ヴァンパイアに狙われています!〜運命は危険な出会い?!〜

プロローグ
この世界には伝承が存在する。
1 魔界に足を踏み入れるな
2 世界にたった1人の歌姫を手にすれば願いが叶うだろう
3 時に条件を満たした人物は「能力者」へと覚醒するだろう
この3つの伝承は私達に大きな影響を与えていく。

私は恋星夢乃(こいぼしゆめの)15歳、高校1年生。
長めの黒い髪はいつも下ろしていて、メガネをかけているのが普段の私。
性格は…静かで落ち着いてるって言われるけど、結構明るい方だと思う。
そんな私が今どこにいるかというと…「夢色学園」の煌びやかな正門にいる。
夢色学園というのは中高一貫生の学校で、国の中で1番入学が困難と言われている学校。
何でかっていうと、この学園はとっても特殊でなんと入試がなくて国からの正式な推薦を受けないと入学できないの!
そして、なんとこの度、私は国からの推薦を受けて…夢色学園の入学式に来ている。
本当に夢みたいだ。
そして今日は夢色学園の入学式に来ている。
ちなみに、入学式は9時から始まる予定。
「よ、よし!体育館に向かえば…いいん、だよね…?」
張り切って言ったものの時間を確認すれば、式が始まる15分前だった。
私は新入生代表の言葉を担当するので、少し早く来てほしいと言われていたのを思い出し、急いで体育館に向かって走り出した。
この学園は校舎が沢山あったり、寮があったりでいろいろと入り組んであり、迷ってしまうと全く違う場所に行ってしまい、大変なことになる。
なので私は自分の場所などを把握しながら進むために、事前にもらっていたパンフレットに書いてある地図を見ながら体育館に向かって走っていた。
急いで走っていたせいで周りをよく見ていなく、角を曲がってきた女子生徒にぶつかってしまった。
「痛っ!」
ドサ…!
思い切りぶつかったので、私は尻もちをついて転んでしまった。
手のひらが痛むので見ると、皮が少しむけている事に気がつく。
そんな私を心配するような声が上から聞こえた。
「ごめんなさい!前を見ていなくて…。怪我とかしていないかしら…?」
「だ、だいじょ…」
「大丈夫です。」と言おうとして、驚いて言葉を詰まらせた。
だって、こんなにも綺麗な人が目の前にいると思わなかったから。
目の前にいる女生徒はとても目立つ金髪に目元がキリッとしていて、それからとても優しそうな人だった。
「怪我をしているの?!」
「いえ!ごめんなさい!大丈夫です!」
女子生徒に心配させたらいけないと思って、とっさに答えた。
それから女子生徒は私が大丈夫だとわかったのかホッと息をついてからゆっくりと喋り出した。
「私は普通科1年1組の雨晴華恋(あめはれかれん)よ。あなた、名前は?」
「え、えっと…私も普通科1年1組で、恋星夢乃って言います」
(同じクラスの人なんだ…しかも1組って)
「あなたも1組なのね!よろしくね。えっと…失礼じゃなかったら最初のテストでの順位聞いてもいいかしら…?」
実はね、1組は確認テスト…皆からすると入試テストのようなもので上位30位の人達が集まっている。
確認テストの内容は名門校というだけあって結構難しい。
(そんな問題を満点取っちゃったんだけどね!あはは…。)
「1位…でした。なので、新入生代表の言葉を担当するんです…!」
驚いたように目を見開いてから…。
「そうだったのね!悔しかったわ〜。私は2位だったから…」
(こ、この人が?!確か3点差だった気が…容姿も成績もいいなんていいな〜憧れる!)
その後、私の胸元を見てから雨晴さんがぼそっと何かを呟いた。
「校章が桜…人間…」
「えっ?」
私は聞いてはいけない事なのか雨晴さんが誤魔化すようにして、腕時計を見た。
「あっ!そろそろ式が始まるわ!行きましょう!」
「えっ…?!もうそんな時間!?」
さっきのはなんだったのだろうと思いながらも、私は聞く事が出来ずに雨晴さんと一緒に急いで体育館に向かった。
指定場所につき、見上げるとそこには私が去年通っていた学校よりも約2倍ほどもある大きな体育館があった。
体育館の中に入ると、男子生徒が声をかけてきた。
「君、恋星さんだよね?待ってたよ。僕は生徒会長の昊葉紀羅(そらはきら)だよ。よろしくね。準備は大丈夫そうかな?」
昊葉会長はふわっとした茶髪の髪に、目尻にほくろがあるのが特徴でとてもかっこいい人だった。
「は、はい!遅れてすみません!」
「いやいや大丈夫だよ。えっと…恋星さんは最初だね。」
昊葉会長が私にも事前に配られた紙を確認して言う。
その時、私はふと不思議に思った。
「最初…?」
昊葉会長が困ったように少し慌てる。
「あれ?聞いてない?今年度は普通科、芸能科の順で代表の言葉をやるって」
私は首をかしげる。
「いえ…聞いてませんけど…。」
「あれ?ごめんね。あんまり上手く話が伝わってなかったみたいだね…。申し訳ない」
「いえ!大丈夫です!」
聞いてはいなかったけど、問題はなさそうだし謝られることじゃない。
「そう、よかった。そうそう、後でいろいろと説明するから式が終わったら生徒会室に来てくれるかい?」
昊葉会長がそう言った直後、入学式開始のチャイムがなった。
「それじゃあ代表挨拶頑張ってね。応援してるよ。また後で」
「は、はい!」
昊葉会長がいなってから、ゆっくりと赤いカーテンの裏から体育館全体を見渡すと、そこには沢山の生徒達が椅子に座っていた。
その中には、びっくりなことに有名なモデルさんや声優さん達もいた。
私がその事に驚いて、間抜けな顔でぽけーっとしていると式が始まった。
「これより夢色学園、入学式を開会します。まず初めに生徒会長の言葉、昊葉会長お願いします」
昊葉会長が壇上に上がり一礼をするその姿にきっとみんなが魅了されているだろう。
その一礼だけで芸能人なのかな?と思うほど様になっていて、まるでモデルさんのようだったから。
それから、数分ほどして昊葉会長の言葉が終わった。
いよいよ次は…。
「続いて新入生代表の言葉。初めに、1年恋星夢乃さん。お願いします」
「はい!」
私は張り切って返事をして階段を上がり、先ほどの昊葉会長のように一礼をした。
最初はとても緊張して上手く言えているか不安だったけれども、1列目に座っている雨晴さんが私を見て手を振っているのに気がつき、緊張がとけた。
私の言葉が終わり、司会者さんが次の言葉を言う。
「それでは次に、芸能科1年三葉星空(みつばせいら)さんお願いします」
司会者さんの言葉に反応して生徒たちが。
「は?芸能科の首席って三葉なの?あの悪女が?」
「ね〜、あのクソ女が首席なんてあり得ない!」
どんな人なのだろうと気になって横を向くと、そこには丸メガネをした黒髪が綺麗な女子生徒が立っていた。
(この人が芸能科の?首席だからすごい人なんだろうけど…悪女って?)
三葉さんがこちらに歩いてくるのを見てハッとする。
早く席に戻らなくちゃと私は急いで壇上から降りた。
「いいスピーチだった。お疲れさま」
降りる途中ですれ違った時に、三葉さんがそう言っているように聞こえた。
入学式が無事に終わり、私は自分のクラスに向かった。
向かっている途中に「代表挨拶よかったよ」などとたくさんの先生方に声をかけられては返事をしてとゆっくりしていたので、少し遅めにクラスへ入る。
何度見てもこの豪華さには驚かされるし、場違い感が半端ない。
そう思いながらクラスに入る。
「恋星さん来たよ!」
教室に入って早々、1人の女生徒が嬉しそうに声をあげた。
その声に待ってましたというようにクラスメイトが反応して、私を見てから周りに集まってくる。
「えっ?どうしたの?」
何故話したこともないクラスメイトが私に近寄ってくるのかが不思議だった。
その問いに答えるように自分の席を今立ったであろう雨晴さんが言う。
「恋星さんの代表挨拶がとてもよかったという話をしていたの。それで彼女…白下(しろした)さんが恋星さんと話してみたいと言ったの。その話に皆がのっかったのよ」
「そう…なの?なら…そう言う事なら、大歓迎です!仲良くしてね!!」
私がそう笑顔で言うと、クラスメイトが「恋星さん優しい!」と口々に言う。
その声に混じって「同じ首席なのに三葉さんとは大違いだね」という声も聞こえる。
(そうだ!私、三葉さんについて聞こうと思ってたんだった!)
私はそれを思い出し、クラスメイトに聞いた。
「あの…三葉さんってどんな人なの?」
そう言った途端に騒がしかった教室が一瞬にしてシン…と静まる。
(あれっ?聞いたらまずい事だったのかな…?)
だんだんと不安になってくる。
そして沈黙を破るように倉咲(くらさき)さんが話してくれた。
「私、三葉さんと同じ中学出身なんだけど…。その、周りに対して暴言とか言ったりするから毒舌悪女って言われてるんだよね。…その、どうして恋星さんが三葉さんのこと気にするの?」
「えっと…」
私が適当に理由を言おうとすると、後ろからさっきまで耳に残っていた男子生徒の声がした。
「恋星夢乃さんって今いるかな?」
(あっ…そうだった!昊葉会長に生徒会室に来るように言われてたんだった…!)
すっかり言われたことを忘れてしまっていた。
私はよく話を忘れてしまって、怒らせる事が多いんだ…。
だから怒られると思って、すぐに駆け寄ってとっさに頭を下げた。
「そ、昊葉会長すみません!忘れてて…」
「…大丈夫だよ、気にしないで。それと、ごめんね1組のみんな。恋星さんにちょっとだけ用があってね。今借りても大丈夫そうかな?」
「借りても」なんてそんな恥ずかしいことよく言えるな〜と思った。
そして、クラスメイトがまたさっきとは別に騒ぎ始める。
「昊葉会長だ!やばいんだけど!近くで見るとめっちゃイケメン!」
なんていう声が聞こえてくる。
やっぱり誰から見ても昊葉会長はかっこいいんだな〜なんて思う。
そんな中何も感じていないようで、雨晴さんは全く動じず質問に答えた。
「ええ、良いわよ。私達は急ぎではないし。あ、そうだ。恋星さんよかったら今日一緒に帰りましょ。正門で待ってるから。」
「えと…うん!じゃあみんなちょっと行ってくるね!また明日話そうね!」
「雨晴さんはまた後で」
すれ違う時に小声で言うと、満足げに笑ってくれた。
笑顔でみんなに手を振ってから、昊葉会長の後をついていく。
