俺は普通に喜んでいただけなんだけどな。

 それにしても……。買い物があんなに疲れるとは、この時の俺は思ってもいなかった。まさか最初の買い物でほとんどの体力を使い果たすとは。

 最初の買い物は話していた通り、俺の洋服から買うことに。入ったお店は子供服ばかりが売っているらしく、可愛い洋服がたくさん並んでいて。内装も子供向けに作られていた。
 売られている子供服は、父さん達が着ているような、少しキラキラ光る、ヒラヒラな洋服がほとんどだったけど、ちょっとずつちゃんと違いが出ていて、刺繍も施されているから、見ていて結構楽しかった。

 そう楽しいまでは良かったんだ。その後母さんがお店の人に、何着か俺に合う服を選んでもらったんだけど。その枚数が。
 最初はサイズを確認するために着せられて、着せられるのはそれで済んだんだけど、その後何枚、寝ている俺の上に洋服が置かれていったか。

 寝ている状態で、洋服を合わせているだけだから。ただただ、されるがままになっていた俺。しかしいくら動きにくいとは言っても、ずっとじっとしていられるわけもなく。手を足を動かせば、もう少しだからじっとしていてと。

 まさか動かないことで、我慢することで体力を使うとは。最後は洋服を選んでもらっていて申し訳なかっかけど。必殺攻撃『泣く』で、洋服選びを終わらせてもらった。
 ついでに父さんの追攻撃、『もうそろそろ良いんじゃないか?』も、母さん達に効いて。その日は6着ほど洋服を買ってもらった。

『赤ちゃんは成長が早いからな。こんなに小さい服は今のうちだけだな』

『もう少し経ったら、また買いに来ましょうね』

 ……その時はもう少し我慢できるように頑張ろう。

 次は俺の食事、ミルクを買いに。まさか子供用の食事を売っている、専門店があるとは。赤ちゃん用のミルクだけでも10種類も売っていた。

 俺はその中から、俺が1番気に入った物を選んでもらうことに。お店の人や父さん達の話から、ミルクの成分にそんな変わりはないけど、それぞれ味が違うらしく。赤ちゃんが喜んで飲むミルクを選ぶって感じらしい。

 スプーンにちょっとずつミルクを付けて、それを俺が舐める。その繰り返しで全部舐めてみて、俺はイチゴ味を選んだ。それとバナナ味を。まさかこの世界に同じような味があるなんて。バカ神はほとんど同じて言っていたけど、これなら本当に気にしなくて大丈夫そうだ。

 2種類のミルクを買ってもらい、それと母さんが普通のミルクを選んで、ちょっと元気が復活した俺。次は俺の寝具を買いに。
 そこでは父さん達の洋服と同じように、綺麗な布で作られている布団と、しっかりとした地球と同じようなお赤ちゃん用の柵付きベビーベッドが売られていた。

 ベッドは1つあれば、長く使えるってことで、少し大きめのベッドを買ってもらうことに。おまけって事で、枕は俺の頭の高さに合わせたピッタリの物を、その場で作ってもらった。
 買ったベッドに枕を置いて、お試し寝をした時の、布団と枕の気持ちいい事。この世にこんなに気持ちの良い物があるなんて。これが地球にもあったなら、俺は不眠にはならなかっただろうなと、本当にそう思えるほどの気持ち良さだった。

 が、これはお試し。すぐに抱き上げられ、買い物は終了に。早くゆっくりこのベッドを味わいたい。

『さて、今日買うとりあえずの物は、これで終わりだな』

『そうね』

『じゃあこれもしまってと』

 父さんが何か唱えると白い丸が現れ、その中に今買った寝具類を入れる。そうすると寝具類はシュッと白い丸に消えていき。

 最初、俺の洋服をしまっているのをみて驚いていたら、姉さんが気づいてくれて、あれは魔法だって教えてくれた。父さんや母さん、大きな人が使っているって。空間魔法みたいなものなのか。
 この魔法が使えれば俺も成長した時、どんな事をしているかは分からないけど、かなり楽になりそうだ。

