目の前で日菜が声を上げて泣いている。
 社会人の彼氏に浮気されて、別れたらしい。



 あたしと、真昼、そして陽世は、日菜に対する慰めの言葉と、浮気をした彼への非難、そして浮気相手であろう女への罵りを積み重ねながら、日菜に大丈夫だよって言う、まあそういった儀式を執り行っていた。


 放課後の3年B組は、日菜のおかげでまあ散々な雰囲気になっていて、みんないそいそと教室を立ち去って行くけれど、感情の振り幅が大きい日菜がこうなってしまうのは、あたしたちにとっては割と日常茶飯事だった。


 何か日菜を慰める言葉を言おうと口を開いたとき、

 誰かがあたしの肩を、後ろから軽くトントンと叩いた。



「あ、紬乃ちゃん、」



 気まずそうに小声で囁いてきたのは、同じクラスの坂下ちゃんで、あたしも同じくらいの声量で、どうしたの? と返す。



「藍くんが、落ち着くまでC組で待ってるって……」



 なるほど、とすぐに状況を察知した。

 日菜がこんなことになって、あたしがこっちにつきっきりになっているから、藍は、坂下ちゃんにそんな言伝を頼んだのだろう。



「藍にさ、今日は先帰っててって、伝えてもらえる?」



 ごめん、と軽く手を合わせると、坂下ちゃんはわかった、と二つ返事であたしの頼みを承諾してくれて、すぐに教室を出ていった。


 日菜は相変わらず、メイクが落ちるのを気にせず、ティッシュに涙を吸わせていて、

 日菜ととりわけ仲が良い陽世は、日菜の肩を抱きながら、日菜の言葉一つ一つにやさしく頷いている。