綺麗な真白い廊下を興味津々に見ながら生徒会室に向かう。
階段を1階分下がったところで、突然昊葉会長が止まり、思わずぶつかりそうになった。
どうしたんだろう?と思って昊葉会長を見る。
「ここが生徒会室にだよ。多分今の時間なら生徒副会長の那津葉(なつば)さんがいると思うから、ノックして先に入ってくれるかな?」
「?あ、はい…」
なんでだろうと思いながらも、昊葉会長の言った通りに扉をノックして入る。
「し、失礼します」
生徒副会長さんがいると思い、とても緊張して声が裏返ってしまった。
中に入ると、目の前に置いてある黒いふかふかそうなソファに、とても可愛い栗色の髪の女子生徒が座っていた。
その女子生徒…おそらく副会長さんは私達を見て明るい声で言った。
「いらっしゃい生徒会へ!昊葉会長はお疲れ様です!」
そう言って昊葉会長を見た後に副会長さんは私を見て微笑んだ。
その笑顔があまりに可愛くてキュンとしてしまった。
「あ、ごめんね!名前言ってなかった…。私は那津葉恋亜(なつばこいあ)だよ!さっきの入学式で司会をしてたんだけど、分かるかな?」
「はい!覚えてます!えっと…私は恋星夢乃です。よ、よろしくお願いします…」
ガチガチに緊張していたせいか、少し早口で言ってしまった。
けれど、しっかり聞こえていたようだ。
その後那津葉先輩はソファに私を座らせた。
「えっとね、今日はちょっと話したいことがあってね…?あ、でももう1人いるんだ〜。そろそろ来ると…」
そう那津葉先輩が言っている途中でガチャ、と大きな音を立てて生徒会室の扉が開いた。
3人の視線が入ってきた女子生徒に集まる。
入ってきた人物はまさかの三葉さんだった。
「来た来た!三葉さん待ってたよ!あのね…」
那津葉先輩が言いかけた言葉をかき消し、三葉さんが言葉を放った。
「どうでもいいんで、要件だけ聞かせてもらえます?私、忙しいんですけど?」
怒っているように聞こえるその声に怖気付いてしまったのか、那津葉先輩がしゅんとした様子で黙ってソファに戻って座った。
(あれが本性…?なのかな…。あの時の優しい三葉さんは何だったのだろう…?)
そう思いながら、私は話を聞けるように那津葉先輩の方を向いた。
「まあまあ。そんなに気を張ってると疲れちゃうよ?話長くなると思うし、座りなよ三葉さん」
すぐに黙ってしまった那津葉先輩とは違い、昊葉会長はいつもの笑顔で話しかけた。
そんな態度の昊葉会長が気に入らないのか、三葉さんは顔をしかめて舌打ちをした。
「っち。分かりました。でも、要件だけ聞いたら帰るんでさっさとしてください」
渋々といった感じで三葉さんがドサっと音を立ててソファに座る。
座った事を確認すると昊葉会長が真剣な顔になり、話し始めた。
さっきまでニコニコしていた昊葉会長が真剣な表情になったのだから、それほど重要なのだと緊張が走る。
「まず、君たちは主席なので前期生徒会役員になってもらう」
そう昊葉会長に言われた後、三葉さんがソファから勢いよく立った。
「なんでそれを私がやらなくてはならないのでしょうか?」
怒りが混じっているようにも聞こえる。
けれどその態度にも動じずに、そのまま昊葉会長は話を進める。
「学園の決まりでね。1年の生徒会は前期と後期で分かれるんだ。前期は選挙もないから普通科と芸能科それぞれの首席と次席の子、合計4人が入ってもらうことになってるんだ。これで分かってもらえたかな?」
「…それって必ずですか?」
三葉さんは相当生徒会に入りたくないみたいだ。
昊葉会長がおずおずといった感じで首を縦に振る。
「そうだね。こればっかりは先生方が決めたことだし」
そう言われると三葉さんはため息をついて言った。
「分かりました、ならやりますよ。けれど、それだったらどうして次席の2人は呼ばなかったのですか?」
(確かに…三葉さんすごく鋭い!)
生徒会の話をするなら4人を呼べばいいのに、今日呼ばれたのは私と三葉さんの2人だ。
なにか意図があるのだろうか。
今度は那津葉先輩がその質問に答える。
「それはですね…。これは校長先生に言われているんですけれど、生徒会で主に活動をしていく方で十分な信頼がある方にはこの学園のことを詳しく話して協力していく必要があるって」
少し三葉さんが何かを考えた後、ゆっくりと喋り出した。
「つまり…私達には信頼が十分にあり、この学園の秘密を知る義務があるとでも…?」
昊葉会長と那津葉先輩が驚いたように目を見開いている。
それから、昊葉会長が我に返ったようにまた話し始める。
「まさに三葉さんの言った通りなんだ。…それじゃ、本題に入るね?まずはこの資料を見てほしいんだ。」
そう言って後ろの机の上から2枚の紙を取って、私達の前に置いた。
それからその資料に丁寧に目を通していく。
その中には「ヴァンパイア」、「異能力者」、「契約済みの人間」などというお伽話にでも出てきそうな言葉も入っていた。
(そういえば、雨晴さんに初めて会った時に校章がなんとかとか言ってたような…?)
少し時間が経ってから昊葉会長が尋ねる。
「目は通せたかな?」
一通り読み終わった後に昊葉会長に聞かれたので、私は頷いた。
三葉さんはもうとっくに読み終わっていたよう。
「えっと、恋星さんは学園の事をあまり理解していないようだからまずそれから話すね」
私が申し訳なさそうに頷く。
学園の情報も不十分なんて、こんな人が生徒会に入ったらまずいだろう。
「はい。よ、よろしくお願いします…」
昊葉会長が「大丈夫だよ」と私の不安を消すように言ってくれた。
(優しすぎる…!)
「この学園はね、芸能科と普通科に分かれるんだ。何が違うかっていうと、まず入学方法からだね。普通科は国の推薦を受けないと入学できないけど、芸能科はそうでもないんだ。」
昊葉会長が何かを気にするようにちらっと三葉さんを見る。
「三葉さんはどんな方法で入学したか恋星さんに教えあげてくれないかな?」
(そっか!三葉さんって芸能科だったっけ…?)
「…私はこれでも意外と人気のある活動者なの。年齢も15歳でちょうどいいからっていうので入学しないかって中学の時に先生に言われたの」
意外なことに「悪女」と呼ばれている三葉さんが私に分かりやすく説明をしてくれた。
それから昊葉会長の説明が続く。
「特Aのバッチを持ってる人は大体そんな感じだね。あとは特別授業があったりするかな?芸能科とはそんな違いがあるよ。じゃあ次に、資料に書いてあることを説明していくね」
そう言って、まず校章についての資料を指差す。
「ここに書いてある通り、生徒達は校章によって様々な分類に分けられているんだ。ちょっと、君たちの校章を貸してくれないかい?」
そう言われて、三葉さんと私は校章を制服から外して昊葉会長に渡した。
その時に、上手く言えないが…なにか違和感を覚えた。
その違和感とは昊葉会長、那津葉先輩の2人の校章が私達とは違う事だった。
昊葉会長は赤い薔薇の校章、那津葉先輩はピンク色の桜の校章。
私と三葉さんは金色の桜の校章で全く違う色、デザインだった。
その事に驚いて思わず声を上げてしまった。
(校章って全生徒共通の物じゃない?!)
「校章が違う?!」
「…ああ。やっぱり知らないよね。まあその方がいいけどね?」
そう言って昊葉会長が苦笑した。
けれど、その方がいいとはどういう事なのだろうか。
「あの…どういう事か説明してもらってもいいですか?」
「うん、もちろん。まずさっき資料に書いてあった事を思い出してもらって、何を表すか分かるかな?」
そう聞かれても私にはよく分からないかったので何も言えない。
それは隣にいた三葉さんも同じのようだった。
それを察したように、那津葉先輩が「昊葉会長、しっかり説明してあげてください」と言って昊葉会長の脇腹をつっつく。
「ごめんね、説明が不十分だったね。こんな事を僕から言うのもあれなんだけど…。この校章は『人間かどうか』を表しているんだ。」
「そっか!だからさっき…」
そこまで言われても何が何だか分からない…。
三葉さんは私とは違い、理解したと言っていた。
「分かってくれたなら話が早いや。資料に書いてあったように僕の赤い薔薇の校章は契約済みのヴァンパイアを、那津葉さんの桃色の桜の校章は契約済みの人間を。そして君たちの金色の桜の校章は契約をしていない人間を表しているんだ。その他の校章は書いてあった通りだよ」
ここまで言われてやっと理解が追いついてきた。
「1ついいですか?」
昊葉会長の言葉を聞いて、三葉さんが質問をする。
「『契約』とはなんですか?」
「ああ、それはね。ヴァンパイアが10歳になると『血の契約』というものを結べるんだ。その相手にしか血を与えられないし、もらえなくなる。特別寮なんてものが用意されてるよ」
実は、夢色学園には寮が用意されている。
なんと、そのお金は全て学園が負担してくれている。
(確かに寮は3つあったかも…?てことは女子寮、男子寮、特別寮って事かな?)
「さあ、これで説明は終わりだ。ここで、君達にやってもらいたい事があるんだ」
私と三葉さんはきょとんとした表情で声を合わせて言う。
「「やってもらいたい事?」」
「くすっ、そうなんだ。2つあってね?1つ目は、異能力者とヴァンパイアが人間に悪さをしていないか、人間達にこの真実を言いふらしていないかの監視」
「察しがつきましたよ。その決まりを現在は守っているから私達がその事実を知らなかったというわけですね…」
三葉さんの言葉を聞いてようやく理解した私は、そういう事かと頷く。
(三葉さん本当に賢いな…)
「2つ目が伝承にある『特別な血』のことについてなんだ。今年、『女神』、『歌姫』、『王冠(クラウン)』の3人が入学したっていう情報をもらったんだ。だから3人に危険が及ばないように見つけだ…」
バンッ!
昊葉の言葉を遮るように、三葉さんが思いっきり机を叩いて立ち上がる。そして、小さな声で「無理…」と言っていた。
「…えと、体調が悪くなったので帰ります。生徒会については分かりましたので」
そう言って生徒会室から出て行こうとした。
それを私が呼び止める。
体調が悪い人を放っておけないというのもあるけれど…。
「あの!私…その…お、送りましょうか?」
「いい、うるさい!!黙って」
そう言い放って逃げるように出ていってしまった。