『さぁ、じゃあ、あそこへ向かうか』

『ええ。あの子の所へ行きましょう』

『ルーちゃんのかぞく!』

 きた!! 俺が1番気になっていたあの子。一体どんな子なんだろう
 どんどん進んでいく俺たち家族。そううち建物ばかりの場所を通り過ぎて、少なくなってきた建物の場所も通り過ぎ、ついにはぽつんぽつんと、建物が建っている所まで来てしまった。人もそんなに歩いていない。

『ばぶぅ?』

 何処に行くんだ? 思わず声を出せば、良い子に出会えると良いわね、と母さんが。そして姉さんは父さんの手を引っ張り、早く新しい子に会いたいと。だけど父さんは、まだ今日決まるわけじゃない。もしかしたらもっと後になるかもしれない。

 なんて、そんな会話をして。でも母さん達のさっきの話だと、ちょうど良いから連れて行く? みたいなことを言っていなかったけか? それと父さんの話しを合わせれば。上手くいけば今日連れて行けるって事だったのか?

 本当にこれから誰に会いに行くのか。まさか…。この世界は小説の世界と似ているからな。奴隷……、なんてことはないよな? 俺、別は奴隷は。

 そんなことを考えながら、ついた場所は農場のような場所だった。

『おや、いらっしゃいませ、キュリス様、シェリアーナ様。ケニーシャも久しぶりだね』

『この前の調査以来だな』

『ええ』

『その後、あの子達の様子は?』

『みんなかなり元気になりましたよ。この調子なら、あと少しで自然に帰せるでしょう』

『そうか、それは良かった』

『それで今日はそのことで? それとその赤ちゃんは? 皆が話していた人の子ですか?』

『ああ。うちの家族になることに決まってね。それでモコモコを買いに来たんだ』

『そうだったのですね!! お名前は』

『グレンヴィルだ』

『そうですか。グレンヴィル、良かったですね。とても素敵な家族と出会えて』

『それでこの子と一緒にいてくれる、モコモコを見に来たのだけれど』

『ではこちらへ。新しくこの前生まれた子達もいるんですよ』

 お店の人について、一緒にお店を出る俺達家族。今、父さん達モコモコって言ってたよな。モコモコ? なら奴隷じゃないよな? まさか奴隷のことをモコモコとは言わないはず。言わないよな?

 もしそのまま、地球と同じ言葉として考えると。モコモコは言葉通りモコモコして何かで、そのモコモコが姉さんのルーちゃん? そう言えばバカ神は、もうすぐもふもふに会えるって。モコモコ、もふもふ……。え? もしかしてこの世界で初めてのもふもふに会える!?

 思わず動こうとする俺。それでも動かせたのは、相変わらず手と足だけだったけど。それでも俺が今までで1番動いたからか、母さんを少し不安のさせてしまったらしい。
 俺が何かを嫌がっていると、もしかしたら怖がっているのかもと。それで今日はモコモコを見るのをやめた方が良いかしら、なんて言われてしまい。

 でもその間違いを教えてくれたのが姉さんだった。俺が喜んで暴れているって、母さん達に教えてくれたんだ。こうして姉さんのおかげで、俺は何かが嬉しくて鼻息が荒いだけ、と話しがまとまり。なんとかモコモコを見ないで帰る、ということを回避できた。

『何匹くらい生まれたんだ?』

『15匹です。いつも通り年齢で分けてありますから、それぞれ見てもらって。合う子がいればその子を。ダメな時は次回ですね』

『大体は2~3回目で決まるからな』

 そうして移動した場所は。牛舎のような場所だった。そこには牛舎のような物が8個並んでいて、俺達が会いに来たモコモコは1番手前の牛舎にいた。

『さぁ、お入りください。手前から奥へ年上順に並んでいます。1番奥が、生まれたばかりの子達です』

 お店の人にドアを開けてもらい中へ入る俺達。すぐになんとか周りを確認しようとする俺。でも見えたものは丸いモコモコした、ボールのような物だけだった。何処にそのモコモコがいるのか。

 父さん達は柵ごとに止まり中を確認する。でも俺が見える範囲では動いている生き物は全く見えず、何処かに隠れていて、自由に動ける父さん達にしか見えていないのか。そのせいで俺は、何度も見せてくれるアピールをすることに。

 だけど今回は、俺の意思を分かってくれる姉さんはモコモコの夢中らしく、俺のアピールに気づいてくれず。しかも父さんや母さんまで、可愛いなぁ、あの子は凄く良いわね、などなど喜んでモコモコを見ていて。俺はずっとアピールをすることになってしまった。

 そうして俺の体力が尽きようとした時、俺達は建物の1番奥へと到着した。え? もう終わり? 俺まだ何も見てないんだけど。父さん達が喜んで終わり? 俺のモコモコを見に来たんじゃないの?

