当然のように悪びれることもなく、ブランシュの肩を抱きながらニコルは嘘を並べた。目で制せると思っているのか、じっと警備員を見つめながら「うん、うん」と頷いている。制すというより操ろうとしているのか。

 そんなものにかかるはずもなく、警備員は冷静に自分なりのマニュアルを思い出す。見知らぬ人が入って行こうとしたら、落ち着いた声色で。

「……本当に? 随分と似てないが。それにキミのほうが年上に見える」

 本当はちょっと心臓ドキドキしているのだが、子供達の安全を守ることが、今は何よりも最優先である。女性だし、学生の子と一緒だからたぶん大丈夫なんだろうけど、万が一もあるし、と、ここまでを○・五秒で警備員は判断した。

 レディに年のこというなんて失礼ね、と内心ではイラっときたのを抑えて、警備員にすり寄りながらニコルは事情を説明する。

「本当です。母親が違うんです。ついでに父親も違うかもしれないから、似てないんです」

「それはもう他人では……」

 破綻した部分を見つけたブランシュだが、肩に鋭い痛みが走り、二の句が継げない。そーっと目線を上げると、真顔のニコルが見つめている。これ以上言うと、肩が外されるのではないか。

「……本当なのかね?」

 明らかに怪しんでいる警備員。姉妹にしては雰囲気も違うし、信じろという方が無理だ。もう一度無線機に手を伸ばす。

 ここしかない、と意を決してブランシュは真実を語ろうとする。このあと、しばらく声が出なくなってもいい。今、勇気をーー

「……いえ、実は」

「ギャースパー」

 どこかから低い声が聞こえる。

「ん?」

「ギャギャースパータールマータールーマー」

「な、なんだね、急に」

 声の主はニコルだが、私じゃないです、と無表情を貫く。まばたきもしない。人形のようになってしまった。

 いきなり呪文のようなものが聞こえ、警備員も面をくらう。なんか聞いたことあるかも、名前か? と一瞬よぎったが、とりあえずこの少女は外につまみ出すしかない。

「怪しい。すぐに警察が来るからそこで」

「ほ、本当です! 私もいきなりで……驚きました……」

「え?」

 警備員が目を丸くする。

「え? 妹さん? 本当に?」

 こくこく、とブランシュは素早く頷いた。警備員と目線を合わせず、鼻息も荒くなっている。過呼吸気味なまま、ニコルの袖を取った。

 ニチャァ、とニコルは森の中で鍋をグツグツ煮てる悪い魔女みたいな笑い方をする。

「ほら、もういいでしょ? 行きましょ行きましょ」

「……」

 去り際にもう一度、ニタリと警備員に笑みを浮かべながらニコルは、塞ぎ込んだブランシュを引きずるように中に入っていく。なんだか、サッカーで点を決めて、相手チームの監督の前でゴールパフォーマンスをするとこれくらい爽快なんだろうな、と悦に浸った。

 が、反省すべきところは反省する。ちっ、と舌打ちした。

「しまった、姉にしとくべきだったか。妹の方が見逃してくれると思ったのに」