「どう…したんでしょうか…」
那津葉先輩が唖然としたように言う。
私達3人には三葉さんが怒ったわけが分からなかった。
気に触るようなことは言っていなかったと思うけれど。
それから、しばらく私達はどんよりした空気で黙っていた。
最初にに喋り出したのは昊葉会長だった。
「まあ、その…考えてても仕方がないし三葉さんの件は様子見って事で。もしかしたら三葉さんは『特別な血』の人と知り合いなのかも…。とりあえず、恋星さんは明日の放課後から活動開始になるから生徒会室に来てね?」
さすが昊葉会長、切り替えがとても早い。
私はしどろもどろ言葉を発した。
「あ、わ…かりました。それじゃあ、今日は帰宅してもいい…?」
「うん、良いよ。こんな時間だしね」
あはは…と昊葉会長が苦笑いする。
生徒会室にあった時計を見てみると、15時を過ぎていた。
本来の下校時刻は13時30分のため大分過ぎてしまっている。
(あっ!今日って雨晴さんと帰る約束してたんだった…。すごい待たせてる…!!)
「それじゃあちょっと用事思い出したので帰ります!!失礼しました!」
急いで生徒会室を出て行こうとした。
その時、誰かが私の腕をつかんだ。
振り返ってみるとー腕を掴んでいたのは那津葉先輩だった。
「ごめんね。えっと…はいこれ!私のメールアドレス。今後のことについてとかお知らせするから…」
私が急いでいる事が目に見えていたからか、少し申し訳なさそうにしている。
「ありがとうございます!いっぱい頼らせてもらいます!!」
そう元気よく言うと、那津葉先輩が安心したように笑顔になってくれた。
そして私にぎゅっと抱きつく。
(那津葉先輩の笑顔はやっぱりとびきり可愛い!)
「はいはい、くっつくのやめてねー。早く行ったほうがいいんじゃないの恋星さん?」
「むぅ…紀羅くんのケチ」
昊葉会長が私に抱きついている那津葉先輩を引き離す。
その事に怒ったのか、那津葉先輩がぷくーっと頬をふくらませてそっぽを向いている。
(あれっ?那津葉先輩って会長のこと『紀羅くん』って呼んでたっけ?)
疑問が浮かび、「ううん…」と唸っていると昊葉会長が言った。
「じゃあね恋星さん、また明日」
私はハッとして、そさくさと生徒会室から出ていった。
雨晴さんを少しでも待たせないようにと急いで正門に向かった。
靴を履き替えて昇降口を出ると金髪の女生徒が立っていた。
きっと雨晴さんだ。
「雨晴さん!遅れてすみません!!」
雨晴さんがこちらを見てぱあっと笑顔になった。
「大丈夫よ、生徒会のお仕事お疲れ様!さあ、帰りましょう」
1時間半も待たせてしまって流石に帰っていたり、怒っていたりすると思っていたけれど平気だったみたいだ。
「あはは、大したことはやってないんだけどね。…そういえば、次席の子も生徒会に入るって昊葉会長が言ってたよ!」
雨晴さんが明らかに嫌そうな顔になる。
「そうなの…?やりたくないわ〜。昊葉会長が苦手だから」
あんなに優しそうでにこにこしている昊葉会長を嫌う人なんていないと思っていたからびっくりだ。
「何で昊葉会長が苦手なの?」
「んー、何考えてるかよく分からないから…かな。昔の知り合いに同じ雰囲気の人がいてね〜」
「じゃあその人のことも苦手だったんだ…?」
そう聞くと雨晴さんは黙ってしまった。
「流石にそんなに仲良くもない人に深く聞かれても困るよね?!」と思って焦り始める。
気まずくなった空気の中、突然雨晴さんが手をパンッ!と叩いた。
「はい!この話終わりね!暗い話はしたくないから!」
そう言って笑いかけてくれた。
(雨晴さんは本当に怒らないな〜)
「あっそうそう。私の事『雨晴さん』じゃなくて華恋でいいわよ。そのほうが友達って感じがするし!」
「…う、うん!えっと…じゃあ華恋ちゃんって呼ぶね?」
友達と言ってくれた事がとても嬉しかった。
高校生活初の「友達」だ。
「じゃあ私はこっちだから…また明日」
華恋ちゃんとタッチをして笑い合う。
あと少しで家に着くというところで華恋ちゃんと別れた。
別れた後浮かれていた私に、こんな華恋ちゃんの言葉が届くことはなかった。
「はあ…、もうちょっと情報を聞き出せばよかったかしら…。私がヴァンパイアに見つかるのも時間の問題ね」
雨晴さんさんと別れてから5分ほど経ち、家に着いた。
私の家は黄色よりの黄土色の壁に、木製の茶色いドア、そして駐車場には水色の車が停まっている。
今は、お父さんが仕事に行っているので車は停まっていない。
普段はお母さんが自転車で仕事に行っているが、今日は休みなので置いてある。
鍵を鞄から取り出して鍵を開ける。
ガチャっと音を立てて鍵が開き、私はドアを開く。
いつも通りで、不思議と安心するような気がする。
それから、ガタンという音と共にドアが閉まる。
靴を脱ごうとして下を向くとパッと2つの靴が目に入った。
1つはお母さんの物だが、もう1つはお父さんの物ではない男の子の靴が置いてあった。
(友達…じゃないよね。男の子と関わらないし…)
誰だろうと考えるうちに、私は朝のお母さんの言葉を思い出した。