 俺は最後の力を振り絞ってアピールをする。と、今まで騒いでいた父さん達がピタッと止まり、話しもやめた。俺は不思議に思い手を動かしながらも母さん達を見た。
 すると父さんは驚いた顔を、母さんはニコニコしていて。姉さんは柵につかまりジャンプしていた。とってもキラキラな目をして。

『これは……』

『あらあら、まぁまぁ』

『パパ、ママ、あのモコモコがかぞく!?』

『今、柵を開けますね』

『ケニーシャ、少し下がっていなさい。グレンヴィルのモコモコだからな。先ずは2人が対面しないと』

 父さんが姉さんを柵から離して、母さんはお店の人に柵を開けてもらうと、そっと柵の中へ。そしてこれまたそっとしゃがみ、首が座っていない俺を、うまい具合に抱き直して、今までよりも周りが見えやすいようにしてくれた。

 そして見えた物。それはやっぱりモコモコのボールだった。奥にもモコモコボールが。そう、他の場所見ていた、モコモコボールしかなかった。

 違うところと言えば、最初に見たモコモコボールよりも小さいってことくらいか。あとは他のモコモコボールは色々な色をしていたが、奥に来るに連れて色は薄くなり、この1番奥のモコモコボールは、真っ白のモコモコボールしかないってことくらいで。

 モコモコどこだ? 俺は手を動かしながら、何処にモコモコがいるのかアピールしようとした。と、その時だった。俺はそれを見て、動かそうとしていた手を動かすのをやめたんだ。
 え? モコモコボールが動いた? 柵の中、1番俺と母さんから離れた、端っこに置いてあったモコモコボール。そのモコモコボールがピクリと動いた後、俺と母さんの方へ向かって動いてきたんだ。

 こう転がる感じじゃなくて、そのまま移動してきたって感じだ。モコモコでもこれだけボールみたいなら、コロコロ転がりそうなものだけど、地面をスススッ、スススッて移動してきて。そして俺達の前でピタッと止まった。

『やっぱり動いたのは見間違いじゃなかったわね』

「ばぶ?」

 何が? そう言う俺に、母さんは俺が何て言ったか分からないだろうけど、俺にそのまま静かにしていられるかしら。すぐに終わるはずなんだけどと。俺に分からないことを言ってきて。でも母さんの言う通り、俺はそのまま静かにしていることに。

 が、ここで静かだった建物の中に、姉さんのヘンテコな歌が。姉さんのテンションが上がってしまったらしい。慌てている父さんの声が聞こえて。父さんと姉さんは建物の外で待っているって。その言葉を聞いた後、すぐの歩いていく音が。
 
 こうして父さん達がいなくなれば。再び建物の中は、しんっと静まり返った。

『こんにちわ、私の名前はシェリアーナ。この子の名前はグレンヴィルっていうの。今日は新しい家族に会いにきたのよ』

 母さんがモコモコボールに向かって話し始めた。

『実はこの子も、新しい家族になったばかりなの。もしあなたが私達の、グレンヴィルの家族になってくれたら、私達はとっても嬉しいわ』

 母さんはそこまで話すと。また話すのをやめて、静かにモコモコボールを見つめる。俺もモコモコボールを見つけて。もしかしてこのモコモコボールは、本当の何かの生き物?

 と、モコモコボールがまた動き始めて、今度は俺のすぐ側まで移動してきてピタッと止まった。そしてふよふよと動いて。それはまるで、犬や猫、動物が匂いを嗅いでいるような動きで。

 その動きが止まると、また少しの間動かなくなったモコモコボール。次の動きを待つ俺。そうして次の動きは。
 モコモコボールが、俺に触れるか触れないかくらいまで近づいてきて、その後モコモコボールからヒョコッと。本当に小さい突起が出たと思ったら、モコモコボールがその突起を、俺の手にくっつけてきた。

 こ、この感触は!? 周りはモコモコ、でも俺の手に触れている部分は、ひんやりしていて、そしてすべすべしている感じも。これは俺が小さい頃に飼っていた、犬の肉球とそっくりだ!! もしかしてこれはこのモコモコボールの手なのか?

