入学式が無事に終わり、私は自分のクラスへ向かった。向かっている途中に「代表挨拶よかったよ。」と先生方に声をかけられては返事をしてとゆっくりしていたので、少し遅めにクラスへ入る。何度見てもこの豪華さには驚かされるし、場違い感が半端ない。そう思いながらクラスに入ると
「恋星さん来たよ!」
と1人の女生徒が嬉しそうに声をあげた。その声にクラスメイトが反応して私を見てから周りに集まってくる。
「えっ?どうしたの?」
何故話したこともないクラスメイトが私に話しかけてくれる事が不思議だった。その問いに答えるように自分の席を今立ったであろう雨晴さんが言う。
「恋星さんの代表挨拶がとてもよかったという話をしていたの。それで彼女…白下結愛(しろしたゆあ)さんが恋星さんと話してみたいと言ったの。その話に皆がのっかったのよ。」
「そう…なの?なら…そう言う事なら、大歓迎です!仲良くしてね!」
私がそう笑顔で言うとクラスメイトが「恋星さん優しい!」と口々に言う。その声に混じって「同じ首席なのに三葉さんとは大違いだね」という声が聞こえる。
(そうだ!三葉さんについて聞こうと思ってたんだった!)
私はそれを思い出し、クラスメイトに聞いた。
「あの…三葉さんってどんな人なの?」
そう言った途端にしんと静まる。
(あれっ?聞いたらまずい事だったのかな…?)
だんだんと不安になってくる。そして沈黙を破るように倉咲(くらさき)さんが話してくれた。
「私…三葉さんと同じ中学出身なんだけど…。その、周りに対して暴言とか言ったりするから毒舌悪女って言われてるんだよね。…その、どうして恋星さんが三葉さんのこと気にするの?」
「えっと…」
私が理由を言おうとすると、後ろからさっきまで耳に残っていた男生徒の声がした。
「恋星夢乃さんっているかな?」
(あっ!そうだった!昊葉会長に生徒会室に来るように言われてたんだった…!)
すっかり言われたことを忘れてしまっていた。私はよく話を忘れてしまって、怒らせる事が多いんだ…。だから怒られると思って、とっさに頭を下げた。
「そ、昊葉会長すみません!忘れてて…」
「大丈夫だよ。気にしないで。それと、ごめんね1組の皆。恋星さんにちょっと伝えなきゃいけない事があるんだ。今大丈夫そうかな?」
クラスメイトが騒ぎ始める。
「昊葉会長だ!やばいんだけど!近くで見るとめっちゃイケメン!」
なんていう声が聞こえてくる。やっぱり誰から見ても昊葉会長はかっこいいんだな〜なんて思う。そんな中何も感じていないようで、雨晴さんは全く動じず質問に答えた。
「ええ。良いわよ。私達は急ぎではないし。あ、そうだ。恋星さんよかったら今日一緒に帰りましょ。正門で待ってるから。」
「えと…うん!じゃあ皆ちょっと行ってくるね!また明日話そうね!」
そう笑顔で手を振ってから昊葉会長の後をついていく。綺麗な真白い廊下を歩いて興味津々に見ながら生徒会室に向かう。突然昊葉会長が止まり、思わずぶつかりそうになった。どうしたんだろう?と思って見ると、昊葉会長が言った。
「ここが生徒会室にだよ。多分今の時間なら生徒副会長の那津葉(なつば)さんがいると思うから、ノックして先に入ってくれるかな?」
「?あ、はい…。」
なんでだろうと思いながらも、昊葉会長の言った通りに重そうな扉をノックして入る。
「し、失礼します。」
生徒副会長さんがいると思い、とても緊張して声が裏返ってしまった。中に入ると目の前に置いてある黒いふかふかそうなソファにとても可愛い栗色の髪の女生徒が座っていた。その女生徒は私達を見て明るい声で言った。
「いらっしゃい生徒会へ!昊葉会長お疲れ様です!」
そう言って昊葉会長を見た後に女生徒は私を見て微笑んだ。その笑顔があまりに可愛くてキュンとしてしまった。
「あ、ごめんね!名前言ってなかった…。私は那津葉恋亜(なつばこいあ)だよ!さっきの入学式で司会をしてたよ!」
「えっと…私は恋星夢乃です!よ、よろしくお願いします。」
ガチガチに緊張していたせいか早口で言ってしまった。けれどしっかり聞こえていたようだ。その後ソファに私を座らせて言った。
「えっとね今日はちょっと話したいことがあってね…?あ、でももう1人いるんだ〜。そろそろ来ると…」
そう那津葉先輩が言うとガチャ。と大きな音を立てて生徒会室の扉が開いた。3人の視線が集まる。そして、入ってきた人は三葉さんだった。
「来た来た!三葉さん待ってたよ!あのね」
那津葉先輩が言いかけた言葉をかき消し、三葉さんが言葉を放った。
「どうでもいいです。要件だけ聞かせてもらえます?私、忙しいんですけど?」
怒っているように聞こえるその声に怖気付いてしまったのか、那津葉先輩が黙ってソファに戻って座った。
(あれが本性…?なのかな…。あの時の優しい三葉さんは何だったのだろう…?)
そう思いながら私は前を向いた。