「夢乃。今日は、前に言った子が来るからね?今日から4日間預かることになった子!分かる?」

(そうだった。同い年の子が来るとは言ってたけど、男の子か〜)
男の子か女の子か聞きそびれていて、女の子がいいなーなんて思っていたからちょっぴり残念。
なんとなくその子の事を思い浮かべながらリビングに向かう。
玄関からまっすぐ行けばリビングだ。
手を洗ってからリビングの扉の前に立つ。
「よしっ!」
なんとなく気合を入れてみて、ドアをガチャリと開ける。
「お母さん、ただいまー」
すると、キッチンの方から「おかえり!」と明るい声が聞こえる。
視界に映った男の子を一旦スルーしてキッチンに向かう。
キッチンに立つお母さんは、黒髪を編み込みポニーテールにして結び、緑が多めの私服の上にエプロンを着ていた。
「ちょっと待ってね!後少しで洗い物が終わるから!夢乃、そこのお茶運べる?」
お母さんは何やら忙しそうにテキパキと洗い物をこなしていた。
奥を見ると、お茶が入っているコップが3つ置いてある。
多分テーブルに持って行けばいいのだろう。
私はコップをお盆に乗せてテーブルに運んでいった。
男の子の顔を見たくないので、少し下を向いてコップを眺めるふりをしながら運んだ。
「えっと…お茶です」
今更ながら、顔すら見せないことに怒ってるかもと不安になった。
そう思ったら「ますます顔を合わせられない」と、顔を見ないように椅子に座った。
椅子に座ると同時に、私の頬に誰かの指が触れた。
驚く暇もなく、顎をくいっと持ち上げられて目の前の男の子と目が合ってしまう。
男の子は、サラサラの黒髪にくっきりとした二重で少し青のかかった瞳をもつ、驚くほど整った容姿をしていた。
私の目にパッと映った制服は夢色学園のもので、校章は…薔薇だった。
男の子は何かを悟ったように悪魔のような笑を浮かべた。
その瞬間、背中に電気が走ったようにゾクッとする。
「何で顔を合わせないの?」
そう言われてハッとする。
「その…男の子が苦手でして…」
「そっか、ごめんね?」
「えっ?」
男の子の顔にはもうさっきの笑みは残っていなかった。
それと、なんとなくさっきと印象が違う気がする。
「どうしたの?」とでもいうように首を傾げているその姿が可愛く見えて、幻でも見ていたような気分になる。
「ごめんね!いろいろ忙しくって…!」
雰囲気を壊してくれたのはお母さんだった。
バタバタと椅子に座ったお母さんを見て、おそらく今から同居の話とかをされるのだろうと思った。
「2人とも名前とか言った?」
お母さんに言われて、初めて自分が名乗っていなかったことに気がついた。
「あ、えとまだ…。初めまして…!恋星夢乃っていいます」
「僕もまだだったよね。僕は、皇夜空(すめらぎよぞら)だよ。恋星さんよろしくね!」
そう言って笑った皇くんの顔は天使のように愛くるしかった。
それから、お母さんがどんな感じで過ごすのかの話とか、部屋の案内とかをいろいろした。
その後は、お父さんも帰ってきてみんなで夕食を食べ、私は部屋に行った。
まだ宿題が終わっていなかったので、机に教科書やらプリントやらを出してさっさと片付けた。
入学初日から宿題なんて夢色学園は鬼だなーっと思いながら。
10分ほどして宿題が終わり、今日昊葉会長にもらった資料をチェックする。
「皇くんの校章って、薔薇だったよね…」
気になって薔薇の校章のことが書いてあるところに目を走らせる。
そこには、太字で「ヴァンパイア」と書かれていた。
やはり、皇くんは…。
「皇くんは…ヴァンパイアなの…?」
「ふーん。やっぱり、俺がヴァンパイアだって分かってたのか」
「っきゃ!」
そんな声が背中から聞こえて反射的に振り返る。
そこには、初めに顔を合わせたときの悪魔のような笑みを浮かべた皇くんがいた。