 肉球の感覚に感動する俺。そして次の瞬間、モコモコボールから。

『ぷぴっ!!』

 可愛い鳴き声が聞こえたんだ。やっぱりそうなんだ!! このモコモコボールが、モコモコっていう生き物なんだ!! なんて可愛い声なんだ!! それに前足? を出しているこの姿。目は? 目はどこに?

『ばぁぶ!!』

『ぷぴぃ!!』

『とりあえず、第1段階は大丈夫そうですね。まさか最初から寄ってくるとは』

『ええ、寄ってくるだけでも2、3日かかるのが普通だものね。上手くいけば半日くらいかしら』

『もう少し様子を見てみましょう。こちらへ』

 お店の人が俺の前にいるモコモコを抱き上げようとする。するとモコモコがジャンプして俺のお腹の所へ。一瞬おっとっと、と落ちそうになったけど、なんとか踏ん張って、その後前足? をあげてぷぴっ!! と鳴いた。

 な、なんて可愛いんだ!! 

『あらあら、これはもう大丈夫そうな感じね。でも一応は確認しないと』

『いやぁ、長くこの仕事をしてますが、ここまで最初から懐くとは』

 モコモコが俺のお腹に乗ったから、母さんはモコモコも落とさないように、そっとそのまま立ち上がって。入り口近くに置いてあってテーブルの方へと向かった。そして椅子に座ると、モコモコがテーブルに飛び乗って、また手をあげてぷぴっ!!と鳴いた。

『グレンヴィル、この子はモコモコという、海に住んでいる生き物なのよ。海の中をスイスイ泳いだり、陸の上をちょこちょこ移動するの。ボールに見えるけれど、あなたと一緒で手も足もお目々もちゃんとあるのよ。ふふ。説明しても難しいわね』

『目や足を見やすいようにしましょう』

 そうお店の人が言うと、モコモコの上の方のモコモコした毛をまとめて、可愛いリボンでまとめた。そうすると、俺が考えていた通り、まん丸の可愛いつぶらな瞳が現れて。

 それからお店の人はモコモコを抱き上げると、下の方の毛を動かして。そこには小さな小さな手と足が。とっても小さな手足で、犬や猫と変わらなかった。俺を触ったのは。やっぱり前足だったよ。

 そして後ろを向かせたお店の人。たぶんこのまま、基本的な生き物と同じなら、もちろん後ろはお尻で、しっぽがあるはずだけど。お店の人が毛をどかして。そこに見えたのは。
 しっぽはしっぽだったんだけど、魚のしっぽみたいな物がついていたんだ。しかもそれにモコモコが付いている感じ。

 俺はそのモコモコしっぽも、可愛いって思ったけど。さっき母さんは、海の中をスイスイ泳いだり、陸の上をちょこちょこ歩いたりって言っていたよね。
 陸はまぁ分かるけど、こんな体がモコモコで、しっぽもモコモコ。これで海をスイスイ泳げるのかと、ちょっと疑問に思った。スイスイじゃなくて、溺れているんじゃ? こんな可愛い生き物が溺れていたら大変だ。

『モコモコは、このしっぽを使って、とっても上手に泳ぐのよ。みんなモコモコで可愛いでしょう?』

 本当に? モコモコが可愛いのは、俺もそう思うけど。でも泳ぐっていうのがどうも。まぁ、もし俺が見て泳ぐのがダメだと思ったら、絶対に泳がせないけどね。

『さて、少しこのまま、2人の自由に』

『ええ』

『こちらを』

 お店の人がテーブルにタオルケットのような物を引いてくれて、そこへ俺を寝かせる母さん。テーブルの上には俺とモコモコが。ああ、自由に動けたら、すぐにでも抱きしめるのに!!
 テーブルに寝かされた俺。モコモコは最初、俺と初めて接触した時みたいに、クンクン俺の匂いを嗅いだ後、再びその可愛い手を、俺の手の上に乗せてくれた。あ~、そうそう、この感覚。肉球って気持ちいいんだよなぁ。

