瑞希が内心、首をひねっている間に玲望はさっさと設定を終えたらしい。

 瑞希に向かって差し出してくれた。

「ほい。これでかなりわかりやすくなったと思うぜ。ていうか、そんなら最初から言えよな。真逆に行ってたかもしれないだろ」

「さんきゅ。でもそれほど抜けてねぇわ」

「そっか?」

 言い合いになったが、これはただのふざけ合い。

 ほわりと瑞希の胸があたたかくなった。

「ほら! 道は右だな。行くぞ。朝になっちまう」

「流石に朝はねぇだろ」

 玲望は再び自分の自転車を掴んで、またがった。

 たっと地面を蹴る。

 何故か走り方がさっきより爽快に見えてしまった。

 なにも変わらないだろうに。

 瑞希はよくわからなくなりつつ、同じように走り出したのだけど、すぐ思った。

 道がはっきりしたことで、迷いや不安がなくなったのだろう。

 それで目的地に向かって駆けていきたくなった……。

「おい、待てよ!」

 ふっと微笑んでいた。

 ペダルをさっきより強めに踏む。

 ああ、そうだ。

 いつだって俺が引っ張るばかりじゃない。

 玲望に引っ張ってもらったり、助けてもらったり。

 そういうことだって何度もあったし、きっとこれからもある。

 速度をやや上げて漕ぎながら、瑞希は実感した。

 そこから導き出されたもの。

 瑞希の中から、形を取って浮き上がってきたもの。

 それはつまり、玲望にあげたいと思ったものとは……。