皇くんは私を離すまいと詰め寄ってきた。
「あんた、確か生徒会役員だよな?」
「へ?あ、あの…」
明らかにさっきとは違う口調に驚いてしまう。
私の答えが分かっているのか、すぐに次の質問をしてきた。
「まあいいや。で?俺のこと、どこまで知ってるわけ?」
驚きすぎて、喉に何かが詰まっているように言葉が出てこない。
「な…にも」
驚きと恐怖から抜け出し、やっと言葉を出せて少し安心する。
けれど、そんな私を煽るように皇くんがニヤッと口角を上げて笑う。
それが恐ろしくて、また震え始めてしまう。
「へぇ。しらを切るつもり?まあその方が面白そうか」
何を言っているのか理解できない。
何が面白いのかも、今の状況が何もかも私にとっては理解不能だった。
けれど私は、そんな気持ちを無視して気持ちを固め、皇くんをキッと睨む。
けれど全く効果がないようで、皇くんはくすくすとバカにするように笑った。
次に瞬きをすると、いきなり景色が変わった。
何故か椅子に座っていたはずの私の体は1メートルほど離れたベットに移動していたのだ。
キシッとベッドから音が聞こえて顔を上げると、皇くんが私の目の前にいた。
皇くんくんはベッドに手をついて、私に覆い被さっているような状態。
顔がキスできそうなくらい至近距離にある。
「顔赤いよ?かわいー」
からかわれていると気がついて、さらに顔に熱が集まる。
どんな反応をすればいいか分からない。
戸惑う私に願い下げなお願いが飛んできた。
「ねえ、夢乃ってさ俺がヴァンパイアって知ってるわけじゃん?…だからさ、血吸ってもいい?」
いきなり恋星さん呼びから夢乃と呼び捨てに変わった事、血を吸ってもいいか聞かれたことに驚いてフリーズする。
「え、えっ?!なんで?!」
「ヴァンパイアは血が食事なわけ。飲まないと俺死ぬんだけど?」
「そ、そう言われましても…」
私からしたら、確かに皇くんが死ぬのも嫌だ。
(だけど、血を吸われるのも嫌!)
黙り始めた私を見て、面白くなさそうに皇くんが私の体を起こし、膝に乗せられた。
突然のことにまたまた顔が赤くなってしまう。
けれど皇くんの顔は私の頭の後ろにあるため見えないであろう。
そのことに少しばかり安心していた。
ふと、皇くんが言ってきた。
「ねえ、夢乃は『特別な血』って知ってる?」
記憶の片隅にその言葉があるような気がして、一生懸命思い出す。
昊葉会長にもらった資料が浮かぶ。
「あっ!王冠(クラウン)って呼ばれてる人!」
「くすっ。せいかーい」
けれど、私はその言葉を聞いたことがあるというだけだったので、実際にどんな人なのかの情報は一切持ち得ていない。
そこで、皇くんに聞いてみることにした。
「ねえ…その特別な血の人はどんな人なの?」
「んー。俺も伝説でしか知らねぇんだけど、そいつを手に入れた奴は王位継承権をもらえるらしい。んで、特徴が初めて吸血されたり、能力にあてられたりすると髪色が変化して能力が覚醒するらしい」
皇くんでも正確な情報は持っていないようだった。
そりゃそうだ、だっていつかどうかも怪しい人なのだから。
「じゃあ、その人は人間じゃないの?」
振り返って皇くんを見ると、バカにするように私を見下ろしていた。
「はあ?んなわけねーだろ。しょせんは弱い人間だよ」
「お前みたいな…な?」
皇くんが、そう小声で笑いながら言ったのを私は聞き逃さなかった。
突然、首筋あたりに冷たい指が触れる。
皇くんは、そのまま私の髪を避けて口を近づけてきた。
「やっ、め…」
必死に抵抗したつもりだが、ガッチリと捕まっているため、全くもって意味がなかった。
「さっきからめちゃくちゃ美味しそうな匂いがするんだよね。今まで嗅いだことない、あまーい匂いがさ」
「そ、それって…?」
自分から聞いたけれど、何のことかはしっかりと分かり切っていた。
何を求めているか。
だって、皇くんは「ヴァンパイア」なのだから。
「もちろん、夢乃の血の匂い」
くすくすと笑う皇くんを見て、私は恐怖を覚える。
このまま血を吸われるのだと思った。
(そんなの…嫌…!)
けれど、私の予想は幸運にも的中することはなかった。
「俺に堕ちたら、もっと甘いんだろうな〜。くすっ、楽しそう」
無邪気に笑う子供のようなその顔は、偽りのようでやはり怖い。
私を弄んでいるかのようだった。
皇くんは何もすることなく私を膝からおろし、ドアの方へ歩いて行ってドアノブに手をかける。
「じゃあ俺、夢乃のこと全力で堕とすから。覚悟しとけよ?」
そう言って私の部屋から出ていった。
皇くんが出て行ってからすぐに布団に潜り込む。
私はドキドキなっている鼓動を無視するようにぎゅっと目を瞑り、そのまま深い眠りに落ちていった。
私は三葉星空。
まっすぐ伸びた艶のある黒髪に、大きな丸メガネが特徴の高校1年生。
数ヶ月前に夢色学園への推薦状が届き、この学園へ入学した。
入学した理由は、この学園に入れば前の学校の子達との接点が減ると思ったから。
寮もあり、必要なものは全て学園側が揃えてくれるので外に出る必要がない。
と、言っても普段とは違う格好で外に出るので気付かれる可能性はほぼ0。
そんな私は、皆からしたら謎が多いと思うが、もちろんそれには理由がある。
誰も知らない特別な理由が。

「続いて新入生代表の言葉。1年恋星夢乃さん、お願いします」
「はい!」
今日は入学式の日。
そして、私は芸能科の首席ということで新入生代表の挨拶があるため、ステージの裏側に控えている。
私の出番は普通科首席、恋星さんの後である。
(うう…。緊張してきた〜。で、でも悪女らしく堂々と!!)
そう言い聞かせて大切なお守りをぎゅっと握り、ポケットにしまう。
少し余裕のできた私はせっかくなので、恋星さんの代表挨拶を聞くことにした。
よく透き通る声でハキハキと喋る姿が目に映り、とても上手なスピーチだと思った。
私もあんな風に代表挨拶ができたらな…と恋星さんに憧れた。
それから数分後、恋星さんのスピーチが終わり、司会者さんが進めていく。
「それでは次に、芸能科1年三葉星空さんお願いします」
私は大丈夫と言い聞かせ、1歩踏み出した。
目の前にいた恋星さんは、一瞬ハッとしたような表情をしてからこちらに向かってくる。
不意にステージの下にいる生徒達の声が聞こえてきた。
「は?首席って三葉さんなの?あの悪女が?」
「ね〜あのクソ女が首席なんてあり得ない!」
(うっ…。いまだに慣れないんだよな〜)
おそらく中学の頃の私の噂を聞いて言っているのだろう。
自分から悪女を演じておいて傷ついてるなんて酷い話だ。
私はたくさんの人を傷つけてきたのに…。
こちらに向かってくる恋星さんも生徒達の声に戸惑っていて、さっきからチラチラと私を見てくる。
どうしても、こんな良い子そうな子に悪印象を持たれるのが嫌で、ちょっといい事を言ってみた。
「いいスピーチだった。お疲れさま」
彼女の顔は見れなかったけれど、きっと驚いた顔をしていただろう。
それから、今のことを全て忘れるよう念じ、目の前のことに集中した。

入学式も終わり、先日生徒会長…昊葉紀羅会長に言われていたように生徒会室に向かった。
どうやら恋星さんはもう来ていたようで、中から声が聞こえてくる。
「えっとね今日はちょっと話したいことがあってね…?あ、でももう1人いるんだ〜」
そう言っているのを聞いて、自分の事だと確信した私はドアを開けることにした。
ガチャ…。
思っていたより大きな音が出て私も少し動揺してしまう。
それから、私に女生徒が話しかけてきた。
生徒副会長の那津葉恋亜先輩だ。
「来た来た!三葉さん待ってたよ!あのね」
「どうでもいいです。要件だけ聞かせてもらえます?私、忙しいんですけど?」
良心を痛ませながら怒っているかのように振る舞い、言い放った。
那津葉先輩のような素敵な方に対してこんな態度をとるのは違うって分かってる。
けれど私は他の人を突き放さないといけない、関わっちゃいけないんだ。
今まで関わってきた人と同じように那津葉先輩も黙ってしまい、それ以上何も言ってくることはなかった。

恋星さんと共に、昊葉会長と那津葉先輩の説明を一通り聞き終わった後、最初の仕事について言われた。
「2つ目が伝承にある歌姫のことについてなんだ」
出来るだけ「歌姫」という単語を聞きたくなかった。
私は動揺を隠すように手をぎゅっと握った。
爪が食い込んで痛い。
けれど、今この感情を抑えなければ歌姫がーーーーという事がバレてしまう。
それだけは避けたかった。
「今年、「女神」、「歌姫」、「王冠」の3人が入学したっていう情報をもらったんだ。だから3人に危険が及ばないように見つけだ…」
もう感情を抑えられなくなった私は、思わず立って昊葉会長の言葉を遮ってしまった。
こんなに動揺したら悟られてしまうかもしれないのに…。
「体調が悪くなったので帰ります。生徒会については分かりましたので」
この顔を見られないように急いで出て行こうとする。
恋星さんが呼び止め、何かを言っていたような気がするが、今はまともに対応できそうにない。
私は急いで生徒会室を出て行った。