 なんて思っていると、今度は俺の顔のところまでモコモコが歩いてきてくれて。モコモコの毛でよく見えないけれど、じっとしっかり見ていたら、小さな手足で母さんが言った通り、ちょこちょこ歩いているのが見えた。
 あの小さい足でちょこちょこ。これが可愛くないわけがない。俺の顔は俺がそうしなくても、勝手にニンマリしてしまい。

 そしてちょこちょこ歩いてきてくれた後は、逆を向いて、あのモコモコしっぽでを振ってくれた。母さんによると、しっぽを振るのはモコモコ達の挨拶らしい。モコモコ本人達はもちろん、種族が違っても、気に入った相手にならしてくれる挨拶だと。
 
 他にも挨拶の仕方はあるらしいが、今回はこの挨拶だったみたいだ。と、挨拶の種類は良いとして。挨拶をしてくれたという事は、このモコモコは俺を認めてくれたのか? 
 それならどんなに嬉しいか。本当は挨拶を返したいけど、でも今の俺にはできないからな。とりあえず分からなくても、言葉で伝えてみるか。

「ばう!! ににょ!!」

 今のは、初めまして、こんにちは、って言ったんだ。するとモコモコは今までよりももっと、小さいしっぽをピコピコ振ってくれて。ああ、本当になんで俺は赤ん坊なんだ。今すぐ抱きしめたいのに!!

 しばらくしっぽを振ってくれていたモコモコ。しっぽを振り終えると、今度は俺の顔にスリスリしてくれて。そのまま、たぶん伏せ? をしたと思うんだけど、伏せをして、俺に寄り添ってくれた。

『これは……、様子を見ると言いましたが、問題なさそうですね』

『ええ、そうね。2人が最初からこんなに、仲良さそうにしているのは嬉しいのだけど。普通こんなに最初から懐くかしらね』

『私も見たことがありません。ですが、こればかりは。モコモコと家族になれるのは、本当に運命みたいなものですから。今回はよほど2人の相性が良かったのでしょう』

 うんうん、俺達は相性バッチリだよな!! 父さんや母さんの話だと、家族になれるみたいだけど。このままこのモコモコを連れて帰れるのかな? それとも何かやらないといけないことがあるのか。俺としてはそのまま、一緒に帰りたいんだけど。
 それにまだ俺も、父さん達の家が、どんな家か分からないし。俺が家に慣れてから、っていうのもあるかもしれないしなぁ。う~ん。

 そんなことを考えながら、寄り添ってくれたモコモコに、なんとか手を伸ばして、頭を撫でようとする俺。でも上手くそれができなくて、気づいた母さんが俺の手を取ってくれて、一緒にそっとモコモコを撫でさせてくれた。

 うおぉぉぉ!! なんだこのモコモコ感!! いや、もふもふ感か? 寝具でもかなり感動したけれど、それの比じゃなく。この世にこんな気持ちの良い、生き物がいるんんて!!

「うにゃ!! うにょお!!」

 今のは別にしゃべったんじゃなくて、喜びの叫びだ。そして俺の叫びを聞いて、モコモコも一緒に鳴いてくれた。

『ぷぴぃ!!』

『ぷぅ!』

 ん? 今俺に寄り添ってくれているモコモコじゃなくて、他の鳴き声が聞こえたような? 俺は試しにもう1度叫んでみた。

「うにょお!!」

 するとモコモコが。

『ぷぴぃ!!』

 と叫んでくれて。

『ぷぅ!』

 やっぱり別のモコモコの鳴き声がした!! 俺は周りを確認する。すると母さんとお店の人が同じ方向を見ていて。たぶん母さん達も鳴き声に気づいて、鳴き声が聞こえた方を見たんだろう。

 そしてそれは俺の所にいるモコモコも同じで、母さん達と同じ方向を見ていたんだけど。何とかモコモコの表情を見れば。
 まぁ、なんとも言えない顔をしていた。こう、嫌そうな、なんで鳴いてるんだよと、文句を言っているような、そんな表情をしていたんだ。

 いやいや、待てよ。本当に嫌な顔をしているのか? 俺がそう思っているだけで、もしかしたらこれがモコモコの嬉しい時の表情かもしれないし。でも俺が見た限りでは、文句を言っている表情にしか見えないけど。ああ、可愛い顔が……。

 と、残念な顔も気になるけど、今は別のモコモコだ。どこの子が鳴いたんだろう?

