プロローグ
全日本バレーボール高等学校選手権大会。通称、春高バレー。日本全国からたくさんの高校生が、東京第一体育館に集結する。皆、目指すところはただ一つ。決勝戦のセンターコート。ここに立てるのは、毎年たった二チームだけ。
そして、たった一つの優勝という栄冠を目指して、戦う。
中学2年生。何気なく見ていた春高の決勝戦。テレビの中で繰り広げられる大接戦の決勝戦は、俺にとっては人ごとだった。なんとなく始めたバレーボール。中学に入ってから急激に伸びた身長のおかげで、それなりの成績を収めてきた。それでも分かる。きっとこの先、俺がこのセンターコートに立つことはない。そこまで本気でやっているわけじゃないし・・・プロになりたいわけでもない。
いよいよ試合は後半戦。あと5点を先に取った方が優勝を決める。バレーボールは好きだ。高校でも続けたいから、進学先は男子バレー部のある高校を選択しようと思っている。高校生になった自分が、このセンターコートに立つ姿を想像して・・・やめた。
手元に置いてあったコップを手に取ると、ちょうど空になっていることに気がついて、渋々立ち上がる。それと同時に、実況がマッチポイントになったことを大きな声で告げた。ここまで来たら最後まで見るか・・・と画面に目を向けた瞬間、息を呑んだ。
彼は、助走の勢いをうまく使って軽やかに飛び上がった。全ての動きがスローモーションに見える気がする。そして次の瞬間、高い打点から一気に腕が振り下ろされる。テレビ越しでも「バチン」と大きな音が伝わる。まるでコートを切り裂くようにして、ボールは相手コートへ、誰にも触れられることなく叩き落とされた。
一瞬の静寂の後、東京第一体育館が歓声に包まれる。と同時に、俺の手からもコップがすり抜けて、「コトッ」と間抜けな音を立てて、床に落ちた。正月でなまっていた体の奥からふつふつと何か熱いものがわいてくるのが分かった。
この人と一緒にプレーがしたい。同じコートに立ちたい。彼は今1年生らしい。つまり、俺が高校に入学する年は3年生になっているはず。この人と一緒に・・・このセンターコートに立ちたい。なぜこんなにも引きつけられているのか自分でも分からない。今、確実に言えることは、この気持ちは嘘でも冗談でもないということだけ。
一時間前の自分とはまるでちがう。たった一試合が、たった一本が、たった一人が・・・俺の人生を変えた。
俺はこの人とバレーをするんだ。この人と一緒のコートに絶対に立ってみせる。この人と一緒に2年後、このセンターコートで戦ってやる。学校と名前はしっかり覚えた。両親がなんて言うかとか、不安とか恥ずかしさとか、そんなことは何も考えられなかった。
俺の頭の中には、あの1プレーの映像が繰り返し流れている。
高校は、ここから遠く離れた神奈川県の私立夕陽ヶ浜学園。あの人は・・・日下部空はそこにいる。
全日本バレーボール高等学校選手権大会。通称、春高バレー。日本全国からたくさんの高校生が、東京第一体育館に集結する。皆、目指すところはただ一つ。決勝戦のセンターコート。ここに立てるのは、毎年たった二チームだけ。
そして、たった一つの優勝という栄冠を目指して、戦う。
中学2年生。何気なく見ていた春高の決勝戦。テレビの中で繰り広げられる大接戦の決勝戦は、俺にとっては人ごとだった。なんとなく始めたバレーボール。中学に入ってから急激に伸びた身長のおかげで、それなりの成績を収めてきた。それでも分かる。きっとこの先、俺がこのセンターコートに立つことはない。そこまで本気でやっているわけじゃないし・・・プロになりたいわけでもない。
いよいよ試合は後半戦。あと5点を先に取った方が優勝を決める。バレーボールは好きだ。高校でも続けたいから、進学先は男子バレー部のある高校を選択しようと思っている。高校生になった自分が、このセンターコートに立つ姿を想像して・・・やめた。
手元に置いてあったコップを手に取ると、ちょうど空になっていることに気がついて、渋々立ち上がる。それと同時に、実況がマッチポイントになったことを大きな声で告げた。ここまで来たら最後まで見るか・・・と画面に目を向けた瞬間、息を呑んだ。
彼は、助走の勢いをうまく使って軽やかに飛び上がった。全ての動きがスローモーションに見える気がする。そして次の瞬間、高い打点から一気に腕が振り下ろされる。テレビ越しでも「バチン」と大きな音が伝わる。まるでコートを切り裂くようにして、ボールは相手コートへ、誰にも触れられることなく叩き落とされた。
一瞬の静寂の後、東京第一体育館が歓声に包まれる。と同時に、俺の手からもコップがすり抜けて、「コトッ」と間抜けな音を立てて、床に落ちた。正月でなまっていた体の奥からふつふつと何か熱いものがわいてくるのが分かった。
この人と一緒にプレーがしたい。同じコートに立ちたい。彼は今1年生らしい。つまり、俺が高校に入学する年は3年生になっているはず。この人と一緒に・・・このセンターコートに立ちたい。なぜこんなにも引きつけられているのか自分でも分からない。今、確実に言えることは、この気持ちは嘘でも冗談でもないということだけ。
一時間前の自分とはまるでちがう。たった一試合が、たった一本が、たった一人が・・・俺の人生を変えた。
俺はこの人とバレーをするんだ。この人と一緒のコートに絶対に立ってみせる。この人と一緒に2年後、このセンターコートで戦ってやる。学校と名前はしっかり覚えた。両親がなんて言うかとか、不安とか恥ずかしさとか、そんなことは何も考えられなかった。
俺の頭の中には、あの1プレーの映像が繰り返し流れている。
高校は、ここから遠く離れた神奈川県の私立夕陽ヶ浜学園。あの人は・・・日下部空はそこにいる。