生徒会室から出てからバクバクとうるさく鳴る心臓を落ち着かせようと、胸に手を当てる。
数分この状態を続けてようやく冷静になった。
ガタンッ!
不意にどこからか音が聞こえ、びっくりして思わず隣の空き教室に入る。
さっきの場面は私的に誰にも見られたくなかったからだ。
(ふぅ…。ここなら大丈夫…だよね?)
辺りを見回したりしてみたが、誰もいなさそうで安心する。
ところが…。
「っひゃっ!」
奥のドアから女生徒の声が聞こえた。
この教室には準備室がついているようなどで、きっとその部屋だろう。
それと、今の声より、この時間に生徒会メンバー以外にも残っていた生徒がいた事に驚いた。
けれど、思い返してみればさっきの声はどこか変だった。
気になってしまって奥のドアの前にに歩いて行く。
「や…だ」
部屋の中から誰かの嫌がっているような声が聞こえて、おもわず助けなきゃと勢いよくドアを開けた。
「だ、大丈夫ですか…?!」
入った部屋はどうやら今は物置き部屋になっているようで、色々なものがあり、部屋の真ん中にに大きなソファが置いてあった。
そのソファには、倒れているような女生徒とその上に押し倒したような体制の男生徒がいた。
見れば女子生徒の目には涙が溜まっていて、相当嫌がっていることが分かる。
「な、なにやってるのっ?離れなよ…!!」
助けなきゃという一心で男子生徒に向かって思い切って言った。
けれど、こちらを向いた男生徒の顔からは全く効果がなかったことが分かる。
どうすればいいのかという不安が込み上げてくる。
(どうしよう…。私はどうすれば…?)
それでも、どうにかして女生徒を助けたかった。
けれど、私では何もできそうにない。
まさに、絶望的な空間だ。
そんなことを考えていると、男子生徒が思いがけない事を言った。
「君、確か三葉星空だよね?僕、君みたいな悪女に興味ないんだけど…。失せろよ」
「失せろ」と言われて、怖くて足が竦んでしまった。
足も震えている。
昔からこんな事が起こるから、人が苦手なのだ。
そうだ、この人達からしたら私は悪女なのだ。
きっと「どうしてこの人がここに?」みたいな感情なのだろう。
ふと女生徒の顔を見ると動揺しているのが分かる。
予想が当たっていたようで、複雑な気持ちになりうつむく。
「たす…けて」
突然、そんな声が聞こえてハッとして顔をあげる。
女子生徒が私に向かって手を伸ばしている。
あくまでこの女子生徒にとって悪女である私に助けを求めてきたのだ。
その言葉を聞きいて助けたいと思い、男子生徒に向かって叫ぶ。
「やめて…この子、嫌がってる!…これ以上危害を加えるなら生徒会代表として貴方に処罰を下します!」
これは実際本当のことである。
吸血鬼達が相手の許可なく吸血を迫れば、処罰をが下る。
きっとその事を出せば諦めてくれると思った。
でもそんな期待はすぐに打ち砕かれてしまった。
そうこの時、私はとても重要な事を1つ忘れていた。
吸血鬼達にはある能力がある事を。
「はあー。めんど」
男子生徒が呆れたようにため息をついてから、女生徒に向き直って言った。
雪紀(ゆき)、僕のこと見て?…今日はここでは何もしてない、今日あったことは全て忘れるんだ。さあ、お行き」
女子生徒…雪紀さんと男生徒の目が合うと、とろんとしたような目つきになり、違和感を覚える。
その2人の動きを見て、思い出した。
(魅了(テンプ)だ!)
魅了とは吸血鬼であれば使える催眠術のようなものだ。
ちなみに吸血鬼達は催眠と呼んでいて、人間達は隠語で「魅了」と言う。
「はい…」
そう言って、雪紀さんは私を押し除けてフラフラと部屋から出て行った。
「面倒だし…君の記憶も消すね?」
そう男生徒に言われてパッと顔をあげる。
今更ながら、危険な状態だと再認識する。
このままここにいては私の身が危ないととっさに思い、逃げ出す。
(早く出て行かなきゃ…!)
私は必死に扉の方へと走るが…。
ドンッ!
「逃すわけないよね?」
壁に背中を押しつけられ、逃げ場を失ってしまった。
「君は僕がヴァンパイアって分かってたみたいだし…一部だけ消させてもらうよ」
そう言われて、ゾッとする。
頬を掴まれて、無理やり目を合わせてくる。
けれど、この人は知らない。
私が魅了の効かない人間だと言う事を。
「“動くな”」
そう言われたけれど、魅了の効かない私はとにかく逃げようという思いながら、男子生徒をドンと押して距離をとる。
男子生徒はバランスを失ってヨロヨロしたが、それは一瞬の事で、すぐに体勢を戻して私を見てくる。
その表情からは、隠し切れないほどの驚きが見られる。
「あれっ?僕の催眠が効かない?なんで…」
「あ、や…」
どうにか誤魔化そうと頭をフル回転させて考えるが、誤魔化せそうな言葉が見つからない。
どうしよう、と恐怖心が私を煽ってくる。
「もしかして君…『特別な血』?」
「…っ!」
反応を間違えた。
あからさまに動揺してしまったので、気付かれたかもしれない。
そう思い、男生徒を見ると「悪い予想が的中してしまった」という事が一目で分かった。
「ふーん。前言撤回、やっぱり僕君に興味湧いたな〜」
面白そうにくすくすと笑って男子生徒は近づいてくる。
その後、私の目の前で止まって不敵に笑った。
「僕、2年A組の夜神雨(やがみあめ)って言うんだ。ねえ、後輩ちゃん僕ね君ともーっと仲良くしたいな」
もしかして私、とんでもない人と関わっちゃったーーーーー?!?!
チュンチュン…。
「ん…ん〜?」
どこからか小鳥の鳴き声が聞こえる。
暖かいような…寒いような。
そんな感覚の中、私はまだ重い瞼を頑張って開ける。
その後、瞬きをしながらあたりを見回す。
いつもより薄暗い部屋が目に映る。
(朝だ…。起きないと)
そう思い、眠気に包まれながらも、体を起こしてベッドのすぐ右にある、小さめの棚の上に置かれている時計を見る。
時刻はまだ4時37分。
いつもより20分ほど早く起きてしまったようだ。
けれど、目が覚めてしまったので仕方ないと、ベッドから出てカーテンを開ける。
それから、顔を洗おうと部屋を出る。
この時間ではまだ皆起きていないはずなので、起こさないように足音を立てずにそーっと1階に降りる。
無事に起こさずに洗面所に来る事ができて一安心。
それからピンで前髪をしっかりととめて、顔を洗い出す。
普段は顔を洗ったらすっごくスッキリするのに、昨日の出来事が頭をぐるぐる回って全然スッキリしない。
(気にしたくないのにー!!)
こんなにモヤモヤするなんて初めてだから、ちょっと嫌な気分。
そんなことを考えながら鏡を見ると、後ろに人影が。
「ずいぶん早起きなんだね?」
(あれっ?今、声した…?)
誰も起きていないと思っていたからびっくり。
それに、私の家に男性と言ったらお父さんか皇くんしかいない。
正直、お父さんはこんなにかっこいい声なんてしてない。
だから今私の後ろにいるのは…。
「な、ななな何で皇くんが?!」
後ろを見ると予想通り、やっぱり皇くんがいた。
それにしても音もしなかった…。
こんなに静かに近づかれたら心臓に悪い。
昨日もそうだったような気がするが。
それはそうと…。
「な、何で上着てないの?!早く着てよ〜うぅ…」
そう言って顔を手で覆う。
ただでさえ男の子に慣れていないのに、こんなの見たら恥ずかしくて顔が真っ赤になっちゃうよ…!
「ん〜?ああ、男に慣れてないんだっけ?ふっ、かわいいなー」
皇くんがからかうように言って顔から手を外そうとしてくる。
この真っ赤な顔を見られたくない一心でどうにかしのぐために廊下に逃げた。
けれど、その程度では無意味だったようで、皇くんはすぐに追いついてきた。
さらに、私の首あたりに腕をまわしてきた。
「逃げんなよ。つーかこっち向けよ」
無理やり顔を見られた。
皇くんはニヤニヤとしていて完全に面白がっている。
「真っ赤…」
今ので顔にさらに熱がこもった。
そんな私を見て、皇くんはくすくすと笑ってくる。
(こんなのが日常になったら心臓がもたない!!!)