『お前、どうやって出てきたんだ。確かに今回、生まれてきた中では1番小さくて、これだけ小さいモコモコを、私も見たのは初めてだったが。ギリギリで柵は抜けられないようにしていたのに』

『あら、この子も今回、生まれた子なのね。ずいぶん小さいのね』

『そうなんです。最後に生まれた子なんですが、通常のモコモコの半分の大きさしかなくて。生まれてすぐ、この子はすぐに亡くなってしまうだろうと思っていたのですが』

『あら、そんなに』

『はい。しかし生まれてからこれだけ経てば、安全だという時期まで生きることができ。ただ他の子よりも怖がりで、いつも藁の束の後ろに隠れたり、他の子達の間に隠れていたんです。こんなに出てきたのは初めてですね』

『そうなのね。そうね……』

 母さんは何かを考えた後、急に俺の目の前から消えて。俺からは見えないけど、たぶんしゃがんだんだろう。下から母さんの声が聞こえてきたからな。

『こんにちは。こっちに来たいの? さぁ、いらっしゃい。大丈夫よ、ここに怖い人も、物もないわ』

 母さんがモコモコを呼んだ。そして俺の所のモコモコは、相変わらず嫌そうな顔をしている。

『そうよ、ゆっくりで良いわ。ふふ、来てくれてありがとう』

 どうやら母さんの所へ、小さいモコモコが来てくれたみたいだ。と、すぐに母さんの姿が見えて。母さんは自分のお腹くらいの位置に、自分の手を合わせていたんだけど、そこには……。

 今、俺の側に居てくれるモコモコの、半分くらいのモコモコが乗っていた。
「うに? いぃ」

 今のは、モコモコ? 小さいね、って言ったんだ。いや、本当に小さい。これじゃあ、いくら生まれたばかりの、今側に居てくれるモコモコや、他のモコモコと一緒に居たとしても、隠れちゃって気づかないな。

 母さんはそのままそっと手を動かして、モコモコをテーブルまで運んでくれる。そして小さなモコモコは、テーブルの匂いを嗅いだ後よちよちと、俺の側まで歩いてきてくれた。今の状態は、右に最初のモコモコ、左に小さなモコモコがいる感じだ。

 そうして今度は俺の匂いを嗅いだ後、あのしっぽ振りをしてくれて。それが終わればモコモコと同じ、俺に寄り添ってくれようとした。だけど、ここでストップがかかった。

 スロップをかけたのは、お店の人でも母さんでもない。最初のモコモコが、小さいモコモコにストップをかけたんだ。こう前足を上げて、ストップみたいにして。ぷぴっ!! と今までで1番強く鳴いてね。

 そうすると小さいモコモコは止まったんだけど。

『ぷぅ、ぷぷぷ、ぷぅ、ぷぅぅぅ』

 と何か文句を言っているようにブツブツ言い始める、小さいモコモコ。それに続いて最初のモコモコが、

『ぷぴ、ぷぴぴっ! ぷっぴぃ、ぷぴぃ!!』

 と何かを話し。これはどう考えても揉めている感じだ。何でこんなに揉めているんだ? 止めなくて大丈夫なのか?
 可愛いモコモコに囲まれて嬉しいけど、これ以上酷い喧嘩になって、もし取っ組み合いの喧嘩をしたら? 心配になって母さんとお店の人を見る。

 ところが2人とも、ただただモコモコ達のやり取りを見ていて。俺が声を出せば母さんは。

『もう少し静かにしていられるかしら。なるべ邪魔はしたくないのだけれど』

 そう言ったんだ。どういう事だと思っていたら、母さんとお店の人が話し始めて。どうもモコモコ達は何かを決めたり、揉めたりした時は、こうして話し合って、色々決めるらしい。自分達が納得するまでだ。その辺、しっかりとしている生き物らしい。

