「やば。クシどっか行ったんだけど」

「ここにあるじゃん」

「あ、あった」



 日菜が陽世から白いクシを受け取りながら、鏡を覗き込んだ。

 日菜の目元には、体育祭のとき以外は絶対につけないであろう、きらきらしたスパンコールがアイプチの糊で綺麗につけられていて、いつもより濃いアイメイクが、日菜の気合いを表している。

 もとよりそれは、あたしも、真昼も、陽世だって同じ。全員、似たようなアイメイクと、スパンコールで目元が彩られている。


 体育祭当日の朝は、あたしたちにとっては戦場、といっても良いくらい慌ただしい。


 Tシャツはクラス全体で統一だけど、それのほかにあたし達は、靴下と、ショートパンツと、あとはメガホンをお揃いにして、それぞれ買ったものを忘れずに着用して登校するのが第一段階。

 髪型は、お揃いのリボンを三つ編みに編み込むというデザインのヘアアレンジを、それぞれ代わる代わるに編みあう。

 目の下に入れるスパンコールは、あえてバラバラの色にしたら写真が映えるから、なんて言って、あたしはピンク、真昼は水色、陽世はオレンジ、日菜は緑のスパンコールを乗せる。


 そうしているうちに時間はものすごいスピードで流れて行くから、後半はもう、さっきの日菜みたいに、あれがない、これがないとバタバタしてしまう。


 あたしたちにとってはこれが最後の体育祭だから、おのずと入る気合いの熱量は、去年なんかの比にならない。


 こんなこと、誰かはくだらないって言うかもしれないけれど、あたし達はあたし達なりに、楽しもうとしてるんだから、放っといてよ、だなんて思う。