「忘れ物ないー?大丈夫?」
登校時間になり、玄関で靴を履いているとお母さんがいつものように忘れ物がないかと聞いてきた。
「うん!平気だよ!鍵も持ったしね」
スクールバッグを持ってお母さんを見て、にこっと笑う。
「それなら平気ね。初日の授業頑張りなさいよ!」
お母さんはいつも、学校に行く前に応援の言葉を言ってくれる。
私が学校を頑張れるのも、実はお母さんのおかげかもしれないとふと思った。
「うん!行ってきます!」
それから、お母さんがチラッと私の隣を見てから言う。
「皇くん、夢乃のことよろしくね」
「もちろんです。僕に任せてください」
私もつられて隣を見ると、お母さんににこっと笑いかけている皇くんが立っていた。
(絶対この笑顔に騙されちゃ…ダメ!)
そう思って皇くんをキッと睨む。
それに気がついたように、なぜか私をチラッと見てから、振り返って玄関のドアノブに手をかける。
「行ってきますね」
そう言って出て行った皇くんに続いて、私も「行ってきますっ!」と元気よく言って出て行った。
登校をしていると、不意に皇くんに言われた。
「これからよろしくね、恋星さん。そうだ、今度僕に君の甘い血ちょーだいね?」
そう言って笑った皇くんは、とてもさっきの時と同一人物とは思えない。
いや、それよりも…。
「絶対無理っ!!!皇くんのバカっ!」
ほっぺをぷくっとふくらませて学校に向かって行った。
「ふっ。かわいー」
「んなっ!」
絶対表の顔なんかに騙されたりしないから!
皇くんの笑顔には要注意です!!

私は今とーっても、超!!不機嫌なんです。
理由はもちろん、隣を歩くこの男の子…皇夜空くん。
「まだ不機嫌なの?恋星さん」
「当たり前でしょっ!!」
何で怒ってるのか分かりません〜って顔して歩いている皇くんには、よけいに腹が立ってしまってしかたがない。
15分ほど前に家を出てから、ずーっとからかわれてばっかり!
私はぷんすか怒っている。

ー約15分前ー
一緒に学園までの道を登校してると、突然皇くんが私によく分からない質問をしてきた。
「…そういえば恋星さんって、やっぱり男子が苦手なの?」
「えっ?なんで…?」
そんな事を指摘されたことはないし、上手く隠せていると思っていたのとで、とてもびっくりした。
(あ、でも皇くんには言ったけ?)
「えっと…苦手というかよく分からないみたいな?」
私は男の子が苦手というわけではなく、よく分からないのだ。
小学の時は腕や胸を彼らが言うには「たまたま」触れられたり、中学は身体がどうのこうのの話にナンパの話…私からするととにかく理解不能な思考で、とても気持ちが悪かった。
さらに、私は過去にナンパされた男の人に与えられた恐怖によって…そう、「男の人が苦手」になってしまった。
続けて皇くんが質問をしてくる。
「昨日のは?」
私はその言葉の意味が分からず、きょとんとする。
昨日、私は何か失礼なことでもしただろうか。
(どちらかといえば、皇くんが悪かったような…)
「…なんのこと?」
悩んでいても分からないことは分からないということで、思い切って聞いてみた。
そうしたら、皇くんがははっと笑い出した。
「ちょ、ちょっとー?!いきなり笑い出さないでよ!!」
いきなり笑うなんて失礼だ。
それに、私はおかしなことなんて言っていない。
私は頬をぷくーっと膨らませて、皇くんをキッと睨んだ。
けれど、そんな事をしても皇くんには全く効果がなかった。
「覚えてねーの?昨日俺とイチャイチャしたじゃん」
「なっ?!イチャイチャなんてしてないっ!!」
私が必死に否定する。
皇くんの一人称が「俺」に変わる時は、素の皇くんだ。
「そう言ってるのに顔真っ赤じゃん。やっぱ夢乃、からかいがいあるなー」
「んなっ!からかわないでよ!!」

ということがあったのだ。
もう散々だった…。
これからもこんな生活があと3日続くなんてごめんだ。
それから、皇くんはさらっと私の手を繋いで。
「そろそろ機嫌直せよ。じゃねーとお前の血吸うぞ?」
「…っ!!バカ!!」
こんなの一種の脅しだ。
それに、やっぱり皇くんは最低だ!

「夜空くーん!」
学校に近づいてきてだんだんと夢色学園の生徒が増えてきた頃、皇くんを呼ぶ女の子の声がした。
振り返って後ろを見ると、こちらに走ってきている可愛らしい子が見えた。
ツヤツヤの黒髪をハーフツインにしており、ぱっちりとした目が垂れていて女の私でもドキッとしてしまうほど可愛い女の子だった。
「あっ!恋星さんだ〜。おはようっ!」
「えっ?私のこと知ってるの?!」
こんな可愛い子に知ってもらえているなんてびっくりだ。
関わった事があっただろうか?
そんな事を考えているとふふっと笑う声が聞こえた。
「え〜恋星さん有名人だよっ?主席の優等生ちゃん!って」
(そんな風に言われてるの?!でも…ちょっと嬉しいかも)
「音花(おとか)おはよう」
皇くんに話しかけられると、ぱあっと分かりやすく笑顔になって音花さんは頷いた。
私と話した時よりも生き生きしている気がする。
「うん!おはよう!ねえ、一緒に教室行こっ?」
こんなに可愛い子にも動じない皇くんはすごい。
私だったら一瞬で惚れちゃいそう…なんちゃって。
「うん。行こうか?恋星さんは先に行ってて」
そう言って皇くんはにこっと笑顔を見せた。
「え?…わ、分かった…」
確か皇くんとは同じクラスだった気がするので一緒に行くのかと思っていたが、違いそうだ。
まあこんな人と一緒にクラスに入ったら嫌な噂が立ちそうなので、遠慮なく先に行かせていただこう。
そう思い、2人の横を通り過ぎる時…。
「おいクソ女。夜空くんに色目使ったら殺すからな。」
(えっ?今の誰…?)
とても低くて声で、すごく怖かった。
驚いて周りを見渡しても、近くには皇くんと音花さんしかいない。
疑うなら音花さんだけれど。
(音花さんが…?いやいや、まさか…ね?)
今の言葉にゾッとした。
なんだか嫌な予感がする。
怖くなった私は、逃げるように校舎に入って行った。
私は急いで校舎に入って、下駄箱で靴から上履きに履き替える。
いろいろあって疲れてしまったのか、校舎に入るのが久々な気さえしてくる。
(はあ…。今日は帰ったらゆっくり休めるといいな)
「おはよう!どうしたの?体調悪い?」
そんな声が後ろから聞こえて、驚いてビクッと跳ねて振り返る。
そこには音花さんに負けないような容姿を持ったかわいい女の子がいた。
茶髪の髪をツインテールで結んでいて、パッチリとした大きな目は綺麗な二重、少し幼い顔立ちがかわいさを引き立たせるような女の子だった。
「えっと、ちょっと疲れちゃって…」
私が苦笑いすると、女の子は眉を寄せて心配そうな顔をした。
「大丈夫?体調には気をつけてね!」
そう言ってニコッと笑った女の子の顔は天使のように愛くるしかった。
その後、何か思い出したかのように慌てた様子で話始めた。
「あ!名前!まだだったよねっ?私は双羽彩鈴(ふたばありす)だよ!よかったら友達になってほしいな〜!」
えへへといって笑った姿が可愛すぎてドキッとしてしまった。
こんな可愛い子と友達になれるなんて、いい気しかしない。
「私は恋星夢乃だよ。もちろん!よろしくね、双羽さん!」
「も〜双羽さんじゃなくて彩鈴ちゃんって呼んでよ〜!!友達でしょ?」
今度は頬を膨らませてぷんぷんと怒ってしまった。
(上目遣いになっていてかわいい…)
「ふふっ。分かった、彩鈴ちゃんって呼ぶね!」
そう言うと、すぐに機嫌を戻し笑顔になってくれた。
私の手を握って握手をしてくれた。
「わーい!夢乃ちゃん、よろしくね!」
そんな会話をした後、2人で教室に向かって歩いて行った。