 ただ話し合いは、すぐに終わるようで。真剣に話し合いをしている割には、その話し合いが早く終わるため、本当に話し合いをしているのか? と議論になったこともあるようだ。
 
 でも、この話し合いを、邪魔した人達が何人か居るらしいんだけど、モコモコの話し合いを邪魔すると、モコモコ達は邪魔をするなと、その人達に魔法を放ったらしい。それもけっこうな勢いで。そのため話し合いが始まると、誰もその話し合いの邪魔はしなくなったらしい。

 けっこい物騒だな、モコモコ!! 邪魔をされると魔法を放つって。それを聞いた俺は、話し合いが終わるまで静かにしていることにした。攻撃されたくないからな。

『まぁ、まだ赤ちゃんだから、魔法は使えないけれどね。魔法が使えるようになるのは、2年くらい経ってからかしら』
 
『そうですね。ですが魔法の代わりに、蹴りや体当たりはしてきますからね』

 何だ、心配した。小さいモコモコは魔法が使えないらしい。と、いうか使えるようにのか。凄いな。

 と、凄いし、でも今の魔法の心配はなくなったけど、結局は蹴りや体当たりをされるのか。うん、やはり静かにしていよう。それと今2年って言葉が出たよね? この世界も日数ってどうなっているんだろう。地球と同じなら楽なんだけど。

 俺はそんなことを考えながら、モコモコ達の話し合いが終わるのを待つ。ぷぴぷぴ、ぷうぷう。様子を見ていたら、最初のモコモコの表情がどんどん酷くなっていき、小さいモコモコの表情は、どんどん怒っている表情へと変化して。

 あ~あ~、最初のモコモコ。あれ絶対おでこの所シワが寄ってるよ。いや、見えないけどさ、最初よりもモコモコのおでこの毛が、こう集まってる感じがするんだ、それでおでこの所、シワが寄っているように見える。

 そして口元は、笑っている時の口元を三角って表すと、今は逆三角になっていて、しかもその逆三角が、少し斜めっていて、ケッ!! って感じに見える。あんなに可愛い顔をしていて、最初はまったり顔だったのに。モコモコ、そんな顔もできるんだな。

 小さいモコモコは表情こそ、そこまで変わらなかったが。怒っている顔が、さらにその強さを増したっていうか。漫画とかで怒っているのを表現する時、こう顔の中心を暗く描くことがあると思うんだけど。

 小さなモコモコもそんな感じで、怒っている顔にドスが効いてきたっていうか。もし人間でこんな怒る人がいたとしたら、なるべくその人のことは怒らせないようにしよう、って考えるだろうくらい、小さいモコモコは怒っていた。

『ぷぴっ! ぷぴぴぃ!! ぷっぴぃ!!』

『ぷう!! ぷうぅ! ぷぷぷ! ぷぅぷぅ!!』

『なかなか終わらないわね』

『そうですね』

『モコモコ達の喧嘩は、こんなに長かったかしら』

『いえ、いつもだったらもう終わっていることなのですが』

『ぷぴ!! ぷぴぴ!! ぷっぴぃ!!』

『ぷう!! ぷぅぅぅ!! ぷっぷぅ!!』

 うん、モコモコ達の喧嘩……、じゃなかった、話し合いが始まってどれくらい経ったんだろう。俺もそろそろ静かにしているのがキツくなってきたんだが。何を話し合いしているか分からないけど、そろそろ話し合いは止めて、可愛いモコモコに戻ってくれないかな?

 でも、それからも続いた話し合い。が、ここで俺の我慢の限界が来てしまった。ここへ来る前、起きてからすぐにお尻を綺麗にしてもらったが、赤ちゃだからトイレを我慢できず。トイレが済めば、お尻の不快感で、俺は泣き出しそうに。

「ふぇっ、ふぇぇぇ」

『あら、おしっこかしら。そろそろ限界よね。動いても大丈夫かしら』

『どうでしょうか。手を出したシェリアーナ様が攻撃を受ける可能性が。しかしその前に』

『そうよね。グレンヴィルが攻撃を受ける可能性の方が高いわよね』

 不味いぞ! 俺のせいで母さんが攻撃を受ける可能性が!?

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