ガチャ。
彩鈴ちゃんはは教室についてから、「おっはよー!」と元気に挨拶をする。
「そういえば席って自由でいいらしいよ〜!ねえ、隣座っていい?」
彩鈴ちゃんが私に聞いてきた。
昨日は入学式とクラスメイトに少し挨拶をしたくらいで終わってしまったので、席のことは考えていなから。
(この学園、席順が自由なんだよね…)
「うん、もちろん!」
そう言って笑うと、彩鈴ちゃんが「わーい!」と言って抱きついてきた。
なんとなく教室の扉の方を見ると、ちょうど皇くんが入ってきたところで目が合ってしまった。
何か言われるかな…と思ったけれど、その前にクラスの女子達がわらわらと集まっていてなにかをしてくる余裕もなさそう。
その事に少し安心する。
と、その時チャイムが鳴った。
それと同時にガチャという扉が開く音と共に、担任の先生が入ってきた。
「チャイムなりましたよ。朝のホームルームを始めます。早く座ってください」
「はーい」と言って、立っていたクラスメイト達が先生に注意された事で座った。
私達1年1組の担任の先生は小翠(こみどり)先生といって、生徒指導の先生でもあるので怖い雰囲気があるが、生徒達にはクールで優しい先生と人気があるそうだ。
それと、容姿もとっても素敵。
艶のある黒髪は肩につかないくらいの長さで、綺麗な二重、すっと通った鼻筋に真っ白な肌。
白雪姫のような「美人」という言葉がぴったり合うような女性なのだ。
「みんな席につきましたね?それではホームルームを始めます。恋星さん、号令を」
「は、はい!」
いきなり名前を呼ばれたのでびっくりした。
平常心を保とうと一度深呼吸をする。
「規律、気をつけ、礼!」

朝のホームルームでは、今日の日程などの話をされた。
1限と2限は委員会などを決める総合で、3限は芸能科と普通科合同学年集会をすると言われた。
その時思い出したのが中学2年の時に引っ越してしまった親友の事だ。
芸能科ならもしかしているかも。
(美琴(みこと)ちゃんいるかな…?)

親友の名前は日向(ひなた)美琴で、私の同級生で保育所からの友人だった。
けれど、中学2年の秋に、なんの前触れもなく突然転校してしまった。
転校する日の前日、最後に言われた言葉がずっとひっかかっている。
「ごめんね、ちゃんと大好きだったよ。さようなら…永遠に」
涙を流して走って行ってしまったあの悲しそうな背中、表情、言葉がまるで昨日のことかのように今でも鮮明に思い出せる。
私が夢色学園に来たのにはとある理由がある。
元々、私の志望校は電車通学で行く女子校だった。
だから、初め夢色学園への推薦状が来たと言われた時は断っていた。
転機が訪れたのは中学3年の冬、突然美琴ちゃんからメールが届いたのだ。
今までどれだけメールをしても既読無視だったのに。
美琴ちゃんからのメールは、1枚の写真だった。
その写真には、1枚の紙が写っていて1番上には大きく太文字で「夢色学園芸能科推薦状」と書かれていた。
それを見て次の日朝1番に学校に行き、先生に飛びついて「今からでも夢色学園への推薦を受けることって可能ですか?!」と聞いた。
先生はすごく驚いた様子を見せてから、「はい、大丈夫だと思いますよ」と笑顔で言ってくれた。
その時の嬉しさは今でも覚えている。
美琴ちゃんは小学3年生の頃にモデルにスカウトされ、芸能活動を始めた。
さらに、今では声優も少しやっていたり、YouTuberとしても多くの人に知られている。
だから芸能科へ推薦状が来たのだ。
もちろん私が行けるのは普通科なので、簡単に会えるとは初めから思っていなかった。
けれど、一度でも再開できるチャンスがあるのなら…そう思って私は夢色学園に入学することを決意した。
芸能科との接点は学園祭、体育祭、三送会、合同学年集会、交流授業の計5つのイベントのみ。
私は生徒会に入っているので、もう少し多くの接点がある。
私は神様にすがる思いでここに来た。
美琴ちゃんがこの学園にそもそも入学していないという可能性もあった。
それでも、私はどうしても諦められなかった。
美琴ちゃんが最後に言ったあの言葉の意味を、行動を。
全部知りたい。
その一心が今の私を作り、動かしているのだ。
「美琴ちゃんがいますように…」
小さな声で私はつぶやいた。
この想いが、神様に届くように願って。

今回の合同学年集会では学校全体の説明と生徒会メンバーの発表、最後にちょっとしたゲームをすると小翠先生から聞かされた。
きっと、私が生徒会メンバーなので先に伝えられたのだろう。
今回の私の役目は自己紹介だけだが、少し早めに行ってステージの端にセットされている椅子に座るよう言われた。
前に体育館に来たのは昨日の入学式だから、大体の構造はもちろん覚えている。
体育館の入り口からステージにかけて生徒達が座る用の大量の椅子が置いてあり、ところどころ人が通れるくらいのスペースがある。
そこをうまく通って、私はステージに移動する。
「ごきげんよう、夢乃」
華恋ちゃんの明るい声が聞こえて振り返る。
「おはよう華恋ちゃん!いやー緊張するね〜」
そんな事を言って緊張を紛らわした。
その事がわかっているかのように、華恋ちゃんはふふっと笑って「そうね」と言ってくれた。
華恋ちゃんがステージにいるのは生徒会役員だからであろう。
華恋ちゃんは普通科の次席なので、半強制的に生徒会役委員にされたのだ。
それでも、これは私が選択したことなどで、最後までやり遂げるつもりだ。
「お、おはようございます…」
どこからか、元気のなさそうな女の子の声が聞こえた。
「あ、えっと…芸能科1年D組の昊乃空(そらのそら)です。生徒会役委員で来ました…」
怯えているように見える彼女は目の前に立っていて、どうやら芸能科の生徒会役委員だったようだ。
容姿は、芸能人の方と比べるとかわいいとは言えないような感じだった。
ぼさぼさの黒髪が肩まで伸びており、顔を隠すかのような大きさの丸メガネに猫背で、失礼かもしれないが本当に芸能活動をしているのかな?と思ってしまった。
「彼女は雄一、一般入試で入ってきた子よ」
私の心を読まれたかのようなセリフに驚く。
ちょうど三葉さんが来たところだったようだ。
「芸能科の生徒会役委員は3人よ」と言って三葉さんの後ろにいる人物を指差す。
その人物は私の思いがけない人だった。
ミルクティー色の腰まで伸びた綺麗な髪、二重で切れ長の瞳、男の子にも見えるかっこよさを持った顔立ち…。
私が絶対に見間違えるはずもない…。
「美琴ちゃん?!」
そう、三葉さんの後ろに立っていたのは私の親友、日向美琴ちゃんだった。